本報は供試代表物質として選定した珪砂に就て粉碎現象を述べた前第9報に續ぐもので, セメント燒塊に關する第一次, 第二次粉碎試驗結果の報告である. その概要を摘録すれば以下の如くである.
(i) 第一次試驗に於ては珪砂の粉碎試驗と同條件, 即ち同じ磁製内張りミル93φ×110cmに同量200kgの50-60mmφ硬質磁製ボールとセメント燒塊100kg (ヂョークラシシャーにて先づ粗碎) を入れ, 同程度の廻轉速さ31.6 R. P. M. にて粉碎を行ひ一定時間毎に粉末試料を採取, その粉末度を精査した.
(ii) その結果この9種の何れの試料に於ても實測値と
R=100
e-k1xn…(1)
R: 残滓量,
x: 粒子徑,
k1,
n: 共に恒數による計算値との差違は大體1%以内に止まり, 既報の數多の事實と同様にこの場合も (1) 式の妥當性が確認された.
(iii) 併し第9報珪砂の場合, (1) 式中の
nは殆んど1であつたのに反し, この場合はその値が粉碎過程の進行に從つて漸減する現象を呈した. これはミル, ボールのコーテングに基くクッション作用に因るものと考へられる.
(iv) (1) 式中の
k1は
k1=λ
1Z-
p1 (λ
1,
p1正の恒數) なる形をとり珪砂の場合に比し
p1だけ複雜となつた. これもクッションに基因するのである.
(v) 粉末度を縦斷的に考察し粉碎曲線を求めると
R=100
e-k2Zm…(2)
R: 殘滓量,
Z: 廻轉數,
k2,
m: 恒數
が一定の粉末度まで成立するが, その後は (2) 式から反れ廻轉數
Zが増してもその割合に殘滓量
Rは減少せず, 細かくならない. 然るに第9報珪砂の場合は (2) 式が實によく適用されたのである.
(vi) (2) 式の
mは珪砂の場合常に1であつたが, この場合は同式の適用される範圍内に於て
mは粒子徑が10μから大きくなるに從ひ1から逓減し, 100μ附近で又多少大きくなる. これは上述 (v) の事實と併考することにより, 40-60μ附近の粒子がコーテングに因るクッション作用に緩衝され破壞が鈍る爲であることが明かとなつた.
(vii) 第二次試驗は第一次試驗 (燒塊100kg使用) に現れたコーテングを避け且粉碎條件を單純化する爲, セメント燒塊の1-2mm間の粒子47kgを用ひた他は第一次と同條件で粉碎現象を研究したのであうたが, 第一次と全く同じ粉末度に達した時刻からコーテングが判然と看倣された.
(viii) 第二次試驗では第一次の場合に加へて5.0μを限界とする風篩試驗も行つたが, 上記 (ii) 中に述べた (1) 式は實によく行はれ0.5%, 殊に5μ, 10μ附近では0.5%以内で實測, 計算値の合致を見た. (1) 式の普通妥當性は最早嚴として動かない.
(ix) 第二次試驗に於ても (iv) (v) (vi) 中の事實はその儘成立し, コーテングの現れたのは第一次と同じ粉末度以後であつた.
(x) 第二次試驗に於て (2) 式中の
k2はλ
2Z-
p2によつて表はされ珪砂の場合に比し
p2だけ複雜となつた. これもコーテングに因るものであらう.
(xi) 第一次, 第二次試驗を通じて得た結論は, 斯るミル及び條件下にての普通ヤメント燒塊粉碎に於ては廣義の累加粉碎, 累加分布の兩法則は成立するするのであるが, 珪砂の場合に成立した狹義の法則からの偏倚が認められ, これはコーテングに基因することが明かとなつた.
尚, この研究に御懇篤なる指導を賜つた淺野セメント取締役技術顧問藤井光藏氏に深く感謝し, この發表を許容された研究所長中川博氏に厚く御禮申上ぐる次第である. (淺野セメント研究所)
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