老年看護学
Online ISSN : 2432-0811
Print ISSN : 1346-9665
25 巻, 2 号
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巻頭言
特集 「日本老年看護学会第25回学術集会」
会長講演
特別講演
教育講演
編集委員会企画;査読者賞
原著
  • 態度形成に向けた介入効果の評価
    谷口 由佳
    2021 年 25 巻 2 号 p. 29-38
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,意思疎通不可能な高齢者の終末期ケアに取り組む看護職を対象にしたよりよい終末期ケアを目指すための教育プログラムを開発し,その介入効果を評価することを目的とした.教育プログラムの構成要素である「死生観」「ケア意欲」「ケアの意義」「感情処理」を評価指標とし,既存の尺度を用いて測定した.全4回の教育プログラムのすべてに参加した療養病床の看護職40人を分析対象とし,介入前・介入中・介入直後・介入2か月後の測定値について反復測定分散分析を行った.「死生観」を評価する「看護師の死生観尺度」(岡本ら,2005)の第Ⅱ因子「死の不安」(p=.030)と第Ⅲ因子「身体と精神の死」(p=.010),および「ケア意欲」を評価する「看護師の仕事意欲尺度」(佐野ら,2005)の下位尺度「現在の仕事に向ける意欲」(p=.005)で有意な変化がみられ,死生観の深化とケア意欲の向上において,教育プログラムの有効性が示唆された.

  • 大河原 啓文, 深堀 浩樹, 遠藤 拓郎
    2021 年 25 巻 2 号 p. 39-50
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     高齢者施設から急性期病院への避けられる救急搬送や入院は,入居者のQOL(quality of life;生活の質)の向上や医療資源の効率的活用のために予防することが望ましい.本研究は,回避可能な救急搬送・入院を予防する介入の有効性と実行可能性に関する有料老人ホーム施設長の認識を明らかにすることを目的とした.首都圏A市の有料老人ホーム150施設に自記式質問紙を郵送し,55施設(36.7%)から回答を得た.文献検討から作成した回避可能な救急搬送・入院を予防する介入15項目について有効性は高く認識されていた(67.3~87.3%).15項目すべてにおいて実行可能性よりも有効性の方が高く認識されていた.最も有効と認識された項目は,看護師と医師の「情報連携のためのコミュニケーションツール(87.3%)」で,平均要介護度が高い施設でより有効と認識された(p=0.039).実行可能性が低いと認識された項目は「高齢者ケアに関する知識や技術のある看護師の雇用(20.0%)」であった.日本の有料老人ホームにおいて回避可能な救急搬送・入院を予防する介入の導入や介入研究の実施のために,介入内容の実行可能性を高める必要性が示唆された.

  • 小西 円, 白井 みどり
    2021 年 25 巻 2 号 p. 51-60
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     高齢者の睡眠改善を目指したおむつ交換方法への示唆を得ることを目的に,介護保険施設1施設で一律定時に行われる夜間のおむつ交換回数を2回から1回に減らし,睡眠変数の変化からその効果と高齢者の特徴を検討した.ベースライン期と介入期の各2週間,アクティグラフによる睡眠変数や温度等の環境を24時間連続で測定した.対象者は女性13人で,年齢92.3±7.3歳,NMスケール9.9±7.1点,N-ADL 9.8±3.5点であった.健康状態や環境は観察期による差はなかった.全対象者の睡眠変数の中央値は観察期による差はなかったが,最大・最小値の差は大きかった.対象者の平均年齢から算出した中途覚醒時間の推定値80分を基準とし,介入期における基準値以上の日数の減少の有無により対象者の特徴を検討した.減少あり群は7人で,NMスケールは有意に高く(p=.026),N-ADLは高い傾向がみられ(p=.050),夜間のおむつ交換回数を減らす介入効果は,認知機能やADLのレベルとの関係が推定された.本研究の結果から,施設入所高齢者の睡眠改善に向けた排泄援助の検討では,認知機能やADLを考慮する必要があることが示唆された.

  • 冨岡 幸子, 出貝 裕子, 大塚 眞理子
    2021 年 25 巻 2 号 p. 61-70
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,85歳以上で腎硬化症により血液透析を導入した超高齢者の現在の生活と心情を,血液透析導入前との対比をもとに明らかにすることである.3人の超高齢者に半構造化面接を行い質的帰納的に分析し,7カテゴリーを得た.超高齢者は,血液透析導入後には健康状態が安定し【心身の安寧により生活を満喫している】生活を得ていた.その生活には,【無理のない自分なりの自己管理をしている】【周囲の人々と支え合いながら役割を果たしている】【有り難く恐縮して公的サポートを受ける】の3つが相互に関連し合い,血液透析導入後に生活の質が向上していた.さらに,【身体の衰えに対処する周囲と自分を残念に思う】【人生の終末期に心揺れつつも希望を抱く】【変わらない自分がいる】という心情があった.これは,生活に変化があっても変わらない自分自身に対する心情であり,超高齢期にあっても自我を発達させていると示唆された.

  • 前田 優貴乃, 勝野 とわ子
    2021 年 25 巻 2 号 p. 71-79
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,急性期病棟に勤務する看護師の認知障害高齢者に対するパーソン・センタード・ケアを目指した看護実践に,看護師の基本属性や経験,個人特性,看護労働環境が,どのように関連し,影響しているかを明らかにすることを目的とした.急性期病棟に勤務する看護師329人を対象に,自記式質問紙調査を実施した.認知障害高齢者に対する看護実践を従属変数,看護師の個人特性と看護労働環境を独立変数として重回帰分析を行った.その結果,看護実践と関連がみられたのは,影響の強い順に,道徳的感受性,看護に対する自分自身での振り返りの頻度,看護労働環境,認知症やせん妄に関する研修や勉強会への参加経験の有無,専門職チームや老人看護専門看護師・認知症看護認定看護師等への相談経験の有無,認知症の人に対する認識,看護に対する他者との振り返りの頻度の7要因で,分散の30.7%が説明された.看護師への倫理教育の質の向上,看護師自身が意欲をもち自身の看護実践の省察を継続的に行う必要性が示唆された.さらに,看護師の意欲と行動を支え専門性を発揮できるような労働環境の調整などを組織的に行うとともに支え合うケア文化を醸成することの重要性が示唆された.

資料
  • 国内外の文献検討の結果から
    石井 優香, 深澤 友里, 大澤 侑一, 鳥海 幸恵, 正木 治恵
    2021 年 25 巻 2 号 p. 80-88
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,文献検討により身体疾患のために入院した認知症のある人の経験を,認知症のある人の言動から探求することである.2004~2019年8月に発表された質的研究を検索した.日本語の文献は医学中央雑誌WebとCiNiiを用いて,英語の文献はCINAHLを用いて,「認知症」「入院」「経験」とその類語をキーワードとして検索し,日本語の文献は計2件,英語の文献は計10件抽出された.

     文献の結果に記述された「身体疾患のために入院した認知症のある人の経験」について質的帰納的に分析し,【スタッフの対応が安心にも脅威にもなる】【自分のおかれた不慣れな状況に対して動揺し不安を抱く】【自由を奪われ人としての価値が低められる】【他患者との関わり方を選んで過ごす】【日常から遮断されても生活に豊かさを求める】【体調や受けるケアに対して自律的であろうとする】【慰めや平穏をもたらす家族を支えにする】という7カテゴリーが得られた.

     この結果は,認知症のある人の入院中の言動が,どのような理由で生じているかを看護師が理解するために活用できるものである.

  • 植山 さゆり, 大坪 智美, 服部 ユカリ
    2021 年 25 巻 2 号 p. 89-97
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     下肢閉塞性動脈硬化症のバイパス手術後の高齢夫婦二人暮らしの日常生活体験を明らかにすることを目的とした.夫婦二人暮らしの3組に半構成的面接を行い,質的統合法(KJ法)により分析した.患者は[将来に備えた生活基盤の構築]を支えに,[暮らしのなかで感じる手術の効果]を得,同時に[自己決定による手術後の足を守る行動]をとっていた.一方で[将来への不安]を抱えていた.配偶者は[手術後の患者に対する肯定的な思い]を抱き,[ライフスタイルの転換]と[自分なりの健康管理]を基盤に[家庭生活の維持]をする一方で,患者同様[将来への憂い]を抱えていた.

     患者は,配偶者の協力を得ながら,けが予防,下肢の保護,定期受診,服薬管理,症状の観察という自分が生活するうえで実施可能なことを選択し,病気の悪化を予防していた.しかし,必要なことすべてが実施できるわけではないため,生活者である患者の思いをとらえ,入院中から患者と共に実施可能性の高い健康管理方法を見いだす指導が重要である.

  • 萩田 妙子, 大村 光代
    2021 年 25 巻 2 号 p. 98-106
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     研究の目的は,生活の場である特別養護老人ホーム(以下,特養)で看取りを実践する看護師が経験的にとらえている,高齢者の看取りの予後を予測するための情報を項目化し,その内容妥当性を統計学的に検討することである.

     文献等から看取りの4つの時期を予測するための情報となる項目の原案を作成した.看取りのエキスパートである看護師数人の協力を得て精錬を重ねた全62項目について,特養に勤務する看取り経験豊かな看護師202人を対象として,自記式質問紙調査を実施し,内容妥当性指数(I-CVI)を用いて,量的に内容妥当性を検討した.

     72人の有効回答を得て(回収率36.6%,有効回答率97.2%),I-CVI≧0.80の43項目について内容妥当性が確認された.

     項目の特徴は,看護師が入居者の生活に関わるなかで身体徴候の変化を経時的にとらえている情報であること,客観的数値で測定しにくい情報も経験知を基に直感的な観察によって得られていることである.本研究で確認された43項目は,看取りの4つの時期を予測し看取りを実践するための看護師の判断の指標になっていることが示唆された.

  • 保健医療福祉従事者の職種別比較
    兼田 絵美, 福嶺 初美
    2021 年 25 巻 2 号 p. 107-114
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究では,認知症高齢者ケアに携わる保健医療福祉従事者(78人)を対象とし,認知症の行動・心理症状(BPSD)対応の基礎知識向上研修会参加によるBPSD基礎知識およびメンタルヘルスに与える影響を検討し,研修会の有用性を明らかにすることを目的とした.

     研修会前後の各測定値を比較した結果,BPSD基礎知識,バーンアウト(MBI)の情緒的消耗感,個人的達成感に有意な改善が認められた.一方,精神健康度(GHQ),疲労度に有意差は認められなかった.職種別(看護師,作業療法士,相談職,介護職)の比較では,BPSD基礎知識は看護師のみに,バーンアウトは情緒的消耗感が看護師,作業療法士に,個人的達成感はすべての職種に有意な改善が認められた.

     本研究では,研修会の参加によるBPSD基礎知識の向上およびバーンアウトの改善効果が明らかになった.特に看護師の効果が顕著であったことから,職場外に自己研鑽やメンタルヘルスのサポートを受ける場をもつことの有用性が示唆された.

  • 安仁屋 優子, 佐久川 政吉, 下地 幸子
    2021 年 25 巻 2 号 p. 115-122
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,地域包括ケアシステムを開発するための基礎調査として,高齢者がとらえる小地域の環境のストレングスを明らかにすることである.

     人口4,000人規模の小地域在住の高齢者へのアンケート調査のなかから,高齢者がとらえている環境のストレングスに焦点化し分析した.その結果,キーセンテンスが93,サブカテゴリーが18,カテゴリーが7つ抽出された.

     高齢者がとらえる小地域の環境のストレングスは,資源と社会関係に関連していた.資源としてのストレングスは,【利便性のある生活環境】に恵まれ,【安心・安全な街並み】で,【子どもを育みやすい文教地区】のよさがあり,多世代が【住民の拠点である公民館】に集まり【活発で豊富な活動】が挙げられていた.社会関係のストレングスは,【多様性のあるつながり】と【根づいている地縁】がとらえられていた.今後は個人に加え環境のストレングスにも着目した地域包括ケアシステムを構築していく必要がある.

  • 淡路 深雪, 長畑 多代, 九津見 雅美
    2021 年 25 巻 2 号 p. 123-131
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,特別養護老人ホーム(以下,特養)における夜間のオンコール体制に着目し,オンコール時における看護師の判断と対応の詳細を明らかにすることを目的とした.従来型特養に3年以上勤務する看護師6人を対象に半構造化面接を実施し,質的記述的に分析した.オンコール時の看護師は,≪目の前にいない利用者の不調の原因を探る≫≪利用者の不調が朝まで様子をみてもいい状態か検討する≫≪判断がつかないため利用者の安全が最優先される対応をとる≫など,【利用者の安全と安楽を守るための判断と対応】を行うと同時に,≪冷静に対応できるような助言をする≫≪介護職の業務に支障が出ないように考慮する≫など,介護職が安心して業務を遂行できるよう【ケアを担う介護職をサポートするための判断と対応】も行っていた.特養の看護師は夜間オンコール時,介護職との電話でのやり取りを通して利用者の安全と安楽を守る判断を行うとともに,ケアを担う介護職にも配慮するという特徴が見いだされた.

実践報告
  • 齋藤 美華, 佐藤 千穂
    2021 年 25 巻 2 号 p. 132-139
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     学生主体による高齢者の身体拘束に関する演習を老年看護方法論に導入し,その学びの内容を明らかにすることを目的とした.

     ベッド柵,シーツ,ミトン,上肢抑制帯を使用し,高齢者,家族,看護師の役割を体験するグループ間の演習を行った.

     A大学看護学科3年次学生61人の演習後のレポートを質的に分析した結果,【身体拘束による高齢者および家族,看護師にとっての苦痛の実感】【身体拘束をしないことの重要性の実感】【身体拘束を行ううえでの配慮や工夫の必要性の実感】【身体拘束の必要性の実感】【身体拘束の実際の想起による苦痛や倫理的問題の実感】【身体拘束を考えるにあたっての老年看護の基本の再確認】の学びが抽出された.

     学生は,高齢者や家族および看護師の立場から苦痛を実感することで身体拘束をしないことの重要性を学ぶ一方で,身体拘束を肯定した学びを行っていた.実習場面において学生の経験を引き出しながら批判的思考が学習できるよう関わること,身体拘束に対する意識づけを繰り返し図ることの重要性が示唆された.

  • 瀧本 まどか, 谷口 珠実
    2021 年 25 巻 2 号 p. 140-146
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

     今回,重度アルツハイマー型認知症があり,尿意や尿失禁を訴えず,排泄介助を払いのける動作が認められる90歳代女性入院患者に対し,膀胱用超音波画像診断装置リリアムα–200®(以下,リリアム)を用いて下部尿路機能評価と超音波支援排尿誘導(USAPV)を実践し,トイレで排尿ができた成功事例を報告する.USAPVの方法は,膀胱内尿量を24時間連続計測し,下部尿路機能評価および最大膀胱内尿量の75%を目安に排尿誘導を行い,排尿誘導の看護実践内容と対象者の反応を記述した.リリアム装着中は,プローブや本体を気にする様子はみられず,3回中2回はトイレで排尿ができた.下部尿路機能は,24時間尿量1,832 ml,排尿回数7回,平均1回尿量262 ml,残尿量21 mlであった.排泄介助を拒む重度認知症患者であっても,リリアムを用いて下部尿路機能評価とUSAPV実施によりトイレで排尿ができることが示された.

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