日本ハンセン病学会雑誌
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93 巻, 3 号
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原著
  • 石田 正子
    2024 年93 巻3 号 p. 115-125
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的はハンセン病療養所の入所者の人生の最終段階のケアに示唆を得るためにエリクソンが提唱する心理社会的発達課題の「統合性」(以下、「統合性」)の達成度の実態と関連要因を明らかにすることである。国内13園の入所者数1,094中2園の35名が研究参加者となった。結果、入所者の「統合性」はかなり高いレベルの達成度であった。「統合性」の高さは入園期間の短さ、社会復帰経験あり、就業経験あり、園外家族との付き合いあり、精神的自立性の高さと関連した。入所者の場合、療養所や社会それぞれの環境で、孤独や障害、脅威などの様々な危機を克服しつつ仲間と協働し適応した過程において自我の強さが培われ、「統合性」の達成を支えるものになったと考える。その為、入所者個々の体験や強さを捉え、入所者の日々の目標や生き方、入所者の自律を支えることにより入所者が生きる実感を得られ、入所者の「統合性」を高める支援となることが示唆された。

  • ─国内の文献検討を通じて─
    伊東 真理
    2024 年93 巻3 号 p. 127-133
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/04
    ジャーナル フリー

     本研究は、国内ハンセン病療養所で展開される看護実践の整理を行い、これまで看護師個々の、一実践報告・研究報告に留まりがちであった看護の内容を、その動向と合わせて提示し、今後、国内のハンセン病療養所内において提供される看護実践の質向上に役立てることを目的とする。医中誌Webを用いて、842文献から精選過程に沿って抽出を進め、17文献を分析対象とした。その内容は、「ハンセン病の後遺症への看護」、「生き様や過去の背景を踏まえた看護」等の4つに整理され、ハンセン病の後遺症への健康管理や医療処置の他、日常生活の継続を支える看護実践、さらに入所者がこれまで生き抜いてきた過去の背景を踏まえた個別的な看護実践等があることが示された。このように、ハンセン病の看護はその病気のおかれた特殊な状況故に、問題解決に向け試行錯誤を続け、独自に変化してきた看護と言えるが、他の看護実践に活かされるべき点は多いと考えられた。

  • ―石田 裕、青木美憲両氏の第96回日本ハンセン病学会学術集会「菅井竹吉『癩及び結核の化学的療法略報(中外醫事新報 第八六二號 大正五年二月二四日)』について」への反論―
    阿戸 学
    2024 年93 巻3 号 p. 135-146
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/04
    ジャーナル フリー

     1914年から1919年にかけて、わが国では、結核及びハンセン病に対するシアン化銅剤の治験が盛んに行われたが、結論として有意な治療効果は確認できなかった。2023年の第96回日本ハンセン病学会学術集会で、石田 裕、青木美憲両氏は、外島保養院医長菅井竹吉が当該化学物質を用いて実施したハンセン病の治験について、「猛毒である青酸カリウム塩水溶液」の投与で「人権侵害」であると主張する発表を行った。筆者は当該記録及び当時の文献を検索し、当該主張は誤りである旨の意見を発表後の質疑応答で示し、両氏の見解を問いただしたが両氏より合理的な回答は得られなかった。本論文では、公開されている当時の記録・論文を文献学的に検索し、その製法を化学的に考察した。その結果、菅井がハンセン病患者に投与し、同時期に古賀玄三郎が結核患者に投与したシアン化銅剤が両氏の主張する青酸カリウム(塩)水溶液ではなく、水溶液中ではカリウム(またはナトリウム)イオンとシアン化銅イオンに分離し、加熱、酸、重金属との会合以外でシアン水素を遊離しない、シアン化銅重塩水溶液であったことが判明した。菅井、古賀は動物を用いた毒性試験をもとに人体に安全な投与量を決定しており、治験においても重篤なシアン中毒を示す症状は記録されていない。本治験が行われた時代は、結核、ハンセン病は治療薬のない不治の病であり、治療薬候補として試みられた物質の中で、シアンを含む物質だけを絶対的な毒として問題視することは妥当とは言えない。事実、当該治験を非難したとして両氏が引用した芳我・渡邊論文でも、人体内での微量のシアン化水素の生成可能性は問題としていない。以上より、石田・青木両氏による、菅井論文と芳我・渡邊論文を根拠にした、シアン銅錯塩製剤を用いた結核・ハンセン病への治験が、シアン化カリウム水溶液の投与であり、人権侵害として調査が必要、とした結論は事実誤認によることを明らかにするものである。

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