老年看護学
Online ISSN : 2432-0811
Print ISSN : 1346-9665
26 巻, 1 号
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巻頭言
特集:COVID-19パンデミックにおいて高齢者を守る老年看護の実践と今後の方向性
総説
  • 坂井 志麻, 河田 萌生, 亀井 智子, 富岡 斉実, 金盛 琢也, 川上 千春, 菅原 峰子, 阿部 慈美, 黒河内 仙奈, 鈴木 みずえ ...
    2021 年 26 巻 1 号 p. 44-58
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

    【目的】認知症および認知機能低下を有する入院・入所高齢者への身体拘束減少に有効な介入プログラムについてシステマティックレビューとメタアナリシスにより評価する.【方法】The Cochrane Handbookの手法により,系統的レビューを行った.文献の適格基準は,①入院・入所中の65歳以上の認知症等高齢者を対象,②身体拘束をアウトカム指標に含む,③ランダム化比較試験とした.メタアナリシスには,Review Manager 5を用い,変量効果モデルによるリスク比(RR)を算出し,異質性はI2統計量により評価した.【結果】14文献が選定され,そのうちスタッフ教育による身体拘束の減少を報告した文献が4件あった.スタッフ教育の内容は,ケアの理念,せん妄予防,拘束帯使用の意思決定,拘束代替案,認知症ケアや入所者との相互作用の強化であり,時間数は30分~16時間と幅があった.メタアナリシスでは6文献,1,355人分を統合したが,身体拘束の実施者数に差は認められず(RR=0.88;95%Confidence Interval=0.72-1.08;I2=70%),盲検化,および症例減少バイアスを認めた.【結論】高齢者ケア施設に勤務するスタッフへの教育は,入院・入所高齢者の身体拘束の減少に定性的評価では有効である可能性が示唆されたが,メタアナリシスでは統計学的有意差がみられず,エビデンスは限定的である.

原著
  • 田端 真, 小松 美砂
    2021 年 26 巻 1 号 p. 59-68
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     目的:急性期病院における認知症高齢者への看護に対する困難感の因子構造を明らかにし,困難感を測定する尺度の作成および尺度の信頼性と妥当性を検証する.

     方法:文献検討に基づく質問項目32項目を自己作成し,急性期病院の看護師1,731人を対象に質問紙調査を行い,尺度の項目の選定と信頼性および妥当性の検証を行った.

     結果:回収した質問紙のうち620部(有効回答率35.8%)を分析対象に,項目分析と探索的因子分析を行った結果,7因子22項目が採用された.次いで,確証的因子分析を行った結果,GFI=0.904,AGFI=0.880,CFI=0.900,RMSEA=0.061であり,観測変数へのパス係数はいずれも統計学的に有意であることが示された(P<0.01).また,各因子のCronbach’s α係数は0.642~0.834,全体0.864であった.

     結論:本尺度は,急性期病院の特性を反映した7因子からなる困難感の構造であり,急性期病院における認知症高齢者への看護に対する困難感を測定する一定の信頼性と妥当性が確認された.

  • 一般病院におけるエスノグラフィ研究
    長谷川 真澄, 粟生田 友子, 道信 良子, 木島 輝美, 鳥谷 めぐみ
    2021 年 26 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,エスノグラフィの手法を用いて,看護師が日常行っているせん妄リスクのある患者への看護実践を記述し,そこからせん妄ケアの核となる文化的テーマを特定することを目的とした.

     研究参加者である一般病院2施設の看護師9人を対象として,せん妄リスクのある患者への看護実践場面を参加観察し,その後,半構造化インタビューを行った.参加観察のフィールドノートおよびインタビューの逐語録をSpradleyの分析手法に則り分析した.

     分析の結果,せん妄リスクのある患者への看護実践として7つの要素が特定され,構造化された.せん妄ケアの看護実践を統合する文化的テーマは「患者にとってストレスになるものを予測し,安楽にすごせるようにする」であった.

     本研究で特定されたせん妄ケアの構造と文化的テーマから,患者を個別性のある全人的な存在としてとらえ,入院治療環境における患者のストレスや基本的ニードをアセスメントし,患者との相互作用を基盤にしながら安楽の増進に向けて援助することが,せん妄ケアの本質として重要である可能性が示唆された.

資料
  • 吉田 さとみ
    2021 年 26 巻 1 号 p. 79-87
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,介護保険施設の管理者が行う看護職と介護職の協働・連携を円滑にするための実践を明らかにすることである.介護保険施設の管理者5人に60~90分の半構造化面接を実施し質的記述的に分析した.結果,管理者による看護職と介護職の協働・連携を円滑にするための実践として,10サブカテゴリーが抽出され,【専門性を踏まえ積極的に関係を築く】【協働・連携を阻む溝を埋める】【看護職に介護保険施設における組織社会化を促す】の3カテゴリーに分類された.管理者は,看護職と介護職の知識や役割をめぐる関係性の溝に働きかけながら協働・連携を支援していた.そして,看護職に積極的な協働・連携の姿勢を期待していることが示唆された.

  • 米山 真理, 竹内 登美子
    2021 年 26 巻 1 号 p. 88-95
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,レビー小体型認知症(DLB)との診断がついた後,在宅で暮らすDLBの人を看ている家族の介護体験を明らかにすることを目的とした.研究参加者5人に半構造化面接法を行い,質的帰納的に分析した.結果として9のカテゴリーを見いだした.家族介護者は【幻視による混乱】と【多様な症状への対応の模索】,そして【薬の副作用による介護負担の増加】を感じながら,【日々の介護疲れの蓄積と増幅】を繰り返していた.さらに,【不満を覚えるような不適切な専門職者の対応】がこれら負の循環を助長させていた.この循環から抜け出すためには【支えとなる他者からの協力】が必須であり,【多様な症状を予測した対応】ができるようになった家族介護者は【新たな家族役割の自覚】が芽生え【本人と家族にとってのよりよい選択】を判断できるようになっていた.DLBは全身病ともよばれるほど症状が多様でその理解が難しい.ゆえに専門職者がDLBの知識を身につけ,家族と共に対応策を考えながら心身両面を支える必要性が示唆された.

  • 医療療養病床(20対1)に勤務する看護師の実践から
    橋本 晶子, 小山 尚美, 渡邊 裕子
    2021 年 26 巻 1 号 p. 96-104
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     寝たきりで言語的コミュニケーションが困難な高齢者の療養生活に関する意向を医療療養病棟の看護師が日々の入院生活のなかからどのように汲み取っているのかを明らかにすることを目的に,看護師9人に半構成的面接を実施し質的記述的に分析した.その結果,【サマリーや家族からの情報をもとに関わりをもち患者の反応をみる】【意図的に関わる時間を設けて声をかけたり,身体に触れたりしながら隅々まで観察し小さなサインからみる】【その人特有のサインを介護やリハビリテーション職員を含めたチームで共有する】【元気なころの本人の思いを知る家族の情報からチームで終末期に対する意向を確認する】【自分の身に置き換える】【言葉に表すことができないが看護師の感覚でわかる】の6つのカテゴリーが抽出された.看護師は,意図的に高齢者に声をかけ,五感を用いて意向を汲み取る努力をしており,そのためには,研ぎ澄まされた洞察力や感性が必要である.また,汲み取った意向を語ることのできる職場づくりが必要であると考える.

  • 渡邊 智子, 齋藤 美華
    2021 年 26 巻 1 号 p. 105-113
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     中小規模病院の一般病床において,看護職が高齢者の身体拘束を開始するきっかけと判断理由を記述するため,中小規模病院3施設に勤務する看護職55人を対象に無記名自記式質問紙調査を行い,質的記述的分析を行った.

     回答の得られた43人全員が高齢者の身体拘束の実施経験があった.身体拘束を開始するきっかけとして【インシデントにつながる症状や行動があった】【安全な行動変容が期待できなかった】【高齢者に対応できる人員が不足していた】が抽出された.また,判断理由として【インシデントの発生が予測された】【治療や生命の維持に危険を及ぼすことが予測された】【病棟全体の安全管理に配慮する必要があった】が抽出された.

     高齢者に対する全人的理解とアセスメントの見直し,日ごろのケアのなかにある高齢者の倫理的問題について看護職同士が課題意識をもち,互いに指摘し合える環境の構築と教育体制の必要性が示唆された.

  • 大永 里美, 小山 幸代
    2021 年 26 巻 1 号 p. 114-122
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,自宅退院1か月後の独居高齢者が,疾患や機能障害を抱えてどのような生活体験をしているのかを明らかにすることである.

     回復期リハビリテーション病棟から退院した11人を対象に半構造化面接を実施し,質的記述的に分析した.その結果【いまはできないこともあるがまあまあな状態だ】【自分の力や他者の力を借りて守るべきことを行う】【家族や親類に感謝しつつこれ以上負担をかけることを自粛する】【生活に欠かせないものや楽しみがある】【いつかくる自分の衰え・死・災害に向き合い対処する】【ひとり暮らしは自分で采配できる反面,責任と覚悟が伴う】という体験をしていることがわかった.一方,【信念がありやってよいことと異なることを慎重に行う】体験もしており,独居高齢者の信念に基づく行動を尊重したうえで,退院時に指導されたことと異なる行動によるリスクを最小限にする支援の必要性が示唆された.

実践報告
  • 内藤 智義, 鈴木 みずえ
    2021 年 26 巻 1 号 p. 123-130
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     本報告の目的は,地域在住高齢者に対するヘルスアセスメント演習による学生への教育効果と高齢者の経験を明らかにすることである.調査方法は,学生に自由記述式の質問紙調査,高齢者に半構成的面接を行い,質的帰納的に分析した.結果,学生49人と高齢者6人から協力が得られた.学生からは【個別性がある高齢者の身体・精神・社会面に関する理解が深まった】【高齢者の健康状態を包括的にアセスメントする視点がもてた】【高齢者に応じたコミュニケーション・測定技術の手ごたえと個々の課題を明確化できた】【老年看護への能動的な学習意識が芽生えた】の4カテゴリーが得られた.高齢者からは,【自己の健康に対する関心が高まった】【自分なりの生きがいを見いだす機会を得た】【年長者として学生に対して率直に伝えることへの抵抗を感じた】の3カテゴリーが得られた.本演習は,学生には高齢者の全人的な理解を深め,健康状態を包括的にアセスメントする視点を養う教育効果があり,高齢者には健康への気づきの場,生きがいを見いだす経験となっていた.

  • 齊田 綾子, 梅原 里実
    2021 年 26 巻 1 号 p. 131-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,認知症ケア加算2施設基準対応研修の修了者(以下,研修修了者)が病棟看護師に働きかけている内容と,病棟看護師から感じられる認知症ケアの変化を明らかにすることを目的とした.A病院の病棟に配属されている研修修了者7人を対象にグループインタビュー調査を行い,Berelsonの内容分析を行った.結果,研修修了者は,病棟看護師に《病棟看護師間の情報共有や話し合いの機会づくり》《認知症ケアの提案・助言と記録》《認知症患者の看護計画立案と計画内容の助言》《認知症の症状に応じた療養環境の調整》《身体拘束の低減》を働きかけていた.そしてそれらの働きかけにより,《認知症患者へ対応するスキルの向上》《認知症ケアの提案や助言を受け入れる姿勢》《認知症ケアに取り組む意識の変化》《病棟の看護師みなで協力し合う姿勢》《認知症患者個別の看護計画立案》《認知症患者のケア評価と振り返り》《認知症者が困らないような環境の整え》《認知症者をひとりの人としてみる》《身体拘束をすることへの違和感》を病棟看護師の認知症ケアの変化として感じ取っていた.

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