損害保険研究
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78 巻, 4 号
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<論文>
  • —製造物責任を基礎とする提言—
    梅津 昭彦
    2017 年 78 巻 4 号 p. 1-28
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     アメリカ法における保険証券の規制という名の解釈問題は,契約の解釈として伝統的な契約法における解釈の諸ルールを適用することが基本であるが,近時再び注目されるのは,保険証券を「商品」または「物」として捉え,製造物責任(products liability)を基礎とする保険証券規制の提言である。本稿は,D. Schwarcz教授の製造物責任を基礎とする保険証券規制モデルを紹介し,アメリカ法における保険証券規制に対する新たな視点を確認する。それによれば,商品としての保険証券について警告上の欠陥または設計上の欠陥が認められる場合には,被保険者に保険担保に対する権利を与えようとするものである。また,K. S. Abraham教授は,製造物責任法について認められる要件の適用に際しての問題,例えば,商品の欠陥を認めるためのテストの多義性と保険契約者の選好多様性の理解から直ちに製造物責任を保険証券規制に応用することについては消極的に評価している。本稿は,以上のような両教授の検討について整理を行うことにより,アメリカ保険法における保険証券の規制・解釈の新たな視座を明らかにした。

  • —2007年頃までのアメリカの議論を中心として—
    嘉村 雄司
    2017 年 78 巻 4 号 p. 29-71
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     アメリカでは,保険とクレジット・デリバティブの法的区別を,損害てん補の目的の有無という基準を用いて説明する考え方が支配的見解であった。本稿は,このような考え方がアメリカで支配的見解となった議論の経緯を明らかにすることにより,わが国においてアメリカの議論を参考にする際の基礎的資料を提供することを目的とするものである。

     本稿の前半では,上記の支配的見解を示した先行文献とされるPotts意見書の内容を検討した上で,同意見書の見解を積極的に展開するニューヨーク州保険法上の議論の検討を行った。それに引き続き,本稿の後半では,全米保険監督長官協会(NAIC)と国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA)の論争,および,アメリカの学説上の議論を検討する。その上で,アメリカにおける議論とわが国における議論との類似点・相違点に関する検討を行うこととしたい。

  • —有価証券届出書の虚偽記載に係る発行会社の損害賠償責任のD&O保険による付保を中心に—
    藤林 大地
    2017 年 78 巻 4 号 p. 73-106
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     有価証券届出書に虚偽記載が存在した場合,発行会社は投資者に対して金融商品取引法18条等に基づく損害賠償責任を負うことになる。この場合,実質的には発行会社から投資者への資金(利益)の返還が行われることになる。そして,かかる損害賠償責任について責任保険(D&O保険)による填補がなされる場合,発行会社は違法に得た利益を維持することになる。果たして,このような帰結は法的に許容されるであろうか。

     我が国では,利益返還型の損害賠償責任の付保は法的に許容されるかという問題は議論されてこなかった。一方,米国では,かかる問題について判例や議論があり,主導的判例はモラル・ハザードの問題などを理由として付保は不能であるとしている。本稿は,米国法を参照することによって検討の視点を得た上で,有価証券届出書の虚偽記載に係る発行会社の損害賠償責任の付保は法的に許容されるかという問題について考察を行い,付保は許容されるという結論を得た。

  • —G-SIIsと日本の損害保険会社をケースとして—
    上野 雄史
    2017 年 78 巻 4 号 p. 107-134
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,ERMの情報開示について,国内の損害保険業を中心に活動する企業ならびにG-SIIsに指定された国際的な保険会社をケースとして検証し,その意義について考察することにある。改訂ICPなどでは市場規律を機能させるために積極的な情報開示が推奨されており,ERMの情報開示についても開示を積極的に行うことが望まれる。しかしながら,現状,G-SIIs指定企業の開示状況には相当程度バラつきがあることが分かった。特に企業活動の範囲が限定的(国内のシェアが高い,もしくは1,2ヵ国におけるシェアが高い)なケースでは,ERMの情報開示に対して消極的であることが分かった。G-SIIs指定企業のように規模が極めて大きく,特定の国でのシェアを独占している状況において,情報開示を積極的に行う動機づけは低いのではないかと推察される。この結果は,G-SIIsのように規模の大きな企業に対して,情報開示を積極的に行うように促すためには,ある程度の強制力を持った枠組みが必要であることを示唆している。規制監督当局がERMの情報開示を企業に積極的に行わせるのであれば,何がそのトリガーになりうるのかを多様な角度から検証していく必要がある。

  • 西羽 真
    2017 年 78 巻 4 号 p. 135-163
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     第三者が実施主体となる商品保証サービスへの保険業法適用の有無については,多数の法令照会に対する当局回答によって判断基準の明確化が図られてきた。もっとも,過失による故障を保証するものも適用除外となり得るとするなど比較法的にも稀な対応を採る本邦規制には,当該対応を妥当とする論拠が明らかにされていないなど様々な課題がある。本問題に関して,他法域では対象事故発生に対する支配の可能性を判断基準とする例や製造者等が通常負う債務と保証内容との同質性を判断基準とする例が確認される。また,当該サービスについて保険業規制の対象としない場合でも,情報開示や財務などに関して一定の規制を課す法域も少なくない。当該サービスに関しては,IFRSや保険法などの分野においても検討が必要と思われる重要な論点が存在する状況であり,比較法的観点および関連分野の動向も踏まえて,あらためて規制の在り方を検討する必要がある。

  • 山越 誠司
    2017 年 78 巻 4 号 p. 165-188
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     D&O保険における損害賠償請求方式はもろ刃の剣という言葉が当てはまる制度であり,被保険者にとっても保険者にとっても濫用されるおそれがある。もともと被保険者のモラル・ハザードを回避するために事故のおそれの通知制度が強調されてきたが,D&O保険の普及に伴い保険者による制度の濫用も懸念されるようになっている。

     すでにアメリカにおいて約款における工夫や裁判例の蓄積があり,およそ実務において事故のおそれをどのように解釈し運用すべきかが定着しているようである。その点,わが国は事故件数が少なく裁判例もないので判断基準が明確になっていない問題がある。

     基本的に事故のおそれに関しては拡大説が妥当で,事故のおそれの通知機能は新旧どちらの保険証券で対応するかの判断基準として存在すべきであり,保険者の無責を主張させるための道具として機能すべきではないと考える。

<研究ノート>
  • —韓国ポップ・アーティストの事例分析 フランス・ライブ劇場テロ被害補償制度の事例分析—
    亀井 克之, 八木 良太, 大塚 寛樹
    2017 年 78 巻 4 号 p. 189-219
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     リスク多発の現代においては,リスクマネジメント・危機管理がますます社会的に要請されるに至っている。これは,1916年に発表されたファヨールの論考から100年を経て,練り上げられてきたリスクマネジメントの考え方(フレームワーク)をさまざまな経済主体や事象にあてはめて,リスク・コントロールとリスク・ファイナンスを展開することを意味する。近年,筆者らは日本で急成長している音楽ライブ市場にリスクマネジメントのフレームワークをあてはめて研究を展開している。これは,①2020年の東京五輪開催を見据えたイベントのリスクマネジメントや②さまざまなエンタテインメント・ビジネスのリスクマネジメントを考える上で示唆を与えるものと考える。こうした研究の一環として,本稿では,まず,既存研究で試みてきたように,リスクマネジメントのフレームワークを音楽ライブ・ビジネスに適用して提示することを試みる。次に事例によって「音楽ライブ・ビジネスのリスクマネジメント」を考察する,具体的には,⒜日本の音楽ライブ市場で依然として大きな存在感を示す韓国ポップ(K-Pop)アーティストの事例分析と⒝2015年11月13日にフランス・パリの音楽ライブ劇場バタクランで発生した銃の乱射テロに関連してフランステロ犯罪被害者補償制度の事例分析を行なう。

  • —欧州司法裁判所2007年12月13日裁定とその影響—
    岩本 学
    2017 年 78 巻 4 号 p. 221-240
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     欧州司法裁判所は,2007年12月13日裁定において,被害者保護の観点から保険者に対して直接賠償請求を提起できるいわゆる直接請求権に関してEUにおいて対立していた国際裁判管轄の解釈問題に一定の回答を示した。本稿は,この問題について欧州でいかなる議論が存在していたのか,そして上記裁定はいかなる判断を下したのか,を考察するものである。EUでは上記裁定以後も学説から活発な議論が交わされており,本問題への議論は深化を遂げている一方,直接請求の国際裁判管轄に関する議論はわが国ではほとんどされておらず,平成23年の民訴法改正においても取り込まれることはなかった。以上の状況に鑑み,EUにおける保険実務への情報提供の観点から,また今後のわが国における立法論の一素材として,本裁定の評価・影響を中心に紹介・分析する。

  • 清水 秀規
    2017 年 78 巻 4 号 p. 241-283
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     人身傷害補償保険は,既存の商品にない特長から消費者の注目を集めたことや,自動車共済・保険会社各社ともにその販売に重点を置いてきた結果,自動車共済・保険に対する付保割合が今日,非常に高くなっている。その結果,人身傷害補償保険に関する判例を判例データベース(判例マスターWestlaw Japan,判例システムVSバーション2015年下期[自動車保険ジャーナル]を利用)から抽出した平成13年から平成27年までの人身傷害補償保険に関する判例(176判例)を分析し,人身傷害補償保険に生じている問題点(主に代位取得する損害賠償請求権の範囲に関する)を明らかにし,法的構成について検討した。また,損保・共済各社の約款から商品の問題点を指摘した。

  • 浅井 弘章
    2017 年 78 巻 4 号 p. 285-308
    発行日: 2017/02/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     平成29年5月30日に改正個人情報保護法が全面施行される。改正個人情報保護法では,要配慮個人情報に係る規制が導入されるほか,第三者提供に係る確認・記録義務,外国にある第三者への提供の制限など新たな法規制が設けられており,こうした法規制の施行に伴い,損害保険会社の業務に少なからぬ影響が生ずる可能性があると考えられる。

     そこで,本稿では,改正個人情報保護法における上記の各規制の概要を,現行の個人情報保護法制と対比して説明した上で,損害保険会社の業務に与える影響について検討・分析する。

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<損害保険判例研究>
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