地下水学会誌
Online ISSN : 2185-5943
Print ISSN : 0913-4182
ISSN-L : 0913-4182
65 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
巻頭言
特集「土砂災害と地下水」
論説
  • 安田 進
    2023 年 65 巻 1 号 p. 5-15
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/11
    ジャーナル フリー

    2021年の豪雨時に静岡県熱海市の逢初川で土石流が発生し,住宅地に甚大な被害をもたらした。これは一般の土石流と大きく異なり,渓流の源頭部に盛っていた捨土が降雨によって崩壊し,土石流が発生したものであった。被災後に静岡県により行われた調査によると,逢初川だけでなく隣接する鳴沢川からも地下水が流れ込んできていて,多量の水が盛り土にはいって崩壊を生じさせたことが明らかになった。また,盛り土の施工も良くなかったと推定されている。我が国における過去の豪雨や地震時の種々の土石流事例と比較したところ,熱海のケースは,崩壊土量が多く,崩壊土が渓流に流れ込む場所であったことなどが土石流を生じた原因と考えられた。

  • 釜井 俊孝
    2023 年 65 巻 1 号 p. 17-26
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/11
    ジャーナル フリー

    宅地崩壊(宅地盛土の地すべり等)の多くは,盛土中に地下水が停留するために発生する。そうした排水不良の主な原因は,地下水の実態が宅地開発の技術基準等に正しく反映されていないためである。その点で,地下水学による提言は宅地の防災減災に有効である。例えば,集水面積内の降雨処理だけを考える開発時の地下水排水計画は,流入量の過小評価に繋がる。さらに,ソイルパイプ,地下浸食,宙水が示している様に,盛土内部の地下水分布は本来的に不均質であり,それらは大きな過剰間隙水圧の発生と宅地崩壊の素因となりうる。そして,こうした事態を防ぐために,工学と理学,人文社会学という異なる学問を横断する未災学が必要とされている。

資料
  • 檜垣 大助
    2023 年 65 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/11
    ジャーナル フリー

    大規模地すべり地である高知県の谷の内地すべり地を対象に,間隙水圧変動観測結果やボーリング孔内水位変動タイプから,地すべりに影響する地下水の流動経路と地質構造との関係について検討した。その結果,当地すべり地では,流れ盤構造をなすチャート・粘板岩,深層地下水の流動経路と亀裂質のチャート層を流れる流動経路があり,これらが集中する場所ですべり面付近の間隙水圧が高くなり,地すべり移動が生じると考えられた。大規模地すべりでの地下水排除工計画のための調査では,すべり面での間隙水圧と水文地質構造に注目した地下水流動経路の把握が重要といえる。

論文
  • 柏谷 公希, 堀 太至, 山本 駿, 多田 洋平, 硲 隆太, 小池 克明
    2023 年 65 巻 1 号 p. 35-52
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/11
    ジャーナル フリー

    都市域における地域的な大気SF6 濃度の時間変化を復元する手法について検討した。京都盆地で地下水試料を採取し,トリチウム濃度とSF6 濃度の分析を行うとともに,水理地質モデルを用いて地下水流動解析と物質移行解析を行った。SF6 の物質移行解析では,補正した3種類の大気SF6 濃度の時間変化に基づいて地下水のSF6 濃度を算出し,実測値と比較した。解析で得られたSF6 濃度の計算値と実測値の誤差は,京都府の製造業事業所数に基づいて大気SF6 濃度の時間変化を補正した場合に最小となった。未補正の大気SF6 濃度の時間変化に基づいて算出された滞留時間と補正した場合の差は7〜10年であった。本手法はSF6 による地下水の滞留時間推定の高精度化に役立つ。

  • -アルカン混合成分に関する急性毒性評価-
    杉田 創, 駒井 武
    2023 年 65 巻 1 号 p. 53-66
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/11
    ジャーナル フリー

    ガソリン等石油系燃料等はそれら自身が多種類の石油系炭化水素の混合物であることから,発光バクテリアによるガソリン等の土壌汚染評価は,種類の異なる石油系炭化水素(n-アルカン等)の複合毒性評価を行うこととほぼ同義である。そこで,本研究では炭素数5から12のn-アルカンを任意に組み合わせた2成分系及び3成分系のアルカン混合物について発光バクテリアによる急性毒性試験を実施し,その結果を既往の研究で取得されているアルカン単成分の急性毒性データを用いて複合毒性影響に関する検討を行った。反応時間60分を基準として求めた実測の複合毒性値と個々のアルカンの単一毒性値を使用して計算された複合毒性値の比較から,二乗和平方根式を適用すると,単純な相加式よりも再現性が高いことが明らかになった。加えて,50%効果濃度を基準とした複合毒性値の対数値と反応時間60分を基準として求めた実測の複合毒性値の間に良好な相関関係を見出した。

技術報告
  • 長野 倖介, 辻村 真貴, 恩田 裕一, 岩上 翔, 榊原 厚一, 浅井 和由
    2023 年 65 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/11
    ジャーナル フリー

    湧水中の六フッ化硫黄(SF6)濃度の時間変化とその要因を明らかにするため,福島県川俣町の山地源流域にて,現地水文観測とSF6濃度等の分析を3年間実施した。無降雨時,湧水のSF6濃度は3.6 fmol/Lから4.6 fmol/L,湧水温は8.0 ℃から13.2 ℃の範囲で変動した。また,湧水のSF6濃度は湧水温が高いほど低い傾向を示したが,湧水温の変動幅が小さいため,流出時の大気接触の影響は小さいと判断された。さらに,湧水の流量が0.15 L/s以下では,流量が多いほどSF6濃度が高い傾向がみられた。このことは,低流量条件下では流量が多いほど,相対的に若い地下水の寄与が多いことを示唆している。また,湧水のSF6濃度は大気濃度から4年程度の遅れを伴って,経年的な上昇が示された。

訪問記
feedback
Top