特異な再帰性発話 (RU) を一例の脳梗塞の症例に観察した.本例の言語症状の特徴は, (a) 非流暢な意図的・命題的発話と, (b) 「こあてこあて…」という流暢な自動的・常同的発話との混在であり, これを主として以下の観点から考察した.
(1) RU の経過を論じた Alaiouanine (1956)の四段階説を本例に適用するならば, 本例の発話構造は RU と随意的な発話とが混在する「浮動的発話の段階」に相当する.
(2) 本例の失語型に関しては, (a) の失構音と失文法を中心とする Broca 失語の要素と, (b) の流暢な RU を呈する「非標準的流暢性全失語」 (Poeckら, 1984)の要素との, 「混合失語」 (mixed aphasia) と評価することが適切であろう.また本例の発話には, 言語の意図的要素と自動的要素が同時に混在するとも考えうる.
(3) 本例の RU の出現頻度は場面や状況によって異なっていたが,これには課題の難易度との関係が示唆され, またストレスを回避しようとする目的論的解釈 (Weinsteinら, 1974) が可能であった.
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