小野薬品は、1717年に初代伏見屋市兵衛が大阪道修町に薬種商を創業して以来、300年という大きな節目を越え、さらなる挑戦に向けて新たな一歩を踏み出した。「真に患者さんのためになる医薬品」を世界市場で継続的に開発・上市できる研究開発型国際製薬企業(グローバル スペシャリティ ファーマ)へと変貌するために、重点疾患領域の設定や低分子以外のモダリティー活用、オープンイノベーションのさらなる強化・加速のための米国小野財団やOno Venture Investment設立など、創薬研究のやり方を大きく変化させている。本稿では、小野薬品のこれまでの創薬研究活動を振り返るとともに、メディシナルケミストを取り巻く最近の変化について紹介したい。
2018年のサッカーロシアWカップでは日本代表の登録メンバー23人の内、15人が欧州クラブから選出された。2010年の南アフリカWカップでは海外組が4人であったことから考えても、これは驚異的な躍進である。一方、伝統的に化学の強豪国である日本では、古くから博士号取得後またはPh.D.取得を目的に海外の研究機関で働くことが珍しくない。これから海外で留学生活を送られる方もおられるだろう。目的はさまざまだと思うが、重要なのは、サッカー界がそうであるように自分の市場価値を上げてステップアップすること、延いては日本社会そのものの市場価値を上げることではないだろうか。
東京大学創薬機構構造展開ユニット(DDI-LEU)は、アカデミア創薬の過程で見出されたヒット化合物からリード化合物への構造展開を支援・強化する目的で、2016年に東京大学創薬機構内に設立された。すでに4年以上、アカデミア研究者の創薬に対する思いの実現に向け、日々創薬コンサルテーションとADME・物性コンサルテーションおよび実支援研究を実践している。今後、支援の精度・確度のさらなる向上を図るべく、支援の高度化実現に向けた展開を図りたい。
近年創薬の世界では、抗体医薬を筆頭に核酸医薬や遺伝子治療に至るまでモダリティーの多様化が進んでいる。これはそれぞれのプラットフォーム技術の飛躍的な進歩と治療ニーズの高度化によると考えられる。そのような中で低分子医薬は未だ治療薬の主役として使われており、各社の開発パイプラインを見ても低分子が大きな割合を占めている。このような状況下で、さらに低分子創薬の世界を大きく広げることが期待される技術が見出され、これまで不可能であった創薬標的に対する新薬が生み出されつつある。ここでは低分子創薬のポテンシャルについて概説し、次に新しい技術の主なものについて、その特徴と活用状況について紹介する。
トランスサイレチン(TTR)アミロイドーシスは、心、腎、消化管、眼などにアミロイド沈着を来す病気である。TTR構造を安定化させ、アミロイド線維形成を阻害する戦略で低分子創薬が行われている。低分子薬としては、タファミジス、AG10、ジフルニサルおよびトルカポンが知られている。これら低分子安定化薬の用量効果(Potency)と最大効果(Efficacy)は、TTRとの結合エンタルピーと相関していることが判明した。X線結晶解析から、AG10は病原性変異TTRと結合し、TTRを安定化させるT119M-TTR変異体の構造を再現していることが明らかとなった。NMR解析から、野生型TTRと変異体TTRとの主鎖のケミカルシフトの差により、TTR四量体の野生型と変異型では構造が大きく異なることが示された。
ヒトゲノムの解読に続くRNA研究の進展により、RNAは細胞内情報伝達と遺伝子調節に重要な役割を担い、かつ多くの疾患に関与していることが明らかになってきた。従来、低分子創薬ではドラッガブルなタンパク質を選定し疾患治療の標的としてきたが、RNAを標的とすることができれば新たな創薬機会の創出が期待される。2020年8月、脊髄性筋萎縮症の低分子治療薬としてSMN2 mRNAを標的とするrisdiplamがFDAから承認を受けた。このことを契機として、RNAを標的とする低分子創薬の可能性が現在活発に議論されている。本稿ではRNAを標的とした創薬研究の歴史を紐解くとともに、SMN2スプライシング調節薬risdiplamの創製経緯を概説することで、RNAを標的とする低分子創薬の展望について述べる。
免疫チェックポイントの受容体(PD-1)またはリガンド(PD-L1)を抗体でブロックすることが有効な治療法であることは複数のがん種に対して証明されており、このがん免疫療法の成功はがん治療にパラダイムシフトをもたらした。抗体で薬効が担保された標的分子を、安価で経口投与可能な低分子薬で阻害することを目指した創薬活動は、ハードルは高いもののその意義は大きい。抗体とは異なる作用機序で抗体と同様の薬効を示す“低分子ならでは”のさまざまな創薬アプローチについて紹介する。
低分子有機化合物によって特定のタンパク質を分解誘導するケミカルノックダウンが新たな創薬モダリティーとして注目されている。このタンパク質分解誘導薬は、選択的な標的タンパク質の分解によってその機能を阻害するという点で、既存の酵素阻害剤や受容体拮抗薬とは分子レベルの作用機序が大きく異なる。すでに実臨床でがん治療に用いられているレナリドミドやフルベストラントもタンパク質分解誘導薬であり、単なる酵素阻害作用や受容体拮抗作用とは異なる新たな薬理作用が示唆されている。したがって、タンパク質分解誘導薬は、創薬研究における標的タンパク質の拡張が可能となる新規モダリティーとして期待されている。本稿では、近年急速に発展しつつあるタンパク質分解誘導薬の技術的展開、課題ならびに今後の展望を概説する。
革新的な創薬を可能とするために、次世代の医療モダリティ開発が強く望まれている。そこで筆者らは、「LiHub次世代医療モダリティ創発グループ」を組織し、勉強会やワークショップの開催を通じて、知識融合、技術融合、人的ネットワーキングによる次世代医療モダリティの創発を目指している。本稿では、2017年から約4年間の活動紹介を中心に、その趣旨やこれまでの成果などを紹介する。
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