医療の質・安全学会誌
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最新号
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総説
  • 奥山 絢子, 桑原 舞
    2024 年19 巻3 号 p. 263-276
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー
    がん患者に適切なケアを提供するためには,患者の症状を注意深くモニタリングする必要がある.本研究では,患者報告アウトカム(PRO)の実臨床への実装について,看護師からみた関連要因を明らかにすることを目的とした.PubMed等を用いて,2017年1月17日から2023年1月18日に公表された英語文献を対象に,PROの実装について,看護師の認識を記述した24文献を選定した.抽出された要因は,The Consolidated Framework for Implementation Researchの5領域に分類した.結果,個々の患者に応じた対応がとれるようにすること(例:自由記載欄に医療従事者からの連絡を欲しいことを記述する),患者と医療従事者でPROの共通認識をもてるようにすること,更に,ファシリテーターとスタッフのオープンな対話や,スタッフが自信をもってPROを行なえるように試験期間を設ける等が必要なことが分かった.
原著
  • 井上 千穂, 齋藤 信也, 古賀 雄二, ローレンス 綾子, 平松 貴子, 清水 克彦
    2024 年19 巻3 号 p. 277-289
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー
    筆者らはこれまで,我が国の看護師が頻用する「不穏」という用語について,その捉え方を整理する目的で,概念分析を実施してきた.その結果,患者が過活動状態にあり,その行動が理解できなかった場合および,患者に看護師の意図が伝わっていないと感じた時に患者が「不穏」状態にあると判断していることが明らかとなった.また,我が国の看護師は,「不穏」という用語を,厳密な定義に基づくのではなく,ある程度操作的に用いることで,看護ケア上の有用な徴候を発見しようとしていることが示唆された.
    そこで,今回このような知見に基づき,各専門分野で『「不穏」患者』に対する看護実践する看護師への質問紙調査を行い,臨床における「不穏」という用語の実際の捉え方を検討した.分析の結果,「不穏」の捉え方については看護師の経験年数や,配属部署により多少の傾向はあるものの,大きなばらつきが認められた.「不穏」判断に基づき投薬や処置を行う場合,このことに起因する患者の不利益が生じる恐れがあると考えられた.これを回避するには,「不穏」という曖昧で多義的な用語を用いるのではなく,Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)のような客観的な指標を用いることで,その標準化を図ることが重要と考えられた.
  • 吉田 光一, 山本 譲, 飯田 慎也, 中馬 真幸, 田﨑 嘉一
    2024 年19 巻3 号 p. 290-295
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー
    目的:調剤過誤は重大なインシデントに繋がるため,その対策は医療安全において重要である.旭川医科大学病院薬剤部において,これまで調剤過誤対策を講じてきたが,調剤過誤を完全に防ぐことは困難であった.そこで,調剤過誤対策として情報技術(IT)を活用した支援システムを導入し,調剤過誤の減少と患者安全に寄与しているかどうかについて評価した.
    方法:薬剤の取り揃えを支援するシステム(F-WAVE®,TOSHO;以下,調剤支援システム)と薬剤の種類および薬剤の数量の鑑査を支援するシステム(C-correct II®,TOSHO;以下,鑑査支援システム)を導入した.導入前後の各12カ月間(2021年3月〜2023年2月)を対象期間として,インシデントレポート及びヒヤリ・ハット事例の件数を調査した.また,患者影響度が高い調剤過誤について,IT導入前(2018年1月〜2022年2月)のインシデントレポートを調査した.
    結果:月平均インシデント件数はIT導入前と比較して有意に減少した.「薬剤名称」及び「規格・剤形」のヒ ヤリ・ハット件数はいずれも有意に減少した.一方で,「計数」のヒヤリ・ハット件数は導入前より有意に増加した.IT導入以前には患者影響度の高い調剤過誤が発生していたが,IT導入後は発生していない.
    考察:ITを活用した調剤・鑑査支援システムの導入は,「薬剤名称」,「規格・剤形」,「計数」の調剤過誤対策として有用であり,重大なインシデント防止に効果的であった.
  • 藤本 学, 島村 美香, 宮崎 浩彰, 稲葉 一人
    2024 年19 巻3 号 p. 296-306
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー
    多くの医療者が,チーム医療を妨げ他のスタッフを不快にさせる医療者の破壊的行動(DCB)の被害に合っている.アメリカではDCBを根絶するための対策が積極的に行われているが,本邦では対策が立ち遅れているのが現状である.そこで,本研究は総合病院の職員を対象に質問紙調査を行い(N=493),DCB被害実態について量的検討を行った.その結果,回答した職員の過半数がDCBの被害を経験し,その大半が直近1年に被害を受けていた.DCBは主に同職系間で行われるが,医師から他の職系への事案も報告された.また,上司や先輩による下方向のDCBが7割を占めたが,職系や職位において下位の医療者による上方向のDCBも一部確認された.被害の増加は,初心者とひとり立ちしてすぐの時期に集中していた.以上を踏まえ,病院組織で頻発する多様なDCBをどのように発見し対処するかについて議論した.
報告
  • 磯部 紀子, 東坂 秀作, 木場谷 範子
    2024 年19 巻3 号 p. 307-314
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー
    保険薬局では薬剤取り違えなど様々なヒヤリ・ハットが日々発生している.近年,調剤業務をサポートする自動機器が開発され,医療安全向上と業務効率化を目的とした活用が始まっている.この度,開局済の保険薬局に医薬品自動入庫払出装置を導入し,装置を利用した調剤ワークフローによる医療安全,薬局業務全般に及ぼす効果を検証した.導入前に比べてヒヤリ・ハット発生数は統計学的に有意な減少を示した.また,薬剤師満足度アンケートより調剤に関する負担が減少し,調剤ミスに対する精神的負担を軽減することが明らかとなった.調剤鑑査時間が短縮し,患者待ち時間の短縮も認められた.装置の導入により医療安全の向上のみならず業務環境改善や業務の効率化が認められた.
  • 德和目 篤史, 岡本 綾子, 小出 直樹, 加藤 良一, 稲田 雄, 山口(中上) 悦子
    2024 年19 巻3 号 p. 315-321
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー
    医療安全研修関連業務は,医療安全管理部門職員にとって負担であった.我々は,2019年度より研修関連業務に情報通信技術(ICT)を取り入れ,2018~2020年度の作業人数・時間・工程数,開催形式,受講状況を調査した.2018年度と2020年度ののべ作業人数は566人から272人に,合計作業時間は452.6時間から158時間に,合計作業工程数は167工程から95工程にそれぞれ減少した.研修の開催形式は,2018年度には現地開催100%から,2020年度には現地開催17%,Web開催17%,e-learning 42%に変化した.研修受講状況は,2回以上の受講者の割合が92.2%(2018年度)から98.6%(2020年度)に増加し,未受講者は80人(2018年度)から2人(2020年度)に減少した.ICT導入は,研修関連業務を削減し,受講状況の改善に寄与する可能性が示唆された.
  • 玉木 高裕, 秋山 直美, 梶原 志保子, 村上 玄樹
    2024 年19 巻3 号 p. 322-330
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は血液浄化用機器に関する事故報告(以下,事故),ヒヤリ・ハット報告(以下,ヒヤリ)を用 いて,事故の特徴と要因を検討することを目的とする.
    対象と方法:1)データ:公益財団法人日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業により公表する事例から報告年が2012~2021年で,医療機器等の血液浄化用機器に関する事故26件とヒヤリ事例658例を分析対象とした.2)分析:数量データは事故とヒヤリの特徴の比較を,テキストデータは内容分析の経験のある看護系研究者2名が事故要因を記した分類表を用いて分類し,その後,臨床工学技士が分類結果を確認し,三者の分類結果が一致するまで検討を重ねた.3)倫理的配慮:本研究は事業が公開するデータを二次利用してお り,データは匿名化処理を終えた状態で事業により公開されている.
    結果:発生時間帯について,事故はヒヤリに比べて夜間が有意に多かった(事故38.5%vsヒヤリ12.2%,p<0.001).加えて,医療の実施の有無(事故92.3%vsヒヤリ52.6%,p<0.001),当事者人数2名以上の割合も高かった(事故34.6%vsヒヤリ8.1%,p<0.001).発生要因はSoftwareに関して「デバイスの使用前・ 中・後の管理に関するルール不足(17件,65.4%)」が,Hardwareは「操作の透明性が担保されていない(3件,11.5%)」,Livewareは「うっかり,失念(19件,73.1%)」,「リスクに対する認識の欠如またはリスクに関する認識の低さ(19件,73.1%)」が多かった.
    結論:本研究の結果から血液浄化用機器に関する事故にはSoftwareやHardwareに関する発生要因の関与が示唆されること,治療に伴う手技や操作の煩雑さがLivewareの発生要因となっていることが示唆された.ヒューマンエラーを防ぐために器機側の改善と,医療機器に関するインシデントレポートの収集が必要と考える.
短報
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