失語症研究
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12 巻, 3 号
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教育講演
原著
  • 斎藤 寿昭, 加藤 元一郎, 鹿島 晴雄, 浅井 昌弘, 保崎 秀夫
    1992 年 12 巻 3 号 p. 223-231
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    脳損傷者53例, 健常者24例に頭文字およびカテゴリーによる Word Fluency Test および Modified Stroop Test を施行した。前頭葉損傷群の頭文字による Word Fluency Test の成績は他部位皮質損傷群に比較し有意に低下していた, 次に前頭葉損傷群において, Word Fluency に対しステレオタイプの抑制障害が与える影響を発動性要因を考慮した上で検討した。すなわち, ModifiedStroop Test の単純な色名呼称に要する時間を用い, 前頭葉損傷群を発動性低下が強いと考えうる群と発動性低下が少ないと考えうる群に分けたところ, 後者で頭文字による Word Fluency Test の成績と Modified Stroop Test における抑制障害の指標との間に負の相関が認められた。したがって, 発動性欠如の程度が軽度と考えうる前頭葉損傷群における Word Fluency にはステレオタイプの抑制障害が関与すると考えられた。
  • 長谷川 啓子, 河村 満, 平山 惠造
    1992 年 12 巻 3 号 p. 232-238
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    右大脳半球の広範な梗塞性病変により失文法症状を呈した症例を報告した。症例は51歳, 男性, 両手利き (書字には右手を使用) 。会話時に明らかな電文体発話が認められた。本症例の自発話と自発書字を, それぞれ「自由発話・書字」と「説明発話・書字 (まんが・絵画説明時の発話・書字) 」とに分け, 症候学的に対比した。その結果, 1. 電文体は自由発話において顕著であり, 自由書字, 説明発話・書字においては軽度であった。 2. 助詞の誤りには, 省略の他に置換が, 自由発話・書字, 説明発話・書字のすべてにおいて認められた。 3. 書字動作は素早いが, 乱雑であり, 仮名の錯書が拗音・促音で明らかで, 漢字の想起困難が認められた。これらの特徴は本邦の失文法報告例においても同様に認められた。文献例との比較検討により, 1~3は本症例の言語機能の半球側性化が通常と異なるために出現したものと考えられた。
  • 松田 実, 姉川 孝, 原 健二
    1992 年 12 巻 3 号 p. 239-246
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    経過中に再帰性発話 (RU) がreal word RU (RWRU) からnon-meaningful RU (NMRU) に移行した特異な症例を報告した。症例は73歳の右利き女性。脳梗塞で右片麻痺と全失語を呈した。初期には,「あんた」という発語を繰り返したが発語量は多くなかった。 50病日頃より発語量が多くなるとともに,発語パターンは「あんた」が徐々に減少し,「ツツツ……」「夕夕夕……」「ツツターン」「ツターン」「タンターン」という何種類かの発語を認める時期を経過して,「タンターン」「タンタン」に収束した。 CT, MRIでは基底核,放線冠と頭頂後頭領域の皮質皮質下に梗塞巣を認めたが,SPECTではより広範な左半球ほぼ全域にわたる血流低下が認められた。著しく機能低下した左半球の音声学的システムが右半球発語であるRWRUを修正した結果, RWRUからNMRUへの移行が生じたと考え,RUの成立機序や責任病巣についての私見を述べた。
  • 平林 一, 坂爪 一幸, 平林 順子, 遠藤 邦彦, 宮坂 元麿
    1992 年 12 巻 3 号 p. 247-254
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    左半球損傷による構成障害を行為のプランニングの障害に, 右半球損傷によるそれを視空間障害に帰着させる Hécaen ら6) や Warrington ら14) の仮説を検証するために, 通常の立方体模写と, 検者について立方体を1辺ずつ書き加えていく変法を, 頭頂葉後部病巣を有する重度構成障害21例 (左半球損傷8例, 右半球損傷13例) に施行した。左半球損傷例では, 行為のプランを設定する必要のない変法にて模写が大きく改善したが, 構成障害は完全には消失せず, 行為のプランニングの障害と視知覚の障害が同時に存在していると考えられた。一方, 右半球損傷例の改善は左半球損傷例よりも明らかに小さく, 図形知覚の障害がその構成障害の基盤にあると考えられた。
  • 飯干 紀代子, 猪鹿倉 武, 浜田 博文
    1992 年 12 巻 3 号 p. 255-263
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    慢性期失語症患者6例に, Promoting Aphasics Communicative Effectiveness (失語症患者のための実用コミュニケーション能力促進法—略称 PACE ) を実施した。6例中3例に PACE の評価得点の有意な上昇, 6例中3例に初発時間, および6例中5例に伝達時間の有意な短縮を認め, PACE による情報伝達能力向上が示唆されたが, これは, PACE により本人なりの意志伝達様式を獲得したことと, コミュニケーション意欲が高まったことによると思われる。また, 院内生活コミュニケーション能力評価においても全例に何らかの得点変化を認め, PACE による情報伝達能力向上が日常生活にも良い効果を及ぼしていることが推察された。従来の刺激法は失語の impairment レベルに, 一方, PACE は disability レベルに主にアプローチすると考えられるため, 今後は, 従来の刺激法による言語治療を一定期間終了した後, あるいはそれと平行して PACE を実施するのが望ましいと思われた。
  • 横山 絵里子, 平田 温, 長田 乾, 中野 明子, 佐山 一郎
    1992 年 12 巻 3 号 p. 264-270
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    脳梗塞による右大脳半球病変で右利き交叉性純粋語唖をきたした症例を報告した。症例は61歳の右利き男性で, 母親と弟は左利きである。 1990年11月21日, 急性心筋梗塞の診断で入院中に突然発話不能となった。神経学的には意識清明で, 左不全片麻痺, 著明な発声構音障害, 口部顔面失行を認めた。聴理解・読字・書字は正常であった。失語症, 仮性球麻痺や半側空間無視はなかった。頭部 CT および MRI では右中・下前頭回の限局性の脳梗塞巣が認められた。入院後, 著しい発語の緩徐化, 構音の歪み, dysprosody のために筆談を行なっていたが, 慢性期には構音障害や dysprosody の改善を認めた。本症例は左利きの家族性素因があり, 言語中枢が右半球優位で, 特に右中・下前頭回後部の発声構音に関する中枢が限局して障害されたと推察される。また, 発声構音過程には言語中枢優位側の中・下前頭回が重要な役割を担っていると考えられた。
  • 大森 将, 田川 皓一, 山本 操, 福原 正代, 飯野 耕三
    1992 年 12 巻 3 号 p. 271-277
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    四肢の運動麻痺が目立たないにもかかわらず重度の仮性球麻痺症状を呈した脳血管障害の5側を対象に責任病巣について検討を加えた。全例に共通する臨床症状は仮性球麻痺症状で,いずれも脳血管障害の再発作により声量の低下や嗄声,軟口蓋の挙上不良,舌の運動障害,流涎などを認め,重度の構音障害や嚥下障害を呈した。急性期から亜急性期にかけては,コミュニケーションに筆談を必要とし,経管栄養を実施した。一方,四肢の運動麻痺は目立たず,感情障害や知能障害,排尿障害は認めなかった。画像診断により,内包膝部ないしは放線冠,あるいは両者を含む両側性の病巣を確認することができた。内包膝部や放線冠に比較的限局した皮質延髄路の両側性障害により,下部脳神経領域に限局した重篤な核上性麻痺をきたしうると考えた。
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