日本小児血液・がん学会雑誌
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第64回日本小児血液・がん学会学術集会記録
会長講演
  • 越永 従道
    2023 年 60 巻 5 号 p. 277-283
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
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    1971年日本小児科学会と日本小児外科学会の両悪性腫瘍委員会が主催し,がんの子供を守る会の協賛で,「小児悪性腫瘍研究会」が開催され「Wilms腫瘍」を主題に集中討議が行われた.1985年からは日本小児がん研究会と名称を変え,1991年に日本小児がん学会となった.1996年大川治夫を中心に,日本ウィルムス腫瘍スタディグループJapan Wilms Tumor Study(JWiTS)が結成され,①全国統一プロトコール(NWTS protocol)導入,②中央病理診断システム導入,③データベースの確立,④分子生物学研究推進を実行し,わが国のWilms腫瘍の診断治療の発展に大きく寄与した.2003福澤正洋を中心に新JWiTS委員会が結成され,現在の日本小児がん研究グループ(JCCG)腎腫瘍委員会に引き継がれている.JWiTS-1(1996~2005年)では,施設病理と中央病理との一致率は不良(81.7%)であった.そこでJWiTS-2(2006~2014年)では,中央病理への検体提出を必須とした結果,Wilms腫瘍のStage IからIIIで,relapse free survival(RFS)およびoverall survival(OS)ともに90%以上と改善がみられた.しかしstage IVではRFS 66.2%,OS 84.6%と不良で,退形成型Wilms腫瘍と後腎芽細胞優位型Wilms腫瘍,両側性Wilms腫瘍については今後の課題である.腎明細胞肉腫はRFS 33.3%,腎ラブドイド腫瘍はOS 25% RFS 18.8%と予後不良である.2014年JCCG腎腫瘍委員会としてInternational Society of Pediatric Oncology(SIOP)腎腫瘍グループとの共同調査研究Umbrella Protocol参加の方針となった.これまでにわが国を含め計42カ国以上が参加しており,今後の進展が期待されている.

日韓シンポジウム:血友病
  • Koji Yada, Keiji Nogami
    2023 年 60 巻 5 号 p. 284-291
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    The development of inhibitors is one of the most serious complications in patients with hemophilia (PwH). International studies have reported that certain genetic and treatment-related factors are associated with inhibitor development in PwH. However, the genotype distribution of the factor (F) VIII(IX) gene (F8 or F9) and its impact on inhibitor development in Japanese PwH remain unknown. In 2007, the Japan Hemophilia Inhibitor Study 2 (J-HIS2) was organized to establish a nationwide registry system for PwH and to elucidate the risk factors for inhibitor development; it was designed as a prospective investigation following a retrospective study, J-HIS1. Patients newly diagnosed after January 2007 were enrolled in the J-HIS2 and followed up for inhibitor development and clinical environments from 2008 to 2020. Of the 417 patients (340 PwHA and 77 PwHB) from the 46 facilities enrolled in the study, 83 (76 PwHA and 7 PwHB) were recorded with inhibitors. Inhibitors were observed in 31.0% of severe PwHA cases, 8.0% of moderate PwHB cases, 1.6% of mild PwHB cases, and 17.1% of severe PwHB cases. Most inhibitors (89.7% in severe PwHA and 71.4% in severe PwHB) were detected within 25 days of exposure. Genotyping of these patients revealed an association between inhibitor development and null variants of F8 (p<0.01) or F9 (p<0.05). Based on the final results of J-HIS2 and detailed information on the F8 genotype identified in PwHA enrolled in the J-HIS studies, the prospects of treatment in consideration of inhibitor development are discussed in this section.

シンポジウム3:小児血栓止血学の診療update
  • 山下 敦己
    2023 年 60 巻 5 号 p. 292-296
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
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    von Willebrand病(VWD)はvon Willebrand因子(VWF)の量的・質的異常に起因する遺伝性出血性疾患である.VWDの病因・病態は極めて多様で,VWFの量的減少症のType 1,質的異常症のType 2,完全欠損型のType 3に分類され,Type 2にはさらに2A,2B,2M,2Nの4亜型が存在する.VWDの症状は,一次止血障害に起因する皮膚・粘膜出血が主体であり,女性では過多月経を認める.凝固第VIII因子(FVIII)が著明に低下するType 3やType 2Nでは二次止血障害に起因する関節内・筋肉出血が見られる.皮膚・粘膜出血や過多月経は健常者でも経験するため,出血症状のみで健常者と鑑別するのは困難である.VWFレベルが30%未満の場合にVWDと診断するが,VWFは種々の要因により変動し,健常者の血漿VWFレベルは50–200%と幅があるため診断に迷う例も少なくない.VWDの治療は,酢酸デスモプレシンあるいはVWF濃縮製剤を用いる.VWF濃縮製剤としては,血漿由来VWF/FVIII製剤に加え,遺伝子組換えVWF製剤が使用される.日本血栓止血学会で新たに作成された「von Willebrand病の診療ガイドライン 2021年版」に基づき,VWFの特徴やVWDの多様な病態を正しく理解し,正確な診断,適切な治療を行う必要がある.

シンポジウム4:小児がん支持療法と関連する外科治療
  • 大片 祐一, 小松 昇平, 出水 祐介, 山本 暢之, 佐々木 良平, 福本 巧, 尾藤 祐子
    2023 年 60 巻 5 号 p. 297-300
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
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    腹部悪性腫瘍に対する粒子線治療は,腫瘍に近接する消化管の放射線障害が大きな問題となり,根治的線量の照射が困難な場合がある.この治療限界を克服すべく,神戸大学では粒子線照射前の準備として開腹下に腫瘍と消化管の間に延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)製シート(以下,ePTFE製シート)を挿入するスペーサー留置術を考案し,2006年8月から2022年3月までに腹部悪性腫瘍200例以上に対して施行し良好な治療成績を報告してきた.さらに不織布型の吸収性スペーサーの開発に取り組み,放射線治療用吸収性組織スペーサー「ネスキープ®」の上市に至り,2019年6月から2022年3月までに50例以上のネスキープ留置術を施行した.ネスキープ®の長所はePTFE製シートに比して素材が柔軟であり,離断・連結が容易で腫瘍に即した形状に作成して腫瘍と臓器の間に固定しやすいことである.また吸収性素材であるため消化管合併切除・感染症例などに対してもスペーサー留置術の適応が拡大される可能性がある.ネスキープ®留置術における手術手技の取り組みを供覧し,小児領域への応用も含めて吸収性スペーサー留置術の今後の課題について報告する.

  • 文野 誠久
    2023 年 60 巻 5 号 p. 301-305
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    【目的】小児がんにおける放射線治療は,今後さらに増加していくことが見込まれるが,骨盤内の近接正常組織への被ばくを完全に防ぐことは不可能で,治療後生存期間の長い小児においては大きな課題であり,特に性腺機能の温存は小児がん治療後のQOLのために重要である.今回,吸収性スペーサーおよび性腺移動を含めた被ばく低減手術について,その概念と展望について報告する.

    【方法】本稿での被ばく低減手術の定義を「放射線治療時の周囲正常組織の被ばく低減のため,正常組織との間隙確保や放射線防護を目的に行われる手術の総称」とし,小児骨盤内悪性固形腫瘍に対する手術について,自験例を含めて紹介する.

    【結果】吸収性スペーサーによる体内空間可変治療について紹介を行った.また,横紋筋肉腫3例に対して放射線治療前に被ばく回避を目的とした性腺移動を行った.精巣の1例については移動は比較的容易であったが,卵巣の2例については,照射範囲によって両側の回避が難しく,1例は片側のみの移動となった.卵巣組織凍結保存として,3例の脳腫瘍患者に腹腔鏡下片側卵巣摘除を行った.

    【考察】小児においては,臓器保護とともに妊孕性温存も大きな課題であり,吸収性スペーサーによる臓器移動と,性腺移動や卵巣凍結保存による性腺保護を組み合わせた被ばく低減手術の実施は,長期QOL向上のために今後検討していくべき外科的補助療法と思われる.

  • 高江 正道, 鈴木 直
    2023 年 60 巻 5 号 p. 306-311
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    近年,妊孕性温存療法の普及とともに,小児患者においても妊孕性温存療法が広まりつつある.女児では,卵子凍結ならびに卵巣組織凍結が適応となる.卵子凍結は確立された医療技術であるが,卵子採取に必要な調節卵巣刺激に約2週間を要するため,緊急性の高い患者には適応できない.また,月経周期を有することや経腟採卵が可能であることなど,実施する際の条件が存在する.また,妊娠率も決して高いとはいえない.一方,卵巣組織凍結は初経前での患者でも実施可能で,保存にかかる日数も数日である.しかし,白血病のような卵巣内に病変を有しやすい疾患では,凍結した卵巣組織内に腫瘍細胞が混入している可能性があり,それを移植することによって原疾患が再発する危険もある.筆者らの所属施設では既に78人の小児卵巣組織凍結,4人の卵子凍結を実施しており,その実施可能性が示されている.今後,わが国でのエビデンスの確立のためにも,日本がん・生殖医療登録システムへの確実な登録と長期にわたるフォローアップが必要である.本稿では,妊孕性温存に関する基本的な事項と所属施設における現状を述べる.

シンポジウム6:小児固形腫瘍における基礎・トランスレーショナル研究の現状と展望
  • 藤原 智洋
    2023 年 60 巻 5 号 p. 312-319
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    肉腫研究における診断法開発という観点からの大きなマイルストンは,1980年代の腫瘍特異的融合遺伝子の発見である.以降,各組織型における特異的融合遺伝子が現在まで多数同定され続けており,その都度新しい疾患概念が生まれている.組織に基づく分子診断法は発展する一方,肉腫には血中腫瘍マーカーが極めて少ない.近年,血液中の核酸・細胞外小胞などの循環分子を用いたリキッドバイオプシーの開発が試みられている.血中cell-free microRNAを用いた方法は横紋筋肉腫におけるMiyachiらによる報告に端を発している.ctDNA解析は2021年8月より保険収載され,今後の知見の集積が待たれる.治療法開発における進歩は,パゾパニブ,エリブリン,トラベクテジンが進行性軟部肉腫に対して保険収載された一方,進行性骨肉腫・Ewing肉腫に対しては新たな分子標的薬は登場しておらず治療開発が待たれる.近年,がん遺伝子プロファイリング検査を用いた特定の遺伝子異常を標的とする治療法の適応拡大が肉腫においても新たな光明をもたらしつつある.免疫チェックポイント阻害剤は肉腫において有効性が低いことが明らかにされつつあり,他の腫瘍微小環境構成細胞を標的とする方法も試みられている.本稿では,このような骨軟部肉腫における基礎・トランスレーショナル研究の現状について概説する.

  • 上條 岳彦
    2023 年 60 巻 5 号 p. 320-325
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    神経芽腫の高リスク群(発症時の高年齢,遠隔転移例,MYCN増幅,テロメア異常,再発例)の予後は未だに不良であり,1980年代以降新たに神経芽腫治療法として臨床に取り入れられたのは抗GD2抗体のみである.神経芽腫高リスク群に対する分子標的療法,免疫治療法,放射線治療法などの新規の治療法の開発が待たれている状況である.本講演では特に神経芽腫予後不良バイオマーカー分子の同定の現状とこれらに対する標的療法の開発の現状を紹介する.注目されている神経芽腫予後不良バイオマーカーとこれらを標的とした治療法開発としては,1.テロメア異常:TERT,ATRX変異(ATM阻害剤),2.Epigenome異常(EZH1/2阻害剤),3.MYCN増幅(BRD阻害剤,BET阻害剤,ODC1阻害剤,MYCN分解促進:PROTAC),4.ALK変異・増幅(ALK阻害剤)5.Cell Cycle経路異常(CDK4/6阻害剤),6.RAS/RAF/MAPK経路異常(MEK阻害剤),7.ATM/ATR/ARF/MDM2/p53経路(CHK1阻害剤,MDM2阻害剤)などがあり,これらの分子機構と薬剤開発・臨床試験の現状をレビューする.

シンポジウム7:大規模解析データから見えてくる白血病の予後予測と治療層別化
  • 辻本 信一
    2023 年 60 巻 5 号 p. 326-331
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    小児急性骨髄性白血病(AML)の治療成績はゲノム解析と治療反応性に基づいたリスク層別化治療により改善を認めている.近年,新たなゲノム解析技術の進歩により予後予測に有用と考えられるゲノム異常が相次いで報告されている.例えば,予後良好とされているRUNX1::RUNX1T1陽性AMLではKIT変異の有無が有用な予後予測マーカーとなりうることや,小児AMLで頻度が高いKMT2A遺伝子再構成のあるAMLは,KMT2A遺伝子の融合パートナーの種類により予後が異なることが報告されている.また,小児AMLの代表的な急性巨核芽球性白血病の解析では,CBFA2T3::GLIS2, NUP98::KDM5A, KMT2A再構成など様々なゲノム異常が同定されこれらの有無が予後と密接にかかわることが示されている.最近では,RNAシークエンスの遺伝子発現解析により,17遺伝子の発現レベルに基づいたLSC17スコアやpLSC6スコアなどの予後予測モデルや,シングルセル解析による細胞分画に基づいた予後予測が試みされている.今後は,このように新たに同定されたゲノム異常や予後予測モデルと治療反応性を組み合わせた新たなリスク層別化の開発が進み,さらに精密な予後予測に基づいた治療開発が実現されることが期待される.

シンポジウム8:全脳全脊髄照射update
  • 副島 俊典, 前林 勝也, 山崎 夏維, 隈部 俊宏
    2023 年 60 巻 5 号 p. 332-336
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    近年全脳全脊髄照射に強度変調放射線治療や陽子線治療が応用されることが多くなってきており,全脳全脊髄照射のターゲットを正確に検討することが必要になってきている.そこで今回各施設の治療計画の現状把握のため,全脳全脊髄照射に関するアンケート調査を行った.

    脳腫瘍委員会参加100施設にメールでアンケートの協力を依頼し,54施設(54%)から回答を得た.うちX線治療施設が46施設,陽子線施設が8施設であった.

    3年間の症例数が,3例以下,9例以下,18例以下,それ以上の施設はそれぞれX線治療施設24施設(52%),10施設(22%),7施設(13%),2施設(4%)で陽子線治療施設では1施設(13%),2施設(25%),5施設(63%),1施設(13%)であった.治療方法としてはX線治療施設のうち,強度変調放射線治療で治療する施設は8施設で,そのうち6施設はトモセラピーでの治療であった.脳脊髄の臨床的標的体積設定について陽子線治療施設に回答をいただいたところ視神経などの脳神経を含むと答えた施設もあったが,少数であった.

    今後強度変調放射線治療や陽子線治療などの高精度治療が普及する可能性があり,細かな照射範囲の設定が必要になると考えられた.

  • 深田 淳一
    2023 年 60 巻 5 号 p. 337-340
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    直線加速器による全脳全脊髄照射で施行されている強度変調放射線治療のうち,近年増加している強度変調回転照射について報告した.直線加速器は照射野の大きさの制限から,小児においても複数の照射野を組み合わせる必要がある.従来施行されている三次元原体照射では照射野内の線量が基本的に均一であるため,照射野つなぎの位置誤差が大きな線量誤差に直結するリスクがある.強度変調放射線治療は脳脊髄腔への均一な線量処方を実現し,またいくつかのリスク臓器における線量を低減することも可能である.治療計画に時間と労力を要することと低線量域の増加には注意が必要であるが,強度変調回転照射による全脳全脊髄照射は比較的短時間で照射が可能であり,直線加速器で可能な治療であることから,重要なmodalityのひとつと位置付けられる.

小児がんのための薬剤開発シンポジウム:小児がん領域での薬剤開発促進のために何をすべきか?
  • 植木 一郎, 早川 穣
    2023 年 60 巻 5 号 p. 341-345
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    近年,小児薬剤開発推進策が実施され,それらに対し機運と期待があがってきているが,製薬企業側の課題は未だ多く,今後も,行政・アカデミア・患者団体と協力し解決していく必要がある.現状データとしては,小児領域の海外承認品目中, 約7割以上が日本において未承認,また,国内未承認薬の約半数が,日本において開発未着手の状況である.近年 新薬開発の初期段階(新薬シーズの創出~Proof-of-Concept確立までの初期臨床開発)においては,欧米の新興企業が担っているケースが多く,小児がん医薬品開発においても国境という概念はなくなりつつあり,国内で完結する事例は稀となってきている.小児がん薬剤開発においては,この傾向は,より強く,小児がんの薬剤開発推進策を検討するには,日本企業・日本発の新薬開発という概念にとらわれることなく,海外新興企業であっても日本での開発に意欲を示したくなる施策が必要と考える.具体的なアイデアとして,透明性のある小児薬剤の開発スキーム,迅速な上市を可能とする制度設計,投資と事業継続に見合うリターンの確約が必要であり,そのためには,ガイダンスの発出,(既存の仕組みにとらわれない)薬事制度,金銭的補助(開発費の削減,薬価の手当て,税制上の優遇措置など)が想定される.本講演では,小児がん対策国民会議の日本・海外製薬企業メンバーで検討し,考えられうる,いくつかのアイデアを共有,日本の小児がん薬剤のアクセスをさらに高めるため,すべてのステークホルダーが引き続き協力し行動できる一助になればと考える.

女性医師活躍支援委員会:特別企画シンポジウム
  • 中田 佳世
    2023 年 60 巻 5 号 p. 346-350
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    小児,AYA(Adolescent and Young Adult)世代におけるがんは,希少かつ多様で,その実態,患者のニーズの把握は十分ではなく,現状では科学的根拠に基づくがん対策ができていない.著者は,国内外のがん登録および臨床研究データを分析することにより,小児・AYA世代のがんの罹患率・生存率などの基礎的な統計値を算出することや,小児がんの患者家族のニーズを調査するなどの研究を行っている.本稿では,これらの研究について,その経緯や留学経験も含め紹介する.

    2013年より大阪国際がんセンターがん対策センターに所属し,大阪府におけるAYA世代の白血病・リンパ腫の診療実態調査などを行った.2015年にロンドン大学に留学し,日英の小児がんの罹患・生存率を比較した.また,Wilms腫瘍について,日英の臨床研究データを後方視的に解析し,両国の患者の特徴や生存率,診療体制を比較した.2018年7月,国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)に短期留学し,国際小児がん罹患第3版(International Incidence of Childhood Cancer, volume 3, IICC-3)のデータを分析し,小児腎腫瘍の罹患の国際比較を行った.2020年には,大阪府がん登録のデータを分析し,小児とAYA世代の白血病の生存率の長期推移についてまとめた.2018年から2021年に大阪府内の9施設の協力を得て,大阪府の小児がん患者家族ニーズ調査を実施し,現在は近畿ブロックに対象地域を拡大している.

    研究を志す若い先生方のご参考になれば幸いである.

高得点セッション1:新規治療・研究
  • 谷村 一輝, 田尾 佳代子, 中島 美穂, 荒川 歩, 角南 久仁子, 小山 隆文, 高阪 真路, 山本 昇, 小川 千登世
    2023 年 60 巻 5 号 p. 351-355
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    【背景】保険診療下で進行固形腫瘍に対して包括的ゲノムプロファイリング検査(CGP検査)が実施できるようになり約3年が経過した.がんゲノム情報管理センター(C-CAT: Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics)では,CGP検査で得られたがんゲノムデータを集約し,国内人口に最適なデータベースを構築している.我々は,小児固形がん患者に対する分子標的薬へのアクセス状況について検討した.【方法】C-CAT利活用検索ポータルを用いて,2019年6月1日~2022年4月4日の期間にCGP検査を受けた0~15歳の患者データより,その後分子標的薬による治療を受けた患者のデータを抽出し,それら薬剤へのアクセシビリティを評価した.【結果】合計687人(中枢神経腫瘍288人,非中枢神経腫瘍399人)の患者からのデータが収集可能であり,うち少なくとも1つ以上の分子標的薬の推奨があった患者は352(51.3%)人であった.治験や遺伝子変異に基づいた分子標的薬にアクセスできた患者は40人(5.8%)だった.4人は保険診療内,8人は治験,2人は患者申出療養,26人が適応外使用で薬剤が使用されていた.【結語】CGP検査を受けた小児固形腫瘍患者のごく少数でしか標的治療を受けておらず,主な到達経路は適応外使用であった.これらの結果は,小児がん患者に対する標的治療薬へのアクセスをマルチステークホルダーのパートナーシップによって改善することの重要性を示している.

高得点セッション2:固形腫瘍
  • 田尾 佳代子, 谷村 一輝, 中島 美穂, 荒川 歩, 角南 久仁子, 小山 隆文, 高阪 真路, 山本 昇, 小川 千登世
    2023 年 60 巻 5 号 p. 356-361
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    【背景】がんゲノム情報管理センター(C-CAT: Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics)では,がんゲノムプロファイリング(CGP: Comprehensive Genomic Profiling)検査が保険適用となった2019年6月以降,患者さんの個別同意のもと,臨床情報とゲノム情報が集約され,ゲノム解析結果におけるがんゲノム知識データベース(CKDB: Cancer Knowledge DataBase)を用いた遺伝子変異の解釈・臨床的意義付け,また遺伝子変異に基づいた分子標的治療,臨床試験などの情報提供が行われている.【方法】C-CAT利活用検索ポータルを用いて,2019年6月1日~2022年4月4日の期間にCGP検査を受けた0~15歳の患者データより,臨床情報および遺伝子変異情報を収集した.【結果】合計687人(中枢神経腫瘍288人,非中枢神経腫瘍399人)の患者からのデータが収集可能であり,うち少なくとも1つ以上の生殖細胞あるいは体細胞における病的変異(エビデンスレベルF以上)を有する患者は467(68%)人であった.病的変異を認めた遺伝子は,頻度の高い順に,塩基置換,塩基欠失・挿入(TP53, BRAF, H3F3A, PIK3CA, CTNNB1, and NF1),増幅(MYCN, MYC, ERBB2, CDK4, and PDGFRA),遺伝子全・部分欠失(CDKN2A, CDKN2B, SMARCB1, ATRX, RB1, and PTEN)であった.また,68人(10%)の患者がドライバーとなるEWSR1BRAFALKCICNTRK1NTRK3FGFR3などの融合遺伝子を有していた.腫瘍遺伝子変異量(TMB: Tumor Mutation Burden)が10 mutations/megabase以上であった患者は5人であった.【結語】これらは,小児固形腫瘍におけるheterogeneityの高いゲノム異常を表した結果となっており,今後,一人一人の患者の診療に応用できるよう,CGP検査での同定とともに,そのエビデンスを蓄積していくことが重要である.

原著
  • 森田(冨中) 美幸, 岡村 聡, 栗原 康輔, 奥村 陽介, 舛本 大輔, 堀 浩樹
    2023 年 60 巻 5 号 p. 362-370
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    小児がん経験者への病気の説明および健康管理教育の現状と課題を明らかにすることを目的に,小児がん診療施設11施設の長期フォローアップ外来を担当する各施設1名の医師を対象に半構造化面接を行い,質的記述的方法でカテゴリー分析を行った.長期フォローアップ外来での病気の説明は,①病初期から正しい情報を伝え続ける患者教育の不十分さ,②患者の心理状態や社会生活に対応した病気の説明の実施,③自身の病気や健康に興味関心を持ち受診継続を続けるための動機付け,④小児がん経験者を取り囲む人々との病気の共有,⑤多職種での協力体制,⑥成人診療科・プラマリケア医との関係構築の困難さ,の6つのカテゴリーが抽出された.健康管理に関する患者教育では,①日々の生活習慣の改善に向けた機会の提供,②継続的受診のための支援,③健康への意識を高めるための正しい情報の伝達,の3つのカテゴリーが抽出された.また,担当医の思いとして,①小児がん経験者への共感性を持った関わり,②医師としての診療方針,の2つのカテゴリーが抽出された.解析結果より,長期フォローアップ外来担当医は,小児がん経験者の健康管理意識の向上のためには,病気の正しい理解と自律的な行動が求められると認識していることが明らかとなった.また,小児がん経験者の健康管理意識の向上を支援するツールの積極的活用に加えて,継続受診の勧奨,移行医療の推進が必要であると考えていた.

症例報告
  • 神坐 優, 植木 英亮, 寺田 和樹, 土持 太一郎, 木川 崇, 高橋 聡子, 櫻井 彩子, 野口 靖, 五十嵐 俊次, 角南 勝介
    2023 年 60 巻 5 号 p. 371-376
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    小児がん化学療法中発症虫垂炎の発生率は0.3–1.5%と低く,初期治療における保存的治療と手術治療の選択基準についてコンセンサスは得られていない.当科において化学療法期間中に発症した急性虫垂炎6例における虫垂炎の病期,治療法およびその転機について後方視的に検討した.初期治療として5例に保存的治療を,1例に腹腔鏡下虫垂切除術を行った.保存的治療群において化学療法遅延期間が長い傾向がみられた.保存的治療を行われた蜂窩織炎性虫垂炎2例中2例において虫垂炎再燃を認めたため虫垂切除術を要し,各々27日間と37日間の化学療法遅延を要した.初期治療として腹腔鏡下虫垂切除術を行った1例において創感染を認め,化学療法の合併症と考えられる膵炎を認めたが,化学療法遅延期間は5日のみだった.虫垂炎発症時に蜂窩織炎性虫垂炎を来している症例では保存的治療が効果的ではない可能性が示唆された.今後多数例での検討が望まれる.

  • 渡部 亮, 山形 健基, 森井 真也子, 東 紗弥, 林 海斗, 水野 大
    2023 年 60 巻 5 号 p. 377-380
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    膵Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)は若年女性に多くみられる比較的稀な低悪性度腫瘍であり,外科的切除が治療の第一選択である.今回我々は先天性胆道拡張症術後フォロー中に偶発的に発見された膵SPNの1例を経験した.無症状であること,膵SPNとしては稀な男児であることから本症も疑いながらも経過観察としたところ,2年後に腫瘍の増大を認め核出術を行った.幸い他臓器浸潤,転移は認めなかったが,教訓に富む症例であった.他の膵腫瘍との鑑別には造影超音波検査の併用が有用であった.

  • 山本 裕輝, 米田 光宏, 小関 元太, 齋藤 傑, 橋詰 直樹, 藤雄木 亨真, 狩野 元宏, 渡辺 栄一郎, 石丸 哲也, 藤野 明浩, ...
    2023 年 60 巻 5 号 p. 381-384
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル 認証あり

    症例は7歳男児.3歳6か月時に発症したオプソクローヌス・ミオクローヌス合併右副腎原発の神経芽腫でganglioneuroblastoma nodular,INRG臨床病期L2,MYCN増幅なしで中間リスク群と診断.化学療法ののち腫瘍を摘出したが術後2年で後腹膜の縦に連なる3個の腫大リンパ節を認め,再発と診断.自家末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法ののち開腹手術を行った.尾側の腫瘤は腹部大動脈と下大静脈の間にあり,摘出することができた.肝右葉を脱転し,下大静脈から肝尾状葉左側まで確認し,右横隔膜脚を縦切開すると,右横隔膜脚後腔に残る二つの腫瘤も認め,全摘可能となった.術後は放射線治療と抗GD2抗体を投与し,画像上残存病変を認めていない.後縦隔腫瘍に対する経横隔膜的アプローチは有効である.

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