歯原性顎嚢胞の嚢壁上皮について, その角化状態, および上皮と嚢胞の発育ならびに内容液との関係を追求するために, 組織学的に角質層がみられるもの7例, 角質層がみられないもの38例の計45例について, 電顕的に観察し, 以下のような結果を得た。
1.細胞の配列状態について
角質層をもつ嚢壁上皮には, 下層の基底層から表層の角質層まで一連の角化過程が観察され, 全層を通して比較的整然とした細胞の配列状態が保たれているように思われた。一方, 角質層をもたない嚢壁上皮では, 類似した形態の細胞が層をなしており, 表層においてもさほど扁平化せず, 全層にわたり細胞間隙の拡大が著明であった。また, 炎症性変化が加わった症例では細胞の配列が乱れ, 重層扁平上皮としての安定した状態はみられなかった。
2.tonofilamentについて
角質層の有無にかかわらず全例に, 上皮基底層からtonofilamentが認められたが, 角質層をもつ嚢胞では, すでにbundle形成をしているものが多く, 表層に向ってすこしずつその数を増し, 角質層では細胞内に密に分布していた。角質層のない嚢胞では上皮の全層を通してtonofilamentの数が少なく, 配列も粗であった。
3.keratohyalin顆粒について
角質層をもつ嚢胞では, 有棘層の上部, とくに角質層に近接した部位の細胞内に, 均一な高い電子密度をもち, いろいろな形の輪郭不明瞭なkeratohyalin顆粒が観察された。角質層のないものでは, keratohyalin顆粒は認められなかった。
4.membrane coating granule (MCG) について
両者とも有棘層上部の細胞辺縁部に, 周囲を限界膜で囲まれた, MCGと思われる微細顆粒が観察されたが, 角質層のない嚢胞では, 変性したmitochondriaと区別しにくいものが多かった。
以上のことより, 角質層をもつ嚢胞の上皮角化過程は, 一般の角化重層扁平上皮とほぼ同様であるが, その程度が幾分弱いと思われた。
5.嚢胞内容液との関係について
嚢胞内容液に関しては, 細胞間隙を通しての組織液の流入だけではなく, 嚢壁上皮の変性産物および角化細胞の落屑などが加味されているであろうと思われた。
6.嚢胞の発育について
嚢胞の発育は主として基底層の細胞の増加と, 嚢壁を通して組織液の嚢腔内浸透によるものであろうが, 上皮の生理的ならびに病的変性産物の付加も関係があるように思われた。なお, 今回の研究では, 嚢壁上皮に分泌能は認められなかった。
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