モンゴルでは近年の家畜頭数の急増による草資源の劣化で自然災害のリスクが高まっており,科学的データに基づいた計画的な放牧地管理の重要性が指摘されている.本研究は牧養力算出のための基礎データを得ることを目的に,モンゴル国のステップ地域において放牧されているヒツジの採食量推定試験を実施した.試験は2012年9月から2013年4月に,ウブルハンガイ県タラグトソムの12頭の去勢ヒツジ(試験開始時明け2歳)を用いて行った.採食量は糞袋を用いて求めた排糞量と草中および糞中の酸性デタージェントリグニン(ADL)から求めた消化率を用いて推定した.試験地の植生はCarex,Agropyron,Stipaなどステップを代表する草種の優占度が高かった.地上部現存量は季節によって有意な差がみられ,9月(1.080 tDM/ha)に最も高く,2月には81.3%減少した.供試ヒツジの体重,排糞量,草中ならびに糞中のADL含量,消化率および採食量について,季節的変化を統計処理した.供試ヒツジの体重は季節で有意な差がみられた(
P < 0.05)が,季節ごとの差は有意ではなく,10月(57.5 kg)で高く,4月(51.0 kg)で低い傾向がみられた.日排糞量(0.467~0.550 kg/日)および体重あたり日排糞量(0.83~0.96%BW/日)はいずれも季節で有意な差はみられなかった.草中のADL含量(DM中%)は9月(6.28)で低く,2月(10.85)と4月(11.63)で高かった.糞中のADL含量は9月(21.4)で低く,2月(31.20)と4月(31.80)で高かった.糞中のADL含量は9月から4月にかけて直線的に増加したが,草中のADL含量は,10月と11月で同じ値であった.これは11月の積雪がサンプリングに影響したためと考えられた.消化率(%DM)は9,10,11,2,4月それぞれ70.5%,68.2%,70.9%,65.1%,63.2%であった.日採食量(kgDM/日)は季節で有意な差がみられ,10月(1.73)で高く,4月(1.30)で低かった.体重あたりの日採食量は季節で有意な差がみられず,2.54 ~ 3.02%BW/日であった.本試験の結果から,冬と春の採食量は現在モンゴルで用いられている値より高かった.したがって,冬と春の牧養力はこれらの文献値より低くなることが示唆された.
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