失語症研究
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19 巻, 3 号
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シンポジウム 1 : functional MRI の現状と将来への展望
  • 杉下 守弘
    1999 年 19 巻 3 号 p. 157-162
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
       ファンクショナルMRI (fMRI) は脳機能画像法の最新技法の1つであり,脳と言語の関連を解明するうえで多大の貢献をすると考えられている。本稿はファンクショナルMRI の基本的知識について解説している。また,1.5Tの装置を使用した2,3のファンクショナルMRI の研究が紹介されている。
       第1は “しりとり” 課題で生ずる脳の活動をファンクショナルMRI で測定した研究である。右利き男の被験者は主に左前頭葉および左頭頂葉に活動が認められた。左利き男の被験者では,右前頭葉,右頭頂葉および左前頭葉に活動が認められた。第2はファンクショナルMRIの信頼性の問題である。右利きの男の被験者が2週間後にしりとりを行った時のファンクショナルMRI では2週間前とほぼ同じ部位の活動が認められた。ファンクショナルMRI の信頼性は高いと考えられる。第3はファンクショナルMRI の臨床的適用である。40歳の右利き女がブローカ領に梗塞を生じ失語を呈した。この失語は3週内で消失した。10年後にしりとりを行わせファンクショナルMRI で測定した。脳の活動は左半球にほぼ限局していた。したがって,損傷のある左半球が失語を代償し言語活動は左半球で行われていると思われる。
  • 武田 克彦
    1999 年 19 巻 3 号 p. 163-169
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    高度の空間分解能を利用した functional MRI などの脳機能マッピングの手法を用いて,運動のしくみを解明しようとしたいくつかの研究を紹介した。手の運動に関しては中心前回内の precentral knob と呼ばれる領域が重要であると述べた報告,舌の運動については両側の中心前回下部の関与を認めた報告を紹介した。運動のイメージ課題において運動前野や一次運動野での賦活を認めた研究に触れた。従来補足運動野 (SMA) とされていた領域は,より吻側に位置する pre SMA と尾側に位置する SMA proper とに分かれるとされ注目されている。 pre SMA の働きはまだ不明だが,外的刺激による運動の選択に関与するなどいくつかの考え方が提唱されている。今後のfMRIを用いた研究について,運動を行う際に脳内のいくつかの領域がどの順番で賦活されるのかという問題,運動麻痺の回復やリハビリの効果判定などにおいて fMRI の果たす役割が大きいことが期待されることを述べた。
シンポジウム 2 : 失語症の症候学 錯誤
  • 松田 実, 鈴木 則夫, 水田 秀子
    1999 年 19 巻 3 号 p. 170-181
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    失語症患者の言語表出過程における錯語の意味や位置づけについて考えるため,以下の諸問題について論じた。 (1) 錯語と流暢性の問題 : 錯語の出現率と流暢性とは無関係であるという意見に対して,自由会話における豊富な錯語は,あくまでも後方型流暢性失語の特徴ではないかという意見を述べた。 (2) 錯語のない Wernicke 失語や超皮質性感覚失語 : 発話の中に錯語がほとんどみられない Wernicke 失語と超皮質性感覚失語の症例を紹介した。その発話は流暢であるが,指示代名詞,常套的表現,擬態語の多用を特徴とし,具体名詞などの情報を含んだ内容語がほとんど含まれないと言う意味で no content word jargon と形容するのが適切であると思われた。病巣は通常の Wernicke 失語や超皮質性感覚失語の病巣に加えて,左側頭葉の下部や前方部をも含んでおり,これらの領域が具体名詞などの語彙呼び出し過程に関与している可能性を指摘した。 (3) 単語の復唱で意味性錯語が頻発する症例 : 単語復唱に際して意味性錯語が頻発した慢性期の Wernicke 失語の1例を報告した。復唱において,破壊された Wernicke 野を経由しようとする発話経路では新造語が生産され,Wernicke 野を経由しない発話経路で意味性錯語が生産されるという仮説を提唱した。
  • 大槻 美佳, 相馬 芳明
    1999 年 19 巻 3 号 p. 182-192
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    音韻性錯語と語性錯語の出現と病巣の関連を検討した。音韻性錯語については呼称と復唱で,その出現率を比較した。左中心前回損傷群ではその出現率に差異は認めず,左後方領域損傷群 (側頭-頭頂葉) では復唱よりも呼称でその出現率が有意に高かった。このことより,音韻性錯語は,音韻の取り出し・再生・実現のさまざまな過程の障害で出現し得ること,さらに,左中心前回損傷群ではモダリティーの違いに左右されない音韻実現過程の障害,また左後方領域損傷群では復唱で与えられる音が手がかりとなるような音韻の取り出し・再生過程の障害である可能性が示唆された。語性錯語については,意味性錯語と無関連錯語の出現頻度を検討した。左前頭葉損傷群では両者の出現率に有意差は認められなかったが,左後方領域損傷群 (側頭-頭頂-後頭葉) では意味性錯語の出現率が無関連錯語の出現率より有意に高かった。この傾向は重症度や検査時期に依存しなかった。このことは左前頭葉損傷群では目標語近傍の意味野へ適切に access する過程の障害,また左後方領域損傷群では目標語近傍の意味野への access は可能だが,さらに厳密な目標語の選択・障害の過程に障害があると推測された。
  • 寺尾 康
    1999 年 19 巻 3 号 p. 193-198
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,ある伝導失語患者の発話例の分析をもとに,それを心理言語学での言い誤り研究の観点からみたらどのようなことが言えるのか,を中心に比較検討を行った。その結果は以下のようにまとめられる。 (1) 健常者の言い誤りでは,誤りの源が文脈中にある転置型の誤りが,源がない置換型の誤りよりも頻度が約3倍の高さだったが,観察した音韻性錯語の例ではこの傾向は逆であった。 (2) 誤りの解釈と発話モデル内の「音韻的レベル」と「音声的レベル」を仮定する際には,弁別素性による誤りと源の類似性の分析だけでなく,音韻的な環境を考慮した分析単位も必要になる。音韻性錯語の付加の誤りが生じる位置はフットの境界と一致すること,同一母音を持つ2モーラ間で子音の誤りが起きやすい,という観察から伝導失語症患者が音韻的枠を準備できる能力を残している可能性が示唆された。
原著
  • 飯干 紀代子, 浜田 博文, 白浜 育子, 岸本 千鶴, 猪鹿倉 武
    1999 年 19 巻 3 号 p. 199-207
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    痴呆を伴う慢性期失語症患者 26例 (平均年齢 70.5歳) に,痴呆患者へのアプローチ法を取り入れたグループ言語訓練を実施した。訓練の特徴は (1) 劇,屋外活動,料理などを柱として,遊ぶ・笑う・楽しむことを前面に出し,その中に呼称,音読,書字など言語訓練的要素を意図的に組み込む, (2) 日ざしを浴びるなどの活動を重視し情動面に働きかける, (3) 見当識の強化,(4) ST,CP,OTなど多職種がかかわる,などであった。結果は,SLTA総合評価法において全体的には小幅ながら改善傾向を示し,なかでも発症から比較的短期で痴呆の程度の軽い症例は改善率が高かった。また,コミュニケーション行為評価表では 18例中 14例が改善し,項目別では見当識,状況判断,注意持続などコミュニケーション能力の基盤となる項目が改善した。痴呆を伴う慢性期失語症患者の増加が予測される今後,このようにグループ言語訓練を工夫し積極的に活用していくことが重要であると思われた。
  • 待井 典子, 宇野 彰
    1999 年 19 巻 3 号 p. 208-217
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    一発語失行例と健常対照群5名の発話について音響学的分析を試み,発話の変動性という観点から検討した。2~4音節の 30単語を用いて,1つの単語につき,3回連続呼称して得られた発話の所要時間,語頭子音の最大音圧,基本周波数を計測し,比較検討した。その結果,発話所要時間,語頭子音の最大音圧,1母音内の基本周波数において,健常群では変動は小さい傾向にあったが,発語失行例ではばらつきが大きく一定の傾向は認められなかった。一方,単語内の基本周波数では,発語失行例は健常群に比べ変動が小さく平坦であった。これらの結果から,発語失行例の発話の障害には,呼気運動や声門閉鎖運動との協調運動を含めた構音器官の意図的運動の障害が関与している可能性が示唆された。また,聴覚的印象による分析だけでは把握できない症状の分析に音響学的分析は有効であると考えられた。
  • 平林 一, 稲木 康一郎, 平林 順子, 伊沢 真
    1999 年 19 巻 3 号 p. 218-224
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,外的に確認を誘導した場合に,左半側空間無視の検査成績に改善がみられるか否かを検討した。Behavioural inattention test に含まれる Conventional sub-tests を左半側空間無視患者 21名に施行し,それぞれの下位検査を遂行し終えたたびごとに赤ペンを手渡し,もう一度見直しをして,訂正があればそれで記入するようにと教示した。その結果,線分二等分検査や模写のような単一対象の左側にみられる無視については,見直しの効果は明らかではなかったが,文字ならびに星の抹消課題では,見直しを促した後に抹消数が増加する症例が有意に多く,広い範囲の空間探索を必要とする課題においては,再度の見直し,すなわち「確認」が無視の軽減を導く可能性が考えられた。左半側空間無視のリハビリテーションにおいては,確認行動の補強が,無視を軽減させる1つの手段になりうる可能性を示唆した。
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