本研究では, 花崗岩の強風化土のせん断による透水性変化を実験的に捉え, 地すべり発生と移動現象に関する検討を行った。2017年7月の九州北部豪雨災害地から採取した花崗岩の強風化土の粒度組成は, 砂礫分が約90%で, 細粒分 (<0.075mm) はわずかだった。リングせん断試験により得られた完全軟化強度および残留強度は六甲花崗岩の強風化土の値よりも高かった。せん断による透水性と間隙率の変化には有効垂直応力依存性が見られた。透水係数の変化は, 有効垂直応力200kN/m2の下で約1,000mmせん断後には2桁の低下, 約6,000mmせん断後には3桁の低下に至った。一方, 有効垂直応力50kN/m2の下でせん断した場合は透水係数の著しい低下が見られなかった。せん断後のリングせん断供試体の粒度分析結果により, せん断によって粒子は砂礫サイズから細砂~シルトまで破砕されたことが明らかになった。せん断による透水性と間隙率の低下の主要因は粒子破砕によるものと考えられる。得られた結果から, 地すべりの発生を左右する最小の強度は風化によって応力履歴を失った状態の強度である完全軟化強度が想定され, 地すべり移動による比較的少ない変位によって形成されたすべり面の強度は高い残留強度の状態に至ることが想定される。地すべり発生後に1m程度せん断を受けたすべり面で透水性低下に起因して過剰間隙水圧が消散できなくなった場合, せん断抵抗力が発揮できず地すべり移動がより進んだことが推察される。また, その傾向はすべり面深度が大きいほど顕著になる。
島尻層群の地すべりにおける降雨の斜面地盤内浸透過程の解明の一助とするため, 島尻層群豊見城層を対象として粒度組成が透水性に与える影響を検討した。露頭から採取した供試体の透水係数は, 中央粒径値と累乗近似の関係を示した。一方, 同程度の中央粒径の供試体に対して透水係数が増加するものもあった。X線CT撮影による供試体の内部構造観察では, 透水係数が中央粒径に依存した供試体内部には顕著なクラックはなく, 同程度の中央粒径に対して透水係数が増加した供試体にはクラックがみられた。試料を練り返し圧密した再構成試料のクラックなし供試体の透水係数は, 累乗近似線の近傍にプロットされた。これらより, クラックが透水係数を増加させることが分かった。このことは, 島尻層群では, 降雨を誘因とする地すべり発生における地下水供給メカニズムとして, クラックの有無が水みちを支配している可能性を示している。
鷲尾岳地区地すべりは長崎県北部に位置し, 「北松型地すべり」に分類される。約70年間にわたる鷲尾岳地区地すべり対策の経緯について紹介する。昭和25年より, 随時, 排水トンネル工や集水井工, 深礎杭工等の地すべり対策工事が実施された。近年の抑制工追加と共に地すべり変動の沈静化が確認され, 概成となった。概成に当たって, BIM/CIMモデルを活用し対象ブロックにおける対策工効果, 今回は特に抑制工効果を, 視覚的に表現して概成の判定に活用した。
長崎県松浦市高野地区にて発生した地すべりは, 令和元年8月豪雨によって大きく変動し, 地すべり土塊はほとんど流下した。大きな滑落崖が形成されその下方には基盤岩である風化玄武岩が広く露出した。滑落崖およびその上方斜面に対する対策工事が実施中であった令和3年8月に再び豪雨に見舞われ, 上方斜面から供給された多量の地下水により基盤岩が崩壊し, 滑落崖部の対策工が引きずられるように破壊されるに至った。これらの事象に対して, 滑落崖の崩壊・基盤岩の崩壊・多量の地下水を考慮した対策工を立案した。