本研究では,河川水中のリンの由来を調べることを目的に,富士山麓,八ヶ岳山麓および甲府盆地の地下水,湧水,さらに河川水についてリン濃度[P]とバナジウム濃度[V]を測定した.その結果,富士山麓や八ヶ岳山麓および甲府盆地の地下水と湧水の[P]および[V]には地域性が認められた.即ち,[P],[V]共に富士山麓地域で最も高く,八ヶ岳山麓地域,甲府盆地地域では濃度が低くなった.また,これら地下水と湧水において,これらの元素濃度には正の相関性が認められた.
一方,地下水や湧水における[P]および[V]の濃度比([P]/[V]比)についても地域性が認められた.富士山麓地域の地下水と湧水中の[P]/[V]比は,八ヶ岳山麓と甲府盆地地域より小さかった.水試料中の[P]/[V]比は,富士山麓,八ヶ岳山麓,甲府盆地地域の各々に分布する岩石の濃度比に概ね等しかった.[P],[V]および[P]/[V]比には地域性があることがわかったが,これはこの地域を構成する岩石(玄武岩,安山岩,花歯岩)や地質の地球化学的影響を反映していると考えることができた.
次に,相模川と富士川の各河川での[P],[V]および[P]/[V]比は,相模川では河川上流域および集水域の地下水や湧水の特徴に概ね等しかったことから,[P]と[V]起源は,河川流域に分布する岩石や地質の地球化学的特徴として説明できた.[P]は,河川上流域の地下水もしくは湧水中の濃度より僅かに高いのみであった.富士川における[V]は,河川流域の地下水や湧水中のそれとほとんど変わらなかった.ところが,[P]および[P]/[V]比は,集水域および河川上流域の地下水や湧水中の値より極端に高かった.
河川水中の[P]のうち人為的な影響による[P]は,河川流域に分布する地下水や湧水中の[P]/[V]比がほぼ一定であることを基に,河川水の[V]から算出した[P]を河川水中の[P]から減ずることにより捕らえることができた.
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