老年看護学
Online ISSN : 2432-0811
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最新号
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巻頭言
特集1:臨床家が「老年看護学」に論文を投稿することの意義
特集2:認知症の当事者の方からの看護師への期待
特集3:COVID-19緊急事態宣言の経験から考えること
原著
  • 岩本 陽子, 平松 知子, 村角 直子
    2022 年 27 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,認知機能の低下によってインスリン自己注射の介助が導入された時期の高齢者の状況と,そのような高齢者へ行っている看護援助を明らかにすることである.この時期の高齢者の看護援助経験のある看護師23人に半構造的面接法によるデータ収集を行い質的記述的に分析した.その結果,看護師のとらえた高齢者の状況として【血糖コントロールにつながるインスリン自己注射はできていない】【いまはインスリン自己注射はできているつもりでいる】【インスリン自己注射に関して周囲や家族と距離をおいてやっている】【介助の導入を自分なりに納得して受け入れる】の4カテゴリー,看護援助として【認知機能の低下でインスリン自己注射ができなくなることを想定して関わる】【自宅でインスリン自己注射が継続できる方法を検討する】【家族からインスリン自己注射の介助が受けられるよう働きかける】【納得できる自己決定を支援する】の4カテゴリーが抽出された.高齢者の思いを尊重しながら介助を導入する援助の必要性が示唆された.

  • 小西 円, 佐々木 八千代, 白井 みどり
    2022 年 27 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,尿意を表出できる施設入所高齢者の中途覚醒時間等と夜間おむつ交換との関係を明らかにすることを目的に,女性高齢者5人を対象に排泄状況や睡眠変数等のデータを2週間収集した.対象者は90~97歳,NMスケール37~27点,N-ADL 29~15点,日中はトイレとおむつを併用し,夜間は尿意の訴えはなく,定時のおむつ交換を1晩に2回受けていた.対象者別の中途覚醒時間の中央値は33.0~114.5分で,中途覚醒時間の年代別基準値80分未満は3人であった.この3人では1時間あたりの中途覚醒時間は22時ごろまでに減少,5時ごろから増加する傾向を確認したが,残る2人にこの傾向はなかった.おむつ交換前後の睡眠状態に関するデータは2週間で28回/人得られ,交換前に覚醒状態で交換後に睡眠状態は4人に2~4回/人,交換前に睡眠状態で交換後に覚醒状態は1人に8回確認された.高齢者によって中途覚醒の傾向は異なり,夜間のおむつ交換は入眠,中途覚醒いずれの要因にもなると考えられた.

  • 看護の専門的自律性とアサーティブ・コミュニケーション能力向上への介入効果の評価
    長尾 匡子
    2022 年 27 巻 1 号 p. 46-56
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

     終末期医療での高齢者の意思決定支援においては,看護の専門的自律性とコミュニケーション能力が不可欠である.そこで,「看護の専門的自律性を基盤としたアサーティブ・コミュニケーション能力向上プログラム(PAN-AC)」を開発し,一般病院の看護師に実施して効果を評価した.講義やグループ討議を内容とするプログラム全4回に参加した32人を分析対象とし,介入前後の測定値でWilcoxon符号付順位検定を行った.「看護の専門的自律性」を評価する看護の専門的自律性測定尺度は,下位因子「認知能力」「実践能力」が介入前に比して介入後は有意に高値となった.「アサーティブ・コミュニケーション能力」を評価する日本語版RASは,下位因子「非主張的な自己表現」が介入前に比して介入後は有意に高値となった.プログラムが,終末期医療における高齢者の意思決定支援に有効との示唆を得た.

資料
  • 役割葛藤,役割の曖昧さと組織要因への影響
    祥雲 直樹
    2022 年 27 巻 1 号 p. 57-65
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

     介護老人保健施設(以下,老健)に勤務する看護職の職務に対する肯定的な心理状態であるワーク・エンゲイジメントが,役割葛藤や役割の曖昧さ,組織要因であるキャリア支援体制,転職者の受け入れ体制に与える影響を明らかにすることを目的で調査した.

     東北地方にある老健に勤務する看護職を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.ワーク・エンゲイジメントが,役割葛藤や役割の曖昧さ,組織要因に与える影響をパス解析により検証した.

     老健に勤務する看護職のワーク・エンゲイジメントは,職場継続意思(β=0.20,p<0.001)とキャリア支援体制(β=0.20,p=0.024)に,役割の曖昧さはキャリア支援体制(β=-0.02,p=0.001)に,役割葛藤は職場継続意思(β=-0.03,p<0.001)に直接影響を与えていた.ワーク・エンゲイジメントを向上させることで役割葛藤や役割の曖昧さを低下させ,職場継続につながること,また,キャリア支援を享受する素地を醸成させることができると考えられる.

  • 八木 良子, 谷口 由佳, 沼本 教子
    2022 年 27 巻 1 号 p. 66-72
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,農村地域の心不全を抱える高齢者が農作業継続を望む要因を明らかにすることである.心不全を抱えながら農作業に従事している7人を対象に半構造的インタビューを実施し,質的記述的に分析した.その結果,【自分が望む生活を送りたいという思い】【これが自分の運命だという自覚】【社会的役割や地域での居場所づくりという意味】の3の大カテゴリーが生成された.農村地域の高齢者にとって,農業は【自分が望む生活を送りたいという思い】をかなえる手立てとなっていた.高齢者は【これが自分の運命だという自覚】の下,農業とともに生活を送ってきた.また,農業を通した家族のつながりや他者との交流は,【社会的役割や地域での居場所づくりという意味】をなしてきた.心不全を抱えながらも自分らしい生活の実現に向け,農作業継続を支えていくことや,地域社会とのつながりや居場所をもち続けられるよう支援していく必要があると考えられた.

  • 兼田 絵美, 福嶺 初美, 上城 憲司
    2022 年 27 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,体力測定会に参加した地域在住男性高齢者(348人)を対象とし,前期・後期高齢者別の抑うつ傾向と生活機能の関連を明らかにすることを目的とした.前期高齢者を抑うつ傾向群(32人),非抑うつ傾向群(93人)に分類し各測定値を比較した結果,抑うつ傾向群は非抑うつ傾向群に比して,運動時間,眼球注視時間,移動機能,注意機能,手段的日常生活動作(IADL)能力が有意に低値であった.後期高齢者を抑うつ傾向群(58人),非抑うつ傾向群(165人)に分類し各測定値を比較した結果,抑うつ傾向群は非抑うつ傾向群に比して,運動時間,筋肉量,体脂肪率,骨格筋指数,移動機能,IADL能力が有意に低値であった.抑うつ傾向を示す男性高齢者は,年代に共通して運動時間,移動機能,IADL能力を,年代別では,前期高齢者は眼球注視時間,注意機能を,後期高齢者は筋肉量,体脂肪率,骨格筋指数を考慮した保健指導の必要性が示唆された.

  • 内田 絵美子, 加藤 真紀, 原 祥子
    2022 年 27 巻 1 号 p. 80-87
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,終末期高齢がん患者のその人らしさを支える看護実践を明らかにすることである.

     緩和ケア病棟看護師5人を対象に半構造化面接を行い,質的統合法(KJ法)で分析した.

     終末期高齢がん患者のその人らしさを支える看護実践は,患者の言葉や姿といった【揺るがない側面への着目】を基盤とし,【患者が望む生活の実現に向けた調整】と並行して,【患者の力でやり抜く調整:生活環境を整える】と【患者の力でやり抜く調整:行動を見守る】の両面から行われていた.一方,患者の病状や老いの進行に伴い,患者が貫いてきたことがかなわなくなる局面では,それまでの【患者の力でやり抜く調整】から転じて,【看護の転換:他者の力を借りるという考えを後押しする】を行っていた.また,これまでの長い人生経験のなかで大事にしてきた患者の【価値観を受け止め,意をくむ】を行いつつ,看護師がとらえた【患者らしさを家族と共有する】ことによって,その人らしさを支えていた.がんや老いが進む状況においても終末期高齢がん患者の揺るがない側面に着目していくことで,その人らしさを支え続けることは可能であることが示唆された.

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