博物館では,内部業務としても外部へのサービスとしても所蔵資料の画像情報の蓄積と利用とを欠くことができない。小論ではまず,明治時代の写真撮影に始まる東京国立博物館の画像の利用と,1990年代以降のデジタル化の過程について概観する。次に蓄積された画像情報のデータベース化とウェブ公開の成果を紹介するとともに,昨今の公的なオープンデータ政策の進展に伴う画像情報活用の課題について,提起を行う。
東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)では,デジタル映画の保存と活用に向けた調査研究の一環として,国立情報学研究所と共同でウェブサイトの構築を行った。1917年から1941年までに製作・公開されたアニメーション映画64作品の映像配信を中心に構成し,これを日本におけるアニメーション映画生誕から100年目とされる2017年に「日本アニメーション映画クラシックス」として公開した。公開の半年後には100万ページビュー(PV)を突破するなど,国内外から多くの支持を得ると共に,教育利用としての実績をあげた。
エル・ライブラリーは私立の労働専門図書館であり,博物資料や文書資料も所蔵する資料館である。『大阪社会労働運動史』編纂のために収集した労働組合や社会運動団体の一次資料を所蔵する西日本随一の労働図書館であるが,2008年に大阪府・市の補助金を全廃されて以来,財政は極めて厳しく,収入の8割を寄付に頼っている。そのような状況にあっても,資料を活用して次世代に残すため,研究者とのプロジェクトを組んでいくつものコンテンツのデジタル化とデータベース作成を進めている。本稿では当館の資料全体の概要を述べたうえで,そのうちWebで利用できるコンテンツとデータベースを中心に紹介する。また,デジタルアーカイブの課題を整理し,今後予定しているデジタル化のプロジェクトについても展望を述べる。
WebClassは道具に過ぎないが,学生・教員ともの満足度を高める一つの方法である。現在の中堅私立大学の学生たちの多くは,従来型の講義形式の授業内容を消化できるリテラシーを,大学進学までに身に付けていない。博物館で参加体験型展示が好まれるのと同様,大学の授業も参加体験型が好まれる傾向にある。忘れてならないのは,顧客満足度を高めるだけでなく,教員が「授業を通じて伝えたいこと」を今一度,確認することである。WebClassという道具を利用した上で,授業内容の洗練が求められるのである。
本研究では,タブレットPCの操作方法やルールを学ぶための講習会を開発して実践した。講習会は,小学校2年生(教える側)と小学校1年生(教えられる側)の低学年同士が学び合う形態を取っている。評価の結果,2年生は教えたり説明したりすることへの意識の変化が見られた。一方,1年生は従来の教師主導の一斉指導型の授業形態よりも,効率的に操作方法とルールを修得できた。
近年,子どもたちのインターネット利用の機会が増加している一方で,インターネットを過度に使いすぎてしまい本人に悪影響を及ぼしてしまうインターネット依存傾向の問題が指摘されている。こうした背景を踏まえ,各地で情報モラル教育が行われているが,こうした指導の多くは危険性を伝える指導方法となっており,子どもたちにとって「自分もインターネットを使いすぎてしまうかもしれない」という「自覚」が促されにくいことが課題として指摘される。 そこで,本研究では中学2年生と中学3年生を対象にインターネットを使いすぎてしまうかもしれないという「自覚」を促すことを目的とした情報モラル授業の開発・実践を行った。その結果,授業の事前と事後の質問項目における平均値の差の検定を行ったところ複数の項目において自覚が促されたことが明らかとなった。
近年その利用が増加しているインターネット通販サイトを工夫し,それが高校生の主体的な学びにつながる可能性を考察した。本論考では,ネット探索行動によって購買意欲が学習意欲に変化し,探究行動が生まれ,主体的な学びにつながる視点を提案した。オープンソースで調査用サイトを構築し,名古屋の高校生(2高校3グループ)に利用してもらい,アンケートを実施した結果,ネット探索から,本や雑誌,家族や知人等との対話を含む,探究行動が生まれる可能性が示唆された。実際に探究行動が現れるには調査用サイトのさらなる工夫が必要となるが,インターネット通販サイトを学習支援のツールに活用することは可能であることが示唆された。
高等学校数学で記述統計の手法を学習しても,日常生活や社会生活,学習の場面等において問題を発見し,必要なデータを集めて分析,その結果に基づいて問題解決や意思決定することは難しい。本研究では,数学Ⅰ「データの分析」学習後に社会と情報の授業でRESASを利活用した市町村の問題解決と意思決定に関する課題解決型学習を実験群と統制群に分けて実施し,終了後にARCSモデルアンケートで統計に対する学習意欲測定を行った。その結果,ほとんどの項目で2群間に明らかな有意差がみられた。
本研究では,SNS操作体験型教材「SNS Chat!」を開発・活用し,中学1年生向けの4時間扱いの題材を構成して実践した。その結果,実践後の95.7%の学習者のワークシートに,個人の特定に繋がる書き込みの内容について考え,SNSを利用していこうとする記述が認められた。また,91.4%の学習者のワークシートに,個人の特定に繋がる情報発信(書き込み・写真の掲載)を踏まえGPS機能に留意することをはじめとして,自らへの危険を回避しつつSNSを利用していこうとする記述が認められた。これらのことから,SNSの良い使い方を考え,それを実践していこうとする態度形成に対して,SNS操作体験型教材「SNS Chat!」を組み込んだ本実践の一定の教育的効果が確認された。
本研究では,児童の「書く」ことの苦手意識の軽減と論理的な文章力育成をめざしたアプリの開発をおこなった。開発したiPad用アプリ『ロンリー』の特徴は,主張の根拠となる「画像」を取り込み,その画像から読みとれる「事実」とそれに対する自分の「意見」を書き分ける欄を設けたことである。また,「画像」・「事実」・「意見」を1パラグラフとし,画面上で自由に順番を並べ替え,文章の構成ができる。さらに,アプリ操作のログや保存時の変更ログがとれ,児童の文章をつくる過程や改善活動の分析に活用することも可能である。『ロンリー』を活用した実践の結果,児童の「書く」ことの苦手意識の軽減に一定の効果が見られた。
中国人日本語学習者がインターネット検索を行う際,先行研究では主に①キーワードを考えることが難しい,②漢字に頼りすぎる傾向がある,という問題点が指摘されてきた。本研究では,中国人留学生11名を対象に7つの検索タスクとインタビューを行い,上記2点の追加調査と,これ以外の問題点を観察した。この結果,キーワードに関しては,与えられた文章からキーワードを取り出すことは簡単にできるが,自分で考えた内容を日本語でキーワード化することが難しいこと,漢字に頼りすぎる傾向に関しては,日本語が上達してもなかなか改善されないことがわかった。また,ネット検索に関するこの他の問題点として,①自分勝手にタスクの答えを予測してしまい,予測から外れた情報を読まない,②検索結果を評価するとき,情報の質ではなく,その情報が掲載されているサイトの数によって評価してしまう,③自分の結論が正しいかどうかを確認しない,という行動が観察された。これらの問題点はタスクを達成するにあたり,検索結果を多角的に評価せず,単純な基準だけで評価していることに起因している。
人工知能の技術の発展により会話などを通して人間とコミュニケーションが取れるコミュニケーションロボット(CR)の活用が多く行われている。その活用の分野は幅広く,ショッピングモールでの案内や受付,介護やセラピー用など多くの場で活躍している。そのCRを教育においても活用できるのではないかとして,様々な取り組みがなされており,先行研究を調査したところ,Giver型とReceiver型の2つの活用方法があることが分かった。報告されている活用方法を収集し,その2つに分類・整理を行ったが,その学習効果の違いについて比較した研究は見られなかった。そこで,2つの活用方法における事例をもとに同じ内容の授業を2つのタイプでそれぞれ実践し,教育効果の比較を行った。その結果,Receiver型の方が関心や活動意欲が高まるという効果が表れた。
情報セキュリティ関連のインシデントの増加や新しい学習指導要領などを踏まえると,今後,情報モラルだけでなく,情報セキュリティ教育の実施が学校教育での課題になる。しかし,情報セキュリティ教育の従来の指導方法については,セキュリティ対策やトラブル事例を紹介するという指導が中心であり,知識は身につくものの,どこか他人事として捉えてしまい,「自分ももしかしたらトラブルにあうかもしれない」という当事者意識を促すことは難しいという課題があった。そこで本研究では,中学生に「自分ももしかしたらトラブルにあうかもしれない」という当事者意識を促すことを目的とした情報セキュリティ教材の開発を行い,その成果を考察した。トラブル事例の「あやしさ」を自ら発見し判断させるために,スマホ画面を模したカード教材の開発を行い,授業を実践したところ,当事者意識とセキュリティ対策への意欲の向上が見られた。
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