本研究の目的は,痴呆性高齢者を対象に生活史の聞き取りとその作品化の試み,さらにその結果のケアへの活用を試みることである.対象者は老人保健施設に入所する78歳の脳血管性痴呆の女性(HDR-S7点,2002/3)であり,記憶障害や見当識障害が顕著で,落ち着かず「どうしたらいいかわからない」と常に他者に話しかけている.2002年4月から1か月半,それぞれ約30分程の面接を計12回行った.調査方法は,生活史の整理,トピックスによる生活史構成,準拠する年齢の検討,ケアへの活用の具体策検討とした.これら生活史の構成を通し,次の5つの視点,(1)農業とのかかわり,(2)Y 氏の言う性分,(3)農家の女性として長く生きてきたこと,(4)感情を湧き起こすこと,(5)準拠年齢の存在,これらをケアに活用することを試みた.結果,Y氏の不安定な状態が軽減するとともに他者にも関心をもつなどの変化がみられ,痴呆性高齢者に対するケア実践という面では生活史の有効性を示し得たと考えられる.
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