本論文では,有権者による分割投票が発生するメカニズムを新たな視点から明らかにする。具体的には,有権者のリスク態度に注目しつつ,リスク回避的な有権者ほど分割投票を行う,という仮説を検証する。政権交代はしばしば急激な政策変化をもたらし,その政策変化は経済や社会に良くも悪くも不安定性をもたらす。それゆえ,そうした不安定性を嫌うリスク回避的な有権者は選挙において,改革志向の政権が大きな力をもつことを好まず,票を分割するであろう。すなわち票を分割することは,急激な政策変化がもたらすさまざまなリスクを分散させることを意味するのである。こうした観点から,経済政策と防衛政策をはじめとするさまざまな政策分野で現状変更を目指す自民党政権にさらに強固な権力基盤を与えるかどうかが問われた2013年参議院議員選挙は,上の仮説を検証する上で最適の事例となる。Japanese Election Study V(JESV)のデータを用いて分析した結果,リスク回避的な有権者は,たとえ自民党を支持していたとしても,比例区と選挙区の両方で自民党に投票する傾向が弱いということが明らかになった。