家族社会学研究
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35 巻, 1 号
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巻頭エッセイ
投稿論文
  • 多賀 太, 石井 クンツ昌子, 伊藤 公雄, 植田 晃博
    2023 年 35 巻 1 号 p. 7-19
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    近年の国際的ジェンダー平等政策では,男性のケア関与に焦点を当て,理想的な男性のあり方としてのケアリング・マスキュリニティ(CM)をキーワードとして用いている.しかし,男性のケア行為参加がジェンダー平等を促進する効果は限定的との先行研究もあり,そもそもCMを構成する諸要素間の関係性に関する十分なエビデンスは得られていない.そこで本研究は,7歳未満の子どもを持つ父親を対象とした調査データを用い,CMの構成要素に関する諸変数で階層別クラスター分析を実施した.その結果,男性たちが,単にCMの程度が高いか低いかの二極モデルでは捉えきれない形で多様化していることが明らかにされた.すなわち,「ケア行為」の頻度が高い男性たちの間でさらに,「ジェンダー観」が非伝統的で「生活の質」も高い「非伝統的男性性」と,「ケアの態度」の程度は高いが「ジェンダー観」は伝統的で「生活の質」が低い「葛藤的男性性」への分化が確認された.

  • 柳田 愛美, 柳下 実, 不破 麻紀子
    2023 年 35 巻 1 号 p. 20-31
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    2020年に始まった日本における新型コロナウイルスの感染拡大により,働き方や生活に大きな変化が生じ,先行研究からは男性の家事遂行が増加したことが示されている.本稿は,働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査および同調査のオンライン特別調査を用い,コロナ禍で増加した男性の家事遂行が定着したのかを検討した.また,補完的に男女の家事頻度に労働時間・通勤時間・同居子が与える影響がコロナ禍1年目と2年目で異なるかを分析した.結果から,コロナ禍1年目で男女ともに家事頻度が増加したが,2年目では男性のみ減少し,男性の家事頻度の増加傾向は持続していないことが示された.またコロナ禍1年目でのみ労働時間と家事頻度との関連がみられたが影響は小さい.加えて,同居子がいることで男性で家事頻度がコロナ禍1年目のみ増加したが,女性ではいずれの年も影響がみられなかった.

  • 宇田 智佳
    2023 年 35 巻 1 号 p. 32-43
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,児童養護施設で生活する子どもたちの家族をめぐる〈語り〉に着目し,子どもたちがどのように家庭経験を意味づけ,家族の再構築を実践しているのかを明らかにしていくことである.まず,彼女たちは,「非標準的な」家庭生活から施設入所となったことを解釈する.そして,彼女たちは家庭と離れ,施設生活を始めるなかで,家族との再構築において,家族の状況が優先されやすいという構造的な制限を経験する.こうした経験は,ジレンマを生じさせることがあることも示された.しかし,制限がありながらも,彼女たちは,家族との関係調整を実践していく.さらに,彼女たちは家庭復帰を希望していることから,彼女たちの〈語り〉は,「標準的な」家族の〈語り〉へと一元化していくことが示された.以上から,家族再統合において子どもの視点からの支援の必要性について,示唆を提示した.

特集 性的マイノリティと家族研究
  • 保田 時男, 白波瀬 佐和子
    2023 年 35 巻 1 号 p. 44-48
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本シンポジウムは,性的マイノリティの問題が家族研究と多様な関連を持つことを,あらためて幅広い家族研究者と共有することを目的として開催された.性的マイノリティに関する国内の議論は,かつてない盛り上がりを見せている.一般の人々の認知は高まり,基本的にポジティブな方向に社会意識が変化している.このような性的マイノリティをめぐる議論の動向は家族研究にどのような影響をもたらすのか.家族に対するカミングアウトの問題や,家族の定義への疑問,法制度の変化によりもたらされる影響など,多様な例があげられる.この領域の専門家が持っている知見を広く家族研究者全般で共有することの重要性はますます高まっている.シンポジウムでの議論は,この重要性が確認されるとともに知識の共有をめぐる困難さがあらためて確認された.

  • 大山 治彦
    2023 年 35 巻 1 号 p. 49-61
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本論の目的は,LGBTQ+の存在が可視化されるとともに,家族社会学などの家族研究が,どのように変化するのかを論ずることである.結論は,(1)今後,家族研究において,SOGIに敏感な視点が必要不可欠となり,SOGIの主流化が求められること,(2)これらは,家族を研究する者すべてにかかわる大変革であることである.SOGIに敏感な視点は,ヘテロセクシズムやシスジェンダー主義を克服する視点である.それらの克服には,ジェンダー学における女性学と男性学のとりくみと経験が参考となる.LGBTQ+の中心化によって,家族研究において自明とされていた概念や用語,調査デザインなどの見直しが必須であることが明らかになった.また,研究者には,その無意識のヘテロセクシズムやシスジェンダー主義について,自己省察が求められることも強調した.

  • 元山 琴菜
    2023 年 35 巻 1 号 p. 62-75
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,非シスジェンダーのヘテロセクシュアル(以下,非シスヘテロ)として生きることとなった「親子」の生活史から,家族をとりまく抑圧の構造と,そこからの解放に向けた実践を明らかにすることを試みた.「親」がもともとシスヘテロとして生活していた頃は,非シスヘテロの「子」との関係性は,抑圧の一部/被抑圧と対置され,分断された関係にあった.しかし,「親」が家族との物理的な距離をとり,非シスヘテロのアイデンティティを自覚することで,二人の関係性は変化していった.二人の関係を分断していたのは,家族成員を異性愛に押し込めることで異性愛規範を強化しつつ,性別役割分業に沿ったジェンダー役割を担わせることによって家父長制を強化する家族の抑圧的構造が原因であることを明らかにし,そのような家族を「家父長制異性愛規範家族」と呼んだ.そして,そこに包摂されない新しい関係性の可能性についても論述した.

  • 東 優子
    2023 年 35 巻 1 号 p. 76-87
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    トランス当事者の医療ニーズをきっかけにして,1990年代半ば以降にさまざまな支援システムが「医学モデル」で構築されてきた日本は,世界でも稀にみる「性同一性障害大国」である.しかし,WHOの「国際疾病分類」(ICD)が約30年ぶりに大改訂され,最新版であるICD-11においてはトランスであるということが正式に非病理化され,トランス当事者の医療ニーズは「性の健康に関連する状態」という枠組みで対応していくことになった.このことは,日本で唯一のLGBT法ともいえる「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」のありようにも影響を与える.同法律については「手術要件」の撤廃などをめぐり,国連の改善勧告を受けているところでもある.非病理化と人権モデルの導入は世界的潮流である.トランスジェンダーやジェンダーの多様な人々の人権保障に向けて,国内での議論および対応・対策にも「人権基盤型アプローチ」の起動が求められる.

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