損害保険研究
Online ISSN : 2434-060X
Print ISSN : 0287-6337
76 巻, 4 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
<研究論文>
  • 山野 嘉朗
    2015 年 76 巻 4 号 p. 1-29
    発行日: 2015/02/25
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     近時,登山中に噴石の直撃を受けたり,低体温症で死亡したりする事故や,マダニ等,感染症の媒介生物や蜂,セアカゴケグモといった有毒生物に刺咬されるなどの事故が起こっている。そのような事故の被害者が傷害保険の被保険者である場合,保険保護が及ぶか否かという問題が浮上する。

     本稿では,それらの問題を,傷害保険の保険事故の要件である,傷害,急激性,外来性という概念を中心に検討するものである。

     まず,登山中の事故については,保険の種類と免責事由との関係を明らかにし,消費者に対する注意喚起が必要であると指摘した。

     次いで,急激性要件については,熱中症・低体温症との関係で検討を加えた。その結果,これを単に時間的な尺度のみによって判断すべきではなく,傷害発生の予見可能性・回避可能性をも判断要素に加えつつ,当該被保険者が置かれた状況を総合的に勘案した上で,要件成立の可否を判断すべきであると主張した。

     最後に,傷害概念については,有毒生物・媒介生物による身体毀損の問題を取り上げ,様々な約款解釈の可能性を提示した。その上で,損害保険実務がいかなる解釈を採用するにしても,保険利用者に対しては,その理論的根拠について明快かつ平易な説明が求められ,さらには,免責条項との関係で約款の整備も必要となると主張した。

  • 大塚 英明
    2015 年 76 巻 4 号 p. 31-63
    発行日: 2015/02/25
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     アメリカでは傷害保険契約上,保険金支払の対象は,「偶然の手段(accidental means) により生じた人身傷害」とされていた時期が長かった(ちょうどわが国の「偶然な…事故により身体に傷害を被ること」という要件とパラレルのようにも見える)。この偶然の手段について,一方の見解は「事故」そのものとは異なる概念であり,傷害保険の保険事故認定において独立して分析すべき要素と捉えるが,他方で偶然の手段を事故自体と同視する見解がある。そしてアメリカにおけるこの理論的対立は,傷害保険の保険事故概念の本質にかかわる大きな論争を巻き起こしてきた。さらにこの論争は,被保険者の疾病・身体的虚弱性と絡んだ傷害保険の最大の難問に展開する可能性を持つ。本稿は,傷害保険の黎明期から続いたこの問題を,具体的事案の解決にあたった判例を詳細に見ることによって検討するものである。それにより,わが国の傷害保険の法構造について検討する場合にも応用できる何らかの示唆を引き出したい。

  • 清水 耕一
    2015 年 76 巻 4 号 p. 65-92
    発行日: 2015/02/25
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     船舶の安全運航のため,安全運航,支障のある危険な船舶を排除する仕組みである船級協会の法的責任について検討した。船級協会は船級契約当事者以外の第三者に対して責任を負わないという議論があるが,船級協会の二重機能により公法上の責任と私法上の責任との範囲を明確に分けることができなくなっているということにより,船級協会には船級契約当事者以外の第三者に対して責任を負担する余地が生じうる。さらに,大惨事となったタンカーからの油流出事故として有名なエリカ号事件に関するフランス破毀院判決(2012年9月25日)の動向を踏まえて,船級協会の第三者に対する責任を認め,海事関係者との協力のもとに船舶安全運航のための厳格な安全検査基準の構築と実施を求める。

  • 内藤 和美
    2015 年 76 巻 4 号 p. 93-128
    発行日: 2015/02/25
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     世界的なコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革の流れを受けて,わが国においても,成長戦略の一環としてコーポレート・ガバナンスを巡る議論が活発化している。会社役員賠償責任保険(D&O保険)は,コーポレート・ガバナンスの担い手である会社役員の賠償責任リスクを保険者へ転嫁する機能を有するがゆえに,有能な人材を会社役員に招聘するための環境整備の一つとして,その重要性はますます高まっている。わが国のD&O保険は,導入当初より,会社役員個人の資産を守る保険として発展してきたが,近年は,会社資産を守るための保険という意味合いも増しており,米国で議論されるようなD&O保険のモラル・ハザード問題が顕在化しないともいえない。このようなモラル・ハザード問題への解決策としては,保険におけるコスト・シェアリングの仕組みが有効である。また,「経営者を規律付ける保険」としてD&O保険者のモニタリング機能もまた注目される。

<講演録>
<翻訳>
<損害保険判例研究>
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