昭和学士会雑誌
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81 巻, 6 号
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講演
資料
  • 西村 美里, 黒澤 敦子, 小山 幸代
    2022 年 81 巻 6 号 p. 520-549
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー
    併存疾患の治療目的で入院した認知症高齢患者の看護について報告されている文献のスコーピングレビューを行い,その特徴を明らかにすることを目的とした.Ovid(MEDLINE,PsycINFO,EBMR,Joanna Briggs Institute EBP Data base,Books@Ovid),EBSCO host(CINAHL,eBook Collection),Scopus,PubMed,EMBASE,Web of SCIENCE,医学中央雑誌Web版Ver.5,最新看護索引Web,JDream Ⅲのデータベースを使用し,Arksey and O’Malleyのフレームワークを用いてスコーピングレビューを行った.文献は2名のレビュー者によってカテゴリーに分類された.年代で比較した結果,報告されている文献は2000年以降に多く,和文献は英文献数の3倍の数が検出された.また文献の種類は研究が多く,主題や目的等によってカテゴリーに分類した結果,「併存疾患の治療に関する援助」「日常生活行動」「安全対策」「看護師の認識」「せん妄」「退院支援」「対象理解」「BPSD」「認知症看護教育の評価」「代替療法」「看護師の感情」「病棟・病院全体の取り組み」「看護全般」「コミュニケーション」「家族の思い」「専門家のケア」「エンドオブライフケア」「意思決定支援」「チームケア」「権利擁護」「その他」の21に分類できた.和文献にあって英文献にみられなかったカテゴリーは,「権利擁護」「代替療法」「チームケア」であった.入院する認知症高齢患者の看護に関する文献は,時代や認知症看護の変遷と共に数や種類が増え,内容も多様化していた.今後,認知症看護の実践内容そのものに関することや,その効果に焦点を当てて,事例検討や研究に取り組む必要があると考える.
原著
  • —2016年度〜2019年度の調査結果から読み取れる学生の傾向—
    正木 啓子, 小倉 浩, 須長 史生, 倉田 知光, 堀川 浩之
    2022 年 81 巻 6 号 p. 550-563
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー
    筆者らは2016年度〜2020年度の5か年にわたる「インターネットを活用したセクシュアル・マイノリティに関する学生の意識調査」を企画しており,本稿はその4年目(2019年)の実施内容に関する結果報告となる.本研究の目的は18歳〜20代前半の男女の,性的マイノリティに対する意識や態度を明らかにすることである.調査対象は2016年度から2018年度までと同様に,首都圏の医療系A大学一年生とした.今回の調査では在籍学生数576名に対して,522名(男子155名,女子364名,その他3名)からの回答が得られ,回収率は90.6%で あった.プライバシーの確保と回収率の向上のために,前3回の調査と同様インターネットを活用し,スマートフォンを用いたアンケートに回答する方法で調査を実施した.アンケートの集計結果より,以下の知見が得られた.(a)回答者のホモフォビア的な回答傾向は明確に減少傾向にある.(b)性的マイノリティに対する正確な知識の修得欲求が増加し続けている.(c)典型的なジェンダー規範に対して同意しない学生が増え続けている.そして(d)性的マイノリティに対する共感的な理解や態度は継続的に増加している.とりわけ,性的マイノリティに関する正確な知識を取得したいと望む積極的な意識を有する学生が2019年度の調査では84%と多数派を占めていることは注目に値する.これらより,大学に入学してくる新入生の性的マイノリティに対する意識は年々平等主義的になっていることがわかる.このことは多様な学生による共生に道を拓くだけではなく,その多様性から価値ある教育効果を導きうる可能性をも示唆するものでもある.大学にはこのような可能性に鑑みて,性的マイノリティに関する適切なカリキュラムを用意するとともに,それを実践する教員の十分な資質の向上をサポートする体制を整えることが求められる.
  • 石川 琢也, 池田 裕一, 布山 正貴, 小川 玲, 藤本 陽子
    2022 年 81 巻 6 号 p. 564-570
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー
    ヒトの腸管内には多くの細菌が生息しており腸内細菌叢を形成している.近年,腸内細菌叢の変化とさまざまな疾患との関係性が報告されている.今回,われわれは機能性便秘症を伴う下部尿路障害の児における腸内細菌叢の分布を調査することとした.機能性便秘症を伴う下部尿路障害の児10名(男児8例女児2例,平均年齢8.1歳)と健常児10名(男児10名,平均年齢7.1歳)の腸内細菌を検索した.検索は培養法で行い,4菌種を評価項目とした.その結果,機能性便秘症を伴う下部尿路障害の児ではClostridium属とLactobacillus属が有意に増加しており(p<0.05),その他の菌種や総菌数では有意差は認めなかった.腸内細菌叢の変化が排尿排便機能に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆され,プロバイオティクスによって基礎疾患とともに下部尿路障害の改善に期待がもたれる.
  • 福島 隆聡, 高塩 理, 須藤 英隼, 山田 真理, 川合 秀明, 宇野 宏光, 吉田 知弘, 戸坂 由香里, 河合 恵太, 鎌田 行識, ...
    2022 年 81 巻 6 号 p. 571-582
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー
    日本の自殺者数は2009年以降減少傾向が続いているが,世界的にはその水準は依然として高い.最近では新型コロナウイルス感染症関連による失業を苦にした自殺も増加している.また過労死や労災事案の増加などから,勤労者のメンタルヘルス対策が喫緊の課題となっている.以前にわれわれは精神医療的支援の不十分だった中小企業勤労者を対象にしたメンタルヘルス活動より得られたデータを用いて,自殺関連行動と関係の強い気分障害をスクリーニングすることは自殺予防に役立つという仮説を実証した研究を報告した.本研究では自殺予防のために気分障害と関係の強い精神疾患をスクリーニングすることが更なる一次予防となるという考えの元に,前回の研究データからさらに,うつ病群,双極性障害群,気分変調症群,そして前述した3つを網羅した気分障害群についてそれぞれの対照群と比較検討した.その結果,3つを網羅した気分障害群の補正オッズ比はパニック症群3.2,社交不安症群2.6,広場恐怖症群2.1,全般性不安症群1.8の不安症群,また強迫症群2.1,神経性大食症群2.8であった.また双極性障害の補正オッズ比は薬物使用障害群2.0,また気分変調症群では神経性無食欲症群3.3と有意な関連を認めたのもの,気分障害群には反映されない結果となった.しかし双極性障害群と気分変調症群をそれぞれ個別にスクリーニングする可能性があり,気分障害群の結果と合わせて見逃せない精神疾患であった.これらの結果より古典的診断でいう神経症に相当する精神疾患と有意な関連があった.本研究では不安症,強迫症,そして摂食障害などのスクリーニングが勤労者の気分障害の発症抑制に寄与することが示唆された.本研究結果が間接的に勤労者の自殺予防につながることを期待したい.
症例報告
  • 八木 直美, 金澤 建, 高柳 隆章
    2022 年 81 巻 6 号 p. 583-589
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー
    IgA血管炎は小児に好発する全身性の小型血管炎であり,一般的に予後良好であるが,特異的な治療法はない.典型的な症状としては紫斑と関節痛,腹部症状,腎障害が挙げられる.紫斑は全ての患者に出現し,関節痛は約74%,腹部症状は約51%,腎障害は約54%の患者に認められる.腹部症状に対して非ステロイド性抗炎症薬,ステロイド,第ⅩⅢ因子が投与されるが,それらの治療でも効果がみられない場合がある.今回,治療抵抗性の腹部症状にDapsone(以下DDS)が著効した1例を経験したため報告する.症例は4歳の女児である.再燃したIgA血管炎の腹痛に対して非ステロイド性抗炎症薬の内服やステロイドと第ⅩⅢ因子の経静脈的投与を行ったが改善しなかった.そこで第20病日からDDS(1.5mg/kg/day)の投与を開始したところ速やかに症状が改善した.IgA血管炎の腹部症状に対するDDS投与に関して,小児では自験例も含め22例の報告がある.全例で効果があり,副作用は5例(メトヘモグロビン血症2例,ダプソン過敏性症候群 1例,溶血性貧血1例, 汎血球減少1例)で認められたが,DDSの中止や減量でいずれも改善している.症状が重篤でステロイドでの治療が困難なIgA血管炎の腹痛に対して,DDS投与は治療の選択肢になり得る.
  • —成人矯正に対する外科的処置の有用性—
    堀口 リラ, 與儀 賢, 平出 隆俊
    2022 年 81 巻 6 号 p. 590-596
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー
    近年,増加傾向を示す成人の歯科矯正治療では,成人特有の口腔内の環境,すなわち補綴物,失活歯,欠損歯,歯周疾患等の存在などが歯の移動計画を難しくすることがあり,他科との連携が必要となるケースが増加している.今回,著者らは主訴である上顎前突感ならびに前歯部のガミースマイルの改善を検討する中で,上顎前歯の失活歯に装着された補綴物と前歯部の後方への移動量を考慮し,上顎前歯部歯槽骨切り術との併用治療が適切と判断した.その結果良好な成果を得たので報告する.
  • 桂田 真理奈, 高良 有理江, 冨田 大介, 宮澤 平, 芳賀 秀郷, 代田 達夫, 槇 宏太郎
    2022 年 81 巻 6 号 p. 597-604
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー
    前歯部の叢生を伴う矯正歯科治療の場合,主訴の改善のため第一小臼歯を便宜抜歯することが多い.しかしながら,個々の歯や歯周組織,皮質骨の状態,咬合状態や補綴物の状況により第一小臼歯以外の抜歯部位を考慮することも多々ある.本症例は,初診時年齢28歳1か月の女性,他院にて可撤式床矯正装置による歯列拡大を行っていたが通院が途絶え,矯正歯科治療を中断した既往がある.当院には,重度の叢生及び下顎の前突感を主訴として来院した.上顎右側犬歯に著しい歯肉退縮およびCBCT所見より皮質骨の菲薄化を認めたことを一因とし,矯正検査・診断の結果,上顎両側犬歯抜歯を伴う外科的矯正治療を施行することとした.矯正装置撤去時における上顎両側犬歯部歯肉は初診時と比較しても大きな歯肉の退縮等の変化は認められなかった.また外科的矯正治療を適用したことで,患者の主訴である形態的不調和は改善され,かつ機能的咬合が得られたため治療前後での骨格および咬合の変化について報告する.
臨床報告
  • —緊急事態宣言下における新型コロナウイルス感染症重点病院での経験—
    及川 洸輔, 滝 元宏, 下川 貴志, 中 摩佑子, 本間 進, 幸本 康雄, 高柳 隆章
    2022 年 81 巻 6 号 p. 605-612
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー
    Coronavirus disease 2019 (COVID-19)に罹患した母体,罹患が疑われる母体の管理について一般化された指針は存在しない.COVID-19罹患母体に関する報告は増えつつあるが,罹患が疑われる者および濃厚接触者に関する報告はない.COVID-19の流行状況,各施設の医療体制,医療資源の実情に合わせた弾力的対応が求められる.今回,新型コロナウイルス感染症重点病院において,配偶者がCOVID-19に罹患し,母体が濃厚接触者である状況下での周産期管理を経験したので報告する.母体は33歳,1妊0産,妊娠経過に特記すべき異常はない.配偶者の職場でCOVID-19クラスターが発生した.配偶者はCOVID-19に罹患し,母体はPolymerase chain reaction (PCR)検査陰性であり濃厚接触者となった.母体と配偶者を隔離するため配偶者を緊急入院とし,母体は帝王切開術前日まで自宅待機とした.関係スタッフと夫婦による事前ミーティング,手術室でのシミュレーションを行った上で,隔離開始6日後に選択的帝王切開術を施行した.帝王切開術前日に母体に再施行したPCR検査は陰性であったが,他者へウイルスが伝播する可能性のある期間であったため,罹患者に準じて対応した.関係スタッフは個人防護具(ガウン,手袋,サージカルマスク,アイガード,帽子)を着用し,手術室への出入りは最低限とした.手術室では母体から2m離れた位置で児の蘇生を実施し,児を閉鎖式保育器に収容した上で母児面会とした.以降,母体の健康観察期間終了まで母児は分離して管理した.児に対して生後24時間以内にPCR検査を施行し,帝王切開術2日後に陰性を確認した.出生後の児の経過は良好であり,母児の分離期間中は,搾乳を運搬して与えた.また,タブレット型端末を使用し,連日テレビ電話による母児の遠隔面会を行った.母児ともに罹患することなく,生後9日に母児同時に退院した.更に医療従事者の感染も認められなかった.COVID-19罹患が疑われる周産期管理では,母体の健康観察期間の考慮,スタッフによる事前訓練,母児分離に配慮したケアが重要である.
第375回昭和大学学士会例会(医学部会主催)
第376回昭和大学学士会例会(保健医療学部会主催)
第30回昭和大学学士会シンポジウム
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