本稿では,フィリピン,インドネシア,タイにおけるインフォーマル・セクター(IFS)の社会保障について論じる。第1に,公式統計によれば,フィリピンの社会保障は国民を広くカバーしているようにみえるが,給付の規模や対象者への調査によると,それほど国民のカバレッジが広いようには思えない。第2にインドネシアでは,全国民を対象とする社会保障の構築に向けた法律が制定されているが,現状ではフォーマル・セクターへの制度の適用すら不十分であり,IFSを社会保障でカバーするには,まだ相当な期間が必要だろう。これに対して第3に,税財源によるタイの普遍的医療制度は,IFSのすべての人々を取り込んでいる。同国ではまた,所得保障全般にはカバレッジが及んでおらず,給付額も非常に不十分ながら,IFSを対象とする無拠出制の年金制度が導入されている。なお,IFSによるニーズが高い労災補償は,いずれの国でも不十分である。
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