最近3年1カ月間に東京医科歯科大学歯学部第一口腔外科を受診した口腔癌患者137症例を主対象として, 当科来院までの経過, 臨床視診型, TNM分類, 補綴物の装着状態, 組織学的, ならびに細胞学的検索所見などの相互関連を総合的に追求検索した。
部位別例数は歯肉, 舌が共に34例, 上顎洞21例, 頬粘膜13例, 口蓋12例, 口底11例などであった。この内, 胃腺癌との重複癌1例 (0.8%) , 口腔内多発癌5例 (3.8%) がみられた。
次に腫瘍の臨床視診型を膨隆型, 潰瘍型, 肉芽型, 白板型, 乳頭型に分類してみると, 口腔粘膜扁平上皮癌88例では膨隆型, 潰瘍型が共に24例, 肉芽型19例, 白板型10例, 乳頭型11例で, 上顎洞粘膜原発15例では12例が膨隆型であった。組織型別では未分化癌5例, 腺系悪性腫瘍18例の全例, 肉腫5例中の4例が膨隆型であった。その臨床視診型別部位分布傾向として, 膨隆型は上顎洞, 舌に多く, 潰瘍型は舌に, 肉芽型は下顎歯肉に多くみられた。
口腔粘膜癌全体のUICC提案 (1968年) TNM分類別例数はT1, 3例, T2, 17例のほか, T3, T4の進展例は83例であった。うち舌癌にはT1, T2の軽度進展例が比較的多く32.3%, T3, T4は下顎歯肉癌に多く90.9%であった。リンパ節所見で, 触診されなかったNOは全例で12.6%にすぎず, 一方腫瘍を含むNlb, N2b, N3は全例で41.8%であったが, その中では下顎歯肉癌が最も多く72.7%であった。
臨床視診型とTNM分類で, T1, T2症例が多くみられたのは, 白板型 (40.0%) , 次いで潰瘍型 (26.1%) , 以下乳頭型, 膨隆型, 肉芽型の順であった。N1b, N2b, N3の合計では乳頭型が63.6%と最も高率で, 次いで潰瘍型47.8%, 以下膨隆型, 肉芽型の順で, 白板型には1例もみられなかった。症状自覚より当科受診までの期間では, 全体の51.7%が3カ月以上経過していた。症状自覚より他医受診までの期間, および他医より当科来院までの期間とに分けると, 両者共に約30%が3カ月以上経過していた。腫瘍と歯牙および補綴物との関連性は, 白板型, 乳頭型の腫瘍に多くみられ, 膨隆型の腫瘍では少なかった。
組織学的, 細胞学的所見では膨隆型と潰瘍型, および白板型と乳頭型とが, それぞれ近接被覆上皮と腫瘍との関係, 組織分化度, 配列, 細胞異型, 角化度ならびに細胞学的所見に共通するところが多く, 前2者が後2者より分化度が低く, 肉芽型はその中間であった。
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