日本森林学会大会発表データベース
第126回日本森林学会大会
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森林生態系の放射性セシウム汚染とその対策
  • 岡田 直紀, 渡辺 政成, 井出 茂, 須山 敦行
    セッションID: T26-08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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     福島県双葉郡の木戸川および富岡川の水系において採取したヤマメ,イワナと水生昆虫の放射能を調べた.調査地は福島第一原発から南西20-25 kmの範囲にある。魚は2014年6月に,昆虫は6月と7月に採取し,乾燥,粉砕後,Ge半導体検出器を用いて134Csと137Csのγ線を計測した.木戸川本流のヤマメ(n=42)とイワナ(n=16)の測定平均値は134Csと137Csの合計でそれぞれ183,219 Bq/kg乾重の値を示した.生重換算ではおおむね100 Bq/kgを下回っていた.集水域にホットスポットをもつ支流の魚では放射性セシウム濃度が高く,最も高かった戸渡川のヤマメとイワナ全体(n=15)の平均値は538 Bq/kg乾重を示した.水生昆虫は測定に十分な量を採取することが難しかったが,測定できたカワゲラ,ガガンボ,ヘビトンボでは137Csが120-440 Bq/kg乾重の範囲にあった.しかし,魚の胃内容物を調べると水生昆虫の他に陸生の甲虫,アリなどが多数見られ,こうした陸生昆虫を通じた放射性セシウムの濃縮の可能性が示唆された.また,魚の体重と放射性セシウム濃度には弱い正の相関が見られ,体サイズによる餌の違いが示唆された.
  • Ishida Ken
    セッションID: T26-09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    福島第一原子力発電所の事故に由来する放射性物質に汚染された阿武隈山地北部の、高線量の地点を含むおよそ20km四方の区域において、2011年7月15日?2014年10月25日の間に、30回、1回に2日?10日間の延べ130日間の現地踏査と定点調査、および2012年?2014年の3月?9月の連続した録音調査を実施した。69種の鳥類を観察し,そのうちおよそ20種は観察(録音記録)確率の比較的高い種だった。放射性物質が高濃度で残留している地表近くで活動する種,2011年には残留が多かった樹皮上で活動する種,および高線量地域の地上の動物等を捕食する種が,放射能汚染の影響をもっともうけると考えられる。比較的高線量の赤宇木地区とやや低線量の山木屋地区に2012年12月~2013年2月に、約100個ずつのバッジ線量計を設置して微環境による空間線量率の異質性を測定したところ、約300m以内の地点間で3~10倍の差異があった。多様な景観を有する汚染地帯内の微環境利用によって、鳥種や個体ごとの被曝量の変異があると考えられる。代表種の生態と対応させ、被曝量の多寡と分析に当たって考慮すべき留意点を考察する。
  • 平井 敬三, 長倉 淳子, 小松 雅史, 山中 高史, 赤間 亮夫
    セッションID: T26-10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    森林や林業の再生にむけ、新たな植栽木への放射性物質の移行・吸収の有無やそのメカニズムの解明が必要である。本研究ではその第一歩として、その動態を検討した。森林総研構内苗畑B層の20-50cm深から採取した土壌(11 Bq kg-1)を1/5000aワグネルポットに充填し、事故による放射性物質放出の影響が無い九州産のスギ実生苗を植栽した。放射性セシウム濃度が異なる2地点から採取したスギリターF層(高:3392、低:1917 Bq kg-1)を粗粉砕し土壌表面に置いた。吸収抑制効果検討のためNPK施用区とNP施用区の二つの処理区を設けた。適宜灌水し1生育期終了後、成長量を測定し器官別の植物試料と深度別の土壌試料の放射性セシウム濃度を測定した。リター分解にともない移動した放射性セシウムは土壌の5cm深までにとどまっていた。当年葉のCs137濃度は4-19Bq kg-1と低濃度で、特にK施肥区では4/5の試料で検出限界以下であったが、高濃度のリターを置いた区の方が低濃度区よりもCs137濃度は低い傾向にあった。リターを基準に求めた当年葉の移行係数は10-3-10-2と小さいが、リターと土壌の加重平均濃度を基準にすると1オーダー高い値となった。
  • 山中 高史, 赤間 慶子, 小河 澄香, 田原 恒
    セッションID: T26-11
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    福島原発事故発生からほぼ4年が経過し、森林内の放射性物質の多くは樹木や落葉層から表層土壌へと移行している。そのため森林における放射性物質汚染の解明には土壌中の放射性物質の樹木への移行様式を明らかにする必要がある。今回、根に感染する菌根菌が樹木のセシウム吸収に及ぼす影響を明らかにするため、無菌的に育苗した樹木苗へ菌根菌を接種した後、非放射性セシウムを添加して、樹木苗地上部のセシウム含量を測定した。用いた樹種はアカマツとウバメガシである。日向土をポリカーボネート製の培養器に入れ、アンモニア態窒素または硝酸態窒素を含む養液を加え、オートクレイブ滅菌し、そこへ苗を植えた。用いた菌は、コツブタケ、ツチグリ、ケショウシメジ、アカヒダワカフサタケおよびウラムラサキである。菌の接種6箇月後、塩化セシウム(10 ppm)を添加した。さらに4箇月栽培した後、苗を掘り取り、地上部は葉とそれ以外とに分け、ICP-MSによりセシウム量を測定した。また地下部は菌根形成の状況を観察した。植物体地上部のセシウム濃度は菌の接種による有意な違いは認められなかったが、菌の接種により植物体の成長量が多くなり植物体への吸収量は多くなった。
  • 三浦 覚, 高田 大輔, 益守 眞也, 関谷 信人, 小林 奈通子, 廣瀬 農, 田野井 慶太朗, 中西 友子
    セッションID: T26-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    きのこ栽培に利用されるコナラの放射性セシウム濃度の将来予測に資するため、福島第一原発事故により放射性セシウムで汚染されたコナラ樹体中のセシウム分布を調査した。2014年3?4月に、福島県田村市都路の26年生コナラ林において、3個体の地上部と地下部をすべて伐倒掘り取りして現存量を調査し、部位別に分析試料を採取した。地上部はそのまま、地下部は洗浄したのちに乾燥させて、Ge検出器により134Cs, 137Cs, 40Kを測定した。137Cs濃度は、地上部地下部ともに、細くて木部の割合が少ない試料ほどが高かった。細根の137Cs濃度は464?1,502Bq/kgで、枝(1,296?2,174Bq/kg)や樹皮(621?2,082Bq/kg)よりやや低いが同水準であった。137Csの現存量の地上部地下部分布割合は、40Kの分布割合に比べて地上部の割合が7?15%多く、事故により直接汚染した樹皮と事故後の新生枝に多く存在していた。本研究により樹体内への137Csの広がりを調べる上で重要な初期データを得ることができた。しかし、樹皮から樹体全体への移動が平衡状態に達しているか否かや根からの吸収状況を知るには、さらなる調査が必要である。
  • 小川 秀樹, 伊藤 博久, 横田 かほり, 新井 志緒, 吉田 博久
    セッションID: T26-13
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    原発事故の放射性セシウム (Cs) によるスギおよびコナラの幹材部の放射性セシウム分布の推移を把握するため、福島県内の4つの調査地(郡山市(2)、二本松市(1)、川俣町(1))において、合計でスギ15本、コナラ1本の標準調査木を設定し、2012年から2014年まで年1~2回、幹材部の放射性Cs濃度を測定し、同一木での汚染推移を調査した。
    材の採取方法は、地上高1 mの高さで樹皮を剥皮後、成長錐(内径10 mm又は12 mm、長さ30 cm)を髄心に向けて挿入し、髄心から形成層面までの円柱形の材を1~2本採取した。円柱形の材は心材・辺材別あるいは1 cm間隔に切断し、得られた材サンプルを粉砕後、105 ℃で24時間乾燥し含水率を求め、Ge半導体検出器を用いて乾燥重量あたりの137Cs濃度 [Bq/kg・DW](以下「放射性Cs濃度」)を測定した。
    その結果、郡山市の調査地の計9本のスギでは材の放射性Cs濃度が低いため十分な検出ができず増減の傾向は見いだせなかったが、二本松市と川俣町の調査地の計6本のスギでは辺材が減少、心材が増加する傾向が確認された。一方、川俣町の調査地のコナラでは心材および辺材濃度が増加していた。
  • 山本 理恵, 小林 達明, 高橋 輝昌, 保高 徹夫, 鈴木 弘行, 平野 尭将, 遠藤 雅貴, 斉藤 翔
    セッションID: T26-14
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    福島県川俣町山木屋地区の落葉広葉樹林において林床部リター除去等の処理を行い、放射性Csの森林生態系循環と森林外流出に及ぼす影響を2年間モニタリングした。林内雨は処理区の濃度が対照区よりも低く、落葉期に濃度が高くなるカリウムと同様の溶脱傾向を示した。リターフォールは秋季の広葉で処理区の137Cs濃度が対照区の52~66%であった。林床への137Cs供給量のうち97%以上が林内雨とリターフォールによるもので、その濃度が低下したことにより林床処理区の2年目の137Cs供給量は対照区の68~88%に低減した。林床処理後のリターと土砂の流出に伴う放射性Cs流出の増加は1年目で大きく2年目に低下したが、林床に流出防止の植生土嚢を設置していない区では高い水準が続いた。植生土嚢には林床処理後の土壌に残存した137Csのうち1.7~6.8%が吸着されていた。地表流中の137Csのうち溶存態は対照区では2年目に平均1.1Bq/Lであったのに対し、林床処理区では0.4~0.6Bq/Lであった。溶存態Csの濃度は林内雨よりも低いが対照区ではその低減率が小さく、林床リターに残存した放射性Csが影響していると考えられる。
  • 斎藤 翔, 小林 達明, 高橋 輝昌, 山本 理恵, 平野 尭将
    セッションID: T26-15
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウム(以下RCs)の土壌中の形態は生態系内の動きに影響すると考えられるが、森林では研究されていない。そこで2013年8月に福島県川俣町山木屋地区の広葉樹林斜面に対照区、A?層除去区、L層除去区を、そのほか2つの畑地調査区を設け、2014年8月と9月に土壌を採取し、土壌中でのRCsの存在形態を逐次抽出法を用いて調査した。その結果、水溶性のRCsは森林有機物層でわずかにあるものの、いずれの土壌でもほとんど存在しなかった。畑地では、H?O?水処理によって抽出される易分解性有機物結合態やイオン交換態のものが有機物層で13%、鉱質土層表層で7%あったのに対し、森林では有機物層で3%、鉱質土層表層で2%しかなく、植物に吸収されやすい形態のRCsの割合が少なかった。RCsは粘土鉱物に固定されやすい性質を持つが、畑地土壌の粘土割合が5%であるのに対し、森林土壌では47%であり固定態RCsの割合が高いこと、また畑のリターに比べて森林のリターにはリグニン等難分解性有機物成分が多いことなどにより、植物に利用されにくい形態のRCsが森林では多かったと考えられる。
  • 平野 尭将, 小林 達明, 高橋 輝昌, 鈴木 弘行, 恩田 裕一, 高橋 純子, 山本 理恵, 斎藤 翔
    セッションID: T26-16
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    里山生態系内での放射性セシウム(以下Cs)の動態を明らかにするため、川俣町山木屋地区の農家所有の里山と山木屋小学校の森林において樹体各部位と土壌のCsを調査した。農家所有の里山ではA0層の除去処理を行い、土壌中のCsの低下が里山生態系内にどのような影響を及ぼすのか調べた。コナラ・ミズナラは対照区で幹木部や葉のCs濃度が高かったのに対し、Cs除去処理区ではCs濃度が低いという関係が見られた。また、コナラとミズナラの全調査木の幹木部と樹皮の関係は見られなかったのに対し、幹木部と葉の間には明瞭な正の相関関係が見られた。そのため、Csの吸収は経皮吸収によらず、主に根から吸収され、樹液流によって幹木部から葉に運ばれていると考えられる。一方、アカマツの葉のCs濃度は、コナラやミズナラに比べると低く,幹木部のCs濃度は著しく低かった。コナラの葉は展葉前の葉のCs濃度が最も高い傾向が見られたがアカマツには季節変化は見られなかった。また、コナラでは辺材、心材でCs濃度に大きな差が見られたのに対し、アカマツではCs濃度に大きな差が見られなかった。
  • 高橋 輝昌, 小林 達明
    セッションID: T26-17
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的は、有機物(木質チップ材)に増殖する糸状菌による土壌中のセシウム(Cs)吸収特性を明らかにすることである。試験地は福島県川俣町にあるCsで汚染された斜面上の落葉広葉樹林である。2013年7月に、斜面上部、中部、下部にそれぞれおよそ40 m2の調査区を設け、林床のL層を除去して、スギを粉砕したチップ材を3 kg m-2(斜面上部)~5 kg m-2(斜面中部、下部)敷きならした。チップ材敷きならし後、1~6ヶ月の間隔でチップ材を採取し、篩い分けて、粒径毎にチップ材の量とCs濃度を測定し、Cs吸収量を算出した。Cs濃度は粒径の小さいチップ材で高く、粒径の大きなチップ材でも経時的に増加した。Cs濃度の増加はチップ材全体では敷きならし後5ヶ月間で特に大きかった。チップ材によるCs吸収量は、敷きならし後5ヶ月間までに増加し、その後あまり増えなかった。敷きならし後1年間にチップ材に吸収されたCs量は斜面上部、中部、下部でそれぞれ19、21、15 kBq m-2であり、チップ材敷きならし時にF層や鉱質土壌に含まれていたCs量の4~5 %に相当した。チップ材敷きならし量はCs吸収量にあまり影響しなかった。
  • 金子 信博
    セッションID: T26-18
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    放射性セシウムで広域に汚染された森林資源を利用するために汚染の強い媒体を除去する物理的な除染は、規模や費用の点で現実的ではない。人家から20mの範囲の除染(落葉剥ぎ取り、除間伐)は、汚染物質の多くがすでに土壌表層に移動している現在では、以前より効果が少なくなっている。また、植物の吸収による土壌からの移動はわずかである。一方、土壌表層に木質チップを敷設し、チップに生えるカビの菌糸が土壌からセシウムをチップへ移動させることを利用して、植物による除染の10から100倍のセシウムを除染できる。そこで、森林全体ではなく、人家の周囲を中心に、かつての里山利用が可能な範囲に限って伐採とチップ敷設を組み合わせることで、利用を停止することなく除染を進めることができると考えた。現在多くの地域で薪炭は長い間利用されておらず、シイタケ原木林や山菜利用も2011年の原発事故後、停止している。アクセスの良い里山利用に適した林分を皆伐し、その場でチップ化して1年程度敷設し、回収して木質バイオマスとして利用することで、森林の更新とエネルギー利用が可能であり、汚染の程度によって原木や山菜利用が再開可能となる。
森林におけるシカ問題の解決に向けて -被害・影響の把握から被害対策、個体数管理まで-
  • 藤木 大介
    セッションID: T27-01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    シカによる森林植生衰退の汎用性のある簡易指標として、立木密度を用いた手法について検討した。基本的な考え方としては、シカの影響のない林分の平均的な立木密度に対する各調査林分の立木密度比を算出することにした。但し、この際、植生タイプや林分の成長段階に応じて上述の平均的な密度は異なることが予想されるため、シカの影響のない林分を対象に植生タイプ別に林冠木平均樹高―立木密度曲線(対照樹高―密度曲線)を求め、後述の立木密度比(密度比数)を求めることにした。兵庫県の落葉広葉樹林と照葉樹林を対象に、対照樹高―密度曲線を求めた結果、これらの植生タイプ間では異なる対照樹高―密度曲線を持つことが明らかになった。対照樹高―密度曲線に基づいて算出した密度比数は、両植生タイプにおいて、シカの密度指標や土壌侵食などの様々なシカの影響指標と相関があり、シカによる森林植生衰退指標としての妥当性が示唆された。さらに、両植生タイプのデータをGIS上で空間補間した結果、密度比数の広域的な地理的変異も有用な精度で表すことができた。以上の結果は、異なる植生タイプ間における密度比数という指標の汎用性の高さを示唆している。
  • 佐藤 温貴, 日野 貴文, 吉田 遼人, 工藤 祥子, 村井 拓成, 立木 靖之, 吉田 剛司
    セッションID: T27-02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    北海道に広く分布するエゾシカは積雪により生息場所に制限を受けることが知られており,積雪期において積雪深が低い森林は越冬地に適している.また越冬地での植生被害にも積雪が関係していると考えられる.そこで支笏湖畔の南向きで急峻なため積雪真が浅い北側と,北向きで積雪真が深い南側斜面に着目し,北側と南側における積雪とシカ相対密度,樹皮剥ぎ被害度合い,森林構造を比較した.北側と南側で8ヶ所ずつ50m×4mのプロットを設定し,毎木調査,自動撮影装置によるシカの相対密度,積雪深を調査した.その結果,積雪深とシカ相対密度,シカ相対密度と樹皮剥ぎ被害,積雪深と樹皮剥ぎ被害でそれぞれに相関があった.北側は南側より積雪量が少なく樹皮剥ぎ被害が多く,稚樹が消失していた.以上の結果より,積雪深が浅い北側では冬季にシカの密度が高く,樹皮剥ぎが多く発生することで森林構造を改変されることが示唆された.
  • 日野 貴文, 佐藤 温貴, 吉田 遼人, 滋野 知大, 吉田 剛司
    セッションID: T27-03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    高緯度のシカは冬季に生息域の一部に集中することが知られるが、冬季に一時的に高まる採食圧がもたらす植生への影響についての検証例は少ない。また、シカの採食物には地上部が通年存在するササ・木本と、冬季に地上部が枯れる草本といった生活形が異なる植物が含まれる。本研究では、シカの冬季の高密度化による植生影響を植物の生活形に着目し検証した。
    北海道支笏周辺にて予備調査の結果、冬季のシカ密度が高い支笏湖畔北側と、冬季のシカ密度が低い支笏湖畔南側に調査区を計10地点設定した。各調査区にて、自動撮影カメラによる通年のシカの相対密度、林床植物の被度・種数、ササの被度・高さを調べた。
    調査の結果、シカの撮影頭数が南側は通年、北側は夏季のみが低かった。一方で冬季の北側では、南側・北側(夏季)に比べて撮影頭数が約15倍に増加していた。そして、この冬季にシカ密度の高かった北側では、南側に比べてササの被度・高さが低かった一方で、草本の被度・種数は高かった。これらの結果により、冬季に高密度化したシカは通年地上部が存在するササを減少させ、競争を緩和することにより、間接的に夏緑性の草本の被度と種数を増加させたと考えられる。
  • 飯島 勇人
    セッションID: T27-04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンジカ(以下、シカ)による森林の植生の摂食が全国的に深刻になりつつあり、その効率的な対策が求められている。本研究では、シカによる立木の剥皮発生に影響する要因を検討した。山梨県内において1か所あたり25本の立木の樹種、高さ1.3mの周囲長、剥皮の有無を調査する調査区を2010年に42個設置し、2014年に剥皮が発生しているか再調査した。また、調査区を含む約5km四方のシカ密度および捕獲率を状態空間モデルで推定し、シカ密度については2010~2013年の平均値、捕獲率については2010~2012年の平均値をそれぞれ累積的なシカ密度と捕獲率とした。しかし、累積的なシカ密度と捕獲率には相関関係が認められたため、ここでは捕獲率の影響を示す。過去に発生したものも含めた剥皮は、個体サイズが小さいほど発生しやすく、樹種による違いが見られたが、累積的な捕獲率は影響していなかった。また、2010~2014年における新たな剥皮は個体サイズが小さいほど発生しやすかったが、樹種や累積的な捕獲率は影響していなかった。捕獲率の最大値は24%であったが、この程度の捕獲率では新たな剥皮の発生を抑制することはできないことが明らかとなった。
  • 明石 信廣
    セッションID: T27-05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    シカの増加による林業被害や森林生態系への影響の拡大に伴って、シカによる植生改変や、それが他の生物にもたらす間接効果、下層植生の消失による土壌流出など、多様な視点からの研究が実施されてきた。また、被害・影響の実態を把握するための簡便な手法がいくつか開発され、現場レベルでも活用されつつある。林業被害に対しては、忌避剤による化学的防除、各種防除資材による単木的な物理的防除、防鹿柵による面的な物理的防除が実施されている。日本の林業において植栽初期の下刈りなどの育林コストが高いことが課題とされているが、シカ対策は育林コストをさらに高めている。また、このような対策では森林生態系を保全することはできない。シカ問題の解決には、シカの個体数管理が不可欠である。そのためには、対象となる森林におけるシカの生息密度と植生への影響のレベルを把握して捕獲目標を定め、森林管理者が積極的に捕獲にも関わっていく必要がある。シカを低密度に維持することにより、被害対策コストの軽減も図られる。森林への影響把握、被害対策、シカの個体数管理等の手法はそれぞれ確立されつつあり、これらを体系化して森林管理に組み込んでいく必要がある。
  • 稲富 佳洋, 上野 真由美, 宇野 裕之, 長 雄一, 南野 一博, 明石 信廣, 雲野 明
    セッションID: T27-06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    森林内でエゾシカの相対密度を把握することは、森林管理と連携したエゾシカの個体数管理を推進する上で緊急の課題である。これまで振興局単位等の広域スケールで生息数の推定がされているものの、森林管理区や林道単位のような狭い空間スケールで生息密度を定量的に把握できる手法は確立されていない。本研究では、ライントランセクト法と自動撮影法を2012年~2014年に道有林胆振管理区及び釧路管理区で実施し、両手法から算出した密度指標の関係を解析するとともに、両手法の調査労力や汎用性などを比較し、その有用性と課題を明らかにすることを目的とした。
    ライントランセクト法における2012~2014年の生息密度は、胆振管理区でそれぞれ29.8、7.9、4.1頭/km2、釧路管理区で25.4、35.8、15.1頭/km2と推定された。自動撮影法における各月の撮影頻度には、場所によって夏期に上昇するパターンや冬期に上昇するパターンがみられ、管理区内でエゾシカの生息地利用に季節性があること示唆された。また、各林道における自動撮影法とライントランセクト法の密度指標は高い正の相関を示し、撮影頻度が相対密度を示す指標として活用できる可能性が示唆された。
  • 大橋 正孝, 石川 圭介, 片井 祐介, 大場 孝裕
    セッションID: T27-07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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     足を括るくくりわなの短所である、設置場所の選定が難しい、ツキノワグマの錯誤捕獲回避が困難、厳冬期凍結条件下では使用が困難、を克服するわなとしてヘイキューブを餌に誘引したニホンジカの首を括るわな(ただし、締め付け防止金具により首を締めることはない)を新たに考案、開発した。2013年の12月から2014年1月に富士山南麓の標高約1,000mのヒノキ林内約1km2のエリアで、1日あたり平均で9.5基のわなを33日間設置して捕獲を行った結果、24頭(成獣♀12頭、1歳3頭、当歳9頭)を捕獲した。捕獲効率は、0.73頭/日、餌付け期間7日間を加えると0.60頭/日で、わな1基1晩あたりでは0.079頭であった。場所の選定が容易で穴を掘る必要がないことから、わなの設置に要した時間は8±2分(平均±標準偏差)と短く、森林作業者が他の作業と並行して取り組み易いと考えられた。一方で、締め付け防止金具が緩み首が締まるなどの死亡個体も見られ、構造及び設置方法で注意すべき点が明らかになった。
     なお、当該わなは、角のない個体を捕獲対象とし、各都道府県で、くくり輪の直径は12cm以内とする規制の緩和が必要となる。
  • 大場 孝裕, 大橋 正孝, 山田 晋也, 大竹 正剛
    セッションID: T27-08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     鳥獣保護法が、鳥獣保護管理法に改正された。増え続けるニホンジカ(以下、シカ)に対しては、個体数削減のための管理、そのための捕獲事業の実施強化と、それを担う事業者制度の導入が明確化された。しかし、従前の銃やわなを用いた捕獲が困難な場所や状況も存在し、無理な捕獲強化は、人身事故の増加や、錯誤捕獲など他の動物への悪影響も懸念される。シカを減らすためには、従来の方法に加え、新たに安全で効率的な捕獲技術の開発が必要と考えた。
     反芻動物は、硝酸イオンを摂取すると、第一胃にいる微生物が、これを亜硝酸イオンに還元する。亜硝酸イオンは、血中で酸素運搬を担っているヘモグロビンと反応し、酸素運搬能力のないメトヘモグロビンに変える。進行すると酸素欠乏症に陥り、死に至ることもある。人間など単胃動物の酸性の胃では、亜硝酸イオンは増加しない。
     シカ飼育個体の胃に硝酸イオンを注入し、致死量を明らかにした後、作成した硝酸塩添加飼料を採食したシカ野生個体の捕獲(致死)に成功した。この硝酸塩経口投与によるシカ捕獲について、インターネット上で行われた意識調査では、実用化すべきとの意見が過半数を占めた。
もう一つの森の主役・菌根:基礎研究から応用研究まで
  • 佐藤 拓, 松下 範久, 呉 炳雲
    セッションID: T28-01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    スギとアーバスキュラー菌根菌(AM菌)との共生において,根をめぐる菌種間競争や,複数種の感染がスギの成長に及ぼす影響を明らかにするために,2種のAM菌(Acaulospora sp.,Claroideoglomus sp.)の単胞子系統を用いた接種試験を行った。各系統について,AMを形成させたシロツメクサを栽培した土壌,その土壌を滅菌したもの,滅菌前後の土壌を等量混合したものの3種類を準備し,それぞれを系統間で組み合わせた9種類の接種源を調製した。根箱にスギ実生苗を移植し,根の周辺に接種源を添加した後,3か月間栽培した.スギの乾燥重量について,2種のAM菌の影響を2元配置分散分析で解析した結果,両種ともスギの成長を有意に促進したが,それらの交互作用も有意であり,接種源中のCla. sp.の濃度が増えるとAca. sp. のスギ成長促進効果が小さくなる傾向が見られた.2種を接種した根のDNA解析の結果,両種が高頻度で近接して根に感染していることが分かった。以上のことから,Aca. sp.は,Cla. sp. が存在してもスギに感染するが,スギに対する成長促進効果が低下することが推測される.
  • 中村 慎崇, 田中 千尋, 竹内 祐子
    セッションID: T28-02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    子嚢菌門ビョウタケ目に属する内生菌は、ツツジ科やブナ科植物の根から検出された事例が知られており、近年、特定の根圏においては外生菌根菌を凌ぐほどの頻度で存在することが明らかになりつつある。しかし、現在までのところビョウタケ目内生菌に関する知見は特定の種を除いて限られたものであり、菌根の生態学的な研究などにおいて分子生物学的手法を用いて検出される種の多くが未記載種であることからもわかる通り、分類学的な扱いも確立していない。
    本研究では、京都府を中心に複数の地点でブナ科樹木の根を含む土壌をサンプリングした。次亜塩素酸カルシウムを用いて表面殺菌を行ったブナ科樹木の根からビョウタケ目内生菌を分離し、リボソームDNAのLSU領域およびITS領域の塩基配列に基づいて分類群の特定、OTUの識別を行った。本研究で得られたビョウタケ目分離菌株の多くは互いに近縁な一つのグループに属していたが、グループ内で高い多様性が認められた。また、サンプリング地点により多く出現するOTUは異なったが、樹種との対応関係は見いだせなかった。
  • 松田 陽介, 山川 舞, 小長谷 啓介, 谷川 東子
    セッションID: T28-03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】海岸部では,荒天に由来する短期的な高塩環境が生じる.沿岸部の防災機能を高めるため,クロマツ林が造成されており,クロマツの細根には,外生菌根菌Cenococcum geophilum(以下,Cg)が優占する.本研究では,クロマツと本菌の耐塩性を明らかにするため,NaClがクロマツ-Cg共生系に及ぼす影響を調べた.【方法】5県6地域の海岸クロマツの菌根から分離培養されたCg14菌株を,MMN液体培地を加えたパーライトで25℃暗条件下で75日間培養した.各菌株を半無菌条件下で育成させた2年生クロマツ実生に接種し,さらに9ヶ月間育成した.その後,0,200mM NaCl水溶液を2日ごとに計7回添加した.14日後に光化学系Ⅱ(Fv/Fm)の計測を実施し,実生の乾重量(葉,茎,根系)と菌根形成率を計測した.さらに各器官に含まれるNa濃度を計測した.【結果】NaCl処理によらずCg接種区の乾燥重量は,Cg非接種区のものより有意に増加した.200mM NaClのCg非接種区におけるFv/Fmは他の処理区よりも低い傾向にあり,本菌の定着が塩ストレスを緩和する可能性が示唆された.今後,Na濃度の計測を進め,クロマツ-Cg菌根共生系における耐塩性付与機構について議論する予定である.
  • Keisuke Obase, Greg W Douhan, Yosuke Matsuda, Matthew E Smith
    セッションID: T28-04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    We revisit the phylogenetic diversity of Cenococcum geophilum sensu lato using new data from Florida (USA) as well as existing data in Genbank from Asia, Europe and North America. Based on the ITS and glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GPD) phylogenetic analysis we detected significant phylogenetic diversity both within and between different continents and localized regions. The combination of ITS and GPD were able to resolve several well-supported lineages within C. geophilum sensu lato. Based on 768 new isolates from Florida, we resolved 6 lineages. We also obtained seven isolates that were distinct from C. geophilum but resolved as the sister lineage based on a multi-locus analysis (SSU, LSU, TEF, RPB1 and RPB2). The results indicate that C. geophilum sensu lato includes more phylogenetically-distinct cryptic species that has previously been reported.
  • 木下 晃彦, 辻田 有紀, 遊川 知久
    セッションID: T28-05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    森林地下部の外生菌根菌の多様性の維持機構やニッチを理解するためには、菌根菌がいつどこに存在するかを把握しなければならない。しかしそれには多大な労力が必要になり、継続研究も限られている。林床植物にはラン科のように特定の菌根菌の感染が種子発芽・生育に必須の種が存在するため、この特性を利用して菌根菌の動態を探ることができる。本研究では、主として外生菌根性のロウタケ目が発芽を誘導するラン科シュンラン属3種を用いて、菌根菌の時空間動態の解明を試みた。各種1-2カ所の自生地の計 7地点で、種子を入れた袋を土壌表層から20cmまで5cmごと深度を変えて埋設し、0.5、1.5、3年の間隔で計4回回収した。rDNA ITS領域を用いて発芽種子の菌根菌を同定し、97%以上の相同性をもつ配列をひとつの種とした。その結果、各植物種から8菌種のロウタケ目が検出された。多くの菌種が時間経過に伴い入れ替わったが、1年以上変動しない種もみられた。さらに菌種により、土壌中の水平・垂直分布のパターンも異なることが確認できた。ラン科の種ごとに発芽を誘導する菌根菌が異なる特性を利用すれば、特定の菌群に対して時空間動態のモニタリングが可能であることが示された。
  • 藤岡 洋太, 橋本 靖
    セッションID: T28-06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    樹木の共生菌である外生菌根菌の胞子など感染源の分散は、樹木の定着や生育に影響を及ぼすと考えられる。本研究では、森林内のネズミ類が、外生菌根菌の感染源の分散経路の一つとして、どの程度貢献しているのかへの知見を得るために、ネズミ糞中から外生菌根菌を検出した。2013年の9月から11月、2014年の6月から10月に、帯広市内のトドマツ林に隣接するカラマツ林内で、ネズミ類を捕獲し、ネズミの糞を個体ごとに集めた。2013年にはカラマツ実生、2014年にはカラマツとトドマツの実生を、ネズミの個体ごとの糞を入れた土壌で生育させて、糞中に含まれる外生菌根菌を検出した。2年間で合計56個体分のネズミ糞を調べた結果、カラマツ実生では、2013年に27個体のうち2個体分の糞から、調査地で多く発生していたハナイグチが検出された。2014年にもカラマツ実生で29個体のうち1個体分の糞から、前年とは異なる菌根形成が見られたが、トドマツ実生では見られなかった。カラマツ林に生息するネズミ類は、その糞によって外生菌根菌の感染源を散布する可能性があるが、散布が起こる頻度や対象となる菌の多様性はあまり高くないと考えられた。
  • 村田 政穂, 金谷 整一, 奈良 一秀
    セッションID: T28-07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    ヤクタネゴヨウは鹿児島県の屋久島と種子島にのみ自生している日本固有の針葉樹で、絶滅危惧種に指定されている。本研究では、ヤクタネゴヨウ林分における外生菌根菌(以下、菌根菌)の群集構造を明らかにするため、成木の菌根の種組成を調査した。2014年8月下旬~9月上旬に、屋久島2林分(26と21地点)と種子島1林分(32地点)のヤクタネゴヨウ成木の周辺で5×5×10cmの土壌ブロックを採取した。各地点間は5m以上離し、GPSで記録した。採取した土壌から成木の根を取り出し、実体顕微鏡下で観察して菌根の形態類別を行った。類別された菌根形態タイプについて、CTAB 法によってDNAの抽出を行い、rDNAのITS領域の塩基配列を用いて菌種の同定を、葉緑体DNAのtrnL領域の塩基配列から宿主の同定を行った。その結果、ヤクタネゴヨウ林分ではCenococcum_geophilum、ショウロ属、イグチ科、ベニタケ科、イボタケ科、カレエダタケ科の菌根菌が高頻度で検出された。この結果は他の成熟した温帯林で共生する菌根菌の種構成の特徴と一致していた。
  • 小泉 敬彦, 奈良 一秀
    セッションID: T28-08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    自然界での樹木の生育は多様な菌類との共生関係の上に成り立っている。特に高山の過酷な環境下ではその重要度が増すと考えられる。研究対象としたハイマツは風衡地を主な更新の場としており、実生定着には菌類との共生系の構築が不可欠である。本研究では、ハイマツの実生定着に関わる共生菌群集を明らかにすることを目的とした。乗鞍岳において、ハイマツおよび同所的に生育するツツジ類5種の菌根を含む土壌コアを採取し、DNA解析により外生菌根菌および両樹種に共通して出現するビョウタケ目菌の群集構造を調べた。ハイマツからは57種の外生菌根菌種が検出され、特に実生菌根ではRhizopogonSuillusなどの遷移初期種およびSebacinaが優占し、個体成長に伴う菌根菌群集の変化が見られた。ツツジ類からは61種のビョウタケ目菌が単離され、宿主間およびハイマツ林内・林縁・林外の間で異なる群集構造が見られた。ハイマツ菌根から選択的にビョウタケ目菌を検出し、ツツジ類での出現菌種との比較を行ったところ、ハイマツとツツジ類の間では異なるビョウタケ目菌種の選択性および共生パターンが認められ、中でも特定のビョウタケ目菌でハイマツとの強い関連が示唆された。
  • 吉田 尚広, 松下 範久
    セッションID: T28-09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    亜高山帯に生育するコメツガ稚樹の根系には多種の菌根菌が共生しており、各菌種の菌根が1~数cmの幅でパッチ状に分布している。一方、根系周辺の土壌中には菌根を形成していない菌根菌種が多数存在していたり、菌根を形成している菌種が別種の菌根の周辺にも存在していたりするなど、土壌中における菌根菌の分布は根系における菌根の分布と対応していない。このような分布の形成要因を解明するため、宿主からの炭素供給の有無や土壌中の根外菌糸体量が菌根形成に及ぼす影響を調べた。コツブタケ属菌の菌根を形成させたクロマツ苗を、20 μmメッシュバッグに入れて根箱の左側に移植した。移植から20日後または30日後にメッシュバッグの中から菌根苗を除去し、根箱の右側に無菌根のクロマツ苗を移植した。対照として、菌根苗を除去せずに無菌根苗を移植した。移植10日後に無菌根苗の菌根形成数を比較した結果、菌根苗除去によって菌根形成数が有意に減少したが、栽培日数の違いによる影響は見られなかった。このことから、新たに菌根を形成した菌種は、宿主から炭素供給を受けることで周囲の根端に優先的に感染し、パッチ状の菌根分布を形成するものと推測される。
  • 山田 明義, 片山 智行, 小川 和香奈, 増野 和彦
    セッションID: T28-10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     演者らはハナイグチの増産を目的に長野県内のカラマツ林で2010年より施業を行い,過去3回の本大会で施業後1-3年の概況を報告した.今回,施業後4年目までの概況を報告する.カラマツ人工林に10×10 m2のプロット(以下Pと略)を24個設け,16Pではカラマツ以外の樹木を皆伐して落葉層を掻き取ったのち,腐植層はぎ取りとハナイグチ胞子接種の組み合わせの4処理区(各4P)を設けた.8Pは対照区とした.全24Pでハナイグチとシロヌメリイグチの子実体発生状況を継続調査し,プロット内側8×8 m2のデータを中心に解析した.施業区でのハナイグチの累積の子実体発生量は平均186g/P,対照区では19g/Pで,両者に有意差が認められた(p=0.013).発生頻度でも有意差が認められた(p=0.007).4処理区と対照区の5区間比較では,子実体発生量と発生頻度では一部有意差は認められたが一貫した有意な傾向は認められず,その要因としてハナイグチと拮抗するシロヌメリイグチの発生が示唆された.子実体形成を誘導する環境因子として地温の低下が示唆され,土壌10cm深で17.5℃付近と推定された.
  • 古川 仁, 増野 和彦, 山田 明義
    セッションID: T28-11
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】マツタケの人工栽培を目指す上で、培地上でのマツタケ菌の生育促進は重要である。MNC液体培地に木質材を添加したところ、添加量に応じて菌の生育促進または阻害傾向が見られたので報告する。【供試菌】長野県内で子実体を採取、分離した3菌株(AT740、SI001、SA001)を用いた。【一次培養】菌株をMNC寒天培地上で培養、形成した円形コロニー外縁部をコルクボーラー(?4mm)で5片打ち抜き、新たなMNC液体培地に接種、20℃暗環境下で2ヶ月間培養した。【二次培養】試験管にMNC液体培地15ml、更に約5㎝に切断した国産シラカバ材割りばしを1,2,3,4本ずつ入れた添加区(1,2,3,4本区)と対照区(MNC液体培地のみ)を用意した。一次培養を終えた菌体を5mm角程度にメスで切断、試験管培地に接種、培養した。【結果】二次培養3ヶ月経過では、3菌株とも対照区と比較し1,2本区での生育が良好、更に固形状コロニーの形成が見られた。3,4本区では菌体が褐変化し、生育阻害傾向が見られた。これらのことから、添加した木質材に含まれる可溶性成分がマツタケ菌に対して顕著に作用する可能性が示唆された。
ポスター
林政部門
  • Kyaw Phone Wai, Noriko Sato
    セッションID: P1A001
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    The forest resource assessment (FRA ?2010) by the Food and Agriculture Organization (FAO) has indicated that Myanmar is still endowed with a forest covered area of 47% of the country’s total land area. Over 70% of the country’s total population are living in rural area and dependent on forest resources for basic needs such as food, fodder, fuel, and shelter (NTFPs). This research aimed to examine the role of NTFPs in rural household and their reliance on NTFPs for livelihoods and income in the case of Singu Township, Pyin Oo Lwin District. Household questionnaires survey and personal interview on 2 villages were conducted. The contribution of NTFPs on rural livelihood will be observed from the point of view of road access to market place and gender.
  • 竹田 晋也, 鈴木 玲治
    セッションID: P1A002
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     ミャンマーのバゴー山地では英領時代よりカレン領域が設定され、ごく最近まで政府からの規制をほとんど受けない焼畑が営まれてきた。このカレン領域であるバゴー管区トングー県オクトウィン郡S村では、各世帯は毎年焼畑を開いて自給用陸稲に加えて換金用のゴマ、トウガラシ、ワタなどを栽培してきた。同村では2010年ごろから小規模ながらも谷地田造成による水田水稲作がはじまった。谷地田周囲の斜面にはバナナ、マンゴーなどの果樹とともにチーク(Tectona grandis)やピンカドー(Xylia xylocarpa)が植えられ、現地では「水田アグロフォレストリー」と呼ばれている。2012年に成立した農地法では、水田と常畑を対象に土地利用証明書の発行を通じた小農土地保有の合法化が想定されているが、焼畑はその対象外である。S村にも、最近の土地政策変化の情報が断片的に伝わりつつあり、各世帯は将来の土地所有権確保を期待して「水田アグロフォレストリー」をすすめている。19世紀末のカレン領域制定から焼畑耕作が続くS村では、自給用陸稲生産という基本的な性格は変わらないが、道路通信事情が改善され、学校教育が普及する中で、市場経済との接合が少しずつ進行している。
  • Thinn Thinn, Shinya Takeda
    セッションID: P1A003
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    Household interview surveys were conducted using semi-structured questionnaires in a village in a mangrove forest of the Ayeyarwady Delta during November and December 2014. Participatory mapping was carried out to identify land use at the household-level. Paddy cultivation had become a dominant land use since around 1992. 96.4% of household respondents were engaged in farming. Of those households, 21.8% were cultivating paddies on secure land, and 78.2% of households were doing so on insecure land located in mangrove forest protected by the Forest Department. Although most households had been involved in agriculture inside the protected mangrove forest, they were recently forced to stop paddy cultivation. Those households have not yet been given support via provision of alternative land from the Forest Department. Farming inside the protected mangrove forest became unstable for this village and consequently may have resulted in future livelihood constraints.
  • 江原 誠, 百村 帝彦, 野村 久子, 松浦 俊也, Sokh Heng, Leng Chivin
    セッションID: P1A004
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    熱帯林は、多くの住民の生計維持に必要不可欠な薪炭材や非木材林産物(NTFPs)の供給源である一方、企業や住民による農地転換や伐採等で急減している。既往研究には、どのような住民が森林減少の影響を受けやすいのか、衛星画像解析と地上調査を組合せ複数の郡の村落を対象に解明した試みは少ない。そこで、カンボジア王国のコンポントム州南東部の3つの郡にまたがる6村落で、薪炭材とNTFPs採取への森林減少の影響の認識度合いが、村落の立地や周辺の開発条件、世帯の社会経済的条件の違いによってどう異なるかを明らかにすることを目的とした。結果、森林面積変化の度合い、薪炭材採取場所と周辺植生、世帯の生業パターン、そして開発タイプが重要な条件として挙げられた。特に薪炭材採取には森林面積変化の度合いと採取場所の組合せ、NTFPs採取には森林面積変化の度合いと生業パターンの組合せが重要な影響認識要因だった。この結果と住民の森林減少への対応能力の違いに着目した本分析手法は、州レベルの土地利用計画の策定、大規模開発への環境影響評価を実施する際に、地域住民への影響を評価する上で参考になる。
  • Tetsuya Michinaka, Heng Sokh, Mamat Mohd Parid, Mukrimah Bt. Abdullah, ...
    セッションID: P1A005
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    U-shape hypothesis of forest resources supposes that forest resources in a country or region decrease in the lower level of economic development and then keep stable or even increase while economic development reaches to some level. U-shape hypothesis was validated to Peninsular Malaysia and Cambodia. By regressing forest area with per capita GDP in a linear model to Peninsular Malaysia, it is found quadratic curve giving better goodness of fit than the linear curve. For Cambodia, panel data analysis was adopted to provincial forest areas and provincial per capita agricultural and industrial GDP, it is found that linear model is better fitted than quadratic model. This research concludes that Peninsular Malaysia has reached the bottom of U-shape curve while Cambodia is still in the left side of the U-shape curve.
  • 田中 亘, Wilawan Wichiennopparat, 野田 巌
    セッションID: P1A006
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、タイ国において伝統的および経済的に重要な林産物であるチーク材家具に対する消費者の今日的な選好を把握するため、バンコク都内で一般消費者を対象にアンケート調査を実施した。チーク材を他の原材料と比較した上で購入を検討すると回答した者に絞って分析した結果、以下の点が明らかになった。すなわち、(1)チークと比較検討する原料として木質系材料および他樹種木材を選択する者が多いこと、(2)原材料の特性把握に関して、家具店の店頭や口コミからというように情報提供者から直接的に得るケースが多いこと、(3)家具の価格以外に必要と考える情報は、原材料の特性、使用材の生産地、使用材の合法性であり、原材料のチークそのものに対して高い関心が示されること、(4)チーク材家具を若年層にとってより魅力的なものにするためには、現代的なデザインを意識した商品開発、店舗における多様な品揃え、より安価な商品提供が必要と考えられていること、である。今後、チーク材家具の需要を中長期的に拡大させるためには、これらの結果に沿った商品開発と情報発信が有効的と考えられる。
  • 森野 真理
    セッションID: P1A007
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    兵庫県淡路島において、木質バイオマスの過剰利用から過少利用に至る時代までの森林景観の変化を分析した。淡路島では江戸時代に瓦産業が興り、明治以降、主要な地場産業として発展した。瓦産業は瓦を焼くために大量の燃料を要する。瓦産業では昭和30年代まで主に薪が使われ、その後重油、ガスへと転換した。本研究では、当時の瓦産業に関わる木質バイオマスの大量使用後、利用が急減した後の森林景観構造の変化を明らかにすることを目的とする。対象地は、島内の瓦生産の中心地である阿万地区の森林(約100㎞2)とし、空中写真を使って1950年代、1970年代、2000年代の3時期の林相の変化について分析した。その結果、マツの疎林から常緑広葉樹林へと大きく変化したことが明らかになった。
  • 佐藤 宣子, 中川 遼, 正垣 裕太郎
    セッションID: P1A008
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の導入を契機として,木質バイオマス発電所の建設計画が各地で進んでいる。それに対応して素材生産や流通構造が変化することが予想される。そこで,本報告では,2013年11月に稼働したグリーン発電大分にチップ用原料の収集を担当している日田木質資源有効利用協議会(26の素材生産業者,森林組合,運送会社で構成)のうち,2森林組合と3素材生産業者に対面調査を実施した。同発電所は32円/kw+税で売電できる「未利用材」(森林経営計画の策定などガイドラインに則った木材で間伐材および主伐材)を100%用いている。対面調査の結果,①森林組合実施の間伐地での切捨間伐から搬出間伐への移行,②3つの請負素材生産業者が2014年にバイオマス用に出荷した材は全て主伐材であり,建築用とバイオマス用(約2割)に土場選別をして出荷,③以前よりも林地に残す残材が減少,④森林組合が主伐委託をうけた林分のうち曲がりが多いと判断された場合,未選別のまま「未利用材」として発電所に出荷した事例がみられた。発電需要によって搬出間伐と主伐の促進,資源利用率の高まり,木材利用用途割合の変化を指摘できる。
  • 嶋瀬 拓也
    セッションID: P1A009
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    国産材素材消費量が年間5万m3を上回る製材工場や合板工場は、1990年代まではほぼ皆無であったが、2000年代以降急速に増え、今日では、国産材素材需要の大きな部分を占めている。その結果、国内林業は、全国レベルでも地域レベルでも、大型工場の動向に強い影響を受けるようになりつつある。本研究では、このような状況を踏まえ、大型国産材工場の素材消費・製品生産の内容や立地が時代とともにどのように変化してきたかを検討した。業界紙・誌や各社プレスリリースなどの資料を用い、製材業・合板工業の設備投資動向を把握・分析した。日刊木材新聞社の調べによれば、国産材素材消費量が年間5万m3を上回る製材工場は、2004年には8社で、いわゆる新興林業地に多く立地し、柱角など特定の品目に専門化した工場が多かったが、2013年には44社に増え、立地地域や生産品目も多様化が進んでいる。国産材素材消費量が年間5万m3を上回る合板工場は、1990年代には皆無であったが、2000年代には国産針葉樹材を新たに採用する工場が相次いで現れ、同年代半ばにロシア産丸太の供給不安が強まると、これに代えて国産材を利用する工場が一挙に増えた。
  • 吉田 城治, 山田 祐亮, 芳賀 大地, 吉田 美佳, 佐野 薫, 佐藤 里沙, 後藤 明日香
    セッションID: P1A010
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     バイオマス発電所建設の急増による資源確保競争が激化している。また、合板工場においては、乾燥技術の発達により合板でのスギ材利用が拡大している。国内の大規模国産材合板工場では、原木調達リスク及びコストの低下を目指し、所有山林拡大の動きが活発化している。
     しかし、これまで森林管理を行っていない合板工場では、「管理体制の整備や山林管理ノウハウの不足」、「取得対象とする山林の不足」、「山林取得費用の確保・山林評価ノウハウの不足」、「必要な森林情報の不足や情報管理システム等の不足」といった課題を抱えている。
     本研究では、国産材を利用している国内最大手の合板工場を事例に、川上事業参入時における実態と課題を聞き取り調査結果を元に整理した。
     その結果、山林売買契約においては、品等区分別の資源量を含んだ正確な森林情報を迅速に把握する必要性が示された。しかし、森林簿をベースに現地に詳しい専門家による判断の上で毎木調査を実施しているため、時間や費用面での負担が大きい状況となっている事が明らかになった。
     川下が必要な情報に合わせた、これまでとは異なる森林情報の取得・管理について検討していく必要がある。
  • 早舩 真智, 立花 敏
    セッションID: P1A011
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    1985年のプラザ合意を契機とする円高基調に伴う輸入材の台頭により、製紙工場の地域林産業への影響は1990年代以降縮小してきた。だが、木材の一大需要産業である製紙工場の立地調整と原料選択要因を明らかにすることは森林資源の有効活用を展望する上でも重要である。本研究では、日本の紙・板紙製品の中でも生産量が多く、広葉樹チップ消費量の大半を占める印刷情報用紙産業を対象とし、その工場の1990~2013年の企業別立地調整及び原料選択要因について分析を行った。その結果、各製紙企業が地理的、設備的に不採算地の縮小・撤退と有利な工場への生産集約とを進め、印刷情報用紙生産が大消費地に対して一定の地理的バランスを持った立地となっていることが明らかとなった。原料選択要因については、安定調達可能な量と価格に加え、人工林材・森林認証材、材質の適不適の判断によって異なってくる。これらは、為替相場、輸送費用、技術蓄積の差異、原料供給国の情勢より、各製紙企業が国内外での木材チップのスポット買い、長期契約取引、植林地経営等を如何に組み合わせてきたか、つまり原料調達のための取引特定的投資戦略の歴史的な差異を反映していることも分かった。
  • 金森 啓介
    セッションID: P1A012
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     集約的林業は、施業規模の拡大による事業量の確保、林内インフラの効果的整備、高性能林業機械の積極的導入による森林施業の効率化を一つの目標とする。先行研究から集約的間伐、主伐の有効性については部分的に実証されているが、伐採後の再造林、保育林施業も含めた長期森林経営における有効性については不明確な部分が多い。本研究では、福井県での「コミュニティ林業事業」を例に、集約的林業の短期および長期収支を定量的に分析し、従来型の施業と比較することで集約的林業の独立採算性と課題を明らかにした。
     分析の結果、集約的林業の実施は、短期的にも長期的にも明らかに社会的に見て効率的であることが分かった。しかし、集約的林業であっても、現行価格下での木材収入で採算性を確保することは困難であり、ある程度の収益性を見込むためには保育林補助、間伐補助が必要となった。また、木材生産性が低い林分であればあるほど、再造林化よりも針広混交林化の方が経済的に有利となる傾向が見られることから、集約的林業であっても、針広混交林化は単に施業効率性の観点だけから見ても有効な選択肢である可能性が高いと考えられる。
風致部門
  • 徳岡 良則, 早川 宗志, 木村 健一郎, 高嶋 賢二, 藤田 儲三, 橋越 清一
    セッションID: P1A013
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    足摺宇和海国立公園内の愛媛県愛南町鹿島にはアオギリの樹林が約6 haあり、貴重な群落としてその重要性が指摘されてきた。アオギリは豊後水道沿岸域に点在するが、遷移系列上の位置づけや過去の資源利用に関する知見は限られている。対象地域におけるアオギリの分布を調査した結果、本種は撹乱地に早期に分布を拡大する先駆樹種的性質が示された。地域住民の証言では第二次大戦前後には主にアオギリの繊維から綱を作り農具や漁具等の材料とし、一部の個体は山地斜面、耕地境界、人家裏に植栽されていた。アオギリにはジョウドノキ、ジョウドギ、アオギ、カタナギ(愛媛県佐田岬)、ヘラ(愛媛県由良半島、大分県津久見)、イサキ(高知県大月町、大分県蒲江、宮崎県北浦)の地域呼称があった。漁村でのアオギリの採取・利用法や個体管理に関する証言、豊後水道を挟んだ大分県と愛媛県や高知県に共通したアオギリの地域呼称が存在することは、沿岸集落に現存するアオギリの一部は、海路を通じた植物利用文化の伝播に由来する可能性を示唆している。資源利用の役割を失ったアオギリは、現在点在する成木を種子源として、周囲の陽地へ今後も定着していくと予想される。
  • 岡山 奈央, 田中 伸彦, 本田 量久, 松本 亮三
    セッションID: P1A014
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    近年、観光デスティネーションとしての里山に対する関心が高まっている。その誘因の一つは、自然や人々の生活が融合した景観の魅力にある。神奈川県平塚市の吉沢地区は、多くを農地と森林が占める里山景観が残る地域である。しかし、現在後継者不足や休耕地増加などの問題を抱えている。それを解決するため、同地区では「産官学民」協働による里山を活用した観光まちづくりを推進している。そして、この地区の美しい風景を一般公募する「吉沢八景選定プロジェクト」が始動した。本研究では、この活動に対する学術的エビデンスを提示する目的で、写真投影法を用いた里山景観の選好性の分析を行った。具体的には、2014年9月に里山散策や農作業体験を行った子ども団体の引率者17名にアンケートを行い、活動で印象に残った風景写真を提出してもらった。そこで集まった約200枚の写真をKJ法でクラスター分類して、利用者の風景選好を明らかにした。これらの分析結果は、今後の里山管理活動に役立つと考える。なお本研究は、東海大学の「人に対象とする研究」の承認を得た上で、「To-Collaboプログラム(『平成25年度地(知)の拠点整備事業』採択事業)」の一環として行った。
  • 神宮 翔真, 伊藤 太一, 武 正憲
    セッションID: P1A015
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     二次的自然地域の活用という面から,里山に対する関心が高まる中,経年的な保全活動がどのような里山利用に結びつくのか明らかにする必要がある.本研究は1990年に開園した茨城県の「牛久自然観察の森」を事例に,事業報告書及び関係者への聞き取り調査から,里山利用の現状を明らかにすることを目的とした.
     当該地の開園時は牛久市直営だったが,2006年度から指定管理制度を導入し,その後11年に放射性物質による汚染の影響を受けた.運営のあり方は変化し,まず,運営主体となったNPO法人は,里山保全活動をより幅広い人々を対象とするレクリエーション活動と位置づけ,大きく利用実績を伸ばした.一方で,11年の汚染以降は屋外での活動が困難となった.その対応過程で運営主体は,観察の森内にとどまらず,周辺地域に活動の範囲を広げ,自らの活動を見直した.また,運営主体の人員は,観察の森を地域住民のもの,「我々の森」という意識を持って保全活動へ取り組むことを共通の理念としていた.
     これらの結果,観察の森は里山の独創的な活用を模索し,屋内型里山体験を開始するなど,独自の里山利用を実施していると考えられる.
  • 小川 結衣, 武 正憲, 長野 康之, 佐方 啓介
    セッションID: P1A016
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     2,400m以上の高山帯に生息するライチョウの保護増殖事業に必要な生息状況調査には、調査の専門知識および高山帯への登山の知識と技術を有する人材が欠かせないが、人材の減少かつ高齢化が進んでいる。そこで2013年から登山ガイドによる、ライチョウ調査を取り入れた観光目的の登山モニターツアーを開始した。この活動を継続するために参加者の満足度を上げることは重要である。本研究では2014年の参加者を登山経験の多寡および移動距離の大小により、それぞれA班(11人)、B班(5人)に分け、その活動内容の違いに着目し、満足度・貢献実感度の関係を明らかにすることを目的とした。
     アンケート集計結果を各班に分け、回答の平均値の差を分析した。満足度と貢献実感度に関する質問の両方で、回答傾向に班での差が認められた(t検定)。B班はA班に比べ、満足度も貢献実感度も高かった(満足度、貢献実感度ともにp<0.05)。B班の満足度と貢献実感度が高い要因には、ライチョウの痕跡探しに集中した時間がA班より長かったことと、それに伴い一人当たりの痕跡発見数が多かったことが考えられる。
  • 菊池 俊一
    セッションID: P1A017
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     飯豊連峰・朝日連峰は山形県・新潟県・福島県にまたがる山地である。ブナ林が広がり,渓谷が深く刻まれる両山地は日本有数の豪雪地帯であり,風衝草原や雪田植生のお花畑が広がる。その雄大な自然景観は人気が高く,多くの登山者が当地を訪れる。
     深い山地に入り込む登山道は,古くからの山岳信仰により自然発生した道や林野の巡視活動等に利用されてきた道である。風化しやすい花崗岩地域であることや,維持管理にかかる人手の不足,登山利用者数の増加等から,登山道や周辺植生の荒廃が急速に進んでいる。
     このような状況を背景に飯豊連峰では2006年に,朝日連峰では2009年に山岳会・自然保護団体等の地域団体,国や地方自治体,学術経験者が参加して登山道保全に関する意見や情報を交換する場として連絡会・協議会が設立された。現在では,自然性高い景観を損なわないように配慮しつつ荒廃箇所の保全作業を合同で行う協働型作業が多様な関係者の参加によりなされている。今回は,これまでの経緯や活動履歴を時系列に沿って整理し,そのような協働型作業により山岳環境の保全がどのように進みつつあるのかを報告する。
  • 下嶋 聖
    セッションID: P1A018
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンジカの採食による植生荒廃が全国の山岳地で報告されるようになり、生物多様性の低下を引き起こしている。研究対象地である南アルプス国立公園においても、1990年代から高山帯においてニホンジカによる採食行動が確認されており、高山植物が食圧を受けている。お花畑と称される高茎草本群落がマルバダケブキやホソバトリカブトなどの単一植物の群落へと変貌しつつある。ニホンジカによる採食を防ぐため、関係諸団体により登山道沿いを中心に防鹿柵を敷設するなど対策がなされており、高茎草本群落が復活するなど一定の効果を示している。しかし高茎草本群落は登山道周辺以外にも多く存在し、食圧を受けていない高茎草本群落の詳細な情報は確認されていない。そこで本研究では高分解能衛星画像を用いて、詳細な植生図を作成し高茎草本群落の分布の把握を行った。あわせて、採食地の分布状況について可視化を試みた。これらの結果より地理情報システムを用いて、空間解析を行い未食圧地の立地特性を把握し、南アルプスにおけるニホンジカの食圧実態マップを作成した。
  • Yuko Shimizu, Seigo Itoh
    セッションID: P1A019
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    Jingu Forest is extremely precious as vast greenery in the middle of
    Metropolis Tokyo. According to Imaizumi (2013), after returning from
    studying in Germany for forest aesthetics, many Japanese dendrologists
    engaged in the initial planning for the forest of Meiji Jingu Inner Garden.
    However it is not yet well-known how they actually contributed to the
    project.
    In this study, we specifically analyze the methodology of the Japanese
    dendrologists who worked for the Inner Garden Project, comparing their
    method with the modus in the second English edition of the original Forest
    Aesthetics. In the process, it will be highlighted the similarities and
    differences between Japanese and German approaches, and investigated the
    influence of forest aesthetics on the Inner Garden Project.
経営部門
  • Jayathunga Sadeepa, Owari Toshiaki, Tsuyuki Satoshi
    セッションID: P1A020
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    Application of LiDAR data for forest structure analysis in broadleaved and conifer mixed forests has not been well established. The objective of the present study is to analyse the canopy structure of mixed forests by using airborne LiDAR data. We analysed the canopy structure using several indices derived from LiDAR point cloud; i.e. 95th percentile of height, mean height, standard deviation and coefficient of variation of canopy height, laser penetration proportion, and only fraction. The results revealed that 95th percentile heights, mean height and SD of height are closely related with the field measurements of stand basal area, mean height, mean DBH and SD of DBH. Therefore, it can be concluded that forest stand structure of mixed forests can be analysed accurately using airborne LiDAR data. However, further analysis of LiDAR data is required for a detailed understanding of forest structural complexity.
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