日本毒性学会学術年会
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シンポジウム33: Microphysiological system(MPS)技術の現状と展望:医薬品・化学品開発と規制への応用に向けて
  • 酒井 康行
    セッションID: S33-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    幹細胞や培養系に関する格段の学術的進歩(学術的必然)と動物実験代替という社会的要請を背景として,MPS開発と実用化の機運が世界的にも高まっており,欧州organ on a chip学会(EUROoCS)や国際学会iMPSSも設立された.米国食品医薬品庁(FDA)の動物実験代替法ワーキンググループによる新たなMPSの定義によれば.MPSは静置培養であっても三次元培養や共培養を含む先進的な細胞培養系を全て含む極めて広いものとなり,灌流を行うOrgan on-a-chipはその一部として位置づけられた.今やMPSでないものは,二次元の静置純培養のみである.多様な産業界からの要請も日増しに高まっている.特に新モダリティーを追究する創薬分野では,ヒト免疫応答を評価に含むことが求めら,例えビトロであってもヒト細胞の使用が望ましいこととなる.とにかく現代は,様々なヒトの生理学的インビトロ系を,研究ばかりでなく広く社会で活用していくためのまたとない契機である.我が国では,2017-2021年のAMEDプロジェクトを通じて4種のMPSプロトタイプが開発された,2022-2026年の第二期では,協力製薬企業との共同で予測系への要求仕様(Context of Use, CoU)の達成に向けて,プロトタイプに改良を施すと共に実施プロトコールを整備,国際標準化を狙おうとしている.多様な臓器構成細胞とMPS技術とをフル活用すれば,原理的にはインビボの応答がインビトロで再現されるはずであるが,どのような組み合わせが生理的機能発現の必要十分条件になるのかが明らかでない.今一度,ビトロとビボの乖離という一見越えがたい壁を打破するための系統的な研究が求められ,これを背景として初めてMPSは各種用途からの要請に応えられる.

シンポジウム34: 【日本内分泌撹乱物質学会共同シンポジウム】子供の脳の毒性学:外来性分子が引き起こす高次脳機能の変調の機構解明
  • 鯉淵 典之
    セッションID: S34-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    ペルフルオロオクタンスルホン酸(Per Fluoro Octane Sulfonicacid, PFOS)は熱・化学的に安定で撥水・撥油性を有することから,コーティング剤,消火剤など幅広く使用されてきた。毒性が明らかとなり, 2010年に製造・輸入が原則禁止された。しかし,難分解性のため,環境中の蓄積が近年問題になっており,各省庁で対策会議等が開始されたところである。毒性に関しては,肝毒性,免疫毒性に加え,発達神経毒性が大きな問題となっている。胎盤や乳汁を介した曝露により,種々の異常が生じる可能性が危惧されているが,作用機構には明らかではない。そこで我々の研究グループでは発達期のPFOS曝露による脳発達への影響をマウス海馬や小脳を研究モデルとして,行動学的及び細胞生理学的手法を用いて解析してきた。海馬機能については,生後1~14日のPFOS(1mg/kg/日)の母体への曝露により,成熟後の仔の物体認識試験や位置認識試験,及び視覚弁別試験において,スコアの低下が見られた,また,in vivo microdialysis試験にて海馬グルタミン酸やGABA濃度の変化が観察された。しかし,グルタミン酸やGABA受容体の発現には変化がなかった。一方,小脳機能に研究については,同様の曝露により,協調運動及び運動学習の低下が確認されるとともに,電気生理学的試験により小脳プルキンエ細胞における長期抑圧低下が観察された。しかし,海馬と同様に,行動変化を生じた分子機構については十分にわかっていない。一方,小脳培養細胞を用いた試験により,甲状腺ホルモンを介したプルキンエ細胞の樹状突起伸展の低下と2型脱ヨウ素酵素活性の低下が観察されており,甲状腺ホルモン系の関与が推察されている。本発表では我々のこれらのデータを紹介し,PFOS毒性発現メカニズムに関する今後の展望について考察したい。

  • 木村-黒田 純子
    セッションID: S34-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    2022年12月に文部科学省は、通常学級に通う小中学校の児童生徒の8.8%に、発達障害の可能性があると報告した。自閉症スペクトラム障害(以下、自閉症)、注意欠如多動症(ADHD)など発達障害の急増が、社会問題となっている。従来、発達障害は遺伝要因が大きいと言われてきたが、膨大な遺伝子研究や疫学研究から、環境要因の重要性がわかってきた。環境要因は多様だが、なかでも農薬など環境化学物質の曝露が疑われている。2010年頃から、有機リン系農薬(OP)曝露が脳に悪影響を及ぼし、発達障害のリスクを上げることを示す疫学論文や動物実験が多数発表された。国内では欧米で禁止・規制されているクロルピリホスを含むOP系農薬がいまだに使用され、ネオニコチノイド系農薬(NEO)の大量使用も継続している。国内の乳児や子どもの尿中には、OPの代謝物やNEOが極めて高率に検出され(Environ Res,147,2016, Environ Int, 134,2020, Sci Total Environ, 750, 2021)、慢性複合曝露影響が懸念される。OPはアセチルコリン分解酵素を阻害し、NEOはニコチン性アセチルコリン受容体を介したシグナル毒性(J Toxicol Sci, 41, 2016)を示し、共にコリン作動系を攪乱する。コリン作動系は、中枢及び末梢の脳神経系で重要であるだけでなく、発達期の脳でシナプス・神経回路形成を担っている。我々のラット発達期小脳神経細胞培養系では、NEOが短期曝露でニコチン様の興奮反応を起こし(Plos One,7,2012)、長期曝露で樹状突起伸展を阻害した(IJERPH, 13,2016)。我々のデータと共に国内外の報告から、NEOの影響を中心に、コリン作動系を介した脳発達について考察する。

  • 齊藤 洋克
    セッションID: S34-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     発生-発達期の脳では、神経シグナルの厳密な制御により神経回路網が形成される。一方で、この時期の脳は環境要因による影響を受けやすく、その代表例である外因性の神経作動性化学物質は、正常な神経回路網の形成を妨げ、結果として、成熟後の脳高次機能に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、神経作動性化学物質に対して高感受性を持つ発生-発達期の脳の特性を考慮し、従来の神経毒性試験では検出し難い遅発性の脳高次機能への影響について慎重に評価することが重要である。これまで我々はマウスを用いて、化学物質の脳高次機能への影響を解析するため、自発運動量、情動行動、学習記憶能、情報処理機能の変化を客観的かつ定量的に検出するバッテリー式の行動試験評価系を用いた行動解析と、その発現メカニズム解析として遺伝子発現等の神経科学的物証の収集を進めてきた。

     本シンポジウムでは、ネオニコチノイド系農薬であるアセタミプリドを用いた解析結果を中心に報告する。ネオニコチノイドは、昆虫のニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)に選択的に結合し、神経の興奮とシナプス伝達の遮断を引き起こすことで殺虫活性を示す。ネオニコチノイドの哺乳類の神経系に対する潜在的な影響に関しては、様々な知見が蓄積されてきているが、ヒトを含む哺乳類に対して誘発される行動毒性を議論するための情報は限られている。これまでの研究結果より、ネオニコチノイド系農薬を発生期あるいは発達期にばく露したマウスの成熟後(12~13週齢時)に行った行動試験から、学習記憶異常を主とする行動影響が認められた。今回は、特に発生-発達期に正常な脳の発達が阻害されることによって生じる神経行動毒性と、行動異常を伴う中枢神経系の精神疾患の要因の1つとしても懸念されている、胎児期、小児期における神経作動性化学物質のばく露影響について議論したい。

  • 星野 幹雄
    セッションID: S34-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    脳神経系の発達は厳密な遺伝子プログラムにより制御されているが、様々な環境要因の影響を受けることも知られている。例えば、外因性の化学物質によって適切な神経回路形成が妨げられ、時には発達障害や精神疾患の遠因となる可能性も示唆されている。しかしながら、どのようにして神経発達の遺伝子プログラムが撹乱されているのかについては未解明の部分が多い。AUTS2(Autism Susceptibility Candidate 2)は、自閉症スペクトラム障害、知的障害、ADHD、気分障害、統合失調症、言語障害、薬物依存など様々な疾患に関連することがわかっている遺伝子である。東北大学の種村らは、幼若期および成熟期マウスに対する農薬アセフェートの投与により、海馬と大脳においてこのAUTS2遺伝子の発現が低下すること、さらにそれぞれの時期の投与で異なる行動異常を呈することを見出した。このことは、外因性の化学物質が神経発生に関わる重要な遺伝子の発現を変化させ、脳神経系の発達に影響を及ぼしうることを示唆している。星野らは、マウス動物モデルを活用することによって、AUTS2遺伝子・タンパク質が大脳皮質、海馬、小脳の発生に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。本シンポジウムでは、AUTS2が脳神経系の発生・発達に果たす役割について概説するとともに、大脳皮質浅層ニューロンの発生にかかわる機構について詳述する。またAUTS2の機能異常によっていかに脳機能が損なわれ、様々な症状を呈するに至るのかについても触れる。そして、外因性化学物質との関連についても考察する。

シンポジウム35: 【日本中毒学会合同シンポジウム】毒性学・中毒学における新技術と臨床
  • 黒田 俊一
    セッションID: S35-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    ヒト嗅覚が感じる全ての匂い(一説では単純臭で約40万種類、複合臭になると莫大な種類)を検出するには、従来の酸化金属や有機ポリマーをセンシング分子とする半導体センサー等では、センシング分子の特異性・選択性の観点から限界がある。特に、ヒト嗅覚では識別できる匂い分子の光学異性体識別は、人工のセンシング分子では極めて困難である。そこで、我々はヒト嗅覚を支える約400種類の嗅覚受容体をセンシング分子とするヒト嗅覚受容体セルアレイセンサーを開発した。このセンサーを用いれば、原理的にはヒト嗅覚が感じる全ての匂いをデジタルデータとして記録・保存できるので、全く新しい匂い管理法となる。また近い将来、この匂い情報を遠隔地に伝送し、再生する「ヒト嗅覚DX(デジタルトランスフォーメーション)」が可能になる。その結果、全く新しい匂い・香り産業の出現を促すと考えている。本シンポジウムでは、 本センサーの概要、既に実現した社会実装例を紹介し、今後の展開と技術的課題について議論したい。

  • 横田 理
    セッションID: S35-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Magnetic resonance imaging (MRI) with a high-frequency magnetic field is a powerful, non-invasive tool to detect and monitor addicted human brain. MRI can also be applied to small animals in non-clinical toxicological studies. This approach enabled us to evaluate time-course changes in pathological and anatomical findings and their reversibility in the same animals. It can also detect the presence and location of induced lesions and/or deposition of abnormal proteins, assisting with the selection of sections for subsequent histopathological examination. In fact, MRI has been used to detect amyloid plaques by using amyloid-beta precursor protein transgenic mice; this demonstrates the usefulness of MRI as a complementary tool for conventional histopathology. Thus, MRI widens the range of potential non-invasive imaging modalities, expanding the scope of non-clinical studies. However, the widespread use of MRI systems in non-clinical studies are hindered by obstacles. With progress in design technology, a novel compact MRI system with a high-field permanent magnet (~1.0 tesla) has been developed. The new system is portable and self-shielded; it can be placed in most institutions. Compared with conventional MRI systems, the new system has been utilized in several non-clinical studies, including those on hepato- and neuro-toxicities. However, no evidence has been found on the evaluation of addiction and drug abuse, and reproductive toxicity in vivo by MRI. I discuss the usefulness of a ready-to-use, novel compact MRI platform in evaluating their toxicity.

  • Ryosuke TAKEGAWA
    セッションID: S35-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     急性中毒患者は、中毒域を脱するまではABCDE(気道/呼吸/循環/神経/体温)の異常が突然生じうる。中には致死性不整脈のように不良な転帰に直結する場合もあるため、適切な患者モニタリングを行う必要がある。中毒診療で使用される各モニタリング装置は、他の疾患におけるものと基本的には変わらないが、中毒物質や患者状態によっては正確な測定ができないことがあるため注意を要する。中毒診療において、標準的および今後使用が検討されるモニタリング装置とそれらの使用に際し注意すべき点を解説をする。

     気道/呼吸モニタリングは、気道の開通性、適切な酸素化や換気状態の評価のために行われる。経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)モニターは、低灌流状態、異常ヘモグロビンの存在下などではその測定値が正確でないこと、そして “非侵襲的パルスCOオキシメータ”は、SpO2モニターで測定できないCOHbやMetHbなどの異常ヘモグロビンを測定できるとされるが、診断のために用いるには精度が不十分だと理解しておくべきである。

     循環モニタリング装置は、多数のものが市場に出回っているが、中でも12誘導心電図(ECG)は、QT延長や不整脈の認知に必須である。近年では、従来のQTc計算の問題点を改善した“QTノモグラム”や、ECGから中毒の原因に迫るために“ECGトキシドローム”という概念も生まれ提案されている。

     神経モニタリングは、①鎮静状態の評価、②脳損傷の程度および脳機能のモニタリングの2 つの意味がある。特に痙攣をおこしうる中毒では、非痙攣性てんかんを常に鑑別に考える必要があり、遷延する意識障害時には脳波検査や持続脳波モニタリングを行うべきである。

     集中治療を要する患者では体温コントロールの不良は不良な転帰と関係する。最も推奨されるのは深部温であり、血管内、食道または膀胱のサーミスタによって最も正確に測定される。

  • 小松 孝行
    セッションID: S35-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    医学の実践は科学に基づかねばならないが,日常診療における科学的側面の一つとして,病歴や身体所見を論理的に正しく解釈し診断に至るプロセスを意味する臨床推論がある.しかし,患者の訴えは主観的要素が強く,さらに患者背景によっては情報の真偽が不明瞭となるため,主訴を適切な医学用語に翻訳できず,さらにその事象の発生メカニズムを認識できなければ容易に診断エラーに至る.特に救急搬送事案では,意識障害やショックにより緊急性が高く病歴が限られていることも多く,臨床推論に必要な情報が少ない場合もあるが,その状況においてもバイタルサインや視診は客観性が高い情報として有用である.中毒診療におけるトキシドロームはまさにこの考え方を表したものであり,バイタルサインや視診などから破綻している正常メカニズムを類推し,追加病歴や身体所見の情報を集めることで,検査に依らない迅速な病態の理解と治療介入が可能となる.この際,恒常性が保たれていれば通常安定しているバイタルサインや身体反応の僅かな異常に気付くためには,自律神経を中心とした正常メカニズムの理解が必須なのである.一方,医学の実践においては病状説明や患者教育も重要であるが,接遇はもとより正常メカニズムをもとにした丁寧な病態の説明により,患者・家族との信頼関係が構築される.しかし,昨今の医学教育においては基礎医学と臨床医学の融合の重要性が謳われているものの,実際にそのような観点で教育している指導医は残念ながら少なく,キーワードやカットオフ値によるフローチャート,アルゴリズム,語呂などの病名の羅列的鑑別に基づく指導が多くなった結果,本質の理解が不十分なまま治療がなされているケースも少なからず存在する.急速に進化する技術を適切に利用し,オーダーメードでベストな医療を提供するためにも,普遍的な恒常性維持のメカニズムを熟知した臨床医学の実践が我々臨床医の責務である.

シンポジウム36: 途上国で「今」起こっている環境汚染とその毒性影響
  • 石塚 真由美
    セッションID: S36-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    2000年以降、途上国の死亡率の主原因は感染症から非感染症に移ってきており、近年のアフリカでは、非感染症による死亡率が感染症による死亡率を上回りつつあります。特に環境汚染は途上国における健康を脅かす大きな課題となりました。過去の日本が経験した公害のように、アフリカやアジアでは、急激な開発が行われており、経済優先の社会では、多くの場合、環境への配慮は後回しになっています。しかし、その一方で、実際にどのような被害が出ているのか、また今後どのような被害が考えられるのか、その実態は知られていません。このシンポジウムでは、海外において環境汚染のサーベイランスや疫学調査を実施し、精力的に研究を進めている先生方に講演を依頼しました。ヒ素や鉛のようないわゆる古典的な環境汚染に加え、海外におけるか廃棄物の問題、そして近年、世界的な課題となったプラスチック問題など、その最新のデータをご紹介いただきます。

  • 国末 達也
    セッションID: S36-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    経済成長の著しいアジア新興国では廃棄物の増大が深刻化しており、不適正処理にともなう有害化学物質の環境中への放出、そしてヒトへの曝露が懸念されている。また、排水を介した化学物質による水域汚染の拡大と水生生物のリスクも危惧されている。そこで発表者の研究グループは、電気・電子機器廃棄物(e-waste)や使用済み自動車(End-of-Life Vehicles: ELV)に含まれる有害化学物質のpolybrominated diphenyl ethers (PBDEs)やhexabromocyclododecanes (HBCDs)などのハロゲン系難燃剤(HFRs)、そして生活・工業排水に混入し水生生物に対する有害影響が指摘されているPharmaceuticals and Personal Care Products (PPCPs)の汚染実態とリスク評価に関する研究を展開している。これまでの研究結果で、e-wasteおよびELV解体処理施設の作業場ダストからPBDEsやHBCDsを含む多様なHFRsと代替難燃剤として使用量が増加しているリン酸エステル系難燃剤(PFRs)の高濃度検出が明らかとなり、e-waste・ELV解体処理従事者はダストを介して相当量のHFRsとPFRsに曝露されているものと考えられた。また主要都市の河川水からは、下水処理施設で除去されるパラベル類が高濃度で検出された地点が存在し、生活・工業排水の直接流入が示唆された。加えて、ビスフェノール類やトリクロサンの高濃度汚染も複数地点で明らかとなっており、そのレベルは水生生物で報告されているNOEC /LOECから見積もったPNEC (predicted no-effect concentration)を超過していた。さらに、多くの医薬品類も検出されたことから、PPCPsによる複合曝露の影響が懸念された。

  • 田中 厚資, 青木 真奈実, 池中 良徳, 中山 翔太, 綿貫 豊, 高田 秀重, 石塚 敏, 石塚 真由美
    セッションID: S36-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    プラスチック摂食はさまざまな生物で報告されている。その生物への影響として、プラスチック製品に含まれている添加剤等の化学物質曝露によるものが考えられるが、化学物質が組織へ移行しうるのか、議論が続いている状況にある。本研究では、海鳥を用いた添加剤含有プラスチックの投与試験により、化学物質の移行とその毒性影響について明らかにすることを目的とした。

    新潟県粟島で野生個体のオオミズナギドリ雛に対して臭素化難燃剤1種、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3種、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤1種の計5種の添加剤を含むプラスチックの曝露を行い、16日後あるいは32日後に解剖を行った。採取した組織について化学分析を行ったところ、ほとんどの曝露群組織で添加剤が対照群よりも高く検出され、添加剤の組織移行が証明された。毒性については、次世代シークエンスによって遺伝子発現量の網羅的解析を行い、変動が検出された遺伝子について定量的PCRによってより詳細な比較を行った。さらに、変動がみられた遺伝子に関連する生理活性物質の血液濃度等の分析も行った。その結果、肝臓や甲状腺の甲状腺ホルモン系に関連する遺伝子に発現量変動が認められ、曝露による影響が示唆された。血漿中・肝臓中の甲状腺ホルモン濃度には対照群と曝露群の間で差はみられなかった。また、肝臓の胆汁酸合成系遺伝子にも発現量変動がみられ、影響が示唆された。肝臓中胆汁酸濃度は、有意差はみられないものの、対照群と曝露群で分散が有意に異なっており、曝露による影響が示唆された。脂質代謝系遺伝子では発現量に有意差はみられなかったが、対照群と曝露群で分散が有意に異なる遺伝子があり、脂質代謝系への影響の可能性も考えられた。

  • 姫野 誠一郎, Hossain KHALED
    セッションID: S36-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    バングラデシュでは1970年代の独立以降800万本以上の井戸が掘られたため、他に例を見ない大規模なヒ素中毒が起こった。我々は2009年以降、バングラデシュ西部のヒ素汚染地域での健康影響とヒ素曝露レベルとの関係を調べてきた。その結果、皮膚症状や発がんだけでなく、ヒ素曝露によって血圧血糖値の上昇が起こることを見出してきた。また、血清脂質のうち、酸化LDL-Cが上昇し、HDL-Cが低下していた。被験者の平均BMIは21-22という低いレベルであるが、腹囲と上腕三頭筋皮脂厚が上昇していた。これらの指標の変化からメタボリック症候群の判定を行うと、ヒ素曝露依存的にその頻度が増加していた。我々はヒ素曝露によってなぜ糖尿病が増加するのかの機序を調べる過程で、ヒ素曝露レベルに応じて筋肉量のマーカーである血清クレアチニン濃度が低下し、低下が顕著であるほどインスリン抵抗性が上昇していることを見出している。血清クレアチニン濃度が低い、あるいは低下するとその後の糖尿病のリスクが上昇するとの疫学調査の結果が複数報告されているが、興味深いことにそのほとんどは日本、韓国、中国からの報告である。現在、体組成計、握力計などを用いてバングラデシュの住民の体脂肪、筋肉量、筋力の測定を行っている。予備調査で、ヒ素曝露レベルに応じて筋力、筋肉量が低下し、体脂肪率が増加することを見出している。これらの結果は、ヒ素が筋肉量を減らす一方、体脂肪量を増加させる、いわゆるサルコペニア肥満を起こしている可能性を示唆する。バングラデシュのヒ素汚染地域での観察結果は、ヒ素毒性の標的としての筋肉、脂肪代謝の重要性について新たな視点を提供する可能性がある。

  • 中山 翔太, 石塚 真由美
    セッションID: S36-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    長寿高齢化と高度情報化が急速に加速する日本や欧米先進国における医療や産業を支える科学技術には、進化する高度技術を支える金属やレアアースが必須であり、これら地下資源の大部分をアフリカ諸国をはじめとする資源国の開発に依存している。しかし、地下資源の探索に伴って顕在化されない環境汚染がこの地域において着実に進行している。現状で既に拡大・深刻化してきている環境汚染問題は、今後さらに顕在化され動物や人により甚大な影響を及ぼすとWHOをはじめとする国際機関が警鐘を鳴らしている。演者らは、2008年よりザンビア大学、ザンビア保健省、家畜水産省、鉱山省、環境保護局などの政府機関と共同研究を実施しており、ザンビアのKabwe鉱山エリアにおける家畜・家禽の可食部に食の安全を脅かす高濃度の鉛蓄積を報告した。さらに、同地域における子供 300名、母子440組(880名)および500世帯(約1250名)の血中鉛濃度を測定し、鉱山付近では対象の100%が警告濃度とされている値を超過する深刻な汚染実態であることを明らかにした。また、大人に比べて子供の血中鉛濃度が高いことに加えて、鉱山近郊、特に風向の風下のエリアである西側地区で血中鉛濃度が高いことが示され、汚染源である鉱山からの距離だけではなく、方角や年齢も鉛濃度の規定因子であることが明らかにした。粉塵および母乳を介した乳児の鉛暴露経路の解明や金属暴露による血液毒性や腎毒性、DNAメチル化などのエピジェネティックへの影響に加えて、子供の鉛暴露による母親のQOL低下を引き起こすことも明らかにし、対象となる子供の治療のみならず、根本的な暴露源や暴露経路への対策の重要性を示した。

公募シンポジウム1: オルガノイドの化学物質・食品応用への安全性評価と将来
  • 赤澤 智宏
    セッションID: OS1-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    急激に進む労働人口の減少や地球規模で進む気候変動を背景に、容易に食用肉が入手できる時代に陰りが見えている。動物性タンパク質を取得する手段として、SDGsの観点からも培養肉が急速に注目を集めている。幹細胞研究は、現在治療法が確立されていない病気や怪我を治療するための再生医療への応用がしられているが、培養肉開発においても新たな活路が見出されつつある。我々は先行研究で、マウスとヒトの組織に存在する増殖性組織幹細胞を分離する技術を開発してきた。今回、幹細胞を用いた培養肉の技術応用を目的に、ウシ骨格筋由来CD29陽性細胞の特性評価と分化誘導について検討した。フローサイトメーターと国内入手可能な246種類の抗体を用いて、ウシ骨格筋由来細胞のスクリーニングを行い、CD29 (anti-rat, clone: Ha2/5), CD44 (anti-mouse, clone: IM7), and CD344/Frizzled-4 (anti-human, clone: CH3A4A7)の3抗体で純化した細胞がコロニー形成すること(自己複製能)が明らかとなった。1x105個のCD29陽性細胞をU底プレートで培養すると、約24時間で自己凝集し、直径500μmほどの3次元の構造物(オルガノイド/スフェロイド)が構築された。さらに5日間筋分化誘導した後、2週間、脂肪分化誘導培地とオレイン酸で培養すると、筋肉成分と成熟脂肪顆粒の両方を含んだ肉芽(Meat bud)が形成された。この技術では100gの牛肉から21日で7.75x1013の細胞を得ることができると試算される。このオルガノイド/スフェロイドは栄養素の可変性だけでなく、さまざまな毒性評価の目的で活用することが可能と期待される。

  • 今井 俊夫
    セッションID: OS1-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    化学物質、食品成分の安全性評価は通常、健康な細胞/動物に対して被験物質を処置して行われる。近年、非がん細胞を不死化せずに長期間培養可能な種々の臓器に由来するオルガノイドの培養法が確立され、培養細胞を用いる新たな化学物質評価法開発の可能性が大幅に拡大している。オルガノイド培養法には、ヒトや動物の組織に由来し基底膜成分であるマトリゲルを用いて上皮細胞の維持する方法のほか、iPS細胞に由来し発生生物学的な英知を駆使して中枢神経や心筋を含むの種々の細胞に分化誘導する方法が用いられる。何れの場合においても生体内の臓器に類似した種々の分化細胞を含む状態で培養される。構成細胞に加えて組織構築も再構成した「ミニ臓器」と呼ばれる状態まで発展させている報告もある。 我々はこれまで、健康なマウスの肺、肝臓、大腸、乳腺などに由来するオルガノイドを培養し、遺伝毒性化学発がん物質で処置した後にヌードマウス皮下に接種することで、病理組織学的所見をエンドポイントとした発がん性評価が可能なことを示してきた。動物個体を用いるよりも比較的短期間に発がん過程を再現できることに加えて、最大耐量の化学物質を動物に投与する過程を培養系で代替できる点が有用である。更に、細胞の増殖や細胞死を指標にし、オミックス解析を加えることで、発がん性以外の毒性についてもオルガノイドを用いて評価できる可能性がある。また、ヒトのオルガノイドを用いることで、外挿性解析に応用する展開も考えられる。 オルガノイドについては、実験動物個体を用いる化学物質評価実験の一部を代替し、毒性のプロファイリングの高度化に寄与する新たな評価系として今後更なる応用研究が進められ、国内外で標準化された試験法を確立することが期待される。

公募シンポジウム2: 抗ウイルス薬の開発研究とその展望
  • 朝倉 省二
    セッションID: OS2-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    ウイルス感染症の拡大は社会的インパクトが大きく,現在も多くの製薬企業で活発な治療薬開発が行われている。ウイルス感染症治療薬には,対症療法を主とする抗炎症薬,ウイルス自体の増殖を阻害する抗ウイルス薬,増殖したウイルス自体を直接除去する中和抗体薬などがあるが,ウイルス変異の影響を受けにくく,ウイルスそのものに直接作用する抗ウイルス薬は,感染症の重篤化を防ぎ,感染爆発を防ぐためにも重要である。 現在(2023年2月)までに日本において承認された抗ウイルス薬のうち,インフルエンザ治療薬は5剤,新型コロナ治療薬は4剤に限られる。また,承認されたそれらの薬においても,様々な安全性上の課題が報告されており,さらなる選択肢の増加が待たれる。これらの現状を踏まえ,これまでに承認されている抗ウイルス薬の特徴と,その課題について既報の情報をまとめて紹介したい。

  • 加藤 祐樹, 西村 亨平, 福島 民雄
    セッションID: OS2-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    インフルエンザ治療薬は、基本的に短期間投与であるため、慢性毒性試験やがん原性試験が不要である。また、哺乳類には存在しない因子を薬理標的とするため、オンターゲット性の毒性を考慮する必要性が低い。ただし、化合物の潜在的な細胞障害性を確認したり (治療係数の算出)、ヒト細胞ポリメラーゼやミトコンドリアDNAに対する影響を考慮したりする必要がある。本シンポジウムでは、抗インフルエンザ薬バロキサビルマルボキシルを例に、抗ウイルス薬開発における非臨床安全性評価の留意点について紹介する。バロキサビルマルボキシルは、ラット一般毒性試験において、ビタミン K の摂取が不足する摂餌条件下で反復経口投与した場合に、ビタミンK不足に起因すると考えられるプロトロンビン時間及び活性化部分トロンボプラスチン時間の延長が認められた。国内製造販売後に本剤との因果関係が否定できない血便、鼻出血、血尿等の出血関連症例が報告されたことから、現在は出血を重要な特定されたリスクとして、日本の医薬品リスク管理計画書に記載している。さらに、本剤のサル一般毒性試験においては、病理組織学的な変化を伴わないものの、肝機能障害を示唆する血液化学的検査値の上昇が認められた。臨床試験では、本剤投与群とプラセボ群で肝機能障害の発現リスクに明確な差は認められなかったものの、肝機能障害を重要な潜在的リスクとして記載している。本シンポジウムでは、これらの非臨床試験成績を振り返るとともに、臨床試験結果及び市販後調査結果と照らし合わせ、非臨床段階におけるリスクアセスメントの適切性についても議論したい。

  • 小林 雅典
    セッションID: OS2-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】ニルマトレルビルはCOVID-19患者の治療薬として経口投与可能なSARS-CoV-2メインプロテアーゼ(3CLプロテアーゼともよばれる)の強力かつ選択的な阻害薬で,低用量のリトナビルと併用投与される。リトナビルは臨床において,ニルマトレルビルのCYP3A4を介した代謝を阻害することにより曝露量を増加・維持させることで薬効を発揮する。

    【薬効評価】In vitro試験では,ニルマトレルビルのSARS-CoV-2メインプロテアーゼに対する選択的な阻害が示された。また, SARS-CoV-2の臨床分離株および変異株に対する抗ウイルス活性が示された。In vivo試験では,マウス適合SARS-CoV-2感染モデルにおいてニルマトレルビルの抗ウイルス活性が示され,リトナビル併用により肺組織に対する保護効果が改善した。

    【安全性評価】ニルマトレルビルの非臨床安全性試験は,ICH M3(R2)「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」に基づいて実施した。ラットおよびサルの一般毒性試験ではいずれの試験においても最高用量まで毒性学的に意義のある変化はみられなかった。各遺伝毒性試験の結果は陰性であった。ウサギ胚・胎児発生試験の最高用量において母動物の摂餌量および体重増加量に対する軽微な影響によるものと考えられる胎児体重の低下がみられたものの,その他の検査において異常はみられなかった。また,ラット受胎能および周産期試験においても最高用量まで毒性学的に意義のある変化はみられなかった。これらの結果から,ニルマトレルビルは重大な毒作用の懸念を示さなかった。また,ニルマトレルビルおよびリトナビルの間に相加または相乗される毒性は見い出されなかった。

    【結論】以上より,ニルマトレルビルおよびリトナビルの併用による臨床適用が適切に裏付けられた。

公募シンポジウム3: 胆汁排泄、胆汁うっ滞評価の新機軸 - 胆汁排泄、胆汁うっ滞のヒト予測向上を求めて
  • 古賀 利久
    セッションID: OS3-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Drug-induced liver injury (DILI) is a major cause of market withdrawal or drug-development discontinuation because of safety concerns. Drug-induced cholestasis (DIC) constitutes a major subgroup of DILI accounting for as much as 50% of all clinical cases of DILI. Bile acid (BA) synthesis occurs in liver cells. As surfactants or detergents, BAs are potentially toxic to cells, and their concentrations are tightly regulated. The disruption of the normal process of bile secretion results in cholestasis. Focusing on cholestasis caused by drug-induced endogenous BAs stasis such as the inhibition of BA transport, we established an in vitro DIC test system using simply two-dimensional cultured HepaRG cells and 12 types of BAs present in the human serum. Based on the investigation using DILI-concern drugs with the bile acid export pump (BSEP) inhibitory potential, the established DIC test system was mostly superior to the Css/BSEP IC50 (> 0.1) assessment system, which one of DIC risk criteria. Therefore, it can be widely applicable as a model for the in vitro potential assessment of DIC. In this session, we would like to introduce the established DIC test system and mention to the risk assessment at the drug discovery stage with reference to in-house case studies.

  • 石田 誠一
    セッションID: OS3-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    重度の肝障害は医薬品開発の中止や市場撤退の要因となっており、開発の初期段階での肝有害事象の予測性の向上が望まれている。そのなかでも、薬物性胆汁うっ滞は、ヒト肝細胞で胆汁排泄能を有する毛細胆管ネットワークの形成が困難であったため、再現性良く高感度に胆汁排泄をin vitroで評価することが難しかった。また、胆汁排泄には種差が存在することから、動物実験に頼らず、ヒトにおける胆汁うっ滞リスクを評価できるin vitro試験系が求められてきた。以上の背景を元に、我々は、ヒト凍結肝細胞で胆汁排泄能を有する毛細胆管ネットワークを形成するための培養方法の確立を試みてきた。その結果、iPS細胞由来肝細胞を長期培養することで毛細胆管の形成が促進されることを見出した。(Horiuchi et al. Sci Rep. 2022)さらに、現在、この培養方法を用い、複数ドナーのヒト凍結肝細胞において毛細胆管を形成させ、胆汁排泄能のドナー間差の評価を進めている。また、ヒト肝キメラマウス由来の肝細胞においても胆管形成されることを見出した。以上の知見を元に、ヒト凍結肝細胞、iPS細胞由来肝細胞、ヒト肝キメラマウス由来肝細胞などの肝細胞資源を胆汁排泄の視点から比較検討することで、胆汁排泄から肝細胞を見直し、in vitro評価系に求められる肝細胞の特性:「肝臓らしさ」を考えてみる。

  • 北口 隆
    セッションID: OS3-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品や食品関連化合物のヒトにおける体内動態および安全性を予測するうえで、胆汁中排泄は重要な要素の一つである。胆汁中排泄には種差が存在することもあり、動物実験に頼らずヒト予測性の高い試験系が求められている。ヒト凍結肝細胞はヒト体内動態および安全性予測に広く利用されているが、従来のサンドイッチ培養法ではヒト生体同様の網目構造が十分に構築されず、機能的な毛細胆管を形成させることが困難であった。近年、堀内らによりヒトiPS細胞由来肝細胞および市販の長期培養用培地を用いて毛細胆管様構造を構築する新たな培養法が報告された1)。我々は堀内らの培養法をヒト凍結肝細胞へ適用し、ヒトで胆汁中排泄が報告されている医薬品等の既知化合物や、胆汁中排泄の情報が乏しい食品関連化合物の胆汁中排泄を評価した。本講演では、その検討結果を紹介し、この培養法の胆汁中排泄の予測可能性を議論したい。

    引用文献 1) Horiuchi et al. (2022) Sci. Rep., 12, 15192.

  • 荒川 大, 中園 優也, 玉井 郁巳
    セッションID: OS3-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    薬物の主要な消失経路の一つである胆汁中排泄過程は、近年合成される医薬品候補化合物の分子量の増大およびP450系薬物代謝酵素による代謝反応回避のため、評価の重要性が高まっている。薬物及び胆汁酸などの胆汁中排泄は、肝細胞の胆管側膜に局在するトランスポーターを介する。そのため、薬物相互作用が懸念されること、また胆汁酸の胆汁中分泌を薬物あるいはその代謝物が阻害し、それらのうっ滞による肝障害を引き起こす。さらには胆汁中に排泄された薬物は腸管で再吸収を受け、体内滞留性に影響を与える(腸肝循環)。これら過程には種差があるため、ヒト肝細胞を用いたin vitro評価系は創薬において有用と考えられる。しかし従来のヒト初代培養肝細胞では、胆管腔は肝細胞同士の細胞間に閉鎖系として形成されるため、胆管腔中に分泌された胆汁の回収が技術的に難しい。そこで、演者らは従来系の課題となっている胆汁中成分の回収が可能なヒト肝細胞培養システムの構築を目指した。肝細胞の胆管腔形成を促進する因子を探索した結果、接着タンパク質claudinを見出した。claudinをコーティングした培養器材にヒト肝細胞を培養したところ、肝胆管腔が培養器材側に開口した。この肝細胞培養モデルicHep (induced open-form canalicular hepatocyte)を用い、透過試験による薬物の胆汁中排泄過程の評価を行ったところ、胆汁排泄トランスポーターの典型基質の血液側から胆汁側への一方向性輸送が観察された。さらに、透過試験により推定された薬物の胆汁中排泄クリアランスは、ヒトin vivoの報告値と良好に相関した。以上より、icHepは薬物の胆汁中排泄過程を透過試験により評価することが可能であり、創薬における薬物の動態と安全性の予測に大きく貢献することが期待される。

公募シンポジウム4: New modalityに対する初期毒性評価戦略
  • 井上 貴雄
    セッションID: OS4-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

     近年、アンチセンスやsiRNAなどのRNAを標的とする核酸医薬の実用化が進んでいる。また、核酸医薬品と同様にRNAと結合することで機能するRNA標的低分子医薬の臨床開発が進んでおり、翻訳やスプライシングを制御する品目が既に上市されている。また、新たなノックダウン型モダリティとして、タンパク質分解医薬の開発が進んでおり、数十の開発品が臨床試験段階にある。これらの次世代医薬品については、本邦が得意とするメディシナルケミストリーを生かした創薬が可能であること、また、核酸医薬に比べて薬物送達の観点から優位性があることなどから、国内においても開発が活発化している。

     以上に示した核酸医薬、RNA標的低分子医薬、タンパク質分解医薬の安全性評価の観点では、オフターゲット作用に明確な種差があることから、動物を用いた非臨床試験だけでは毒性発現を予測することが困難と考えられる。そこで、核酸医薬のハイブリ依存的オフターゲット毒性については、ヒトRNAデータベース、ヒト細胞、遺伝子発現変動解析(マイクロアレイ等)を組み合わせたオフターゲット評価法が活用されているが、RNAレベルで発現変動を評価する手法では、siRNAやRNA標的低分子医薬の翻訳抑制の機序を介したオフターゲット毒性や、タンパク質分解医薬のプロテアソーム依存的オフターゲット毒性を予測できないという問題がある。この課題に対し、国立衛研ではプロテオミクスを用いたオフターゲット評価法の構築を検討している。

     本講演では、多様化するモダリティの開発動向を俯瞰するとともに、我々が行なっているオフターゲット毒性の予測・評価法に関する取り組みについて紹介し、次世代モダリティのオフターゲット評価の在り方について議論したい。

  • 太田 哲也
    セッションID: OS4-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    核酸医薬品は天然型または化学修飾型ヌクレオチドを基本骨格とするオリゴヌクレオチドで構成される製剤である。核酸医薬品は遺伝子発現を介さずに直接mRNAやnon-coding RNAなどの細胞内の分子を標的とすることができ、その選択性は構成される塩基配列で規定される。安全性の高い核酸医薬品の創成には核酸医薬品に特徴的な毒性を適切に評価し、化合物を最適化する必要がある。核酸医薬品の毒性は標的配列へのハイブリダイゼーションに起因する過剰な薬理作用に基づくオンターゲット毒性、標的配列以外へのハイブリダイゼーションに起因する狭義のオフターゲット毒性並びに核酸の物性や核酸成分以外の作用に基づく広義のオフターゲット毒性に分類される。これらの毒性メカニズムに基づき、皮下や静脈内など全身投与される核酸医薬品では肝毒性や腎毒性、髄腔内投与など中枢投与される核酸医薬品では中枢毒性などがそれぞれ大きな課題となっている。核酸医薬品は標的遺伝子の塩基配列をもとに様々な候補配列が容易に設計できる一方、合成費用が低分子などと比較して高額であるため、多くの候補配列に対して効果的な毒性スクリーニングを早期から段階的に行うことが望まれる。本演題ではGapmer型アンチセンス核酸を題材として、当社の知見をもとに、①配列設計前及び設計時の安全性検討事項、②初期探索毒性スクリーニング、③後期探索毒性スクリーニングに分け、それぞれの評価のストラテジーについて紹介したい。

  • 米森 和子
    セッションID: OS4-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    “New modality” is an emerging area in drug discovery to open new therapeutic fields that were challenging for conventional small molecules. As well as other new modalities such as oligonucleotide or AAV-based gene therapy, a increasing number of non-conventional small molecules were reported with novel mechanism of actions such as RNA modulation or protein degradation. Among them, RNA splicing modulator is one of key fields where a frontrunner compound, Risdiplam, was approved by FDA in 2020. Though published data is still limited for RNA splicing modulators, it would not be surprising that chemical space of RNA modulator is different from one of conventional small molecule due to different chemical properties of RNAs from proteins. Therefore, early de-risking strategy should be updated especially for RNA-targeted small molecules. In this talk, I would like to share chemical properties analysis of known RNA-targeted small molecules and potential in vitro safety screening strategy including assessment for chemical space related safety risks such as hERG inhibition and phototoxicity.

  • 今岡 尚子
    セッションID: OS4-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    創薬の新たなモダリティのひとつとして、従来undruggableとされてきた細胞内の標的タンパク質を分解するtarget protein degrader(TPD)の研究開発が活発化している。これまで臨床に移行した化合物は10数個存在するが、その多くはPh1段階にあり、各化合物のヒトにおける毒性プロファイルは必ずしも明らかになっていない。TPDは標的タンパク-化合物-E3リガーゼの3者複合体が標的タンパクのユビキチン化修飾に適した立体配置になった時にのみ分解活性を示すことから、相同タンパクの立体構造の種差に起因する「動物にしか認められないオフターゲット毒性」及び「動物では検出できないヒトのオフターゲット毒性」が問題となることが予想される。後者については、ヒト細胞を用いた毒性検出プラットフォームが確立されつつあるが、動物細胞を用いたプラットフォームについてはまだ整備されていない。 また、TPDの非臨床毒性評価に関する規制もまだ整備されていない。TPDは低分子化合物の範疇にあることから、適応疾患に応じてICH M3あるいはS9に沿って評価が実施される。従って、げっ歯/非げっ歯類の各1種を用いた毒性試験が必須なのが現状である。動物種選択に際して、標的組織でのオンターゲットタンパク分解の有無を確認するのが一案だが、その検出法はwestern blottingあるいはLC/MS/MSであり、抗体の適用性やデータベースの種差が大きい。また、ヒト細胞に対して同等の標的タンパク分解活性を持つ化合物であっても、動物種によって相同タンパクの分解活性が異なる場合が指摘されており、創薬のどのステージで、あるいはどの化合物で種の選択を行うかの判断が難しい。本講演では、上述のポイントを含むTPD創薬における非臨床毒性評価の現状と問題点をまとめる。今後の展望や有用な知見、評価方法に関する情報交換を行う場としたい。

ワークショップ1: 獣医学分野における毒性学教育
  • 石塚 真由美
    セッションID: W1-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    近年、獣医学部では多様な教育改革が行われている。獣医師の職域は多様であり、先進動物医療、人・動物医薬の開発、感染症研究と対策、食の安全の確保、環境・社会・ヒト・動物の一体となった健康医学である保全医学とOne Health、そして動物の福祉など、そのニーズは急激に広がった。2010年には、国際獣疫事務局(OIE)から獣医学教育に関するミニマム・コンピテンシー(案)が公表され、各国の対応が求められている。国内では、2004年に全国大学獣医学関係代表者協議会で合意された「獣医学専門教育課程の標準カリキュラム」は、その後も議論が続けられた。2008年に「獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」が設置され、コア・カリを含む教育改革について議論された。2011年に獣医学教育モデル・コア・カリキュラム(獣医学コア・カリ)が作成されると、これに合わせていわゆるコア・カリ教科書が発刊され、また、ポリクリの導入と併せてCBT(コンピューターを用いた試験)やOSCE(客観的臨床能力試験)が開始された。コア・カリはその後も議論と更新を続け、2019年には統合型の新たなコア・カリ キュラムが作成された。毒性学のモデル・コア・カリでは「化学物質が,人や動物そして環境に及ぼす有害作用を明らかにし,その防止における獣医師の役割を理解する。化学物質の生体での有害作用と体内動態及び毒性発現のメカニズム,地域・地球規模での化学物質の動態や環境への影響について学び,毒性学における網羅性の重要さを理解するとともに,リスク解析や規制方法を理解する」とされ、One Healthを意識した全体目標を設定している。ここでは獣医学教育のこれまでの改革の概要を紹介したい。

  • 久保田 彰
    セッションID: W1-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    令和元年に改訂された獣医学教育モデル・コア・カリキュラム(コアカリ)において、毒性学の全体目標は、「化学物質が、人や動物そして環境に及ぼす有害作用を明らかにし、その防止における獣医師の役割を理解する。化学物質の生体での有害作用と体内動態および毒性発現のメカニズム、地域・地球規模での化学物質の動態や環境への影響について学び、毒性学における網羅性の重要さを理解するとともに、リスク解析や規制方法を理解する。」と記載されている。また、同コアカリにおける毒性学実習の全体目標は、「化学物質が、人や動物に及ぼす有害作用を明らかにするための手法について、必要な知識と手技を修得することを目的とする。化学物質の生体での有害作用と体内動態及び毒性発現のメカニズムについて学び、毒性学における網羅性の重要性について理解する。」と記載されている。すなわち、愛玩動物や経済動物における中毒事例など獣医系大学に固有の内容は一部あるものの、毒性学・毒性学実習ともに、トキシコロジー全般について広く知識や技術を習得することを目的として教育が行われている。また、環境毒性学や生態毒性試験法など、環境系の学部等において実施される項目が盛り込まれている点も獣医系大学における毒性学教育の特徴である。一方、毒性学実習においては、学生数や教育環境・設備の異なるすべての獣医系大学で実技項目を同一にすることは現実的に難しいといった課題もある。さらに、昨今の動物愛護に関わる法律の改正により、動物愛護精神の普及啓発や、実験動物の飼養保管等と動物実験の適正化に関する基準の厳格化が進められ、実施が困難となった内容があるのも事実である。本発表では、獣医系大学における毒性学教育の現状と課題について概説するとともに、本学で実施している、現行の法規制やコアカリに沿った教育のための取り組みについて述べる。

  • 鈴木 雅実
    セッションID: W1-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品の研究開発において、獣医師に期待される特徴・長所は、生物をwhole bodyとして理解している点、病気を理解している点と考えている。基礎過程では、生物をwhole bodyとして学ぶとともに、動物種の特徴を知ることでヒトと動物の共通点・相違点(比較生物学)を学ぶ。その後、病態、応用、臨床過程では様々な病気の成り立ちと、その治療について学ぶ。これらの学習より、獣医師が医薬品研究開発過程の様々な場面で活躍することが期待される。

    獣医毒性学は、主に安全性・毒性評価など非臨床研究の遂行、データ解釈に関わる基礎知識を提供する。実際の現場では、新規の化合物などを対象としてその毒性・生体反応を評価するため、教科書に記載のない新たな毒性・生体反応に遭遇する。その際、教科書より得た知識をベースに、様々な専門書、学術誌から知見を吸収し、解釈に務める事となる。大学教育では、獣医毒性学に限らず、基本的な知識を身に着けるとともに、社会実装ではさらなる学習が必須であり、専門書・学術誌などを専門用語の意味を適切に理解したうえで読み込み、考える姿勢・力量を身に着けてほしいと考えている。

    医薬品の研究開発過程では、多様な専門性、例えば、化学、タンパク質科学、インフォマティクスなど、背景が異なる専門家との協働が日常的に行われる。毒性・生体反応を獣医学・獣医毒性学の専門用語を用いて表現するが、これらの専門用語での説明は専門外の研究者とのコミュニケーションでは部分的にしか機能しない。毒性・生体反応の内容・意味を平易な言葉でわかりやすく伝えるなど、専門外の研究者との良好・有用なコミュニケーションを心がけていく姿勢も身につけてほしいと考えている。

    本セッションでは、医薬品の研究開発の視点から、今後の獣医学・獣医毒性学教育への期待について述べる。

  • 角崎 英志
    セッションID: W1-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

     試験研究受託機関(Contract Research Organization, CRO)においては、獣医師が幅広く活躍しており、重要な役割を担っている。医薬品開発の非臨床試験においては、動物を使用した実験が行われることが多い。中には、外科的手術を伴う特殊手技が実施されたり、画像診断にCT、MRI、エコーなどが使用される。このような領域は獣医師がその操作手順を実施するか、監督・指導して実験を進めている。実験動物を用いる安全性試験の最も重要なエンドポイントは病理組織学的検査であり、ほとんどが獣医病理学を専門とする獣医師により実施されている。試験研究の計画、実験データの解釈・評価と最終報告書の作成に従事する試験責任者のポジションも、体系的な学問を習得している獣医師が活躍出来る場である。近年、動物福祉の機運の高まりから、実験動物といえども病的な状態を呈した場合には、積極的に臨床獣医師が介入し、試験中にも診断・治療するように変化してきている。本講演では、CROにおいてこれらの多彩な役割を果たすために必要な獣医学教育について考察したい。

  • 齋藤 文代, 寺岡 宏樹
    セッションID: W1-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    獣医師の職域は多様であり、臨床獣医師,公共獣医師だけではなく、ライフサイエンス分野でのニーズも高まっており、医薬品、化学物質、食品などの安全性評価においても、獣医師が果たす役割が大きくなってきている。大学での毒性学は、2011年に作成された獣医学教育モデル・コア・カリキュラム(獣医学コアカリ)をベースに、応用獣医学教育分野の一つされているものの、獣医師国家試験では数問程度しか出題されないため、毒性学がそれほど重要視されていない現状がある。一方、社会で求められる毒性学の専門知識や技術は大学での獣医学教育では十分に対応できていない面があり、毒性学が活かされる職種や業務内容を学生が具体的にイメージできておらず、製薬企業などのライフサイエンス分野で獣医師が不足し、人材の需給ギャップが生じている。

    レギュラトリーサイエンスは、「予測・評価・判断の科学」とされており、科学的知見と行政措置との橋渡しをする役割を持ち、医薬品、医療機器、化学物質、農薬、食品と対象分野も多岐に渡っている。トキシコロジストにおいても、毒性学だけではなく、薬学、生物学、化学、獣医学に加え、レギュラトリーサイエンスに基づいた総合的な判断力が求められている。しかし、獣医学教育ではレギュラトリーサイエンスを学ぶ機会が少なく、獣医学にどう関係するかが学生に十分伝わっていない面がある。当大学では5年次に「レギュラトリー科学」が開講されるものの、「初めて聞いた」と答える学生が半数以上を占めている。教材も獣医学に沿ったものがなく、日本薬学会から出されているものを参考にしており、獣医学コアカリとして学ぶ毒性学の「リスク分析」が十分に活かされていない。ここでは、毒性学におけるレギュラトリーサイエンスの重要性と獣医学教育における取り組みや今後の課題について述べる。

ワークショップ2: Target Safety Assessment (TSA) -医薬品候補品の効率的な創出を目指して-
  • 藤本 和則
    セッションID: W2-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    探索段階での創薬安全性評価において重要な課題は、毒性リスクを把握し、そのリスク評価及び回避戦略を立案・実行することである。創薬のタイムラインを考えると、毒性リスクはより早期に把握できることが望まれている。実際にwetのデータを取得する場合には、毒性評価を実施するに値する化合物(例えばon-target毒性評価を行うための薬理活性)が必要であるが、それが得られるのを待っていると毒性リスクの把握が遅れる可能性がある。そのため、文献情報やデータベースなどから薬理標的などに関する毒性リスクを予測する「Target Safety Assessment(TSA)」が多くの製薬企業の創薬安全性評価探索段階で実施されている。しかし、TSAのやり方は各社が試行錯誤をしながら進めているのが現状である。そこで、TSAに関するアンケートを国内製薬企業に対して実施し、その結果を本ワークショップの議論のトリガーとして報告する。アンケート結果から見えてきたのは、TSAに費やすリソースやTSAの結果解釈、その対応策などに関して、各社が悩みながら取り組んでいる姿であった。本ワークショップでは、各社がTSAにどのように取り組んでいるのかをご紹介頂き、総合討論においてその内容やTSAの課題について議論したい。

  • Yuichiro AMANO, Jodi GOODWIN, Brandon JEFFY, Hisashi ANAYAMA
    セッションID: W2-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    The value of exploratory non-clinical safety evaluation is to decrease safety-related attrition through a focus on candidate quality to provide safe therapeutics for people. As a part of this value, Takeda Discovery Toxicology team is providing a comprehensive assessment of the potential safety liabilities associated by target modulation through the Target Safety Review (TSR) to all projects at Project Start. The TSR includes biological information (e.g., biology, homology, and expression levels in human/animals), on-target safety liabilities (e.g., disease association, transgenic/knockout animal phenotype, and clinical competitors), off-target safety liabilities (e.g., modality-based information), and risk assessment strategy (e.g., potential safety biomarkers and decision flow). The potential adverse outcomes of exaggerated pharmacology associated with a specific target modulation are ranked, and safety risk assessment strategy will be generated to include experimental safety investigations at early project stage. Some examples are described here. Lipase X was a project for NASH indication. A number of potential systemic liabilities had been reported in literatures. On the other hand, since the TSR did not identify any specific risks for liver, PJ team modified their strategy from general small molecule lipase X inhibitor to identifying liver-selective lipase X inhibition by new modality. Kinase Y was also identified for NASH indication. There were strong links to potential hepatotoxicity (including extremely rapid hepatic tumor development in KO animals) identified in TSR. Although TSR itself doesn’t make Go/No-go decision generally, Takeda Discovery Toxicology team recommended not to move forward with this target in this case because there were limited/no good approaches to definitively derisk the liver tumor potential.

  • 赤井 翔
    セッションID: W2-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Target safety assessment (TSA) is performed at an early stage in drug discovery to estimate what kind of on-target toxicity might occur in normal tissues, and to determine what kind of non-clinical safety assessments would be needed going forward.

    The main purpose of a TSA is to identify potential toxicities early so as to avoid the risk of dropout in later stages. Three important points must be considered when performing TSA: 1) information retrieval, 2) species selection, and 3) non-clinical safety assessment strategy suggestion. Information retrieval is the most important step in assessing potential risk. Target information can be obtained from literature, public databases, and in-house databases, and licensed software is useful for quickly sorting through vast amounts of such data when timelines are limited. Since public databases do not have enough information about target expression in various organs/tissues, a TSA relies on the in-house data. In some cases, knockout mice are used to obtain proof of concept. In particular for small molecule, not only metabolite profile/exposure level, but also pharmacological relevancy (expression, potency, pharmacodynamics) is important for non-clinical species selection. When selecting a species for a toxicity study, pharmacological relevancy should be experimentally confirmed by experiments for each project. Moreover, although information retrieval can be outsourced, the non-clinical safety assessment strategy must always be prepared internally by those familiar with the company’s drug discovery strategy. Altogether, TSA is accomplished through a review of public domain information and by leveraging internal company expertise.

    In this presentation, we share our TSA strategies and give examples of how we apply TSA to non-clinical safety assessment.

  • 檜杖 昌則
    セッションID: W2-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Pfizer社では,創薬早期における安全性の探索の試みとして,2000年代前半からTarget Knowledge Review(TKR)によるtarget safety assessmentの仕組みを導入し活用している。TKRは,創薬プログラムの提案時に提示された創薬標的分子に対してその時点で存在する社内外のデータベースおよび文献等に記載されている入手可能な情報を網羅的に取得し,それらに基づいて創薬標的に関する体系的な評価を行い,潜在的な安全性の懸念点を同定してそれに対する緩和策を提案するレビューである。具体的には,標的分子の生物学的情報(遺伝子情報,生物学的背景),ヒトおよび非臨床試験で使用する動物間の種差(相同性,発現分布および標的臓器の比較等),類似するオフターゲット分子,遺伝子改変マウスまたはヒトSNPsにおける表現型,標的分子への相互作用が予想される薬剤等の情報等を収集して評価を行っている。TKRの実績として,その活用により創薬早期および全体を通したプロジェクトの成功率の改善がみられ,また,創薬早期においてTKRに基づきプロジェクトを終了することにより,リソースの空費を回避するといった形での活用もされている。TKRは創薬プログラムの提案時に作成されるが,その後も定期的にアップデートされ,創薬プログラム全体を通して最新の情報を取り込んで活用される。また,TKRの作成は,当初熟練した研究者がマニュアルで情報収集する形をとっていたためかなりのリソースを費やしていたが,ここ数年でプロセスを可能な限り自動化し,より効率的に標準化した内容のTKRを作成するアプリケーションを開発した。本発表では,TKRの内容や利用について概説するとともに,TKR活用の事例として創薬プロジェクトのごく早期にプロジェクトを中止した例を紹介したい。

  • 弓桁 洋, 上森 健至, 鈴木 唯, 小島 健介, 仁平 開人, 南谷 賢一郎
    セッションID: W2-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    医薬品の探索初期段階において、薬剤標的分子に基づく毒性(on-target毒性)のハザードを可能な範囲で洗い出し、その対策を考えるtarget safety assessment(TSA)は創薬の効率化や成功確率を向上させる上で重要である。しかしながら、探索初期では実験によってTSAを実施するための適切なツール化合物を用意できないことが多く、データベースや検索ツールを用いてdryな環境で実施するin silico TSAに限定される。遺伝子欠損マウス(KOマウス)や後天的遺伝子欠損マウス(cKOマウス)を作出するという方法も考えられるが、前者では胎生致死の懸念があり、後者では、一般的に利用されているCre/loxPシステムを用いると非常に長い時間を要するという課題がある。そこで我々はin vivoでの感染性が報告されているアデノ随伴ウイルス(AAV)とゲノム編集技術を組み合わせることで、マウス生体において後天的かつ簡便に標的遺伝子を欠損できる技術を構築した。本技術を用いることで、遺伝子欠損できる臓器に制限はあるものの、いずれの遺伝子に対しても短期間でcKOマウスの作出が可能となり、従来のcKOマウス作出における課題の一部が解決できると考える。本発表では生体内での機能が既知である血液凝固第9因子を標的として遺伝子欠損実験を実施した結果を紹介する。本技術により達成できること、できないことを理解頂き、今後のin vivo TSAへの効果的な実施方法について議論したい。

ワークショップ3: シン・毒性質問箱~(大)動物種の選択について考える
  • 鈴木 睦
    セッションID: W3-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    現在の医薬品開発において原則として2種の動物種による毒性試験は必須であり、1種はげっ歯類が選択され、もう1種は非げっ歯類が択される。非げっ歯類として、通常選択されるイヌ、サル、ブタあるいはウサギのうち、新規有効成分医薬品では約半数でサル(主にカニクイザル)が選択されている。 多様なモダリティーの医薬品が開発される中、いわゆるバイオ医薬品におけるサルの利用は約9割に上り、サルの利用は欠かせない状況にあった。しかし、2020年以降に中国からのサル輸出が途絶えて以来、全世界におけるサル供給不足、価格高騰が続いている状況にあり、バイオ医薬品を中心とした医薬品開発に支障をきたし始めている。 このような環境変化の中、FDAはサル試験最小化が必要であるとしてガイダンスを発出、また世界的な産官学連携の研究機関であるHealth and Environmental Sciences Institute(HESI)は生殖発生毒性試験におけるサル試験縮小を目指し、WoEアプローチによる評価を検討している。さらに米国や韓国などは、輸入に依存しているサル供給を改善するために自国によるサルコロニーの確立に国家として取り組んでいる状況にある。日本においては、2022年以降、代替法研究強化やサル以外の大動物の可能性を検討する研究班を立ち上げている。また、日本の生物医学研究全体に必要なサル数を調査し、研究用サルの国内繁殖コロニーの必要性とその規模を調査する必要性を検討している(2023年3月現在)。日本製薬工業協会も喫緊課題として研究開発委員会で緊急にアンケートを実施し、大動物試験の状況を把握するとともに、医薬品評価委員会基礎研究部会は日本実験動物学会等とも連携しこれらの班研究に協力している。本セッションでは、現状と展望を紹介するとともに、現時点までの調査結果を概括して、非げっ歯類試験の必要性、種選択等を議論する。

  • 奈良岡 準
    セッションID: W3-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    非臨床安全性試験における臨床病理検査は,1960年代以降,臨床病理学をベースにヒトの体外診断薬や装置を動物へ用いることから始まった。1990年代になり国内では日本製薬工業協会や日本臨床化学会を中心に,アメリカでは米国臨床化学会と米国獣医臨床病理学会が中心となり,非臨床安全性試験における臨床病理検査のハーモナイゼーション(IHCPT1)などが国際的に行われ,現在の標準測定項目に至っている。さらには近年,薬剤性腎障害バイオマーカー2に代表されるような毒性バイオマーカー研究が進んでおり,トランスレーショナルサイエンスを支える重要な検査の1つとなっている。 今回,臨床病理検査値における動物種の特徴および.採材・測定・評価における課題などに触れ、課題解決に向けた現状での取組みや今後の展望を紹介することで、動物種選択について考える機会としたい。

    1 Weingand K, et al. Harmonization of animal clinical pathology testing in toxicity and safety studies. The Joint Scientific Committee for International Harmonization of Clinical Pathology Testing. Fundam Appl Toxicol. 1996, 29, 198-201.

    2 Dieterle F, et al. Renal biomarker qualification submission: a dialog between the FDA-EMEA and Predictive Safety Testing Consortium. Nat Biotechnol. 2010, 28, 455-62.

  • 三ヶ島 史人
    セッションID: W3-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品の開発にあたり実施すべき毒性試験の種類、試験デザイン、実施時期等はICHガイドラインで標準的な考え方が提示されている。中でも一般毒性試験や生殖発生毒性試験(胚・胎児発生に関する試験)では、通常、非げっ歯類とげっ歯類の2種の動物種が用いられるが、評価の目的、被験物質の特性に応じて、動物種を選択することが求められる。特にバイオテクノロジー応用医薬品では生物活性の種特異性のために、薬理学的に適切な動物種が限られる場合がある。このような場合、開発者が正当と考える1種の動物種を用いた試験を実施することや他の手法を用いて評価することが検討され、その際は試験の実施可能性や実施意義の面から評価方針の適切性を説明できる必要がある。

    臨床試験開始及び製造販売承認申請における毒性試験パッケージについて、開発者とPMDAの間で、動物種選択の適切性が論点となることがあるが、上記のように被験物質の特性に応じた検討が必要であり、ケースバイケースの判断となる。医薬品開発において一部の毒性試験を省略することができれば、コストの削減、早期の臨床試験実施が期待できるが、動物試験でのみ得られる安全性情報も否定できないことから、ヒトでの安全性を担保する上で、動物試験によりどの程度の情報を得る必要があるかについては慎重に判断する必要がある。本発表では、動物種の選択及び適切な動物種が限られる場合の動物試験の要否について、PMDAの考え方を紹介するとともに、シンに必要な毒性試験について議論したい。

  • Yuji KUMAGAI, Tomoko HASUNUMA
    セッションID: W3-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    臨床試験実施時の有効性と安全情報は限られており、特に早期臨床試験においてはヒトにおける情報は存在しないこともある。早期臨床試験におけるもっとも重要な関心事は安全性確保であるため、注目する非臨床試験データは毒性試験、安全性薬理試験である。毒性試験は小動物対象に行われることが多く、それらの結果に基づき安全性を予測してきた経験からイヌにおける安全性薬理試験や心臓安全性試験などの例外を除き、大動物のデータには馴染みのない担当医師がほとんどであろう。また、ヒトにおける薬物動態はげっ歯類等の小動物のみならず、大動物のデータからも予測は困難であることから大動物の必要性は感じられてはいない。しかし、昨年と今年の2回行った臨床試験受託事業協議会(JACIC)所属機関の試験担当医師を対象としたアンケート調査から、FIH試験を開始する際に注目する非臨床試験データとして、多くの医師が毒性試験に加えて薬効を証明する試験を挙げていた。薬理作用の検討は細胞のレセプターレベルからバイオマーカー、臨床効果に近い指標まで幅広く行われるが、医師がヒトでの効果発現予測に信頼性が高いと感じるのは臨床効果への外挿が期待できる生体の反応である。これらの反応を検出するためのモデル動物は適応疾患により異なる。一概に大動物のモデルがヒトでの薬効予測に有用であるわけでなく、適切なモデル選択とその根拠の説明を臨床試験に携わる医師としては求めたい。本講演ではここまで述べた内容に加え、前述のJACIC調査のアップデートを行い、臨床試験に関わる医師が非臨床試験に求めている事項について述べることとする。

フロンティアセミナー
  • 武田 一貴
    セッションID: FS
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    毒性物質の毒性発現起点の多くは生体内高分子(タンパク質・核酸)への結合である。この評価手法にin vitro結合アッセイがあるが目的タンパク質を発現させる必要があり網羅性に欠ける。一方、このin silico評価手法にタンパク質立体構造情報を用いた分子ドッキングがある。タンパク質立体構造はX線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡で実験的に決定されProtein Data Bankで共有されている。しかし、この解析には大規模な設備が必要であり全タンパク質に対して構造解析済のタンパク質数ははるかに少ない。これに対しアミノ酸配列から既知構造を鋳型にタンパク質立体構造を予測するホモロジーモデリング手法(Swiss model等)が複数提案されアミノ酸配列のみで立体構造を予測できる簡便さが利点だが、高精度な予測には配列相同性の高い鋳型が必要な点が課題であった。しかし2021年にGoogle傘下のDeepMind社の開発したAlphaFold2によって状況が一変した。AlphaFold2は深層学習ベースの高精度なタンパク質立体構造予測アルゴリズムである。タンパク質立体構造予測コンテストCASP14で実験的観察に比肩する高スコアを獲得し話題となりUniProtに収載されている2億種のアミノ酸配列の立体構造を網羅的に予測しAlphaFold Data Baseとして公開した事で爆発的に利用が進んだ。また、タンパク質複合体についてもAlphaFold2で良好な相対位置が得られる事が発見されタンパク質間相互作用の解析への応用も進んでいる。一方で、AlphaFold2自体は低分子リガンドの結合性の評価機能はない事も公式から発表されている。本発表ではAlphaFold2をはじめとする2020年以降のタンパク質立体構造の高精度予測と既存の分子ドッキング等を組み合わせる事での毒性評価の可能性を議論したい。

受賞者講演
  • 萩原 正敏
    セッションID: AWL1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

     人類は7,000以上の遺伝病に罹患し約35%が異常なRNAスプライシングを伴う。そこで我々は、薬剤で遺伝子発現パターンを変化させることにより先天性の難病を治すことは可能ではないかと考え、遺伝子発現パターンの変化を生体内で可視化する技術を開発し(Nat Methods 2006, Nat Protoc.2010)、この技術を化合物スクリーニングに応用することで、先天性疾患の原因遺伝子の異常なRNAスプライシングを正常化させるスプライシング制御薬を見出している。我々のスプライシング制御薬は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Nat Commun 2011)、嚢胞性線維症(Cell Chem Biol 2020)、家族性自律神経失調症(Proc Natl Acad Sci 2015、Nat Commun 2021)、心ファブリ病、QT延長症候群などの患者細胞やモデル動物で有効性が確認されている。我々の開発した化合物はCLKに結合してSR蛋白質のリン酸化状態を変化させることから、リン酸化依存的RNAスプライシング制御機構が明らかとなった。我々のスプライシング操作薬は特定の変異を有する患者に対する精密治療を目指すものであるが、安価に合成できる低分子化合物で、複数の遺伝病や家族性腫瘍に効果が期待され、経口投与によって標的臓器に容易に到達できるなど、核酸医薬を凌駕する優れた特性を有している。

     深部イントロン変異がスプライシング制御配列に起きた場合、イントロン配列の部分的なエクソン化の現象である『偽エクソン』を生じさせ、フレームシフトや終止コドン挿入の結果、当該遺伝子の発現が抑制されて病原性を示すことが判明している。近年、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)など疫学・病原性解析が可能な規模の全ゲノム配列情報リソースが整備されたことを踏まえ、我々は人工知能技術を活用して深部イントロンの病原性変異候補を絞り込んだ後、ToMMoに保存されているドナー不死化細胞に発現するRNAで予測結果をバリデーションする新手法を確立し、種々の偽エクソン変異をデータベース化することが出来た。それゆえ、ヒトゲノム情報と人工知能技術で選択された最適なスプライシング制御薬を発病前から服用することで、遺伝性疾患や家族性腫瘍の発症を抑える、精密先制医療が実現出来る可能性がある。

  • 小椋 康光
    セッションID: AWL2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトの生体を、構成している元素という観点から見てみると酸素 (65%)、炭素 (18%)、水素 (10%)、窒素 (3.0%)、カルシウムおよびリンといった存在量が重量比で1%を超える元素のみで全体の98.5%を、0.01%を超える硫黄、カリウム、ナトリウム、塩素およびマグネシウムまで加えると全体の99.3%を占める。一般に、生体内の存在量が0.01%以下の金属などの元素を生体微量元素といい、生体内化学反応の制御に関わったり、環境中から混入した生命機能が無いか、あってもいまだ不明であったりする元素である。生体微量元素は、その名の通り“微量”であるため、生体内ではその存在を測定すること自体を目的とする研究が長らく行われてきたが、生体金属・元素の生理機能や毒性を正しく理解するためには、単にその存在量すなわち総量を把握するだけでなく、存在形態(タンパク質に結合しているのか、低分子化合物で存在しているのか、イオン状なのかなど)及び空間情報(細胞内や組織内のどのような場所に局在しているのかなど)の把握が必要となる。生体金属の存在形態及び空間情報を把握する方法として、いわゆる無機の質量分析計と呼ばれる誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を基盤とした分析法を活用した研究を実施してきた。主な分析法として、1)HPLCの検出器としてICP-MSを用いたLC-ICP-MS法、2)生体金属の組織イメージングを行うためのレーザーアブレーション(LA)-ICP-MS法、3)一細胞や一粒子分析が可能なsingle particle/single cell ICP-MS(sp/scICP-MS法)、さらに最近ではHPLCに代わる新たな分離手法として非対称フロー・フィールドフロー・フラクショネーション(AF4)を用いたAF4-ICP-MS法などを活用し、生体金属/類金属の生理作用や毒性機構の解明に注力してきた。

  • 菅野 純
    セッションID: AWL3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    国立医薬品食品衛生研究所(衛研)の病理部(林裕造部長)の発癌研究、毒性部(井上達部長~北嶋聡部長)におけるシグナル毒性、Percellomeトキシコゲノミクス研究、ナノ材料毒性研究等に参加しつつ、厚生労働省、環境省などの審議会活動のほか、OECD/EDTA等、WHO/IPCS、WHO/IARCなどの国際的評価審議活動に関わり、また学会活動として、ASIATOXのCouncil、IUTOXの役員および会長を務めるなど、国際的な活動をしてきました。

    林裕造部長の時代は、米国NTP(National Toxicology Program)と連携した国立がんセンター(杉村隆先生)、名古屋市立大(伊東信行先生)等とともに発癌データを国際的に発信する日本版NTPの時代でした。林先生曰く「国際会議で、ブロークンイングリッシュでも、日本人研究者が何か言おうとすると、皆、一生懸命聞いてくれるんだよ、何か意義のあることを言うんじゃないかと」。OECD・TG440のリードラボを任された際にも「自分の解釈に基づいて作った自分のデータを持っていること」が大きな突破力になった記憶があります。

    当初はIUTOXのICTは私にとっては興味の沸く学会ではなかったのですが、関りは井上達先生がIUTOX Vice Presidentになられて、その後任に急に指名された事が始まりです。長~い話を短くすると、国際連携活動の結果、以下の様な状況が得られます。それは、『何か国際的に知りたいことが生じた際に、直接電話(メール)できる人がいろいろな国に居る状況』、『その電話相手から、その国や地域で、さらに適切な人を紹介してもらえる状況』です。すなわち人のネットワーク。

    新型コロナでWeb会議が多くなりましたが、最近、SBI(https://www.sbi.jp/index.htm)のSamik氏から『Web会議で大丈夫なのはCommunication=情報交換』ですが、『Web会議では達成できないのはConnection作り=人同士の理解』、という話を聞きました。国際連携活動の核心は、やはり、人同士の理解、という結論です。

    ASATOXの創始5学会は日本、韓国、タイ、台湾、中国で、理事会では台湾と中国の理事が隣同士に座ります。某国に於いて仲の良くない2つの学会がIUTOXに加盟する際に、この台中の話をお聞かせして、何とか和んで頂いた、と言う事もありました。

    授賞講演では、今までの写真を中心にお示しして国際情勢をお伝えできれば幸甚です。

  • 岩田 良香
    セッションID: AWL4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     2006年、CD28スーパーアゴニスト抗体TGN1412の治験において、重度のサイトカイン放出症候群(CRS)により、被験者6人全員が一時多臓器不全に陥るという極めて重大な事故が起こった。CRSは、免疫細胞の過剰な活性化により血中にサイトカインが大量に放出され、発熱、頭痛、呼吸困難、頻脈、血圧変動などの症状が起こり、重篤な場合は死に至る。TGN1412のヒト初回投与量は、カニクイザル毒性試験から求めた無毒性量の500分の1に設定されており、動物を用いた毒性試験のヒトCRS予測における限界が明らかになった。そこで、現在ではヒト細胞を用いたin vitro試験法が潜在的CRSリスク検出のために使用されている。本研究では、抗体医薬品によるCRSリスク検出及びその低減に関する研究を行った。

     CRSリスク検出の目的で用いられる、主な2種のin vitro試験法として、ヒト全血と液相抗体を用いた方法(whole blood cytokine assay; WBCA)及びヒト末梢血単核球と固相化した抗体を使用する方法(PBMC法)がある。我々は、WBCAの試験条件を見直し、TGN1412のCRSリスクを検出するのに十分なサンプルサイズを設定し、潜在的CRSリスクを検出する汎用試験法としての有用性を示した。次に、TGN1412を用いてWBCA及びPBMC法におけるサイトカイン濃度及び産生細胞を測定し、2つの試験法の比較を実施した。その結果、TGN1412が誘導するサイトカインの種類及びその産生細胞が2つの試験法で異なることが明らかになった。この結果は、抗体医薬品のメカニズムを理解し、その抗体医薬品に適した試験法を用いてCRSリスクを評価する必要があることを示している。

     抗体改変技術の進歩により、がん抗原とT細胞に発現するCD3という2つの分子に結合できるT cell engager(TE)が開発され、がん免疫療法の一つとして注目されている。TEは効果的にがん細胞を除去するが、臨床使用ではCRSが大きな問題となっている。抗GPC3/CD3 TEをカニクイザルに単回bolus投与すると致死的なCRSを誘発するが、連日漸増投与することで、単回投与の致死用量においても重篤なCRSを誘発しないことを報告した。TEの漸増及び反復投与により、経験的にCRSの頻度や重症度が低下することが知られているが、その機序は不明であった。そこで、TEの反復刺激によりサイトカインリリース抑制が起こる状況をin vitroで再現してヒト免疫細胞の変化について検討した。CD3発現に変化は無く、CD3からのリン酸化シグナルカスケードも作動しており、転写因子の誘導も認められた。それにもかかわらずサイトカインのmRNA産生が低下していたことから、エピジェネティック変化を疑い、ATAC-seqを用いてクロマチン状態を測定した。その結果、TE初回刺激によりT細胞のIL2転写調節領域のオープンクロマチン領域が閉じ、転写因子のアクセシビリティが低下することが明らかとなった。また、個人ごとのサイトカイン遺伝子転写調節領域のクロマチン状態とin vitro刺激後のサイトカイン量との間に相関がみられた。T細胞のエピジェネティックな変化を捉えることにより、サイトカインリリース抑制状態のモニター並びにサイトカインリリース個人差予測への可能性を見出した。本研究を発展させ、がん免疫療法抗体医薬品の大きな問題であるCRSを回避する戦略と、CRSリスクの個人差を測るバイオマーカーの探索に繋げていきたい。

一般演題 口演 1
  • 岡村 和幸, 鈴木 武博, 野原 恵子
    セッションID: O2-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     無機ヒ素(以下ヒ素)曝露による発癌の特徴として曝露を中止した後にも潜伏期間を経て発症することが知られている。これまでにヒ素曝露による肝臓の発癌機序として、細胞老化とそれに伴うSASP因子の増加に着目し研究を行ってきた。具体的には肝星細胞、肝細胞においてヒ素曝露によって細胞老化誘導およびSASP因子の増加がおきることを明らかにした。しかし、肝細胞においてヒ素曝露が誘導する細胞老化によるSASP因子の増加が曝露中止後も維持されるかについては不明確であった。本研究では、ヒ素曝露によって誘導された肝細胞の細胞老化およびSASP因子の増加が、ヒ素曝露を中止した後にも持続するかについて検討を行った。

     肝細胞の細胞株であるHuh-7細胞において、細胞老化が誘導される条件である亜ヒ酸ナトリウム5 μMを72時間曝露し、曝露完了後、ヒ素を除いた培地で100時間培養を行い、細胞老化マーカーおよびSASP因子の遺伝子発現量を測定した。その結果、細胞老化の特徴である形態学的な変化(巨大化、扁平化)、細胞老化マーカーの遺伝子発現変化(P21の増加、LAMINB1の低下)が曝露中止後も維持されていることが明らかになった。また、SASP因子として検討したMMP1, MMP3, MMP10, GDF15, PAI-1, IL-6の遺伝子発現量の増加も維持されていた。加えて曝露中止後7日が経過しても老化した細胞が存在し続けることをSA-β-gal染色によって明らかにした。さらに、TCGAデータベースを用いた解析により、肝細胞でヒ素曝露によって増加していたSASP因子の多くは、ヒト肝細胞癌において発現増加と予後不良との間に正の相関があることが示された。

     以上の結果より、肝細胞においてヒ素曝露による誘導された細胞老化およびSASP因子の産生亢進は、曝露を中止しても維持され発癌促進に関わる可能性が示唆された。

  • 藤村 成剛, 臼杵 扶佐子, 中村 篤
    セッションID: O2-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    メチル水銀(MeHg)は、人体に深刻な神経機能障害を引き起こすことが知られている。本研究では、MeHg曝露ラットを用いてMeHgを介した神経障害性疼痛の発生を確認し、その病態生理学的なメカニズムを特定した。ラットに MeHg(20 ppm)を3週間飲水投与し、行動学的解析を行った結果、MeHg中毒ラットは無処置ラットと比較して機械的刺激に対する痛覚閾値が足底部において低下していることが明らかになった。次に本ラットについて病理学的な解析を行った結果、神経障害性疼痛の発症に関与する後根神経と脊髄を含む一次求心性神経系、および下行性疼痛抑制経路の起支点である視床に神経学的損傷が観察された。また、MeHg曝露ラットの脊髄後角に活性化ミクログリアが蓄積し、炎症性サイトカインと神経細胞活性化の指標であるリン酸化CREBが増加していた。このことから脊髄後角神経の活性化は、蓄積したミクログリアによって産生される炎症性サイトカインによって生じていると考えられた。さらに、大脳皮質の体性感覚皮質領域の解析によって、興奮性シナプス形成の重要な因子であるトロンボスポンジン-1、さらには前シナプスおよび後シナプス後マーカーの発現増加が確認された。これらの結果は、体性感覚皮質に新しい皮質回路が再配線されていることを示唆している。結論として、MeHg曝露による炎症性ミクログリアを介した脊髄後角神経の活性化は、体性感覚皮質の再配線を誘発し、神経障害性疼痛の発症を引き起こしている可能性が示された。

  • 李 辰竜, 森 稚景, 徳本 真紀, 佐藤 雅彦
    セッションID: O2-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Cadmium (Cd) is one of the toxic heavy metals spread in the environment. The primary effects of Cd poisoning are acute hepatic toxicity and chronic renal and bone toxicity. Cd is daily ingested to humans through diverse foods, such as rice, vegetables, and seafood, and through smoking. Cd accumulates in the kidney and liver due to the dietary exposure over a lifetime, because the biological half-life of Cd is very long (15–30 years). It is concerning that renal dysfunction diagnosed in elderly people may be exacerbated by Cd accumulation. Damage to the proximal tubular cells is the characteristic of Cd-induced renal toxicity. However, the precise molecular mechanism involved in Cd renal toxicity is remaining elucidated. Our previous studies demonstrated that several transcription pathways regulate Cd toxicity in proximal tubular cells. Recently, it is found that retinoic acid (RA) which coordinates the gene expressions as one of the ligands of retinoic acid receptors (RARs), reduced Cd toxicity in human proximal tubular (HK-2) cells. Moreover, the pretreatment with retinol, the precursor of RA, also reduced Cd toxicity in HK-2 cells. However, knockdown of each gene coding for RARs did not affect Cd toxicity. Besides, the treatment with RA did not affect intracellular Cd concentration in the Cd-treated HK-2 cells. Cd renal toxicity is known to involve the apoptosis pathway. Complementarily, Cd induced apoptosis in the HK-2 cells; in addition, RA reduced not only Cd-induced apoptosis but also caspase-3 activation. These results indicate that RA may protect cells from Cd toxicity through the inhibition of apoptosis, without RAR pathway nor Cd accumulation.

  • Atsushi TAKEDA, Satoko NAKAJIMA, Ryusuke NISHIO, Haruna TAMANO
    セッションID: O2-04
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    本研究では、細胞外Zn2+の細胞内への流入経路としてイオン透過型グルタミン酸受容体のサブタイプであるAMPA受容体に着目し、加齢に伴うパーキンソン病の発症に関与するか検討した。若齢ラットでは黒質細胞内Zn2+レベルを増加させない低濃度AMPA(1 mM)を老齢ラット(70-80週齢)の黒質に投与し、加齢に伴うパーキンソン病の発症にAMPA受容体活性化が関与するかを検討した。若齢ラットの黒質にAMPA(5 mM)を投与すると、回転運動は増加し、ラットパーキンソン病の症状を示した。黒質チロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性細胞は減少し、ドパミン神経の変性脱落が認められた。これらは細胞内Zn2+キレーターの同時投与により抑制された。一方、若齢ラットの黒質にNMDA(5 mM)を同様に投与したところ、黒質細胞内Zn2+レベルは有意に増加せず、ドパミン神経の変性脱落も認められなかった。ラットパーキンソン病様症状は黒質AMPA受容体活性化による黒質ドパミン神経細胞内Zn2+恒常性の破綻が関与することが示された。またこの破綻にはZn2+透過型GluR2欠損AMPA受容体活性化によることが示された。次に、老齢ラットへのAMPA黒質投与により、黒質細胞内Zn2+レベルは増加し、アポモルフィン誘発回転運動は増加した。黒質TH陽性細胞は顕著に減少し、ドパミン神経の脱落が観察された。一方で、若齢ラットでは上記症状は認められなかった。また、老齢ラットで認められた一連の症状は、ZnAF-2DA、あるいは細胞外Zn2+キレーターのCaEDTAを同時投与することにより改善された。以上より、黒質GluR2欠損AMPA受容体活性化を介した細胞外Zn2+の過剰流入によるドパミン作動性神経脱落は、加齢により促進されることが示された。

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