日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の555件中201~250を表示しています
一般演題 口演 1
  • 鈴木 紀行, 松永 美咲, 鎌田 瑞希, 山岸 由和, 小椋 康光
    セッションID: O2-05
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     セレンは必須微量元素であり、食品から摂取されたセレンは最終的に21番目のアミノ酸であるセレノシステインとしてセレンタンパク質の活性中心を担う。食品中のセレンは様々な化学形態を有するが、それら全てのセレン化合物は共通の代謝中間体であるセレニド(Se2-)を経てセレンタンパク質中に取り込まれると考えられている。また排泄過程においてもSe2-からセレン糖またはトリメチルセレノニウムが生合成され尿中排泄される。従って、Se2-やそのチオール結合体(-S-Se-)は、セレン代謝の中心に位置する極めて重要な化学形態であると考えられ、現在までにそれらを検出するための様々な方法が開発されてきた。しかしながらその化学的・物理的不安性が問題となり定量的な検出法は未だ確立されていない。本研究では、生体内でSe2-との平衡状態として存在する不安定な代謝中間体を活性セレン種(RSeS)と称し、Se2-やRSeSの挙動を明らかにするための新規分析法の開発を行うこととした。

     本研究においては、従来法とは異なる特異的かつ定量的な分析を行うために、不安定な中間体を選択的に安定な誘導体へと変換した後、高感度かつ元素特異的検出が可能なLC-ICP-MSを用いて検出するという新規なchemico-analytical methodを考案した。誘導体化については、誘導体の安定性やICP-MSへの適用を考慮し、アルキル化剤として作用する2,5-dibromoadipic acidを採用し、誘導体の標品であるtetrahydroselenophene-2,5-dicarboxylic acidを合成してLC-ICP-MSによる検出条件および誘導体化の反応条件の検討を行った。さらに本分析法を応用し、通常飼育状態、セレン欠乏状態、また様々なセレン化合物を投与した際の生体内におけるSe2-およびRSeSの変動を明らかにした。

一般演題 口演 2
  • 田中 利男, 森 葵泉, 山田 佳代子, 上杉 奈々, 松岡 さおり, 緑川 淳, 川原 弘三
    セッションID: O2-06
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    2021年1月29日、医薬品規制調和国際会議(ICH)による医薬品の生殖発生毒性評価に係わるガイドラインS5(R3)が、医薬品医療機器総合機構(PMDA)により報告され、我が国でも本格的に動物愛護の観点から3Rの原則に沿った代替法としてのゼブラフィッシュ発生毒性試験が展開されている。しかしながら、いくつかの課題が残されており、デジタルトランスフォーメーション(DX)によりこれらの克服が試みられている。例えば、自動タイムラプスイメージングによるハイスループット化やデジタルイメージ解析の精度向上、発生毒性試験に使用するゼブラフィッシュ受精卵の品質保証や飼育品質管理クラウドシステムによる精度強化などが明らかになりつつある。しかしながらゼブラフィッシュ発生毒性試験における最も重要な臨床外挿性を確立することは、現在なお残された問題である。従来からこの課題克服のため、ゼブラフィッシュとヒトにおける疾患ゲノム相同性が高いことを基盤に、ヒトとゼブラフィッシュの発生毒性におけるフェノーム(形態異常)とトランスクリプトームの相関性における類似性を解析してきた。また、システムズ毒性学モデルとして期待されており、発生毒性の分子機構解明やヒトへのリスク評価の基盤となる可能性がある*。そこで、発生毒性試験におけるフェノタイプとトランスクリプトームのデジタルデータと、ビッグデータベースであるLSKBを,2018年にGoogleが開発した自然言語処理モデルAIであるBERTにより世界で初めて発生毒性試験を解析した。BERTは、Transformerによる双方向に大量のテキストデータを学習し、様々なタスクに転移学習できる汎用性の高さを持っている 。その結果、ゼブラフィッシュ発生毒性試験におけるBERTの有用性を明らかにしたので報告する。 *Congenital Anomalies 2016:56,18-27

  • Daniel RUDMANN
    セッションID: O2-07
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Artificial intelligence (AI) based machine learning can facilitate data evaluation and 3R (refinement, reduction, replacement) initiatives for general toxicology studies supporting safety assessment. De-identified training and testing data sets were constructed from rat and non-human primate studies to develop AI based classifiers that could support 3 different intended uses: 1. Decision support for the identification of common pathology findings in 6 organs of the rat; 2. Decision support for the identification and etiology of a common hematology finding in the rat; and 3. Development of virtual control groups for the replacement or reduction of non-human primate control animals in general toxicology studies. Proof of concept classifiers were developed using both deep learning and traditional machine learning techniques. The classifiers were tested with studies not used for the training set and the output was evaluated statistically using standard methods as well as by experts (pathologists and toxicologists) for the intended use. The classifers showed good potential for a positive impact on data evaluation and outcomes associated with the 3Rs in general toxicology studies.

  • 田邊 思帆里, カデール サビーナ, 小野 竜一, カブラル オラシオ, 青柳 一彦, 広瀬 明彦, パーキンス エドワード, 横崎 宏, ...
    セッションID: O2-08
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    上皮間葉転換やがん幹細胞はがんにおける治療抵抗性に関与し、その分子特性を共有している。上皮間葉転換は、上皮系から間葉系への細胞の特性変化であり、ヒト胃がんにおけるがん幹細胞様の特性を示す。がんの悪性化と治療反応性を担う分子ネットワークを明らかにするために、治療抵抗性を呈するびまん型胃がんと腸型胃がんにおける遺伝子発現及び分子ネットワークに関してIngenuity Pathway Analysis(IPA)を用いて解析した。また、損傷や慢性的活性酸素種は、ヒト治療抵抗性胃がんを引き起こす。活性酸素種は、がんの発症・進展、抗腫瘍作用を引き起こすアポトーシス誘導等の多様な役割を有している。これまでに、慢性的活性酸素種からヒト治療抵抗性胃がんに至るAdverse Outcome Pathway(AOP;有害性発現経路)をAOP298としてOECDプロジェクトにて開発し、レビューと国際コンソーシアムでの調和を経てAOP298を改訂した。現在、AOP298はMolecular Initiating Event(MIE;分子開始イベント)としてKE1940:細胞内活性酸素種の上昇及びKE1753:慢性的活性酸素種、Key Event(KE;主要イベント)1としてKE1754: porcupine誘導Wnt分泌及びWntシグナル活性化、KE2としてKE1755:β-カテニン活性化、KE3としてKE1650:上皮間葉転換、Adverse Outcome(AO;有害性発現)としてKE1651:治療抵抗性胃がんから構成されている。AOP298では、上皮間葉転換はWnt/β-カテニンシグナル伝達によって誘導されることから、Wnt分泌とβ-カテニン活性化をそれぞれKE1とKE2として有しており、ヒト胃がんにおける治療抵抗性を誘導する持続的なレベルを有する慢性活性酸素種の役割に焦点をあてている。

  • Ryosuke NAKAMURA, Noriaki ARAKAWA, Yoichi TANAKA, Nahoko UCHIYAMA, Aki ...
    セッションID: O2-09
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    [Backgrounds] Drug-induced liver injury (DILI) is a severe and life-threatening immune-mediated adverse reaction, occurring rarely among treated patients. We explored genomic biomarkers in the Japanese population that predict the onset of DILI after using a certain class of drugs such as Kampo products (Japanese traditional medicines).

    [Methods] A total of 287 subjects diagnosed as DILI by hepatology specialists were recruited after written informed consent was obtained. A genome-wide association analysis and human leukocyte antigen (HLA) typing in four digits were performed.

    [Results] We found a significant association (P = 9.41 × 10−10) of rs146644517 (G > A) with Kampo product–related DILI. As this polymorphism is located adjacent to the HLA region, we evaluated the association of HLA types and found that 12 (63.2%) of 19 Kampo-DILI cases had HLA-B*35:01, whereas only 15.2% were positive for this HLA among healthy volunteers. The odds ratio was 9.56 (95% confidence interval 3.75–24.46; P = 2.98 × 10−6, corrected P = 4.17 × 10−5) and it increased to 13.55 compared with the DILI cases not exposed to Kampo products. The individual crude drug components in the Kampo products, including Scutellaria root (ougon in Japanese), rhubarb (daiou), Gardenia fruit (sanshishi), and Glycyrrhiza (kanzou), were significantly associated with HLA-B*35:01.

    [Conclusions] HLA-B*35:01 is a genetic risk factor and a potential predictive biomarker for Kampo-induced DILI in the Japanese population.

一般演題 口演 3
  • 仲本 有里菜, 東阪 和馬, 北原 剛, 山本 怜奈, 坂橋 優治, 辻野 博文, 芳賀 優弥, 堤 康央
    セッションID: O2-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】トリプトファン(Trp)は、抗酸化作用により胎盤機能の維持に働くのみならず、Trpから代謝されるセロトニンやキヌレニンは、胎児の中枢神経機能の発達や母体免疫による拒絶からの胎児保護に必須である。したがって、母体からのTrp供給は妊娠の維持や胎児の成長に重要である。母体から胎児へのTrpの輸送は、胎盤のTrpトランスポーターを介して行われるため、それらTrpトランスポーターの発現変動や機能異常は、胎児発育不全や流産などに繋がる可能性がある。一方で、生殖発生毒性を有する化学物質への曝露が胎盤のTrpトランスポーターに与える影響については知見に乏しい。そこで本検討では、先天性異常や発達毒性を引き起こし得るバルプロ酸(VPA)をモデル化学物質として選択し、VPAが胎盤のTrpトランスポーターに与える影響を評価した。

    【方法・結果・考察】ヒト絨毛癌細胞株BeWoにVPAを24時間処置し、胎盤での発現が知られる主なTrpトランスポーターの発現量をreal time RT-PCRにより解析した。その結果、SLC6A19の発現量のみがVPAによって有意に減少することを見出した。そこで、VPAが細胞内へのTrp取り込みに与える影響をLC-MS/MSにより解析したところ、細胞内のTrp量がVPAの処置時間依存的に減少し、さらに、Trpの代謝物であるセロトニンおよびキヌレニンの細胞内量に関しても、細胞内Trp量の変化と同様に、VPAにより減少することが明らかとなった。従って、VPAがSLC6A19の発現量を減少させ、Trpの細胞内取り込み量が減少することで、胎児の発達に重要な代謝物量も減少することが示唆された。そこで現在、妊娠マウスにVPAを投与した際の胎盤や胎仔への影響評価を進めており、VPAによる胎盤のSLC6A19の発現減少と胎児への影響との連関を追究している。

  • 山本 大, 佐藤 順子, 土居 卓也, 佐々木 淳, 菅野 剛, 内田 秀臣, 小久保 年章
    セッションID: O2-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】放射線照射が雌性生殖器に影響を与えることは知られているが、受けた照射時期や線量の違いによる発育後の生殖器への影響について現在まで詳細な報告はない。今回我々は、胎仔期、新生仔期、離乳期及び性成熟早期にそれぞれγ線照射されたラットについて、27週齢時における卵巣発育の影響を調査した。

    【方法】雄のEkerラットと雌のF344ラットを交配させ、胎生15日(FD15)、19日(FD19)、生後5日(PND5)、20日(PND20)及び49日(PND49)それぞれに、0.5または2 Gyのγ線を単回照射した。この他、無照射の対照群を設けた。F1動物を27週齢まで飼育し剖検を行い、卵巣、子宮及び膣のHE染色標本を作製し病理組織学的検査を行った(各群n=10~22)。全ての卵巣について、黄体数(旧黄体及び新生黄体)と卵胞数(胞状卵胞、二次卵胞以下及び原始卵胞)をカウントした。原始卵胞のカウントにはPCNA染色標本を用いた。

    【結果及びまとめ】2 Gyでは、FD15、PND5及びPND20照射群で黄体と卵胞の枯渇がみられた。失われた卵胞顆粒膜細胞の代わりに、通常は精巣にて分化するセルトリ細胞様の細胞からなる管腔構造が多数認められた。FD19照射群の卵巣では、γ線に対する抵抗性がみられた。PND49照射群では、黄体数の減少は認められなかったが、原始卵胞を含む卵胞数は減少していた。0.5 Gyでは、どの群の卵巣においても一見、病理組織学的には正常にみえたが、カウントの結果、FD15及びPND5照射群で卵胞数の減少が認められた。γ線の卵巣毒性について、同じ線量でも照射時期の違いによりその後の卵巣発育に大きな違いが生じ、変化の程度はγ線の線量に依存することが分かった。また、通常の病理組織学的検査では見落とされる可能性がある原始卵胞の減少について、定量解析により明らかとなった。

  • 森 華奈子, 江畑 知憲, 杉本 航, 小野 美都穂, 田中 利男, 小島 肇
    セッションID: O2-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    In recent years, to reduce animal testing international harmonization of technical requirements has been promoted without compromising safety and efficacy, and ICH S5 guideline on reproductive toxicology: -Detection of reproductive and developmental toxicity for human pharmaceuticals- was revised . In ICH S5 (R3) guideline, the conditions under which alternative methods can be used to assess embryo-fetal developmental toxicity are described in an Annex, allowing the use of alternative methods as part of developmental toxicity testing in drug safety assessment. The zebrafish model has been recognized as a powerful tool to predict the teratogenic potential and it have been used to screen drugs in an early stage. Our current study was conducted with a view to using the method for regulatory purposes in zebrafish. At four participating laboratories (Astellas Pharma Inc., BoZo Research Center Inc., Maruho Co., Ltd., Mitsubishi Chemical Research Corporation), we used 29 ICH-positive and 3 ICH-negative compounds and evaluated the predictive capacity of the test method. This project is the first consortium research for the zebrafish teratogenicity assay in Japan. We will share the standardized protocol for the zebrafish teratogenicity assay, which showed that test results were fairly interlaboratory reproducibility and share results of the concordance between zebrafish and in vivo (rat and rabbit) teratogenicity data.

  • 伊藤 将, 松嵜 健一郎, 藤田 侑里香, 豊田 敦, 篠原 彰
    セッションID: O2-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    減数分裂期相同組換えは、有性生殖を行う生物が配偶子を形成する上で必須の過程である。減数分裂期相同組換えはDNAの二本鎖切断(DNA double-strand break; DSB)によって開始された後、RAD51/DMC1リコンビナーゼの働きによって相同鎖の探索・侵入を経て、相同染色体を鋳型にしたDNAの交換反応によりDSB修復を完了する。RAD51/DMC1リコンビナーゼのDNAへの安定的な結合は、BRCA2などのRAD51 メディエーターと呼ばれる因子によって制御されることが知られており、これまでに多くの知見が得られている。一方で、RAD51のDNAからの解離を促進するアンチリコンビナーゼの役割については、あまりわかっていない。 今回我々は、アンチリコンビナーゼの1つであるFIGNL1がマウスの減数分裂期相同組換え制御に必須であることを見出した。Fignl1のノックアウトマウスが胎生致死であることから、生殖細胞特異的なコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを用いて検証を行った結果、Fignl1 cKOマウスの精巣は萎縮し、減数分裂前期の細胞および精子の減少が見られた。免疫染色による検証の結果、減数分裂前期の精母細胞においてRAD51及びDMC1が染色体上に野生型の2倍以上蓄積していることが明らかになった。RAD51及びDMC1の蓄積は減数分裂前DNA複製期の細胞でも観察され、これらはSPO11による減数分裂DSBに非依存的であった。このことは、FIGNL1によるRAD51/DMC1リコンビナーゼの染色体からの除去が、減数分裂期相同組換えの正常な進行、及び生殖能に必須であることを示唆する。今回新規に明らかになったアンチリコンビナーゼのFIGNL1の生殖細胞における役割について報告したい。

一般演題 口演 4
  • 大塚 健介
    セッションID: O2-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    電離放射線や化学物質などの環境要因によって、細胞は日々、多くのゲノムストレスにさらされている。これらのゲノムストレスは、傷害からの回復、細胞死、細胞老化の引き金となるため、ゲノムストレスが定常状態の組織の恒常性に及ぼす影響を理解し予測することが重要である。 DNA二本鎖切断(DSB)は最も重大なゲノムストレスであり、これが正しく修復されないと、変異や機能喪失が引き起こされる可能性がある。私たちは、DSBによって引き起こされるDNA損傷応答と細胞周期への影響をリアルタイムかつ定量的に解析する技術の開発を進めている。DSBの修復時にDSB部位に凝集する53BP1タンパク、および細胞周期指標を発現するタンパク(hGmnnとhCdt1)をそれぞれ異なる蛍光タンパクと融合させた遺伝子カセット「Focicle」を構築した。次に、このFocicle遺伝子をCRISPR/Cas9でマウスROSA26領域にノックインし、細胞周期依存的なゲノムストレスを定量的にライブセルでイメージングできる新規モデルマウスを樹立した。このFocicleマウスは、放射線照射によるDSBフォーカスの誘導と消滅を放射線の線量依存的に観察を可能とし、摘出した臓器からライブセルイメージングに活用できるオルガノイドの構築も可能とした。 さらに、マウスの全組織におけるゲノムストレスのイメージングを簡便に実現するために、全身および組織の透明化により、DNA損傷応答のマッピングを試みている。私たちは、これが組織レベルの放射線および化学物質によるゲノムストレス応答を全身で理解するツールとして有用なモデルであると考える。

  • 仲村 厚志, 林 唯奈, 猪狩 侑真, 北田 昇雄, 森屋 亮平, 牧 昌次郎, 吉川 朋子
    セッションID: O2-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    生体光イメージング技術は生命科学分野において必要不可欠であり、中でもホタル生物発光系は最も汎用されている。生物発光は、発光基質(ルシフェリン)と発光酵素(ルシフェラーゼ)による化学反応で発光する。遺伝子導入により発現させた発光酵素に由来する光のみを体外から観測するため、励起光が不要である点において蛍光を用いたイメージングより優れている一方で、ホタル生物発光の560nm程度の発光波長は吸収を受けやすく体外からの検出が困難である。我々はこの問題に対応するため、生体透過性の高い近赤外発光を有するルシフェリン誘導体AkaLumine、TokeOni、及びSeMpaiを合成した。これらの生体透過性は大幅に増大しており、生物発光の欠点であった発光強度の低さを見事に克服した。一方で予想していなかったことに、発光酵素遺伝子導入のない野生型マウスにAkaLumine、あるいはTokeOniを投与しただけで、酵素の存在に関係なく肝臓で発光が観察された。これらの発光はシトクロムP450(CYP)の阻害剤によって減弱されたことから、CYPが発光に関与していることが示唆された。また肝疾患マウスにおいて発光を観察したところ、薬物性肝障害モデルは対照群に比べ疾患群の発光量は半分以下に減少し、非アルコール性脂肪性肝障害モデルは対称群に比べ疾患群の発光量は約2倍に増加した。これらの結果より、この肝臓発光システムがヒトの肝疾患の診断に利用できる可能性が示唆された。さらに、この発光現象が他の動物にも観察されるかを検討するため、クロキンバエとダンゴムシの抽出液にTokeOniを添加したところ、いずれも発光が観察された。これらの結果は、CYPが関与すると考えられるこの新しい発光システムが、幅広い動物種に保存されている可能性を示唆している。

  • 澁谷 徹, 堀谷 幸治, 藤野 糺
    セッションID: O2-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    1968年に発生した「カネミ油症」は、国内最大の食品公害で、カネミ油を摂取した当該世代に未だに大きな禍根を残している。その原因は、防臭過程で加熱されたPCBが猛毒のpolychlorinated dibenzofurans (PCDFs)に変化し、米ぬか油に混入したことであった。これによる患者はおよそ15,000人程度であったと考えられている。近年、その第二および第三世代においても同様の疾患が高頻度で発症していることが確認され始め、「全国油症治療研究班」においても、その世代間継承調査が開始されている。私たちは、「カネミ油症」の世代間継承には、継世代エピジェネティック遺伝:TEIが関与しているとの仮説を立て、独自に解析研究を開始した。TEIとは、原因物質にばく露されていない世代においても、何らかの毒性作用が認められる現象で、生殖細胞におけるエピジェネティックな修飾の伝達がその原因であるものと考えられている。私たちは「カネミ油症」の中でも特異的な疾患に関して家系解析を開始しており、将来的にはこれらの方々からの細胞におけるエピジェネティック解析を予定している。これまでに毒性事象の多くが種々の環境因子による、エピジェネティクスかく乱によって誘発されていることが知られている。私達は、今後毒性学において、「エピジェネティック毒性学」を確立することを提唱したい。

  • 成瀬 美衣, 野崎 弘枝, 今井 俊夫, 葛西 秀俊, 小野 竜一
    セッションID: O2-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Inactivation of tumor-suppressor genes by DNA methylation has been found at high frequency in various cancers, suggesting that not only genetic changes but also epigenetic changes could contribute to development of cancer. Organoids derived from epithelial tumors have recently been utilized as a preclinical model in basic and translational studies. Although their reproducibility of in vivo environment attracts increasing attention in cancer research and toxicity assessment, however, it has not been clearly demonstrated whether the epigenetic status is maintained in organoids.Therefore, we performed whole genome DNA methylation analysis of colon and colon-derived organoids from F1 mouse (JF1 x C57BL/6J) crosses to evaluate if the organoids could faithfully reproduce the epigenetic status in vivo. Imprinted DMRs are good target to analyze, because it has been reported that imprinted DMRs of two parental alleles display reciprocal methylation patterns in vivo. By using SNPs in JF1 and C57BL/6J to distinguish paternal and maternal alleles, we found that DMRs in all existing imprinted region maintained in the organoids. Therefore, it might be possible that at least colon-derived organoids could faithfully reproduce the epigenetic status in vivo, suggesting that organoids would be a good model in cancer research and toxicity assessment.

  • 川見 昌史, 赤井 美月, 湯元 良子, 高野 幹久
    セッションID: O2-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】薬剤性肺障害は、様々な薬物によって引き起こされ、肺線維症などの重篤な転帰を辿るため、臨床上問題となっている。しかしながら、有用な診断法がないために薬物の中断などの判断が困難である。我々は、複数の肺障害性薬物が肺胞上皮細胞において上皮間葉転換(EMT)を誘発することによって、肺線維症に関与する可能性を見出しており、その過程にmicroRNAが関与することも明らかにしている。本研究では、ブレオマイシン(BLM)によって作出した薬剤性肺障害ラットから肺を単離・解析することで、上皮間葉転換と関連したmicroRNAを同定し、薬剤性肺障害に対するバイオマーカーとしての有用性について検討を行った。【方法】BLM溶液を経肺投与し、3、7および14日後の肺を単離し、サンプルとして用いた。組織中のmRNAおよびタンパク質発現は、real-time PCRおよびwestern blotによってそれぞれ評価を行った。【結果・考察】BLMの投与後14日後に肺線維症マーカーであるhydroxy prolineが増加したが、7日後には変動は認められなかった。一方、EMTの挙動を示す上皮系マーカー因子の減少および間葉系マーカー因子の増加は、7日後から認められ、肺の線維化に先だって生じる可能性が示唆された。また、当該肺障害モデルラットから得られた血漿、気管支洗浄液中において、miR-222がBLM投与後3日目から増加傾向が認められたことから、薬剤性肺障害を早期に診断するバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。本研究は、肺胞上皮細胞におけるEMTが重篤な病態に至る前に生じる可能性を示した初めての知見であるとともに、比較的侵襲性の低い気管支洗浄液中のmicroRNAの検出によって早期診断が可能性であることを示した重要な基礎的知見を提供するものである。

一般演題 口演 5
  • 武田 知起, 山野 荘太郎, 後藤 裕子, 馬場本 絵未, 鈴木 正明
    セッションID: O3-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】労働現場等で生じた有害性粉じんは、長期間の吸入により肺に線維化等の慢性毒性を引き起こす。これまでに多種多様な粉じんによる肺への障害性が報告されているが、障害メカニズムやマーカーに関する知見は充分ではない。本研究では、8種の粉じんをラットに単回気管内投与し、急性期~慢性期病態の特徴を評価すると共に、障害マーカーを探索した。 【方法】雄性F344ラットに、PBSに懸濁した粉じん [超硬合金、酸化第二鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミニウム、アルミナ、酸化インジウムスズ (ITO)、結晶性シリカ] を10~500 mg/kgで単回気管内投与し、4週、13週及び26週後に気管支肺胞洗浄液 (BALF)、血液及び肺を採取した。BALFのLDHと血漿のsurfactant protein-D (SP-D) を測定し、肺は病理検査に供した。血漿メタボロミクスにはtims-TOF-MSを用いた。【結果・考察】シリカ、ITO、アルミニウム及びアルミナ群ではBALF中のLDH及び血漿SP-Dの上昇が持続的にみられ、酸化第二鉄、酸化亜鉛及び酸化チタン群は4週後のみでの軽微な上昇傾向に止まり、粉じん間で細胞障害性に違いがあることが明らかになった。病理検査の結果、酸化亜鉛とITO群の4週後には肺胞腔内での化膿性炎またはリポたんぱく質様物質の蓄積がそれぞれ顕著であったが、時間経過と共にITO群は増悪した一方で酸化亜鉛群は回復した。酸化第二鉄、酸化チタン、アルミニウム、アルミナ及びシリカ群は間質での被験物質貪食マクロファージの集簇を主体とした間質病変が顕著であり、超硬合金群は間質でのひきつれ病変を特徴とし、これらの間質病変は時間経過に伴い緩やかに進展した。血漿メタボロミクスの結果、stearamide等の脂肪酸アミドの変動が多くの粉じんに共通してみられ、これらが障害マーカー候補となる可能性が示唆された。

  • 近藤 位旨, 鈴木 一平, 千葉 剛, 東泉 裕子
    セッションID: O3-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】近年、健康食品による肝毒性およびチトクロームP-450(CYP)の誘導を介した肝障害が注目されている。健康食品によるCYP3A4の誘導は動物実験から報告されており、健康食品と医薬品との相互作用が肝障害に関与することも予測される。一方、健康食品の肝毒性およびCYP誘導を評価するための簡便で安定した評価系は確立されていない。本研究では、細胞試験から健康食品による肝毒性およびCYP3A4誘導能の評価系を検討した。検討結果を基に、14種類の健康食品成分の肝毒性およびCYP3A4誘導への影響を検討した。

    【方法】肝毒性の評価は、HepG2を用い、乳酸デヒドロゲナーゼ活性(LDH)および細胞増殖活性(PA)を測定することで検討した。CYP3A4の誘導能はCYP3A4の近位プロモーター領域および異物応答領域を組み込んだレポーターアッセイから検討した。HepG2調製したレポーターベクターを組みこみ、CYP3A4誘導剤に対する特異性を検討した。これらの方法を用い、健康食品成分(14成分)による肝毒性およびCYP3A4誘導能の評価を行った。

    【結果・考察】HepG2は毒性対照(ジメチルスルホキシド)の処理に応じて、LDHを増加させ、PAを低下させた。この結果から肝毒性評価系を設定した。調製したレポーターベクターはCYP3A4誘導剤に応じて遺伝子転写活性を増加させ、CYP3A4への特異性を示した。以上を基に健康食品成分の評価を行ったところ、ルテオリンのみが肝毒性を示し、ケルセチンのみがCYP3A4の遺伝子転写活性を1.5倍に増加させた。HepG2は代謝能を消失していることから、本法は健康食品成分そのものの肝毒性およびCYP3A4誘導能を評価する方法として提案される。今後は、この方法をもとに生体位を模倣した評価系を検討する必要がある。

  • Etty RIANI, Nurlisa BUTET, Mukhlas ANSORI, Muhammad CORDOVA, Ahmad RAN ...
    セッションID: O3-21
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Sandfish (Holothuria scabra) has a high value as a commodity and has the highest selling price compared to other species of sea cucumber. Currently, it is also used as a raw material for the pharmaceutical and cosmetic industries. High market demand resulting the intensive fishing so that the population stock in nature drastically drop. This condition is worsened by the habitat pollution such as from industrial waste or marine accident that potentially pollute the water with hazardous and toxic materials. An example case that occurred in the waters of Tinjil Island, Banten where a coal-carrying ship accident spilled a thousand of metric tons of its cargo into the water. This study aims to analyse the Pb, Sn, Zn, Cr6+, As, Hg, Fe, Cd, Cu and Al in water, sediment and accumulation of sandfish meat using Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry (ICP OES). The research was conducted approximately one year after the coal spill occurred. The results showed that heavy metals have found in water bodies, sediment and sandfish. The contamination in sandfish meat were respectively 2.91; 0.2; 23.8; 0.09; 0.019; 0.083; 195; 4.78; 2.19; and 0.558 ppm. For safety reason, sandfish from this area may only be consumed in limited quantities. Adults of 60 kg BW are allowed to consume 90g/week, while for children of 15 kg BW are only 20g/week. Something that must be considered is sandfish that purpose for consumption or become raw materials for the pharmaceutical and cosmetic industries when it comes from locations where heavy metal pollution occurs. The contamination of heavy metals can also cause reproductive disorder and damage other physiological processes, so that it will further suppress the stocks of sandfish in nature. Therefore the harmful of heavy metals upon this reasons, some efforts must be made so that the sandfish's habitat is not polluted by heavy metals.

  • 石川 良賀, 檜垣 有哉, 渡邊 ヒカリ, 本田 晶子, 市瀬 孝道, 高野 裕久
    セッションID: O3-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    大気中に浮遊している微小な粒子状物質(Particulate matter; PM)は、呼吸により体内に侵入・沈着し、気管支喘息などの呼吸器疾患を悪化させることが知られている。しかし、PMは発生源や地域、季節などによってその化学組成や生体応答が異なることが知られており、PMの健康影響因子を特定することは依然として課題が残されている。特に、室内環境や閉鎖的空間などで発生するPMについては、屋外で浮遊しているPMに比べて知見が乏しく、濃度や発生源、構成成分、健康影響などについてはほとんど明らかになっていない。近年、公共的かつ閉鎖的な屋内空間の代表例として挙げられる地下鉄構内において、屋外大気中の2~5倍高濃度のPMが検出され、さらにFeやCuなどの金属成分が屋外の数百倍高濃度であるという調査結果が報告された。このように、屋内環境のPMは一般大気中とは全く特性が異なっており、それに応じて健康影響も異なる可能性があるため、この特徴的な化学組成に由来する生体応答を評価することが重要であると考えられる。本研究では、地下鉄で発生するPMの主要成分である酸化鉄微粒子が及ぼす健康影響を評価することを目的とした。本発表では、酸化鉄微粒子(α-Fe2O3およびFe3O4)を気道上皮細胞や骨髄由来免疫細胞、マウスなどに曝露した際の細胞毒性や炎症反応などについて評価を行った結果について紹介する。

  • Rana RAMESHBHAI, Pritee SINGH, Alka RAI, Minal KAMLE, Nadeem KHAN
    セッションID: O3-23
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    The Honeybee, Apis mellifera L. is a crucial pollinator for both domesticated plants and wild species. In many nations, honeybee colonies are disappearing and there are problems. The importance of pollinators in the future and the harmony of nature are both threatened by the current scenario. This reduction has been linked to several reasons, including parasites, infections, inadequate nutrition, queen failure, habitat loss, migratory stress, and heavy pesticide usage on crops. We are particularly interested in the possible effects of pesticides, especially those used in agricultural settings. Dimethoate (DMT) has been used in the current study. The objective of this study is to assess the toxicity of repeated DMT exposure on honeybee larvae. To grow and develop, honeybees need both protein and energy. This requirement is satisfied by pollen and nectar that is brought by worker honeybees and is kept in the hive. Honeybees carry pesticides in the hive when foraging, exposing nurse bees who feed the larvae to them. In our most recent study, we repeatedly exposed honeybee larvae (reared in vitro) to DMT according to OECD guidance document number 239. DMT was repeatedly administered to honeybee larvae at 0.0 (control), 0.4, 1.1, 3.3, 10.0, and 30.0 mg a.i./kg food. Larvae were observed for signs of death, abnormal conduct, morphological changes, and negative consequences after emergence. The median effective concentration (EC50) of dimethoate for adult emergence at D22 was 4.335 (3.027 - 6.223) mg a.i./kg diet. The NOEC for emergence rate on D22 was 0.4 mg a.i./kg diet. These findings reflect an evaluation of DMT's effects on honeybee larvae and should aid research on the decrease of honeybee colonies. Overall, our research is useful for determining the long-term toxicity of developing honeybees.

一般演題 口演 6
  • 東田 千尋, 楊 熙蒙, 稲田 祐奈
    セッションID: O3-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    我々は、神経回路の修復、特に軸索の再伸長がアルツハイマー病(AD)の記憶障害改善に極めて重要であると考え、そのような活性を和漢薬から見出しADの新しい治療薬として開発することを目指している。山薬(Dioscorea japonicaまたはD. batatasの根茎)の成分として知られるdiosgeninに着目し、培養神経細胞においてAβで萎縮した軸索を再伸長させることや、ADモデルマウス(5XFAD)の記憶障害を回復させることを見出してきた。しかし、5XFADマウス脳内で実際にdiosgeninが軸索萎縮を修復することを示すエビデンスはなかったため、その解明を目指した。海馬から前頭前野に投射する軸索をトレーサーにより可視化し、diosgenin投与によって軸索が再伸長することを明らかにした。軸索伸長神経細胞で発現増加する遺伝子を、レーザーマイクロダイセクションとDNAアレイで同定し2分子(SPARC、Gal-1)に着目した。それぞれを5XFADマウスの海馬神経細胞に過剰発現させると、記憶障害が改善し、軸索の再伸長も促進された。またSPARC、Gal-1それぞれのカウンターパートとなる分子を同定し、いったん萎縮した軸索が再び方向性をもって伸長するメカニズムを明らかにした。 ヒトでのdiosgeninの有効性を検証するためには、化合物よりも山薬エキスでの臨床研究が現実的である。健常人を被験者としランダムに2群に分け、プラセボまたはdiosgenin高濃度山薬エキスを12週間服用する二重盲検試験を行った。Diosgenin高濃度山薬エキス服用群では、プラセボ群と比較して有意に認知機能が向上した。有害事象は見られなかった。さらに、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病を被験者とした特定臨床研究を実施し、diosgenin高濃度山薬エキス服用群の一定の効果を検出した。

  • Yuka KOHDA, Nobuyuki FUKUISHI, Hitoshi MATSUMURA
    セッションID: O3-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    In addition to the COVID-19 pandemic, the obesity and diabetes pandemics have threatened global health. Compared with individuals without diabetes, patients with diabetes are more likely to experience serious complications from COVID-19; thus, preventing obesity-associated diabetes is of major importance. Diabetes and brain toxicity are closely linked. Orexin-A is associated with feeding behavior, obesity, and sleep. We reported that high-dose thiamine treatment of obese diabetic Otsuka Long–Evans Tokushima Fatty (OLETF) rats led to reduced obesity and metabolic disorders. The OLETF rats had free access to water containing 0.2% thiamine for 50 weeks. In this study, we focused on orexin-A in obese diabetic OLETF rats. At 55 weeks of age, the rats showed an increase in body weight, and blood glucose levels were used as an indicator of obese diabetic conditions. Plasma orexin-A was measured by ELISA and tended to be higher in obese diabetic OLETF rats compared with non-obese diabetic control rats. Of note, increased plasma orexin-A levels of obese diabetic rats were attenuated by thiamine supplementation. We evaluated orexin-A receptor gene expression in the brains of diabetic OLETF rats by reverse transcription-polymerase chain reaction. The diabetic OLETF rats exhibited higher orexin-A receptor gene expression in the brain compared with controls. The results of the present study suggest that the demand for thiamine may exceed the normal range in in vivo rat models of diabetes and continuous thiamine supplementation can affect obese diabetes onset and progression. We found that plasma orexin-A levels in OLETF rats were modulated by thiamine supplementation. The results presented here are expected to provide a better understanding of the role of orexin-A and its function in diabetic brains.

  • 高畑 圭輔, 森口 翔, 米澤 賢吾, 佐々木 健至, 八田 耕太郎, 濱邊 祐一, 互 健二, 徳田 隆彦, 建部 陽嗣, 鈴木 寿臣, ...
    セッションID: O3-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    有機リン系化合物への曝露は、アセチルコリンエステラーゼの阻害作用による重篤な急性期症状を引き起こすだけでなく、organophosphorus ester-induced delayed neurotoxicity(OPIDN)と呼ばれる遅発性神経障害を引き起こすことが知られている。しかしながら、有機リン系化合物による晩期の神経学病理学的転帰についてはほとんど明らかにされていない。過去の研究では、有機リン系農薬への曝露によって認知症の発症リスクが上昇するという疫学的知見や、有機リン系化合物への曝露が持続的な脳内炎症やリン酸化タウの増加を惹起することが報告されている。これらの先行研究から、有機リン系化合物への曝露が晩期に何らかの神経変性をもたらしうると推測されるが、そのような検証を行った報告はない。本報告では、有機リン系化合物による重篤な中毒から10年〜20年後に遅発性の精神神経症状を呈し、タウPETにより脳内タウ蓄積が示唆された2症例について報告する。第一例は、地下鉄サリン事件でサリンに曝露した症例である。急性期治療後も進行性の脳萎縮が認められ、曝露後18年目に強直間代発作と認知機能低下が確認された。タウPETでは、曝露後に進行性脳萎縮を示した部位に一致して集積が確認された。第二症例は有機リン系農薬を用いた服毒自殺企図から回復したものの、記憶障害が残遺した症例で、曝露後12年目にタウPETにて後頭葉を中心とした領域に集積を認めた。いずれの症例もアミロイドPETは陰性であり、非アルツハイマー型タウオパチーが示唆された。有機リン系化合物への曝露は、身体症状の改善後にも持続的な脳損傷をもたらし、晩期にタウ蓄積を引き起こす可能性があるが、より大規模な調査や基礎研究で検証する必要がある。また、将来的には死後脳を用いてタウアイソフォームを同定する必要がある。

  • 近藤 真理, 田中 寿弥, 黄 基旭, 長谷川 潤
    セッションID: O3-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    エタノールはアルコールとして多くの文化で広く摂取されている依存性のある化学物質である。特に、エタノールは脳に対して毒性をもち、様々な神経障害を引き起こす事が知られている。これまでの研究から、エタノールは神経細胞に直接毒性を示すほか、ミクログリアやアストロサイトを介した間接毒性を示すことも知られている。血管内皮細胞は血液中のエタノールと直に接していることから、エタノールの神経毒性を仲介する働きがあると考えられている。しかし、過剰なエタノールの摂取が脳の血管構造に及ぼす影響については明らかではない。そこで本研究では、成体マウスにおける過剰なエタノール摂取が脳の血管構造に与える影響を明らかにし、その作用を制御する血管調節分子の同定を試みた。 ICRマウスに2 g/kg体重のエタノール、又はコントロールとしての生理食塩水を4日間投与し、投与終了2日後の大脳を解析した。免疫染色の結果、大脳皮質の血管構造に変化が認められ、エタノール投与後のマウスでは顕著な血管の蛇行がみられた。また、大脳皮質の上層部で血管とアストロサイトの相互作用の低下が観察された。この血管のリモデリングを制御する因子のスクリーニングを行ったところ、VEGFファミリーの中でもVEGF-Aの発現が特異的に減少していることがわかった。 以上の結果より、過剰なエタノール摂取は大脳皮質内のVEGF-Aの発現低下を介して血管のリモデリングを引き起こす事が示唆された。エタノールによる血管の構造的な変化は、血管の局在と酸素や栄養の供給を変化させることで神経細胞に対して毒性を発揮する可能性が考えられる。

  • 勝山 真人
    セッションID: O3-28
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    かつて我が国で整腸剤として多用されたクリオキノール(キノホルム)は亜急性脊髄視束神経症(スモン)という重篤な薬害を引き起こしたが、その発症の分子機構は未だ明らかでない。近年海外においてその類縁化合物が開発され、多系統萎縮症に対する希少疾病用医薬品として認可されているものも存在する。これらの化合物による新たな薬害を阻止するためにも、クリオキノールの神経毒性の分子基盤の解明は必須である。亜鉛の過剰と銅欠乏による脊髄神経障害とスモンの臨床症状に共通点があることから、「スモンは亜鉛の過剰・銅欠乏による神経障害ではないか」という仮説が成り立つ。我々はヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞において、クリオキノールが細胞内に亜鉛を流入させるとともに、銅シャペロンATOX1の酸化型への変換により銅の代謝障害を引き起こし、ドパミンβ水酸化酵素の成熟阻害を介してノルアドレナリンの生合成を阻害することを見出し、この仮説の一端を証明した。ATOX1以外の銅関連タンパク群についてもクリオキノールによる発現や機能への影響があるのではないかと考え、その発現変化について解析した。DNAチップを用いた網羅的解析および定量PCRの結果、クリオキノールはミトコンドリア呼吸鎖複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ)に銅を運搬するシャペロンSCO1とSCO2、および複合体IV構成タンパクのミトコンドリア内膜への挿入活性を持つCOX18のmRNAレベルを低下させることが明らかになった。またクリオキノールで刺激した細胞では複合体IV活性が低下していた。クリオキノールが複合体IVの会合抑制を介してATP産生を低下させ、神経細胞死や機能障害を引き起こす可能性が示唆された。

一般演題 口演 7
  • 平尾 雅代, 瀧口 益史, 竹田 修三
    セッションID: O3-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】環境化学物質のビスフェノールA (BPA)は、その曝露と乳がん悪性化との関連が指摘されている。この要因の一つとして、BPAによるエストロゲン受容体(ER)の活性化が考えられているが、悪性化を説明しうる十分なエビデンスはない。我々はER陽性ヒト乳がんMCF-7細胞において、BPAの代謝物MBPがBPAよりも低濃度(< 1 nM)でERβの活性化と呼応した細胞増殖を来すことを見出した(Mol. Pharmacol., 95: 260, 2019; BPB., 44: 1524, 2021)。我々はBPAをはじめ、ER刺激作用を有する化学物質に曝露されているが、これら化学物質に対する感受性は閉経を起点として著しく変化する可能性がある。本研究では、MBPに注目し、作製したin vitro閉経後乳がんモデルであるLTED細胞を用いて、MBPの曝露とがん悪性化の機構を明らかにすることを目的とした。

    【方法】MCF-7細胞をエストロゲン枯渇条件下で6ヶ月以上培養して得られたLTED細胞を閉経後ER陽性乳がん細胞モデルとして用いて、種々の生化学的解析を行った。

    【結果および考察】LTED細胞をMBPで処理し、ERα/ERβの発現およびERを介した転写活性を解析した。MBPはERαの発現を低下させ、ERβの発現を誘導した。この時、ERを介した転写が亢進したことから、MBPはERβを介した転写を正に調節することが示唆された。MBP誘導性の転写活性はERβの選択的アンタゴニストによる影響を受けなかったが、MEK1/2阻害剤ならびにPI3K阻害剤により抑制された。以上より、閉経後乳がん細胞モデルであるLTED細胞において、MBPはERαとERβの発現バランスを破綻させ、リガンド非依存的に(おそらくリン酸化シグナルを修飾することで) ERβを活性化させることが明らかとなった。

  • 荒井 りおん, 足利 太可雄, 大野 彰子, 飯島 一智
    セッションID: O3-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    [背景]ナノマテリアル(NM)がアジュバント効果を示す可能性が示され、安全性に対する懸念が高まっている。しかしNMのアジュバント効果を簡便に評価する手法はなく、そのメカニズムについてもほとんど未解明である。我々は皮膚感作性の動物実験代替法であるhuman Cell Activation Test(h-CLAT)を応用し、NMの抗原提示細胞活性化能を評価する手法を開発してきた。本研究では本手法をリポ多糖(LPS)とシリカナノ粒子の組み合わせに応用し、NMのアジュバント効果の評価を試みると共に、そのメカニズムの解明に取り組んだ。

    [実験]LPSとして大腸菌O111:B4由来LPS、シリカナノ粒子としてJRC Nanomaterials Repositoryより入手したNM-204を用いた。ヒト単球由来細胞株THP-1細胞に被検物質を添加し、所定時間後にフローサイトメーターを用いてCD86およびCD54の発現量に当たる相対蛍光強度(RFI)および細胞生存率を測定した。またリアルタイムPCRを用いて種々の遺伝子発現量を測定した。

    [結果と考察]シリカナノ粒子とLPSを同時にTHP-1細胞に曝露すると、単体での曝露およびそれらを時間差で曝露したものと比較して顕著に高いCD54の発現が見られ、シリカナノ粒子とLPSの組み合わせが引き起こす高い抗原提示細胞活性化能は、それらの複合体が関与している可能性が示唆された。また、この現象はメソポラスシリカにおいてのみみられたことから、NMの多孔質性が関与する可能性が示唆された。遺伝子発現解析より、シリカナノ粒子とLPSの共曝露による抗原提示細胞活性化はCD86遺伝子およびCD54遺伝子の発現によっても評価できることがわかった。またMMP-12遺伝子およびCCL3遺伝子の発現もNMによるアジュバント効果の新規指標として有用である可能性が示唆された。

  • 飯島 一智, 西田 明日香, 髙橋 遥, 中浜 美月, 荒井 りおん, 山城 真輝, 大野 彰子, 足利 太可雄
    セッションID: O3-31
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    我々は、皮膚感作性の動物実験代替法であるhuman Cell Activation Test(h-CLAT)を応用し、ヒト単球系細胞株THP-1細胞のCD54発現を指標としてナノマテリアルの抗原提示細胞活性化能を評価する手法の開発に取り組んできた。本研究では、ヒト正常気管支上皮細胞より構築した気管支モデルとTHP-1細胞の共培養系を構築し、気管支の取り込みや気管支上皮細胞と免疫細胞の相互作用を考慮したナノマテリアルの吸入毒性評価方法の開発を行った。セルカルチャーインサート上に作製したヒト正常気管支上皮細胞より気管支モデルをマルチウェルプレートに播種したTHP-1細胞上に設置し、気管支モデル上部および下部よりシリカナノ粒子を添加した。24時間後、フローサイトメーターを用いてCD54の発現を測定した。結果、気管支モデルの上部または下部よりシリカナノ粒子を曝露すると、THP-1細胞のCD54発現は顕著に亢進し、気管支モデル/単球系細胞株共培養系を用いることでナノマテリアル吸入毒性が評価できる可能性が示唆された。気管支モデルから分泌されるサイトカインについては、培養後の培養液を市販のメンブレンアッセイキットを用いて解析した。メンブレンアッセイより、気管支モデルの培養液にはIL-8が含まれていること、シリカナノ粒子暴露によりGRO-a/b/gおよびIL-6の分泌が促進されることが明らかになった。

  • Ida FITRIANA, Chia-Hua WU, Tai-Ju HSU, Yen-Ju CHAN, Yu-Fan CHUANG, Chi ...
    セッションID: O3-32
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Loss of eyesight may result from diabetic retinopathy (DR) becoming more severe. In numerous cell types, the enzyme of histone deacetylase (HDAC) controls cell proliferation, differentiation, and cell cycle regulation. However, the role of HDAC in epithelial-mesenchymal transition (EMT) as it relates to the development of DR remains uncertain. An in silico study was conducted to identify potential molecular targets of azatyrosine-phenylbutyric hydroxamides (AZP), and molecular docking was also used to evaluate interactions between AZP and salient potential targets. The protein levels of associated EMT and HDAC in high glucose-induced human retinal pigment epithelial cells (ARPE-19) were evaluated using western blot. During the in vivo study, AZP was administered to the db/db mice that served as the DR animal model. Additionally, the invasive test of optical coherence tomography (OCT) and fundus fluorescein angiography were performed on the mice (FFA). The findings show that AZP has a relationship with HDAC4 and 6. ARPE-19 cells showed elevated protein levels of mesenchymal characteristics as well as HDAC1, 3, 4, and 6 as a direct result of exposure to high glucose. AZP was successful in reversing the effects of the EMT process on protein levels and in reducing HDAC1, 3, 4, and 6 levels. In addition, treatment with AZP increases both the retinal vasculature and the thickness of the retina. In conclusion, this study demonstrated that AZP, an HDAC inhibitor, was successful in meeting the required safety and excellent drug criteria, and it was found to restore EMT in DR. The use of AZP as a viable therapeutic for the treatment and prevention of DR is now under investigation.

    Keywords: Azatyrosine-phenylbutyric hydroxamides, diabetic retinopathy, epithelial-mesenchymal transition, histone deacetylase inhibitor

  • 宮宗 秀伸, 高野 海哉, 吉岡 広陽, 松野 義晴, 李 忠連, 倉升 三幸, 小川 夕輝, 横田 理, 伊藤 正裕
    セッションID: O3-33
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Cortisol and corticosterone (CORT) are steroid, antistress hormones and one of the glucocorticoids in humans and animals, respectively. Studies have demonstrated the toxicological effects of excessive secretion of CORT following exposure to extreme mental or physical stresses in early life stages. In the male reproductive system, previous studies, we observed that Sertoli cell numbers were significantly reduced in CORT-administered mice. This study evaluated the mechanism by which CORT administration in early life stages was decreased Sertoli cell number. CORT was subcutaneously injected at 0.36 (low-), 3.6 (middle-), and 36 (high-dosed) mg/kg body weight from postnatal day (PND) 1 to 10 in ICR mice. Sertoli cell numbers were significantly reduced in low- and middle-dosed mice on PNDs 10 and 16. We observed a dose-dependent increase in serum CORT levels on PND 10, and serum testosterone levels were significantly increased only in high-dosed-CORT mice. Triiodothyronine levels were significantly higher in the low-dosed mice but lower in the middle- and high-dosed mice. P27-positive Sertoli cell numbers increased in low- and middle-dosed mice, whereas Ki67-positive Sertoli cell numbers were reduced in dosed mice. These results suggested that increased serum CORT levels in early life stages could disrupt several hormone levels and induce p27 expression in Sertoli cells and reduce Ki67 expression in Sertoli cells, leading to termination of Sertoli cell proliferation and decreased Sertoli cell number in mouse testes.

一般演題 口演 8
  • 煙山 紀子, 政所 陽菜, 西條 真菜美, 稲上 慈乃, 吉田 修輝, 鈴木 杏奈, 中根 冴, 中江 大, 美谷島 克宏
    セッションID: O3-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】IL-21Rはリンパ球の成熟や自己免疫疾患など免疫機能に関与するとされているが、本研究は、エネルギー代謝関連臓器である肝におけるIL-21Rの(病態)生理学的意義について検討することを目的に、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)発生への関与を解析した。

    【方法】実験は、6週齢のC57BL/6J系雄性の野生型またはIL-21R全身欠損マウスに、普通食・CDAA-HF-T(-)(脂質45 kcal%、トランス脂肪酸非含有ショートニング;メチオニン0.1%)を4週間または13週間投与して解剖し、各種の解析を行った。また、ヒト肝星培養細胞株LX-2を用いて、TGF-β1(10 ng/mL)あるいはIL-21(50 ng/mL)を単独または同時に刺激し、肝星細胞の活性化に関する評価を行った。

    【結果】CDAA-HF-T(-)投与において、肝のIL-21およびIL-21R発現が増加した。IL-21R欠損CDAA群では、肝脂肪蓄積・血中ALT活性・炎症関連遺伝子発現は野生型と同様に増加した一方、Sirius Red陽性組織、Collagen、細胆管反応としてのSox9・CK19など、線維化関連遺伝子発現およびタンパクは野生型と比較して低下を示した。LX-2においては、TGF-β1の刺激により各種星細胞活性化関連指標に加え、IL-21R遺伝子発現が誘導され、それはTGF-β type 1受容体阻害剤前処置により抑制された。IL-21刺激により、αSMAの増加と一過性のCollagen type 4 遺伝子発現の増加がみられた。さらに、TGF-βとIL-21の同時刺激により、さらなる星細胞の活性化が示唆された。

    【結論】CDAA-HF-T(-)投与により誘発されるマウスNASH病態においてIL-21Rは、肝の脂肪化・炎症に関与せず、肝線維化の進行に特異的に関与する可能性が示された

  • 小澤 俊介, 尾城 椋太, 唐 倩, 鄒 昕羽, 酒巻 友里, 菖蒲谷 桃香, 吉田 敏則, 渋谷 淳
    セッションID: O3-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】カビ毒オクラトキシンA (OTA)は、ラットへの投与により腎臓髄質外層外帯 (OSOM)の近位尿細管上皮細胞特異的に巨大核を形成して腎細胞癌を誘発するが、その発がん機序は不明である。本研究ではOTA誘発腎発がんに対する小核の関与の可能性を探るため、発がん標的細胞での小核形成の有無と、小核形成との関連が示唆される遺伝子を網羅的に探索した。

    【方法】ラット近位尿細管上皮NRK-52E細胞を用いたOTA のin vitro小核試験を実施した。次にラットに腎発がん物質として巨大核を誘発するOTAと1,2,3-トリクロロプロパン (TCP)、誘発しない3-クロロプロパン-1,2-ジオール (MCPD)の発がん用量を4ないし13週間反復投与し、OTAとMCPDの13週間投与例でOSOMにおけるRNA-Seqを実施し、OTA特異的な発現変動遺伝子を対象に、遺伝子オントロジー(GO) termに基づくエンリッチメント解析及びqRT-PCRによる検証解析を実施した。さらに発がん物質の投与全群でOSOMにおけるγH2AX陽性小核数を定量的に求めた。

    【結果・考察】OTA処理したNRK-52Eで細胞毒性が見出されない濃度から小核数が増加した。エンリッチメント解析により紡錘体形成等の染色体不安定性に関連するGO termが見出され、qRT-PCR検証解析でDNA二本鎖切断修復に寄与するRad51Rad51ap1や紡錘体形成に関わるNuf2Ska2、細胞増殖や細胞周期の制御に寄与するMcm3, 6Cdkn1aなどがOTA特異的に発現増加した。さらにTCP及びOTA投与群のOSOMでγH2AX陽性の小核出現頻度が増加傾向を示した。以上、OTAはOSOMの尿細管上皮細胞に巨大核誘発と関連して小核形成を誘導し、有糸分裂制御の破綻を介したDNA二本鎖切断の誘導が示唆された。

  • 金澤 智, 三浦 陽子
    セッションID: O3-36
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景】Precision-cut lung slices(PCLS)は、肺を薄切したもので、Ex vivo培養を行うことで種々の化合物による肺機能の評価を行う事ができる。ブレオマイシンは、薬剤性間質性肺炎の原因であるが、線維化の作用機序は不明である。そこで、ブレオマイシンによる肺傷害のメカニズムを明らかにするため、肺線維症モデル(iUIPマウス)由来PCLSを作製し、ex vivo培養下で検討を行った。【方法】肺線維症様病理組織像 (Usual interstitial pneumonia, UIP) を示すiUIPマウスを樹立した。肺炎未誘導 (正常肺) および肺炎誘導(iUIP肺)由来PCLSを作製し、ブレオマイシン添加ex vivo培養を行った。1)ブレオマイシンによる毒性試験として、細胞増殖能の測定を行った。また組織学的な解析として、Ki-67, γH2AX免疫染色およびTUNEL染色を行った。2)炎症状態の指標として、Il-6遺伝子発現量、培養上清中の遊離IL-6濃度を測定した。3)線維化指標として、Col1a1遺伝子発現量等を測定した。【結果】1)ブレオマイシン添加正常肺由来PCLSでは細胞増殖能に変化がなかったが、iUIP肺由来PCLSでは有意な減少がみられた。またiUIP肺では、TUNEL陽性細胞の顕著な増加が見られ、γH2AX陽性細胞の増加も観察されなかった。2、3)正常肺、iUIP肺ともに上清中IL-6は検出できず、Col1a1発現量の上昇も確認できなかった。【考察】ブレオマイシンは、線維化を直接誘導できない。iUIP肺ではブレオマイシンによるDNA修復能の低下がみられ、細胞毒性の感受性が高くなることが示唆された。これまでのin vivoデータ等を併せて考量すると、ブレオマイシンによる細胞死などの2次的な要因が線維化を促進すると考えられる。

  • 佐々木 雅人, 山本 一男, 上田 健, 色川 隼人, 武田 洸樹, 関根 僚也, 伊藤 文恵, 田中 大, 久下 周佐, 柴田 信之
    セッションID: O3-37
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    一炭素単位の転移反応に重要な役割を果たす葉酸代謝は、de novoプリン合成、チミジル酸合成、ホルミルメチオニン合成のみならず、メチオニンサイクルと共同的に働くことでS-アデノシルメチオニン合成にも利用される。腫瘍細胞はその増殖性から多くのヌクレオチドを必要とするため、葉酸代謝への依存度が高い。そのため、古くから葉酸代謝拮抗薬が治療に用いられている。葉酸代謝を仲介する酵素群の内、我々は10-ホルミルテトラヒドロ葉酸(10-fTHF)からTHFへの反応を触媒するアルデヒド脱水素酵素1ファミリーメンバーL1(ALDH1L1)遺伝子に着目した。この遺伝子は肝細胞がん患者で発現が減弱するケースが多く、がん抑制遺伝子であると予想されている。肝がん細胞株であるHuH-7細胞に安定的にALDH1L1を発現させると、de novoプリン合成中間体の5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチド(ZMP)が蓄積することを見出した。これはALDH1L1による10-fTHF消費亢進の結果、細胞内10-fTHF量が低下し、ZMPの10-fTHFからのホルミル基の受容が障害されたためと考えられた。加えて、ALDH1L1発現細胞では、細胞内のセリンが減少しており、ミトコンドリアでのセリン異化反応に影響を及ぼすことが予想された。これらの代謝変化はミトコンドリアでの電子伝達系を介したエネルギー産生を抑制すると考えられた。さらに、ALDH1L1発現細胞では、ZMPのヌクレオシド体であるAICArに対して耐性を示した。AICArはALDH1L1の有無に関わらず細胞周期停止を引き起こすが、ALDH1L1発現細胞では、ミトコンドリア活性が保たれていることを明らかにした。これらの知見は、ALDH1L1発現の低い肝細胞がん患者に対し、AICArが有効な薬剤となり得る可能性を示している。

  • 島崎 猛夫, 船本 直樹, 西家 沙代, 中村 康寛, 巽 聡司
    セッションID: O3-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    毒性学の分野において、動物実験の代替法の一つである生体模倣システム(MPS)やスフェロイド・オルガノイド技術が注目されるようになった。MPSは、各種の工学的技術と細胞技術の組み合わせにより構成されている技術の総称でもあり、近年の技術の進展に伴い、種々の領域における採用が進み、パラダイムシフトを構成する要素技術として発展してきている。我々は水平方向共培養容器(HTCP)をベースとしたMPSの開発を行った。これらの評価結果が今後の毒性学研究に役立つと考え報告する。方法と結果)1)容器における物質の移動特性の評価:我々は、グルコース・乳酸・アンモニアの移動量について、HTCP容器の数・フィルター孔径を変えて測定した。それぞれの移動特性は、曲線式で表すことができた。移動特性は、フィルターの孔径と容器の数・細胞を播種する容器の位置により、規定されていた。細胞外小胞も同様に経時的に隣側容器へ移動した。2)容器の細胞の分泌特性の評価:フィルター上に位置させた細胞の分泌現象はフィルターが接着していない細胞部分のみに観察された。細胞外小胞の分泌現象を効率よく再現するためには、フィルターと細胞が直接接着しない構造が必要であると考えられた。3)前述の結果より、細胞の分泌現象をより正しく再現するためには、接着面のより少ないスフェロイドで共培養できることが有用と考えられた。結語)我々は、微細加工技術を応用してスフェロイド・オルガノイド共培養や一方向性培地還流可能なシステムを構築し、CD63-GFP発現細胞を用いて、一方向性の培地還流を確認した。細胞毒性研究のための動物実験代替可能ツールとして、スフェロイド共培養も可能なMPSは、候補の一つであると考えられた。

一般演題 口演 9
  • 前川 文彦, 木村 栄輝, 鈴木 剛, 浦丸 直人, 掛山 正心
    セッションID: O3-40
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    有害化学物質への発達期曝露が認知機能の発達に影響を及ぼすことが報告されている。神経発達障害モデルマウスにおいて仔マウスが母マウスに対して示すコミュニケーション指標である超音波発声(USV)に異常が起こることが報告されており、我々のこれまでのダイオキシン類の曝露影響評価研究から、有害化学物質の発達神経毒性の評価として有用であることが示唆されている。本研究では2-chloro-3, 7, 8-tribromodibenzofuran (TeXDF)あるいは1, 2, 3, 7, 8-pentabromodibenzofuran (PeBDF) を胎仔期・授乳期曝露がUSVに及ぼす影響を検討した。妊娠 12.5 日目にTeXDF (8 あるいは 40 µg/kg 体重)を投与された母体から生まれた仔のUSVを評価した結果、40 µg/kg 体重曝露群において出生後 3~9 日目における USVの発声時間および発声回数が対照群と比較して有意に低かった。一方、PeBDF(35あるいは175μg/kg体重)を投与された母体から生まれた仔のUSVは影響が認められなかった。発達期曝露が成体での行動障害につながるかどうかを検討するため、全自動試験装置であるインテリケージを用いて、新規環境での探索行動を解析したが、TeXDFとPeBDFのいずれにおいても、有意な差は認められなかった。インテリケージで解析可能な他の行動影響評価指標に関しては現在検討を加えているところである。

  • 早乙女 秀雄, 八塚 由紀子, 美野輪 治, 土田 勝博, 広瀬 仁美, 早川 智広, 篠塚 啓, 得能 寿子, 平沼 秀記, 長谷川 明莉 ...
    セッションID: O3-41
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    ヒトiPS細胞由来の心筋細胞 (iCellCM2) は、医薬品の研究開発で広く使用されている。しかしiPS由来心筋細胞はプライマリーの心筋細胞に比べ、ミトコンドリア量、収縮測定の点で課題等がある。今回、配向させたiPSC由来心筋細胞の成熟機能の評価とその効果を検討した。

    [方法] 細胞一定方向に培養することが可能な配向プレート(王子CellArray-Heart)と一般的に使用される平板上に播種した2種類のiPS細胞由来心筋細胞(iCellCM2)の成熟度に関して運動活動応答から比較した。自動運動活動、ミトコンドリア、サルコメアのイメージングは、SI8000、FDSS、CQ1などの機器を使用して評価した。さらに、2種類の心筋細胞に対する薬物反応も比較した。成熟因子はRNAseqによるRNA発現とパッチクランプによる電気生理応答によって調べた。

    [結果] 配向iPS細胞由来心筋細胞は、成熟度、ミトコンドリア細胞数、サルコメアアラインメント、心拍数、弛緩速度の増加を示した。成熟度を示す様々な鍵因子のRNA発現も増加した。さらにパッチクランプ測定により、脱分極電圧の低下、最大拡張電位の増加、活動電位の延長など、成熟を示唆する応答を示した。また、配向プレートと平坦プレートで培養した心筋細胞の間で薬物反応に違いを示した。

    [結論と考察] 配向iPS細胞由来心筋細胞が成熟度を促進することを見出した。 この細胞は、成人の心筋の薬物評価に有用なツールであるだけでなく、心再生医療への応用可能性が示唆された。国際的な動物代替の流れがある状況の中、配向プレートを用いた成熟化細胞での研究は薬剤評価研究分野で有用な方法となりうる。

  • 劉 臨風, 大西 真由, 吉井 優花, 安部 賀央里, 頭金 正博
    セッションID: O3-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    [Background and Objective] Rheumatoid arthritis (RA) is a chronic inflammatory disease. For patients whose treatment effect with methotrexate (MTX) monotherapy is not obvious, it is necessary to use a combination therapy of Disease-modifying antirheumatic drugs (DMARDs) with MTX. Although several kinds of DMARDs are now clinically available, there are few reports which compare safety and efficacy between combination therapies. Therefore, our study compared the safety and efficacy of combination therapy and monotherapy through a Bayesian method of Meta-Analysis.

    [Methods] As of October 25, 2020, we extracted the data from randomized clinical trial (RCT) study on the safety and efficacy of MTX combined with biological /targeted synthetic DMARDs for RA from PubMed, EMBASE, CENTRAL, Ichushi Web, and review reports from Pharmaceutical Medical Device Agency (PMDA). The index of efficacy is the intensity of ACR20, which is the standard index for RA to achieve 20% improvement rate formulated by American College of Rheumatology (ACR), and the index of safety is the number of adverse events (AE). We used the Bayesian method for Network Meta-Analysis of the data using the “gemtc” package 1.0-1 of R 4.2.1.

    [Results and Discussion] A total of 78 literatures were underwent to Network Meta-Analysis. Results showed higher efficacy of Certolizumab, Infliximab, Sarilumab, Tofacitinib, and Etanercept in combination with MTX. Both Etanercept and Tofacitinib in combination with MTX were relatively safety. From both aspects of the efficacy and the safety, the combination therapy of MTX with Tofacitinib, a targeted synthetic DMARDs, and Etanercept, a biological DMARDs, had relatively high efficacy and safety among DMARDs combination therapies with MTX.

  • 畠山 浩人, 荒井 貴宏, 小久保 朋美, 唐 鋭恒, 安保 博仁, 川島 博人, 樋坂 章博
    セッションID: O3-43
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は適応が拡大しがん免疫療法に大きな期待が寄せられている。一方で、従来とは異なる有害事象の報告も増加しているが詳細な発症機序は不明な点も多い。我々は、抗PD-L1抗体を複数回投与後に全個体が死亡する極めて重篤なアナフィラキシーにを発症する担癌マウスを発見した。このアナフィラキシーは移植するがん細胞によって重症度が異なり、まったく症状が出ない担癌マウスも存在した。従って、がん病態で変化する何らかの要因が抗PD-L1抗体に対するアナフィラキシー症状に影響していると考えられた。 一般に薬剤性アナフィラキシーは抗薬物抗体(ADA)としてIgEがFcε受容体を介して肥満細胞などがケミカルメディエーターとしてヒスタミンを産生することで発症する。しかし本アナフィラキシーは、抗PD-L1抗体のADAとしてIgGが産生した。マウスで抗薬物IgG抗体がFcγ受容体を介し骨髄系細胞から血小板活性化因子(PAF)が産生する経路が報告され、近年ヒトでも明らかになりつつある。実際にアナフィラキシー発症マウスの血中PAF量が増加し、PAFアンタゴニストの処置でアナフィラキシー症状が改善した。またアナフィラキシーの重症度は骨髄系細胞増加と相関していた。単離骨髄系細胞の解析から、PAF産生細胞として好中球とマクロファージを同定した。担癌マウスでこれらを除去するとアナフィラキシー症状が抑制された。 以上より、がん病態で増加する好中球やマクロファージがICIに対するアナフィラキシーを増悪させることを明らかとした(Arai T, et al. J ImmunoTher Cancer, 2022)

優秀研究発表賞 応募演題 口演 1
  • 井上 愛優, 前川 敏彦, 正木 慶昭, 清尾 康志, 神谷 紀一郎
    セッションID: P1-001E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    核酸医薬品は、低分子医薬品や抗体医薬品と異なり細胞内分子を標的にできるため、従来の医薬品では治療が困難であった疾患を根治する可能性を秘めた次世代革新的医薬品として近年注目されている。核酸医薬にはその構造や作用機序によっていくつかの種類があるが、その中でもアンチセンス核酸(ASO)は最も開発が進んでおり、承認済みのASOに続いて様々な疾患に対する開発が進んでいる。一方で、既に承認されたASOにおいてもヒトに投与することで肝毒性が発現することが報告されており、開発初期に当該リスクを評価することは ASO 開発において重要である。しかしながら、ASOでは標的配列と類似した核酸配列へクロスハイブリダイズするオフターゲット効果に起因した毒性発現が想定されるため、核酸配列がヒトと異なる動物を用いた評価は原理的に難しく、「ヒト」を対象とした評価法開発が望まれている。 我々は、既に独自の細胞性三次元組織構築技術を活用して作製したヒト肝臓細胞のみからなる肝臓構造体が低分子医薬品の薬物性肝障害の評価に有用であることを報告してきた。具体的には、スフェロイド化したヒト初代培養肝細胞をバイオ3Dプリンタを使って積層し、得られた肝臓構造体を96ウェルプレートの1ウェルに1個配置した「ヒト3Dミニ肝臓」として提供している。本製品は約1ヶ月の長期培養が可能であり、安定した薬物代謝機能を有することを特徴としている。そこで、「ヒト3Dミニ肝臓」を用いたASOのオフターゲット毒性評価の可能性を探ることを目的に、ASOを添加した培地中で約2週間培養した「ヒト3Dミニ肝臓」を定量的に評価した。その結果、構造体中のATP量や培地へのアルブミン分泌量のASO濃度依存的な低下が観測され、迅速かつ容易にASOのヒト肝毒性を予測できる可能性を見出したので報告する。

  • 角谷 友美, 栃谷 智秋, 松本 泉美, 河内 眞美, 浅野 成宏, 千原 和弘, 宮脇 出
    セッションID: P1-002E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    近年、核酸医薬品の開発は益々盛んになっており、腎毒性、肝毒性、免疫原性などの毒性に関する研究や、非臨床安全性評価に係るガイドラインの整備が進められている。しかしながら、上市された9品目のアンチセンス核酸のうち、中枢神経系(CNS: central nervous system)を標的としたものはわずか1品目(Nusinersen)であり、CNSへの毒性学的な影響やその機序は十分に解明されていない。1本鎖のアンチセンス核酸(ASO: antisense oligonucleotide)を脳室内投与あるいは髄腔内投与した際の毒性として、現状、2つの神経症状が課題となっている。投与後1時間以内に発現する痙攣等の急性神経毒性は核酸の立体構造やAMPA受容体との関連性が報告されている。一方で、投与後数日経過した後に発現する後肢の機能的異常等の遅発性神経毒性はわずかしか報告されておらず、グリア細胞の活性化の関与が疑われているが未だ未解明なままである。今回、我々はASOをマウス脳室内投与した際の遅発性神経毒性について、ASOの組織内分布及び病理組織学的変化を明らかにするともに、分子生物学的解析を実施した。これら毒性の経時的な病態変化、急性毒性との関係性、更には化学修飾が遅発性神経毒性に及ぼす影響について報告する。

  • 佐々木 翔斗, 湯川 和典, 都築 孝允, 根岸 隆之
    セッションID: P1-003E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    ジフェニルアルシン酸(DPAA)は5価の有機ヒ素化合物で、2003年茨城県で発生した地下水ヒ素汚染事故の主要な原因物質である。この事故の被害者は小脳症状を主徴とする神経症状を発症した。培養ラット小脳由来正常アストロサイト(NRA)に10 µM DPAAを 96時間ばく露したところ、細胞増殖亢進、MAPキナーゼのリン酸化、転写因子のリン酸化/発現誘導、酸化ストレス応答因子の発現誘導、サイトカインの分泌亢進等の細胞生物学的異常活性化を引き起こすことを明らかにした。本研究ではNRAにおいてDPAAばく露により生じたサイトカイン等の液性因子の分泌亢進が自己分泌的にNRAの異常活性化に関与していると考え、NRAにDPAAをばく露することによりConditioned medium(CM)を作成し、NRAに対する影響を評価した。NRAに10 µM DPAA含有DMEM/F-12/ITS-X(培養液)を96時間ばく露しCMとした。別のNRAに10 µM DPAA含有および不含の培養液、96時間インキュベートした培養液、およびCMを96時間ばく露した。細胞生存率は、10 µM DPAAばく露時は約35%の増加であったが、DPAA含有CMばく露時は約65%の増加を示した。タンパク質発現量は、10 µM DPAAばく露時と比較してDPAA含有CMによりp38MAPKおよびSAPK/JNKのリン酸化のより有意な亢進、CREBのリン酸化の低下、c-Junおよびc-Fosのリン酸化および総発現量の低下、HO-1の発現量低下が生じた。ERK1/2、Nrf2、Hsp70については変化しなかった。これらの結果から、DPAAによってNRAから分泌された液性因子はDPAAによるNRAの異常活性化の一部を増悪または抑制するという両義的な作用を示し、自己分泌的にDPAAによる小脳症状発症に寄与している可能性がある。

  • 小串 祥子, 田中 亮也, 中西 剛, 木村 朋紀
    セッションID: P1-004E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】母体血中Cd濃度と早期早産にエコチル調査において関連性が見出された。胎盤は細胞性栄養膜細胞が絨毛外性栄養膜細胞(EVT)や合胞体性栄養膜細胞(ST)に分化し、EVTが母体側に浸潤することで形成される。その過程が不完全であると妊娠高血圧症候群を発症し、早期早産につながると考えられる。これまでの研究より、CdがEVTへの分化をとくに阻害し、EVT機能を低下させること、また、STはEVTに比べて金属結合タンパク質メタロチオネイン(MT)の発現が高いことを明らかにした。MTはCdなど有害金属の毒性軽減作用を持ち、11種類のアイソフォームが存在する。本研究では、EVTはMTによる防御効果が乏しいためにCdの影響を受けやすい可能性を考え、MTを過剰発現させたEVTの遊走能やそれに対するCdの影響について調べた。【方法】レンチウイルスベクターを用いて、EVT様の細胞株HTR-8/SVneoにいくつかのMTを過剰発現させ、遊走への影響を評価した。遊走能は創傷治癒アッセイおよびトランスウェルアッセイによって評価した。創傷治癒アッセイでは、細胞を掻き取ってから48時間後の傷の埋まり具合を比較した。トランスウェルアッセイでは、インサートに細胞を播種してから18時間後に、底面のメンブレン膜を通過した細胞のみを染色することで、遊走細胞数を評価した。【結果・考察】検討したすべてのMT発現細胞において、Cdによる細胞毒性の軽減が観察されたが、MT1E、1M、1X、2A発現細胞では、Cdの有無に関係なく遊走が阻害された。MT1G発現細胞では、Cdによる遊走阻害の抑制が見られた。遊走への影響はアイソフォーム間で異なっている可能性が示唆されたが、多くのMTアイソフォームはCdの毒性を軽減する一方で、EVT遊走を阻害するため、遊走能を維持するために発現が低く保たれているのではないかと考えられる。

  • HSIEN LIN, Wen WU, Pei CHEN*
    セッションID: P1-005E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Scandium (Sc) is a valuable rare earth element, playing an important role in the function of solid fuel cells and related manufacturers. Due to insufficient resources of Sc-mines around the world, recycling Sc from related wastes (e.g., red mud) is considered an important way to reuse this element, although many challenges still exist regarding the low recovery rate of Sc from complex matrices of wastes and their pollution issues during piling and storage. In this study, we aim to explore a novel iron-containing material with the metal-organic framework (Fe-MOF) to recover Sc from different environmental matrices. Our results show that the adsorption capacity of Sc on Fe-MOF was affected by the pH of Sc-containing water with the maximum recovery at pH 5. The adsorption of Sc by Fe-MOF reached equilibrium within 24 hours in accordance with the Freundlich isotherm. We estimate that more than half of the total Sc in water was adsorbed on the surface of Fe-MOF with minor Sc retained properly by the inner layers. We will further test the selectivity and mechanism of Fe-MOF from wastewater that mimics conditions of red mud.

  • 森本 睦, 堂前 直, 上原 孝
    セッションID: P1-006E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    生活環境や食生活を介して曝露される化学物質は無数に存在しているが,個々の細胞毒性に関する評価はあるものの,低用量での作用メカニズムや生理的役割についての詳細はほとんど不明である.これまでに,我々はタバコ煙や排気ガスに含まれるメチルビニルケトン(MVK)に着目して解析を行ってきた.特に細胞内の恒常性維持に重要なホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)–Aktシグナリングへの影響について解析し,MVKがPI3K–Aktシグナリングを負に制御することが分かった.そこで,MVKによるPI3K–Aktシグナリングへの詳細な作用機構を検討した.さらに,構造類似性を持つ環境化学物質による作用に関しても同様に解析した.

    まず,MVKの作用機構を明らかにするため,LC-MS/MSや共免疫沈降法を用いた解析を行ったところ,MVKはPI3K p85サブユニットのCys656に共有結合することで,受容体型チロシンキナーゼである上皮増殖因子(EGF)受容体との結合を阻害することが分かった.続いて,MVKの生理的役割を明らかにするため,PI3Kが関与するオートファジーへの影響について解析した.免疫染色を用いて成熟オートファゴソームマーカーであるLC3パンクタ数を観察したところ,MVKはEGFにより減少したLC3パンクタ数を回復させた.このことから,MVKはEGFによるオートファジー抑制作用を打ち消すことが分かった.さらに,MVKと一定の構造類似性を示す23種の環境化学物質を選定し,それぞれの化学物質によるPI3K–Aktシグナリングへの影響を解析したところ,MVKの構造類似性に相関してAktリン酸化を抑制する傾向が認められた.

    以上より,MVKによるPI3Kへの作用がオートファジーなどに連関したシグナルを調節すること,MVKと高い類似性を示す環境中化学物質も同様の機能を有する可能性が示された.

  • 森 葉子, 青木 明, 岡本 誉士典, 礒部 隆史, 大河原 晋, 埴岡 伸光, 香川(田中) 聡子, 神野 透人
    セッションID: P1-007E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】フタル酸エステル類への曝露はアレルギー疾患を悪化させることが報告されており、その毒性発現機構の少なくとも一部にTransient receptor potential Ankyrin 1 (TRPA1) チャネルを介したアジュバンド作用が関与するものと考えられている。我々は、Di (2-ethylhexyl)phthalate (DEHP) の加水分解代謝物であるMono (2-ethylhexyl)phthalate (MEHP) がTRPA1を活性化すること、その活性化にはヒトとげっ歯類の間で比較的大きな種差が存在することを明らかにしている。そこで、本研究ではMEHPによる種特異的なTRPA1活性化メカニズムについて検討を行った。【方法】ヒトTRPA1 (hTRPA1) をマウスTRPA1 (mTRPA1) の対応する領域と置換したキメラhTRPA1を発現するFlp-In 293細胞株を樹立し、得られた細胞株の細胞内Ca2+濃度の増加を指標として、MEHPによるTRPA1の活性化を評価した。【結果および考察】50 µM以下の範囲で、MEHPはhTRPA1を濃度依存的に活性化した (EC50値: 0.5 µM) のに対し、mTRPA1では活性化は観察されなかった。次に、hTRPA1とmTRPA1のアミノ酸を置換したキメラ体を作製し、MEHPの種特異的な作用部位の同定を試みた。その結果、N-末端領域に存在するリンカー領域およびC-末端領域の両者がMEHPによるTRPA1活性化の種差に寄与していることが明らかになった。したがって、普遍的な環境汚染物質DEHPの活性代謝物であるMEHPは、リンカー領域とC-末端領域で構成される「ポケット領域」における相互作用を介してhTRPA1のみを種特異的に活性化することが示唆された。

  • 久保田 祐介, 黒田 浩介, 平田 英周, 田中 康浩
    セッションID: P1-008E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景と目的】持続可能性、経済性、及びハイスル―プット性などの観点から幅広い用量域及び多様な化合物に適用可能なin vitro毒性試験の重要性が高まっている。上記の試験にて、多くの場合は水系に被験物質を処理するが、溶解性の観点から試験への適用が困難な事例が認められる。ライフサイエンス分野にて汎用されている有機溶媒はジメチルスルホキシド(DMSO)であるが、低濃度(1-2%)においても生細胞の細胞周期に影響を与える。そこで、生体適合性が高い新規溶媒の開発を目的とした溶媒スクリーニング試験、及びその安全性評価を実施することとした。水やDMSOへの溶解度が非常に低いセルロースを溶解可能な溶媒として、双性イオン液体(ZIL)が報告されているため(Commun. Chem., 3, 163 (2020))、スクリーニング対象として注目し、以下の試験を実施した。【方法】水、及びDMSOのいずれにも低い溶解性を示した食品関連物質を0.1、1、10%(w/w)の濃度でZILに溶解させるスクリーニング試験を実施した。DMSOと比較し、優位性が認められたZILを選定し、Ames試験、及びヒト肝癌由来細胞株を用いた肝細胞毒性試験を実施した。【結果】金沢大学理工研究域・黒田研究室にて開発されたヒスチジン類似構造を持つZILが一部の食品関連物質に対して高い溶解性を有することが確認された。上記のZILはAmes試験にて陰性を示し、肝細胞毒性試験においてDMSOと比較し低毒性であることが確認された。【結論】選定したZILは食品関連物質の新規溶媒として、溶解性の観点から有用であることを明らかにした。変異原性を有さないことから、遺伝毒性試験への適用が期待される。また、肝細胞に処理した際にDMSOと比較して生体適合性が高いことから、生細胞を用いる各種試験の新規溶媒としての有用性が示唆された。

  • 栂尾 正雄, 倉川 尚, 田島 真之介, 大塚 純, 和穎 岳, 太田-高田 有紀, 角 将一, 栗田 晃伸, 川上 幸治
    セッションID: P1-009E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景と目的】近年、腸内細菌叢の新たな機能として薬物代謝の制御が提唱されている。これまでに腸内細菌叢の存在が肝Cyp、特に主要分子種であるCyp3aの活性や発現量に影響を与えることが報告されている。本研究では、腸内細菌叢が肝Cypの修飾を介して生体の薬物代謝能に影響を与えるか無菌(GF)およびSPFマウスを用いて検討した。さらに、腸内細菌叢構成の個人差が肝Cyp活性や発現量に影響を与えるかヒトフローラ(HF)マウスを用いて検討した。

    【方法】GFおよびSPFのBALB/cマウスを用いて、in vitro(肝ミクロソーム、各群n = 5)およびin vivo(各群n = 6)でCyp3aの基質であるミダゾラムの代謝活性を評価した。また、健常なヒト(ドナー、2名)の糞便を用いてGFのBALB/cマウス(レシピエント、各群n = 8)をそれぞれヒトフローラ化し、腸内細菌叢解析、肝Cyp活性および遺伝子発現量の定量を行った。

    【結果】In vitroミダゾラム代謝活性は、SPFマウスと比較してGFマウスでは有意に低かった。In vivo試験では、AUCおよび血漿中濃度半減期は、SPFマウスと比較してGFマウスで約4倍であった。また、投与180分後の脳内ミダゾラム濃度は、SPFマウスと比較してGFマウスで約14倍高かった。さらに、HFマウスを用いた検討では、レシピエント群間で腸内細菌叢が明確に異なり、肝Cyp3a活性およびCyp3a11発現量についても顕著に異なっていた。

    【結語】マウスにおいて腸内細菌叢が肝Cyp3a活性と薬物の血中および組織内濃度に顕著な影響を与えることが示された。また、HFマウスの解析により健常人の腸内細菌叢の個人差が肝Cyp3a活性に影響を与えることが示された。以上のことから、ヒトにおいても腸内細菌叢の差異が薬物代謝能、ひいては医薬品の作用や副作用の発現に影響を与えることが示唆された。

  • 竹村 晃典, 中島 崚汰, 池山 佑豪, 伊藤 晃成
    セッションID: P1-010E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景・目的】

    Lipopolysaccharides (LPS)は様々な用途として実験に用いられ、この毒性発現機序の1つとして、ミトコンドリア膜透過性遷移(MPT)がある。MPTは虚血再灌流疾患や薬物性肝障害などの発症に関わり、ミトコンドリア機能不全を介して細胞死に至る。当研究室の既報でラットへのLPS投与によりMPT感受性が増強することならびにその機序を報告した。マウスでもLPS投与によりMPT依存的な影響が示されていたが、その機序について詳細に検討された報告はない。本研究では既報で示したラットの結果との比較を基に、LPSに対する反応性の種差を明らかにすることを目的とした。

    【方法・結果・考察】

    LPS投与時のマウス肝ミトコンドリア機能の変化

    雄性C57BL6/Jマウスに1 mg/kg LPSを腹腔内投与してから2時間後、肝ミトコンドリアを単離した。Swelling assayによりMPT感受性を評価したところ、既報のラットと同様に増強した。ラットへのLPS投与は呼吸活性上昇に伴うミトコンドリア内のROSの増加を示したが、マウスではこの結果を認めず、むしろLPS投与群ではADP添加後の酸素消費速度が著しく低下した。この結果を基に、各複合体の活性を評価したがLPS投与による変化を認めなかった。

    LPS投与によるMPT感受性増強におけるANTの関与

    上記結果より、ADP/ATP交換輸送体(ANT)に着目した。Vehicle群へのANT阻害剤により、LPS投与群で見られたADP添加後の酸素消費速度が著しい低下を確認した。Swelling assayではANT阻害剤によりMPT感受性が増強し、LPS投与群ではvehicle群と比較してより早期に感受性増強を認めた。

    【結論】

    LPS投与によるMPT感受性増強はマウス・ラット共通して見られるが、その機序には種差が示唆された。

  • 宇野 絹子, 名倉 かれん, 畑中 悠里, 煙山 紀子, 中江 大, 太田 毅, 美谷島 克宏
    セッションID: P1-011E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    腸肝連関は様々な疾患の発症や進行に多くの影響を与える。腸管バリア機構の破綻はLPS等の肝臓への流入を引き起こし、肝臓病態を悪化させる要因の1つとなる。本試験はデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性大腸炎モデルマウスを用い、大腸炎の有無が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)病態に与える影響を探索することを目的とした。試験は6週齢雄性C57BL/6jマウスを用い、1.25%DSS水を1週間毎の間歇飲水投与を3週間実施し、コリン欠乏メチオニン低減アミノ酸食(CDAA食)を給餌したDSS+CDAA群、水道水を与え、CDAA食を給餌したCDAA群、DSSを飲水投与し通常食を与えたDSS群、そして水道水及び通常食を与えたControl群の4群構成とした。解剖時には、大腸及び肝臓を採取し、遺伝子発現解析及び病理組織学的解析を実施した。DSS群の大腸において、炎症関連遺伝子発現の上昇及び病理組織学的な炎症が観察され、大腸炎の誘発が確認された。また、肝臓においても炎症関連遺伝子発現の上昇傾向を示し、大腸炎の波及が示唆された。CDAA群の肝臓において、炎症・線維化関連遺伝子発現の上昇、及び病理組織学的な肝細胞の脂肪化並びに炎症が観察され、NASH病態の惹起が確認された。DSS+CDAA群の肝臓において、TLR4を含む一部の炎症関連遺伝子発現が増強し、病理組織学的にCXCL16陽性細胞が増加した。さらに、肝臓マクロファージのM2分極傾向によるTGF beta及びalpha-SMAの遺伝子発現が増強傾向を呈し、腸管バリア機構の破綻が肝線維化病態を増悪させる可能性が示唆された。DSS投与によって惹起された大腸炎は腸管バリア機構を破綻させ、血流を介して肝臓へのLPS等の流入を増大し、その結果CDAA食によって惹起されたNASH病態を増悪させたものと考えられた。

  • 三原 大輝, 堀 正敏
    セッションID: P1-012E
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    背景: 肝硬変は喫煙、飲酒などの生活習慣がリスクとなる。ニコチンは健康に悪影響をもたらすことは認知されているが、消化器系、特に肝臓への作用は不明な点が多い。また、疫学調査ではニコチンが肝硬変のリスク因子であることが報告されているが、その分子メカニズムは不明である。そこで本研究は、ニコチンの肝線維化促進効果とそのメカニズム解明を目的とした。

    結果: 野生型マウスへのニコチン投与は、炎症や線維化を惹起しなかった。しかし、四塩化炭素 (CCl4) 誘発性肝線維化モデルにニコチンを投与した結果、肝線維化が有意に増悪した。 次に、上記の効果はニコチン受容体の1つであるα7ニコチン性アセチルコリン受容体 (α7nAChR) を介すると仮定した。その結果、ニコチンによる肝線維化促進効果はα7nAChR欠損マウスで消失した。また、CCl4誘発性肝線維化はα7nAChR欠損マウスで抑制された他、α7nAChR阻害薬MLAによっても抑制された。 最後に、肝臓でのコラーゲン産生を担う肝星細胞 (HSCs) へのニコチンの作用を検証した。マウス初代HSCsにおいて、静止型から活性型へのフェノタイプ変化に伴いα7nAChRが発現することを確認した。また、常時活性型のフェノタイプを示すヒトHSCs株LX-2において、ニコチン処置はCol1a1のmRNA発現と細胞増殖能を有意に増加させ、MLAによってその効果は消失した。

    結論: ニコチンは一次的な線維化要因の存在下でのみ線維化を増悪させることが明らかとなった。 このメカニズムとして、①一次的要因によりHSCsが活性型となりα7nAChRを発現することでニコチンへの感受性を得る、②ニコチンがα7nAChRを作動することでHSCsの細胞増殖およびコラーゲン産生を促進させる、という過程を経ることが考えられた。

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