老年看護学
Online ISSN : 2432-0811
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25 巻, 1 号
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巻頭言
特集 高齢者の生き方や人生を尊重した意思決定支援とアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を支える看護師の役割
原著
  • 林 真二, 小西 美智子
    2020 年 25 巻 1 号 p. 24-34
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,地域高齢者の虐待を早期に把握するため,民生委員が使用する高齢者虐待チェックリストを開発することである.先行文献から虐待サインの項目を精選したチェックリスト案をA県B町の民生委員48人に配布し,内容妥当性を確認した.次に,A県C市の虐待担当部署の地域包括支援センターおよび保健センター専門職108人を対象に郵送法による質問紙調査を行い,信頼性・妥当性を検討した.探索的因子分析の結果,【家族介護力の低下】【高齢者の生活行動が不自然】【本人の訴え】【所在の不確定】の4因子から構成され,全体のCronbach α係数が0.897となり,信頼性が確認された.構成概念妥当性をみるため確認的因子分析を行い,モデルの適合度はGFI=0.917,AGFI=0.884,CFI=0.934,RMSEA=0.058であった.民生委員用高齢者虐待チェックリストは19項目からなり,虐待の予兆を把握し,専門職へのつなぎの情報ツールとしての活用が可能である.

  • 茅野 久美, 谷口 珠実
    2020 年 25 巻 1 号 p. 35-44
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     高齢者虐待防止のためのストレス対策への示唆を得るため,介護老人保健施設の看護職および介護職のエイジズム,ストレスと感情労働の関連を明らかにすることを目的とし,無記名自記式質問紙調査を行った.測定尺度は,日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版,陰性感情経験頻度測定尺度,感情労働尺度を用い,階層的重回帰分析を行った.その結果,感情労働の「ネガティブな感情表出」に対して,「(高齢者の)わがままや過度な訴えに対する陰性感情」というストレスが強い関連(β=.515,p<.01)を示し,エイジズムの関連は示されなかった.一方,ストレスに対してはエイジズムの「回避」が最も強い関連(β=.373,p<.01)を示した.以上の結果より高齢者に対して怒りを表出する傾向の「ネガティブな感情表出」を軽減するために,いらだち等の陰性感情を調整する能力を高める重要性が示された.また,「回避」を軽減することで,ストレスの発生防止につながる可能性が示唆された.

  • 入院1週間に焦点を当てたせん妄発症の有無による分析
    澤田 知里, 山田 律子
    2020 年 25 巻 1 号 p. 45-56
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     研究目的は,急性期病院における認知障害高齢者の転倒に繋がりうる行動とその背景にあるニーズを,転倒発生の多い入院1週間に焦点を当ててせん妄発症の有無により分析し,明らかにすることである.対象者は,急性期病院に入院した認知障害高齢者9人であった.方法は参加観察法である.転倒に繋がりうる行動が観察された際に本人のニーズを聞き取り,ケアによって行動が落ち着いた場合を真のニーズとしてとらえ,行動を意味・内容ごとに分類した.その結果,非せん妄時では,転倒に繋がりうる行動は7項目観察され,その背景にあるニーズは“生理的欲求・習慣”“身体的苦痛・不快”“精神的ストレス”の3カテゴリーであった.行動の背景には本人の明確な意思があり,その意向が尊重されないことによるストレスを抱えていた.せん妄発症時では,転倒に繋がりうる行動5項目と“現状認識困難による不安”“身体的苦痛・不快”の2カテゴリーのニーズが見いだされ,ひとりでいることへの不安や,治療や疾患から生じる複数の苦痛があった.本人の意思を尊重した生活支援や,身体的苦痛・不快や不安への早期介入による転倒予防の可能性が示唆された.

  • 久米 真代, 高山 成子, 磯 光江, 大津 美香, 渡辺 陽子
    2020 年 25 巻 1 号 p. 57-67
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,血液透析時間の経過と血圧低下に伴う認知症高齢者の言動の変化と,言動から評価した苦痛の程度について明らかにしたうえで,看護実践への示唆を得ることである.対象者は血液透析を受けている認知症高齢者11人(男性2人,女性9人)である.対象者1人につき筆者ら2人が1回,入室から終了までを3分間隔で観察し30分間隔で血圧の値を収集した.苦痛の程度は,調査者作成の苦痛度基準に基づき評価し,時間経過に沿って一覧表で示した.その結果,全員に血液透析の継続に支障をきたす苦痛が1回以上出現し,4人は透析終了前1時間~30分の間に苦痛度が高くなっていた.また10人(91%)は穿刺時に「痛い」と叫びながら,もしくは黙ってシャント肢を動かさず穿刺が終了するまで耐えていることが明らかとなった.これらの結果から看護師は,観察・ケア重点時間を設定すること,認知症高齢者の耐える力を信じ,穿刺時にいまから穿刺することを説明する必要性が示唆された.

  • 木谷 尚美
    2020 年 25 巻 1 号 p. 68-77
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,初期認知症の人が老年期の発達課題である「人生の統合性」を獲得するための看護支援プログラムの効果検証である.初期認知症(MCIおよび認知症の初期)の15人を対象に,計6回からなる「現在・過去・未来を語り,オレンジノートに遺す支援プログラム」を実施した.対象者の平均年齢は80.7±7.0歳,MMSE(ミニメンタルステイトテスト)の平均得点は25.3±2.8点であった.診断名はMCI(軽度認知障害)5人,アルツハイマー型認知症9人,脳血管性認知症1人であった.日本語版E.H. エリクソン発達課題達成尺度(老年期部分)を用い,介入前後で測定した.介入前の尺度の得点は39.1±4.9点であり,40点以上を高得点群,40点未満を低得点群とし,両群を比較した.その結果,低得点群において介入後に統計学的に有意に上昇した(P=.007).高得点群においては介入前後で差はみられなかった.本介入は,特に低得点群の人生の統合性の獲得を目指した看護支援プログラムとして有効であると考えられた.

資料
  • 藤江 さとみ, 竹田 裕子, 加藤 真紀, 原 祥子
    2020 年 25 巻 1 号 p. 78-86
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,救命救急病棟でせん妄を発症した高齢患者に付き添う妻がどのような体験をしているかを明らかにすることである.救命救急病棟でせん妄を発症した高齢患者に付き添う妻6人を対象に半構造化面接を実施し,質的記述的に分析した.その結果,【せん妄症状に心がかき乱される】【夫の状況を自分なりに解釈してみる】【病棟の環境に気を遣いながら夫の対応をする】【制限を受けている夫をかわいそうに思う】【状態が悪くならないように動くことをがまんさせる】【夫婦での今後の生活を案じる】の6つのカテゴリーが抽出された.妻は夫の言動の意味を共にすごしてきた夫婦の歴史から紐解いていたことが推察される.そして,妻が夫のことを理解してあげられる存在としてなにかしたいという思いがあることがうかがえた.看護師は妻と共にできる援助があればいっしょに行い,妻の行為が夫のせん妄の回復に寄与していることを伝えていくことが妻への支援につながるのではないかと考える.

  • 開放型病床での看護実践の質的分析
    丸山 優, 田中 敦子, 水間 夏子, 大塚 眞理子
    2020 年 25 巻 1 号 p. 87-96
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究は,急性期病院の開放型病床における認知症高齢者への看護の構造を明らかにした.開放型病床に勤務する看護師4人を対象にグループインタビューを行い,逐語録をデータとして質的に分析した.その結果,開放型病床に入院した認知症高齢者への生活の継続を見据えた看護は【認知症高齢者の早期退院に向けた理念と使命の共有】と【盤石なケア体制】の2カテゴリーを支持基盤として,時間軸を踏まえた【認知症高齢者の入院生活への適応に向けた調整】【認知症高齢者の自立支援と介護負担の軽減】【認知症高齢者の自宅退院に向けた査定】【退院に向けた家族の整え】【他職種・他部門・多機関との協働】【退院前の認知症高齢者・家族,専門職者の合意形成】の6カテゴリーの実践から構成されていた.開放型病床の看護師は,院内外の専門職と連帯性ある立ち位置で認知症高齢者の生活の経過を俯瞰して,認知症高齢者を生活者としてとらえ,継続的な情報収集と院内および多機関の多職種との対話を繰り返し,認知症高齢者の全身状態の回復と心身の自立に向けて取り組んでいると示唆された.

  • 介護老人福祉施設に入所する認知症高齢者の家族の場合
    牧野 公美子, 杉澤 秀博, 白栁 聡美
    2020 年 25 巻 1 号 p. 97-105
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,介護老人福祉施設内での看取りを認知症高齢者に代わって決断した家族が看取りに至るまでの過程で経験する精神的負担,および代理意思決定に対する想いに影響する要因を明らかにすることである.家族16人に対する半構成的面接のデータを,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.分析の結果,家族は施設内看取りの決定時期には,選択の迷いと高齢者本人や親族の意向が不明ななかで決断せざるを得ないことへの重責,看取り決断後は,高齢者が次第に痩せ細る姿への悲しみとそれに伴う決断の動揺,臨終のときが近いと覚悟する悲哀を経験していた.これら精神的負担がありながらも,代理決定者の家族が代理意思決定を後悔なく納得したものにできた要因は,実際に代理意思決定した時期だけでなく,決定後の期間にも存在しており,代理意思決定後においても継続的な支援をする必要性が示唆された.

  • 山本 道代
    2020 年 25 巻 1 号 p. 106-112
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,要介護高齢者に対する入浴直後のワセリン塗布による保湿効果持続性を明らかにすることである.入院患者51人を対象として,入浴前日,入浴1日目,2日目,3日目の前腕と下腿の角質水分量を,携帯型皮膚水分計を用いて測定した.本機器は25以上が十分な水分量を示す.入浴前日の測定値25以上を非乾燥群,25未満を乾燥群として各群の4日間の推移を分析した.前腕と下腿の非乾燥群は,ワセリン塗布前から十分な水分量を維持していたため保湿効果は不明であった.前腕の乾燥群は,1日目の水分量が有意に増加し,3日目には十分な水分量まで増加していた.下腿の乾燥群は,1日目と2日目の角質水分量が有意に増加したが十分な水分量には届かなかった.以上から,要介護高齢者に対する入浴直後のワセリン塗布は,前腕と下腿の非乾燥群に対しての保湿効果は不明であった.また,前腕の乾燥群に対しては3日間の保湿効果持続性が期待でき,下腿の乾燥群に対しては十分な保湿効果が認められなかった.

  • 複合的な外来看護支援モデルの構築に向けて
    石橋 みゆき, 森本 悦子, 小山 裕子
    2020 年 25 巻 1 号 p. 113-122
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,地域の一般病院において後期高齢がん患者の療養を支援する複合的な外来看護支援モデルの構築に向け,後期高齢がん患者の療養生活上の体験を明らかにすることである.一般病院の外来に通う6人の患者を対象に半構造的インタビューを実施し,内容を質的帰納的に分析した.329のコードは30の小カテゴリー,14の中カテゴリーへ分類・統合され,最終的に【自分自身が安心・納得する治療を求める意思決定の繰り返し】【がんやその治療による症状と向き合う暮らし】【自宅に近いなじみの病院への信頼と安心感】【自分の身体の変化の自覚と変化への対応】【納得する人生の終い方への準備】【世話をしてくれる周囲の人々への感謝と気遣い】という6つの大カテゴリーに統合された.

     後期高齢がん患者は,診断直後はがんを患ったことに驚くが,医療者の意見や自身の治療体験を拠り所に納得する治療を受けることを繰り返し自ら決定していた.そして,無理なく通院でき顔なじみの医療スタッフがいる病院を信頼し,昔に比べれば体力が低下したものの自立した苦痛のない,いまの生活に満足し,自分が亡き後も家族が困らないよう納得する人生の終い方への準備をしていた.

  • 原田 圭子, 村松 真澄
    2020 年 25 巻 1 号 p. 123-131
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究は,閉じこもり予防の観点から,積雪寒冷地に住む高齢者の外出目的別の楽しみの程度別に,外出に対する自己効力感の程度を明らかにした.積雪期・非積雪期それぞれに,A市から無作為抽出した390人に対し,郵送による無記名自記式質問紙法を実施した.基本属性3項目(年齢,性別,同居者の有無),外出目的10項目から複数選択し,選択した目的の外出に対する楽しみの程度を3件法でたずねた.目的にかかわらず,外出に対する自己効力感を6項目4件法でたずねた.対象者390人のうち,回答に欠損がなかったのは2時期ともに134人であり,分析対象とした(有効回答率34.4%).基本属性のうち,外出に対する自己効力感と有意差を認めた項目は2時期とも年齢であり,前期高齢者の自己効力感が高かった.外出目的別の楽しみの程度では,積雪期において「受診」「役所・金融機関」「地域での役割」「除雪」で外出に対する自己効力感が有意に高かった.この結果から,外出に対する自己効力感を高めるには,身体状態が良好であること,外出目的そのものに対する楽しみのほかに,自身の役割を果たすことや,外出先での他者との交流に対する楽しみを含む可能性が示唆された.

実践報告
  • 長尾 匡子, 山本 裕子
    2020 年 25 巻 1 号 p. 132-138
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/08/24
    ジャーナル フリー

     2年次看護学生に老衰死を題材にした視聴覚教材を用いた授業を行い,高齢者の終末期医療や老衰死についての学生の認識を明らかにした.研究協力に同意した10人の学生の授業後課題レポート記載内容を分析した結果,【だれかに看取られて逝くことが望ましい】【老衰で逝くことが望ましい】【高齢者の意思が尊重されて迎える死が望ましい】【医療技術の発達が新たな苦悩や疑問を生む】【医療も人も死と向き合う成熟さが必要である】【高齢者と家族が話し合うことが重要である】【最善の死が迎えられるように看護師は高齢者・家族に関わる】という7つのカテゴリーを生成した.学生は,老衰死が家族との関係性のなかで生じる死であること,看護師は最善の死が迎えられるように高齢者・家族に関わる必要性があると認識していた.死生観の醸成や,高齢者・家族に寄り添った生死に関わるコミュニケーションの教育方法を検討する必要性などの示唆を得た.

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