選挙研究
Online ISSN : 1884-0353
Print ISSN : 0912-3512
ISSN-L : 0912-3512
37 巻, 1 号
選挙研究
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 自己責任意識と市民的参加の実証分析
    坂本 治也
    2021 年 37 巻 1 号 p. 5-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/16
    ジャーナル オープンアクセス
    既存研究では,新自由主義の進展が市民社会の活性化をもたらすことは通説的見解とされてきた。しかし,新自由主義を政策パッケージではなく人々の間で共有されるイデオロギーとして捉えた場合,本当に新自由主義の進展が市民社会の活性化に結びつくといえるのであろうか。この点を検討するために,本稿では自己責任意識と市民的参加の関係を定量的に分析する。本稿では,独自に開発した指標を用いて,2つの異なるタイプの自己責任意識を測定する。分析の結果,2つの自己責任意識は市民的参加に対してそれぞれ負の関係性をもつことが明らかとなった。自己責任意識が強ければ強いほど,人々は市民的参加を忌避する傾向が見られる。イデオロギーとしての新自由主義の進展は,市民社会の活性化につながるどころか,むしろ市民社会を衰退させる可能性が高い,という通説的見解とは真逆の結論が得られた。
  • 善教 将大
    2021 年 37 巻 1 号 p. 18-32
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/16
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では筆者が実施した大阪市民を対象とする意識調査を用いた実証分析を通じて,大阪における感情的分極化の現状,原因,帰結の3点について検討する。地方政治の場において維新vs.反維新という激しい政治的対立が存在する大阪市は,日本で感情的分極化について議論する際,有用な知見を提示することが可能な事例の一つとして位置づけられる。本稿ではまず,地域レベルと個人レベルの分極化指数を求め,その水準を他国の事例などと比較することで大阪の分極化の現状を明らかにする。その上でメディアを通じた選択的接触の議論に基づき,2020年の住民投票期間中のメディア利用が政策選好や個人レベルの感情的分極化に与える因果効果を推定する。さらに個人レベルの分極化指数が,制度信頼,政治不信,市民間の相互不信に与える因果効果も分析し,感情的分極化が進展することの帰結についても考察する。
  • 金子 智樹
    2021 年 37 巻 1 号 p. 33-46
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/16
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は,戦後日本の新聞に関して,地方紙の社説の独自性や,各紙の左右イデオロギー的な論調の推移を明らかにし,その背景要因を検討することである。具体的には,1970年~ 2019年の50年間において,全国紙と地方紙(計50紙)の憲法記念日前後の社説(計2211本)を網羅的に収集・データ化し,計量テキスト分析を行った。分析内容は下記の2つに大別される。①地方紙が社説で共同通信の資料版論説をどの程度利用してきたのかを,機械的な手法によって分析した。まず,共同通信の資料に依拠した社説は多数派とは言えないことを確認した上で,社説執筆リソースなどの背景要因について検討を行った。②各紙の左右イデオロギー的論調をコーディングによって数値化し,日本の新聞論調の推移の全体像を可視化した。その上で,地方紙のリベラル傾向の論調の多様性と,新聞が論調を保守化させる要因について考察を行った。
  • 福元 健太郎, 菊田 恭輔
    2021 年 37 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/16
    ジャーナル オープンアクセス
    投票所の閉鎖時刻は原則として午後8時だが,午後4時までなら繰り上げることができる。本稿は,2009年から2013年までの衆参の選挙について,全市区町村のデータを作成し,差の差分析により,繰り上げが投票率だけでなく自民党や諸派の絶対得票率とも逆相関することを示す。さらに,前回選挙期日の降水量を操作変数として利用することにより,前回選挙の棄権率が今回選挙の繰り上げを抑制する因果的効果があることを実証する。
  • 選挙公営費の支出配分の観点から
    安野 修右
    2021 年 37 巻 1 号 p. 58-71
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/16
    ジャーナル オープンアクセス
    日本の公職選挙法は,あらゆる選挙運動を禁止するという前提のもと,合法化された選挙運動には「選挙公営」の名のもと公的助成を行っている。この制度理念の背景には,国家が選挙過程を完全にコントロールすることで,選挙の公正を確保しようという戦前の思想がある。だが現在では,一連の規制枠組が日本の選挙過程を著しく非効率なものにしているという夥しい数の批判と証拠がある。にもかかわらず,選挙法の立法裁量権を掌握する現職国会議員は,この弊害を一向に改善しようとしない。この状態は,公共経済学で議論されている「政府の失敗」に類似している。そこで本研究では,まずこうした「政府の失敗」を生じさせうる日本の選挙運動規制の特徴について説明する。そのうえで現行の選挙公営費の配分が,現職国会議員の恣意的操作の結果として,選挙運動に使途を限定した政党助成とみなせるほど不平等になっている実態を明らかにする。
  • 勝又 裕斗
    2021 年 37 巻 1 号 p. 72-85
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/16
    ジャーナル オープンアクセス
    日本で長期間にわたり用いられている中選挙区制は,同一政党内の候補者間で得票の移譲ができないため,大政党は獲得議席最大化のために候補者数を適切に調整し,その間で得票を適切に配分する必要がある。既存研究ではこの戦略の失敗を候補者数に注目して分類してきたが,この分類は票割りの失敗および共倒れという戦略の失敗の理由による分類と一致しないという問題がある。本稿は戦略の失敗を票割りの失敗と共倒れによって新たに分類し,戦後衆議院議員総選挙における自民党の戦略の失敗を分析する。その結果,票割りの失敗と共倒れはともに減少したが,それは環境の変化と戦略の向上という異なる要因によることが分かった。さらに,候補者数抑制により共倒れは減少したが,その選挙区では票割りの失敗が続いた。戦略の失敗の減少は,戦略の向上ではなく,失敗が起こりにくい競争環境の増加によるものであった。
  • 善教 将大, 木村 高宏
    2021 年 37 巻 1 号 p. 86-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/16
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では,注意喚起を目的とする警告メッセージが,サーベイ実験における読み飛ばし行為の抑止や実験結果に与える影響を明らかにする。近年,日本の政治学ではサーベイ実験を用いた研究が増加傾向にあるが,実験結果の妥当性を向上させる方法論については,研究が十分に蓄積されていない。本稿は,図書館の民間委託への選好を推定するサーベイ実験を題材に,先行研究で有効性が示された複数の警告メッセージを取り上げ,これらがサーベイ実験の結果などに与える効果を分析する。実験の結果,警告メッセージはサーベイ実験の処置効果に影響を与えるとはいえないことが明らかとなった。この知見は,警告メッセージにより実験結果の妥当性を向上させるには,メッセージの内容やそれを発するタイミングに注意すべきであること,さらには適切な実験設計が妥当な結果を得る上で何より重要であることを示すものである。
feedback
Top