北海道・幌延地域の深部地下水における酸化還元電位の測定値を整理し,その測定および熱力学的解釈における不確かさの評価方法を検討した。地下研究施設の坑道より掘削されたボーリング孔を利用して測定された地下水の酸化還元電位はおおむね-250~-100mVの範囲にあり,経時変化を示すものの,坑道掘削による影響は直接的には及んでいないことが示唆された。地下水の酸化還元状態はSO42-/ FeS2,SO42-/HS-およびCO2(aq)/CH4(aq)の酸化還元反応に支配されており,その平衡電位との比較から,Eh測定値の不確かさを±50 mV と設定することが適切であると考えられた。
複数の環境トレーサー分析と地球統計学の活用により,地下水と表流水の交流状態を定量的に把握する手法を構築することを目的に,京都盆地北東部に位置する鴨川および高野川周辺をモデルサイトとした検討を行った。地下水試料,河川水試料の分析結果にordinary krigingを適用したところ,河床周辺の帯水層には周囲の地下水に比べて塩化物イオン濃度が低く,酸素同位体比が軽い地下水が分布することが明らかとなり,河川水の浸透範囲を特定することができた。また,ラドン濃度に基づいて河川への地下水流入速度を算出したところ,鴨川と高野川の合流点付近で流入速度が最大(36.5m3/m/day)となり,河川水における地下水の混合率は鴨川で14%,高野川で35%と推定された。
2011年3月11日の東北地方日本海溝付近で起こった大地震に伴う巨大津波の襲来によって,特に三陸岸部の市町村の水道水源や農業用水及び家庭用水のための不圧地下水が深刻な海水汚染を受けた。津波の海水による地下水汚染は,最近20年間にインド洋や太平洋沿岸部においていくつか起こっている。本稿ではこれまでの津波の海水による地下水汚染の関連研究と三陸沿岸部特定試験地の試験井戸の観測と室内実験結果の解析から,不圧地下水の海水汚染の実態および汚染地下水の回復過程を考察し,今後の課題について検討した。
東日本沿岸における津波堆積物の性状と地球化学的特性を中心に,津波堆積物に含有する重金属類や塩分の組成について表層土壌や海底堆積物と比較した結果について述べた。また,現場調査の結果として得られた各種分析データを用いてリスク評価を行い,地下水および土壌環境への影響について考察し,津波堆積物のリスク管理の在り方について検討した。津波堆積物では土壌と比べて砒素および鉛の含有量,溶出量が高く,地下水飲用の制限等が必要な場合もあった。一方,多くの場合では,所定のリスク管理を実施した後に津波堆積物を復興資材として活用可能であることが分かった。
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に続いて発生した津波による千葉県旭市沿岸部における地下水とその利用への影響について,津波7年後までの調査結果を報告する。津波2か月後に広域で認められた電気伝導度(EC)の高い地下水(最大値16,008μS/cm)は,2018年2月には1000μS/cm以下に低下した。ECの低下曲線から,本地域における地下水の滞留時間は2.4~4.6年と推定された。津波2年後以降,土壌からの成分の溶出が原因と推定される薄黄色を呈する地下水が増加し,2018年においても広く分布している。津波による井戸の構造的被害は少なく,2か月以内には揚水が再開され,1年後までには飲用を再開した井戸が多かった。しかし,2年後以降,着色が認められるようになると飲用を再開した36本の井戸の内,32本の井戸が飲用を再度中止され,現在では着色が大きな利用障害となっている。アンケートの結果,住民の飲用としての地下水利用希望は強く,公的補助による水質検査と地下水に関する情報が最も必要と感じていることがわかった。これまでの調査により,将来の津波による地下水利用への被害軽減のためには,井戸蓋の完全防水化,湛水した海水や海水蒸発残留物の除去,および津波後の井戸の継続揚水などが効果的であることが示唆された。
福島県北部沿岸から内陸部を対象として実施している調査地点の中から,津波の浸水被害を受けた地域の特徴的な2地点の湧水を例として挙げて,時間経過に伴う水質等の変化について示した。両地点のECや水温,溶存成分,安定同位体などの変化の結果,比較的,地下の浅い部分を流動していると思われる湧水では津波の影響が水質にもあらわれていたが,影響は徐々に減少していることが示された。一方,より標高の高い内陸部で涵養されたと予想される滞留時間の長い湧水では津波の被害は殆ど生じておらず,震災以降ほぼ一定した水質組成を示していることが明らかとなった。沿岸域における復興事業などに伴う水質変化などを把握するためにも,継続的な調査が重要であると考えられる。