本研究は,「信号のない横断歩道での自動車の一時停止」を題材に,法遵守への影響要因を検討した。注目した点は,歩行者の特性が,ドライバーの一時停止率に影響している可能性である。具体的には,信号のない横断歩道での歩行者とドライバーの関係を,同時手番のゲーム的な状況で捉え,ドライバーが,混合戦略に従って“止まる”か“止まらない”かを選択している可能性を検討した。混合戦略で,ドライバーが一時停止する確率は,歩行者側の利得の構造に依存することから,歩行者側の特性が,ドライバーの混合戦略を通じて,一時停止率に影響を及ぼしている可能性がある。そこで,2018年から2020年の,JAFが調査した「信号のない横断歩道での自動車の一時停止」の都道府県別データをパネルデータとして検証したところ,高齢者人口比率や,実収入,家計支出に占める教育費割合などの歩行者側の特性が,一時停止率に影響を及ぼしていることを確認した。
1996年以降の規制緩和以降の損害保険業は販売チャネルが多様化し,損害保険会社は代理店経由での販売だけでなく,インターネットによる直接販売等の様々な販売チャネルを活用している。損害保険会社が直接販売を選ぶのは,直感的には,その会社が代理店扱よりも直接販売の生産技術が技術効率的であると認識しているためではないかと考えられる。本研究は,損害保険会社を販売チャネルにより代理店扱を主とする「代理店型」,直接販売を主とする「直販型」に分け,メタフロンティア分析の手法により,各グループの生産関数と産業全体の生産関数(メタフロンティア生産関数)を推定し,その結果を基に各グループの生産関数および各社の技術効率性を推定,比較する。その結果,両グループの生産関数は異なっており,直販型のグループ生産関数は代理店型よりも技術効率的であるが,産業全体の生産関数に対する技術効率性には差を認められなかった。
令和元年会社法改正は,D&O保険の契約締結における手続の明確化等を目的として,D&O保険に関する規定を新設した。これを契機として,改めてD&O保険のあり方について検討する必要があると考える。本稿では,日本と同時期にD&O保険を受容したドイツ法について参照し,D&O保険における取締役の損害の自己負担額に関連する自己保有規制について検討する。ドイツの自己保有規制は,2009年株式法において,取締役に一定の経済的負担を課すことにより,取締役のモラルハザードを抑止する行動制御を主な目的として規定された。しかし,この立法趣旨に反対する議論は当初から存在し,さらに取締役の私的財産への影響の観点から自己保有に個人契約で責任保険を付けることが実務上認められているため,当該機能については十分な効果があるとはいいにくい。この点を含めて自己保有に関する学説状況を分析し,D&O保険のあり方についての検討を試みる。
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