D&O保険における損害賠償請求方式はもろ刃の剣という言葉が当てはまる制度であり,被保険者にとっても保険者にとっても濫用されるおそれがある。もともと被保険者のモラル・ハザードを回避するために事故のおそれの通知制度が強調されてきたが,D&O保険の普及に伴い保険者による制度の濫用も懸念されるようになっている。
すでにアメリカにおいて約款における工夫や裁判例の蓄積があり,およそ実務において事故のおそれをどのように解釈し運用すべきかが定着しているようである。その点,わが国は事故件数が少なく裁判例もないので判断基準が明確になっていない問題がある。
基本的に事故のおそれに関しては拡大説が妥当で,事故のおそれの通知機能は新旧どちらの保険証券で対応するかの判断基準として存在すべきであり,保険者の無責を主張させるための道具として機能すべきではないと考える。
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