損害保険研究
Online ISSN : 2434-060X
Print ISSN : 0287-6337
84 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
<研究論文>
  • 浅井 義裕
    2022 年 84 巻 1 号 p. 1-31
    発行日: 2022/05/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    先行する多くの研究では,さまざまな国のデータを使用して,インフレーション,複利,分散投資といった資産運用に関する金融の知識について分析が進められてきた。しかし,保険に関する金融知識については,ほとんど研究が進んでいない。そこで,本研究では,日本の消費者に向けて実施したインターネット調査のデータを分析することにより,保険知識の水準を決定している要因を明らかにしようと試みている。本研究の結果,明らかになったことは,以下の通りである。先行する研究の結果は,女性の金融知識が低いことを示しているが,本研究の結果は,女性の保険知識が必ずしも低くないこと,特に,生命保険の知識に関しては,女性の保険知識が高いことを明らかにしている。また,消費者の年齢,および家計管理に対する考え方が,保険知識の水準と有意な関係があることが分かった。

  • ―日米の約款の検討を中心に―
    顧 丹丹
    2022 年 84 巻 1 号 p. 33-75
    発行日: 2022/05/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    日本においては,米国の就業不能保険に相当する私保険として,所得補償保険と就業不能保障保険がある。両者は同じく傷害または疾病による就業不能というリスクを対象としているものの,約款規定に顕著な差異がみられる。これらの差異は,就業不能保険に内在する情報偏在の問題(逆選択とモラルハザード)を抑止するために,異なるアプローチを用いうるという角度から理解できる。この点は米国の就業不能保険の約款との比較を通じてより明確になってきた。また,最判平成元・1・19当時と比べ,所得補償保険および就業不能保障保険の約款の内容に変化が生じてきたが,現行の約款を前提として,また米国法を参照しても,保険契約の法的性質および請求権代位に関する従来の学説の議論はなお妥当すると思われる。しかし,現在,所得補償保険と就業不能保障保険は実際に対応している就業不能の様態が異なり,モラルハザードを抑止するために用いられる仕組みも異なるため,重複契約への対応に関する両者の連絡調整の欠如による契約累積の悪用の懸念は従来ほど深刻でないと考えられる。

  • 木村 健登
    2022 年 84 巻 1 号 p. 77-109
    発行日: 2022/05/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    D&O保険に関する開示義務をめぐる議論の中で,そのような義務が課されている国の例として,しばしばカナダの名が挙げられる。もっともカナダにおいては,カナダ証券局によるNI 51-102の制定(2004年)を契機とした法改正の結果として,もはやそのような開示義務にかかる規定は(オンタリオ州を除き)存在していない。他方で,このように法律上の開示義務が廃止された現在においても,カナダにおいてはなお(銀行業を中心とした)相当数の企業が,そのような情報開示をいわば自主的に継続している。本稿はこのようなカナダの実務慣行に着目した検討を行い,①わが国においては背景事情の違いから,カナダで観察されるような自主的開示を企業に促すことは困難(よってなんらかの法改正が必要)であること,②そのような法改正に際して,まずは銀行業を営む企業に対してのみ開示義務を課すという選択肢もあり得ることの二点を指摘した。

  • ―イギリス法を比較対象として―
    榎木 貴之
    2022 年 84 巻 1 号 p. 111-136
    発行日: 2022/05/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    本稿では,主に自動車保険の弁護士費用保険における保険者自身による弁護士紹介の在り方についてイギリスを参考に検討する。まず我が国では,弁護士法72条により,保険者による独占的な弁護士紹介は違法であり,被保険者の弁護士選択を支援する補助的な紹介のみ許容され得ることを指摘した上で,ファーストパーティ型保険等を巡って関係者間での利益相反が顕在化しやすいことから,かかる観点からの配慮が求められるが,未だ議論不十分で,抽象的対策に留まっていると指摘した。一方イギリスでは,同国の訴訟費用制度等を背景として保険者による弁護士紹介の必要性は高く,非弁規制も存在しないから,独占的な紹介が許容されているが,保険者による事件方針への介入を巡って利益相反が顕在化しやすく,それに応じた具体的対策が施されていることを指摘した。最後に,両国の相違点を踏まえ,今後我が国では弁護士紹介に関する具体的指標の明示が望ましいと指摘した。

  • 杉浦 友
    2022 年 84 巻 1 号 p. 137-166
    発行日: 2022/05/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    従来多くの都市のレジリエンス強化策では,物理的な防災・減災に主眼が置かれてきたが,近年,気候変動自体あるいはインフラ整備等の対策が,コミュニティの排除や格差の拡大等,特に低所得層に不均衡な影響を及ぼす現象を指す,クライメートジェントリフィケーションへの関心が米国を中心に高まっている。本稿では,都市のレジリエンスのあり方に係る多面的な理解の一助となるべく,レジリエンス強化に関連する主要な動向および保険会社の果たしうる役割を分析した後,クライメートジェントリフィケーションの事例・論点を考察している。保険会社が都市のレジリエンス強化における主なステークホルダーであること,ESG(特にS)・SDGsの観点から,より包括的にレジリエンスをとらえる必要性があることを踏まえると,損保業界がレジリエンス強化への実効的な貢献を検討する際に,物理的なリスクの軽減以外の視点を持つことは有用となりうる。

<研究ノート>
  • 堺 正仁
    2022 年 84 巻 1 号 p. 167-190
    発行日: 2022/05/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    交通事故によって脊椎圧迫骨折を受傷した場合,自賠責の後遺障害認定においては,残存した障害の程度に応じて後遺障害11級~6級(脊柱の変形障害または運動障害)に認定されることとなっている。他の体幹骨骨折等と比較すると,上位の後遺障害等級に認定される。 後遺障害によって労働能力が減少(喪失)し,それによって将来の収入を減少(喪失)させる場合,この損害(逸失利益)を加害者側が被害者側に賠償することになるが,脊椎圧迫骨折の場合,治療終了後(症状固定後)も事故前と変わらずに就労を行い減収が生じていない,減収が生じているとしても少ない場合もあり,この逸失利益(労働能力喪失率,喪失期間)について裁判で争われるケースが散見される。本稿では,近年の裁判においてこの脊椎圧迫骨折の逸失利益についてどのように判断されているのかを分析し,損害賠償上の妥当な範囲について考察した。

<損害保険判例研究>
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