医療の質・安全学会誌
Online ISSN : 1882-3254
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13 巻, 4 号
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原著
  • 吉澤 伸介, 稲積 宏誠
    2018 年13 巻4 号 p. 365-374
    発行日: 2018年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
    医療現場ではさまざまなタイプの事故が存在するが,多くの事故は,過去に発生した事故との類似性が高い.過去に発生した事故に関する情報の共有が行われ,それらを有効活用することができれば,将来起こる可能性のある医療事故を未然に防ぐことが可能となるはずである.そこで共有すべき情報源としてインシデントレポートに着目し,そこから事故の原因,結果といった情報を機械的に抽出し,現場での活用可能なシステムの作成を目指す.まず,インシデントレポートの内容を把握して重要事象を定義する.つぎに自然言語処理技術を用いてインシデントレポートの文脈から重要事象を抽出する.この重要事象には原因あるいは結果に関わる情報が含まれているものとみなす.さらに,生じる事象の時間的な制約関係,すなわち事象の生起の順序性を定義する.その結果,各レポートの記述を重要事象の関係構造とそこから派生する可能性のある事象から成る要約情報として表現することができる.これらを人工心肺関連のインシデントレポートに適用し,レポート情報の再現性,レポート記述が不完全である場合の補完性,事故拡大の可能性などの点から検討を行った.その結果,重要事象の時間軸の関係性から,レポート中に記載されている事象だけでなく,そこから予想される原因または結果に相当する事象も含めた抽出が可能となるなど,現場での活用につながる基本的な機能が実現された.
報告
  • 松田 千登勢, 山地 佳代, 佐藤 淑子, 江口 恭子, 長畑 多代
    2018 年13 巻4 号 p. 375-382
    発行日: 2018年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,特別養護老人ホーム(以下,特養)の感染管理において看護職が認識している課題を明らかにすることであった.全国の特養の看護職1000名を対象に自記式郵送質問紙調査を行い,感染管理の課題に関する記載のあった48件の自由記述を分析対象とし,記述の意味内容の類似性に基づいて分類した.その結果,多床室で個室がないために感染症に罹患した高齢者を隔離することができない【特養の環境に関する課題】,感染対策委員会が十分に機能していない【感染管理のシステムに関する課題】,職員の手指衛生などの感染管理の徹底・継続が難しい【職員の感染管理に対する認識の課題】,認知症高齢者に特化した対応に対する【入所者の特性に応じたケアに関する課題】の4カテゴリー,17サブカテゴリーに分類した.
  • 池川 充洋, 大島 暁, 大平 雅雄, 山崎 清一
    2018 年13 巻4 号 p. 383-390
    発行日: 2018年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
    病院内にて日常的にコミュニケーションの手段として利用されているナースコール(以下NCと表記)は,時として業務中断のリスク,さらにはストレスの原因として削減の取組が個々に行われている.しかしながら診療科別に呼出の実態を複数病院からの情報収集に基づき整理された研究は見当たらない.そこで今回コンピューターNC導入病院に集積された呼出情報を診療科別に整理し傾向を把握した.診療科別に違いはあるものの,呼出上位10%の患者が総呼出に占める割合は平均58%であった.一般病棟の病床数を40床とすれば4人の患者が約6割の呼出を占めることになる.さらに1日50回以上の呼出患者発生率も確認した.最も多い神経内科が約3%であった.40床の病棟であれば毎日1人以上の患者が発生する可能性を示している.加えて転倒転落事故予防のため利用されている離床センサの傾向も併せて確認する.これら確認情報から呼出削減に結びつけるための課題認識を行う.
  • 吉越 光代
    2018 年13 巻4 号 p. 391-402
    発行日: 2018年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
    病院で職員が満足を持って働き続けられる環境要因の一つにコミュニケーションがある.実践的なコミュニケーション理論では,感情活用能力は組織の対人関係を円滑にし,お互いの相互理解を深め感情を理解し調整できる能力と定義している.組織や人の調整役を担う看護管理者はこの能力が必要と考えるが,本報告の対象の看護管理者はお互い疎遠な関係性であり協働体制が取れず,看護スタッフの働く意欲や組織全体の沈滞,看護職員離職率の高さにまで影響し,この能力が高いとはいいがたかった.そこで,看護管理者を対象に感情活用能力向上に向けた研修(SHIENワークショップ)を実施した.結果,看護管理者の感情活用能力の向上,互助の行動が促進されて,職員満足度が向上し,看護職員定着率の向上,経営参画などが実現できた.「看護管理者のマネジメント能力」の改善は,組織の要となる部分の改善を意味し,協働での成果は自己成長,組織活性化へと繋がることが実証できた.
  • 永井 弥生, 斎藤 繁, 好本 裕平
    2018 年13 巻4 号 p. 403-410
    発行日: 2018年
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル フリー
    群馬大学医学部附属病院で医療事故問題が判明後,速やかな改善を図った事項の一つにインシデント報告体制がある.院内には2010年度に策定されたバリアンス報告という合併症の報告内容を規定する制度があったが,どこまでの事象を報告するかは個人や診療科の判断に任されていた.バリアンス報告の規定を変更し周知徹底を図るとともに,医療安全管理部門においては各部署との連携強化,能動的な問題事象の把握体制を構築した.医師からの報告数は年々増加し,事故判明前の2013年度217件から2016年度802件と3.7倍となった.また,一つの事象に対して複数の職種から報告される事例も顕著に増加した.医師からの報告は治療に関わる事象レベルの高い事例が多く,医師が医療安全への高い意識を有することは安全文化の構築には欠かせない.今後,教育体制の充実を図り継続的な体制につなげるとともに,報告の簡易化など現場の負担を軽減するための検討も必要と考える.
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