日本助産学会誌
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28 巻, 2 号
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原著
  • 前原 敬子, 齋藤 ひさ子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 144-153
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究では,学童期後期の子供に対する父親の養育の行動と意識を明らかにし,影響を及ぼす要因を検討する。
    方 法
     研究協力の得られた小学校,子供会へ質問紙調査を実施し,有効回答の得られた251名を分析対象とした。子供に対する父親の養育を行動と意識から因子分析し,影響する要因を「家族要因」「労働要因」「個人要因」より相関係数を求めて検定した。影響度を明らかにするために相関が確認できた変数を重回帰分析で分析した。
    結 果
     学童期後期の子供に対する父親の養育の行動と意識は因子分析の結果,行動に第1因子「管理/成熟への要求行動」第2因子「会話/表現行動」が抽出された。意識に第1因子「会話/表現意識」第2因子「管理/成熟への要求意識」が抽出された。行動・意識ともに高い内的整合性が確認できた。父親の養育に影響を与える要因は行動・意識の因子と相関の見られた「個人要因」の性役割観,親役割受容感,「家族要因」の夫婦関係満足であった。子供に対する父親の養育の影響度を明らかにするため,相関の見られた3つの変数を独立変数として重回帰分析を行った。結果,父親の養育の行動と意識に最も影響を与えていた要因は夫婦関係満足であった。
    結 論
     学童期後期の子供に対する父親の養育行動は,社会規範・基本的生活習慣を守らせるなど統制性の行動をとっており,意識は子供との共動作的な関わり,コミュニケーションなどの応答性を意識していることが認められた。父親の養育の行動と意識に最も影響を与えている要因は夫婦関係満足であり,学童期後期の子供に対する父親の養育は,妻との関係に満足していることが子供への関わりを促していた。これより,家族を含めた支援の必要性が示唆された。
  • 朝澤 恭子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 154-163
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     生殖補助医療を用いた治療を予定する一般不妊治療中のカップルに対して,パートナーシップ向上,QOL維持,および精神的苦悩軽減のために,少人数参加型のパートナーシップ支援プログラムを開発し,アウトカム評価とプロセス評価によるプログラム評価を行う。
    対象と方法
     パートナーシップ支援プログラムは先行研究を基盤に目的と構成を考案し,専門家による内容妥当性を検討する手順で開発した。関東圏において不妊治療中のカップルに対してパートナーシップ支援プログラムを実施した。一群事前事後テストデザインの準実験研究において介入前後の自己記入式質問紙調査により,パートナーシップ,QOL,精神的苦悩,関係満足度の記述統計を前後評価し,プロセス評価および自由記載の内容分析でプログラムを評価した。
    結 果
     不妊治療中のカップル18組36名がプログラムに参加し,25名(男性12名,女性13名)の有効回答を得た。アウトカム評価として介入前後を比較し,対象者のうち女性群はプログラムによるパートナーシップとQOLの尺度得点が増加傾向にあり,Distress得点が有意に減少した(p=0.021)。男性群は尺度得点の有意な増加がなかった。女性のパートナーシップ尺度得点が平均値未満のサブグループでは,介入前後でパートナーシップ尺度得点が有意に増加した(p=0.028)。プロセス評価では,対象者の72%が情報獲得を認識し,90%がパートナーとのコミュニケーションの深まりを感じた。対象者の90%はレクチャーの満足度が高かった。プログラムに対して4カテゴリの評価内容が分類された。(1)〈理解の深まり〉,(2)〈安心感〉,(3)〈コミュニケーションに役立つ〉,(4)〈情報獲得〉。
    結 論
     パートナーシップ支援プログラムはカップルにとって情報獲得と満足度が高かった。男性への影響は少ないが,女性にはパートナーシップの向上とQOLの維持に影響し,精神的苦悩の緩和に有用であることが示唆された。
  • 竹原 健二, 須藤 茉衣子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 164-172
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    背景
     わが国では立ち会い出産に対する認識は広まっている。その一方で,出産に立ち会うことが男性にとって,不安やうつ,トラウマといったメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性も指摘されつつある。パートナーの出産に立ち会った男性が,分娩開始前から産後までにどのような気持ちになり,どのように気持ちが推移していったのか,ということを質的に記述することを本研究の目的とした。
    方 法
     東京都およびその近郊にある2か所の病院において,過去3か月以内に陣痛中から分娩終了までのプロセスに立ち会った男性10人を対象に,半構造化面接を実施した。収集したデータについて,2人の研究者が独立して要約的内容分析をおこなった。
    結 果
     対象者10人のうち7人は,今回の立ち会い出産が初めての経験であった。対象者は皆,分娩第一期から分娩が終了するまで立ち会った。面接調査によって得られた文脈からは,立ち会った男性の気持ち・想いを表す【妻を支えたい】,【未知の世界に対する不安と恐れ】,【共に立ち向かう】,【男女の違いの気づき】,【成長】という5つのカテゴリーと,それを構成する13のサブカテゴリー,立ち会い出産をした男性の気持ちに影響を及ぼした外的要因として,【影響を及ぼした要因】というカテゴリーと,2つのサブカテゴリーが抽出された。【妻を支えたい】は妊娠期の男性の気持ちや行動を表す文脈によって構成されていた。同様に,【想像がつかない世界】や【共に立ち向かう】,【男女の違いの気づき】は分娩時を表す文脈が中心となり,【成長】は分娩直後や産後の男性の気持ちや行動を表す文脈によって構成されていた。
    結 論
     本研究の結果から,立ち会い出産に臨む男性の気持ちは出産前から産後にかけて変化していくことが示された。助産師を中心とした医療スタッフは男性の状態も観察し,適切な声掛けや働きかけをおこなっていくことにより,男性の立ち会い出産の体験をよりよくすることができると考えられた。
  • —実態調査から探る—
    竹内 翔子, 堀内 成子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 173-182
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     妊娠中の会陰マッサージに対する女性の認識と実施の阻害因子を探索すること。
    方 法
     首都圏の産科を有する医療施設8ヶ所において,妊娠37週0日以降の単胎児を経膣分娩した女性390名を対象に,質問紙を配布した。有効回答が得られた334名(85.6%)のデータを用いて,統計学的に分析した。
    結 果
    1.会陰マッサージを実施した女性は114名(52.1%),実施しなかった女性は105名(47.9%)であり,実施した女性のうち出産まで継続できたのは68名(59.6%)であった。また実施しなかった女性の45.7%が自分の会陰を触ることに抵抗を感じていた。
    2.会陰マッサージに関する情報源について,会陰マッサージ実施の有無を比較すると,実施した女性の割合が有意に大きかったのは「助産師による個別指導」のみであり(p=.000),実施しなかった女性の割合が有意に大きかったのは,「母親学級」であった(p=.000)。
    3.会陰マッサージの方法について,方法を知っている女性の半数以上が難しさを感じていたのは「指の動かし方」や「力加減」,「指の挿入の深さ」,「マッサージの実施時間」であり,マッサージを途中でやめてしまった女性は出産まで継続できた女性よりも難しさを感じていた(p=.012)。
    4.会陰マッサージの効果について,会陰マッサージを継続できた女性は途中でやめた女性に比べて,【出産準備への効果】および【出産時への効果】を有意に感じていた(p=.000)。
    5.出産に対する自己効力感について,初産婦では会陰マッサージを行っていた女性は行っていない女性よりも【自分らしいお産】に対する自己効力感が有意に高かった(p=.014)。
    結 論
     会陰マッサージの実施を阻害する因子として,会陰部を触ることに対する抵抗感や知識不足,実施中の困難感が挙がった。また会陰マッサージはその効果を実感するためには継続することが重要であり,医療者は出産まで会陰マッサージを継続できるようサポートしていく必要がある。
  • —不妊治療期から出産後6か月までに焦点を当てて—
    藤井 美穂子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 183-195
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究では,生殖補助医療(以下ART)によって双胎妊娠した女性が不妊治療期から出産後6か月頃までに母親となっていくプロセスを明らかにした。
    方 法
     研究デザインは,ライフストーリー法である。研究参加者はARTによって双胎妊娠し,妊娠8か月以降に胎児に先天的な奇形や異常がない。加えて,妊娠8か月の時点で母親に合併症がなく,今後の妊娠・出産経過が順調であると推測できた妊婦4名である。データ収集は,半構成的面接と参加観察法によって行った。面接や参加観察は,①産科外来通院中,②出産後の産褥入院中,③子どもの1か月健診時頃,④子どもの3か月健診時頃⑤子どもの6か月頃の5時点で縦断的に実施した。
    結 果
     本研究では,子どもをもつことで夫と家族になる夢を叶えたAさんのライフストーリー,子どものために強い母親になろうとするBさんのライフストーリー,子どもを失った苦しみから立ち直ろうとするCさんのライフストーリー,母親となったことをなかなか実感できないDさんのライフストーリーが記述された。
    考 察
     本研究の参加者の全員は,妊娠期に母親となることを否認するが,出産後に妊娠期から母親の準備をしていたかのように物語を書き替えることで,妊娠期に胎児と過ごした時間を取り戻していた。また,不妊治療中に自尊心が傷つき辛かった体験を想起して現状を「良かった」と意味づけていた。研究参加者は,未解決な過去を肯定的に意味づけることで過去を受容して母親としての人生を歩もうとする物語を語った。
     しかし,その裏で,出産後も拭いとることができない不妊というスティグマによる傷ついた物語が母親となる物語に影を落としていた。ART後に双胎妊娠した女性の母親となっていく物語は,不妊治療期から育児期へと続く語りによって書き直されていくが,その根底には,不妊による傷ついた物語が継続していたと考えられた。不妊治療期から育児期までの女性の体験を理解し,個々の女性の体験に即して継続的に支援する必要性が示唆された。
  • 大崎 博子, 志村 千鶴子, 惠美須 文枝
    2014 年 28 巻 2 号 p. 196-206
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     助産教員が分娩介助実習指導者に対して必要と考える能力の構成因子を明らかにし,それに関連する要因を検討することである。
    対象と方法
     東日本大震災被災地9県を除く全国の助産師養成機関139校の助産教員に,協力依頼文書と調査用紙を配布し,教員経験3年以上の方に回答を求めて185名の回答該当者から回答を得た。その全てが有効回答であったのでこれを分析対象とした。調査期間は平成23年6月~9月で,調査内容は基本属性及び一般的職務のコンピテンシーに対応させた分娩介助実習指導者の行動88項目について5段階の重要性を問う内容とした。構成因子抽出には因子分析,その構成因子と属性等の関連については,Mann-Whitney U検定,Kruskal-Wallis検定を行った。
    結 果
     対象の助産教員経験は平均8.97年(SD5.88),助産師臨床経験は平均9.50年(SD5.63)であった。因子分析の結果,【実践者としての助産ケア指導力】,【学生理解を基にした学習目標達成志向】,【学生の状況に応じた指導の創造力】,【状況に応じた人的資源の活用と調整力】,【自己コントロールと指導力の向上意欲】の5因子を抽出し,これらを「助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」と命名した。全体のCronbach'sα係数は.974,各因子は.894~.933であった。どの教育課程の助産教員も【実践者としての助産ケア指導力】の平均得点が最も高い結果であった。助産師臨床経験年数と【自己コントロールと指導力の向上意欲】には有意差が認められ(p<.01),臨床経験が長い群が短い群よりその能力を重要視する結果であった。
    結 論
     助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力の5構成因子のうち,【実践者としての助産ケア指導力】は全ての指導者が最低限備えるべき能力といえる。また,臨床経験のより長い教員は,自己の経験から,分娩介助実習指導には指導者の自己研鑽に基づく高度な指導力の必要性を重要視していると考えられた。
資料
  • 関島 香代子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 207-217
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     子育て期早期は妊娠・分娩の身体的変化からの回復時期であり,新しい子どもの子育てが加わる多重役割状態への移行期でもある。「子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減」に向けて,主に子育てを担う母親自身が身体的に良好な状態でやりたいと考える子育てに取り組めることが望ましい。
     産褥期(産後6~8週間)後の子育て期早期にある母親がやりたいと考える子育てができているのかを明らかにし,その関連要因を検討する。
    対象と方法
     対象者は,生後6~11ヶ月の子どもをもつ都市部の子育て期早期にある女性500名(無作為抽出)。無記名自記式調査票を用いた郵送調査(配布・回収2010年10月~11月,有効回収274名,54.8%)。調査票には,やりたい子育ての実現状況と身体的健康状態として身体不調症状,蓄積疲労度(疲労蓄積度自己診断チェックリスト),健康関連QOL SF-8,睡眠状態を含む26設問を含めた。
    結 果
     4.5(SD2.8)個の身体不調症状を抱え,SF-8の下位8項目とPCS,MCSの全てが50を下回った。疲労蓄積度の自覚症状では「以前と比べて疲れやすい」「イライラする」が「よくある」か「時々ある」が7割以上を占めた。夜間睡眠6.4(SD1.3)時間,途中授乳等での覚醒が2.7(SD1.4)回だった。睡眠による疲労回復感は,「十分」は12.0%(33名)のみで,「まあまあ」51.1%(140名),「あまり」と「ほとんどとれていない」を合わせ36.5%(100名)だった。
     56.9%(156名)が「やりたい子育て」ができており,睡眠による疲労回復感が「まあまあ(オッズ比4.7, 95%信頼区間1.88-11.58)」か「十分に(6.9, 1.65-28.97)」あると,40歳以上(6.1, 1.14-32.60),祖父母の同居(3.4, 1.06-11.09)と関連があった。
    結 論
     子育て期早期の女性は,身体不調症状をかかえ健康状態を悪く認識し蓄積した疲労症状があった。睡眠による疲労回復感は良好ではなかった。約半数は自身のやりたい子育てができていると考えており,睡眠による良好な疲労回復感と40歳以上,祖父母の同居が関連していた。
  • 勝村 友紀, 神谷 摂子, 惠美須 文枝
    2014 年 28 巻 2 号 p. 218-228
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     不妊治療を経て妊娠した女性の,第1子妊娠期から産褥期・育児期に至るまでの体験を明らかにする。
    対象と方法
     不妊治療を受け第1子を出産後,第2子妊娠のため再び不妊治療を受けている女性9名を対象に,第1子の不妊治療による妊娠期から産褥期・育児期までの体験について,半構成的面接によってデータを得て質的記述的研究を行った。
    結 果
     妊娠期の体験として【沸き上がる第2子への欲求】,【予想に反した妊娠や出産への実感のなさ】,【妊娠の喜びと誇らしさ】,【出産施設の選択に対する不安と安心】,【長い道のりを経てここまで来れたことの安堵感】,【自然分娩ができないことを割り切る】,【胎児の異常や障害に対する不安と大丈夫という気持ちの揺らぎ】,【家族に対するありがたさとストレス】,【妊娠継続の不確かさを抱く】の9つのカテゴリー,分娩期の体験として【健康な児の出生への切望】,【充足感の薄い出産】,【母親になれた喜びと育児への意欲】の3つのカテゴリー,産褥期・育児期の体験として【赤ちゃんの存在から感じる喜び】,【薄れていく赤ちゃんへの心配】,【苦労の末の嬉しい出産でも初めての育児は不安】,【出産の実感や感動の薄さ】,【不安な出来事と治療を結びつける】の5つのカテゴリーが抽出された。
    結 論
     不妊治療を経て妊娠した女性は妊娠期,分娩期,産褥期・育児期において胎児の異常や障害に対する不安や,妊娠・出産の充足感が薄いなど多様な体験をしていた。看護者は不妊女性がこのような独特の体験をしていることを理解し,ケアを行っていく必要があることが示唆された。
  • 西村 香織, 永山 くに子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 229-238
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     産褥早期に母乳育児をしている初産婦への母乳外来での参加観察と初産婦と実母のインタビューを通した語りから,産褥2週間以内の初産婦の母乳育児をめぐる実母の関わりの特徴を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     研究参加者はN病院で出産し母乳外来を受診した初産婦と母乳外来受診時に同行した実母の10組。データ収集期間と方法は2010年2月~7月。初産婦と実母の母乳外来における参加観察,および初産婦と実母との同席によるインタビューで,内容は「退院されてからの日々の育児はどうですか」「授乳に関してはどうですか」「お母様からみて娘さんの様子はどうですか」などであった。参加観察と録音したインタビュー内容の逐語録をデータとした。これらを短文化,解釈し初産婦に対する実母の関わりの特徴と考えたサブパターンを抽出,さらに集約化してパターン名を付けた。
    結 果
     母乳育児中の初産婦に対する実母の関わりには[受容的][支持的][教育的]のサブパターンからなる【個人的関わりパターン】と,[食に関する言い伝え][育児観に関する言い伝え]のサブパターンからなる【世代間伝承的関わりパターン】の2つの特徴的な関わりパターンが抽出された。実母の【個人的関わりパターン】は感じ方,考え方,価値観などを含む実母自身の個人的パターンであり,【世代間伝承的関わりパターン】は実母個人にとどまらない世代を繋ぐ慣習の伝播,母から子への言い伝えであると考えられた。母乳育児をめぐる実母の関わりには個々の関わりに加え,世代間の伝承的な関わりがあると考えられた。また,産褥早期の母乳育児を通して,現代の娘に対して実母が初産婦にどう考え関わっているかには受容,支持など肯定的側面がみられる一方で先行研究の教育的姿勢を呈する関わりも存在していると考えられた。しかし,その教育的背景には,本研究結果の肯定的側面と同様に,かつて自分の時代にはできなかった母乳育児を娘にはさせてあげたいという実母の思いが関与していると考えられた。
    結 論
     母乳育児中の初産婦と実母をめぐる関わりの特徴としては【個人的関わりパターン】と【世代間伝承的関わりパターン】であることが示唆された。
  • 中村 敦子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 239-249
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,実母が娘の産後の里帰りを引き受けた体験に,実母の人生においてどのような意味があるかを明らかにすることである。
    対象と方法
     自然分娩した初産の娘の産後の里帰りを4~6週間引き受け,その後の経過が2ヶ月以内の実母5名に半構造化インタビューを行い,質的帰納的に分析した。
    結 果
     実母の人生において娘の産後里帰りを引き受けた体験の持つ意味として,【母親としての潜在的能力の発揮】【娘と孫から得られた幸福】【自己成長への気づき】【人生の新たな方向性への気づき】の4つのコアカテゴリーが抽出された。コアカテゴリーの【母親としての潜在的能力の発揮】は《娘の母親,妻,人としての成長過程への見守り》《娘夫婦の幸福への力添え》のカテゴリーから,コアカテゴリーの【娘と孫から得られた幸福】は《娘の成長への喜びと愛着の深まり》《孫から得た癒しと感動》のカテゴリーから,コアカテゴリーの【自己成長への気づき】は《娘を育てたことの自負心》《疲労感と自己犠牲の受容》《寛容で大らかな自分への気づき》のカテゴリーから,コアカテゴリーの【人生の新たな方向性への気づき】は《娘との新たな関係の構築》《娘の役に立てた喜び》《今後の自分らしい生き方の方向性》のカテゴリーから構成された。
    結 論
     実母の立場から娘の産後里帰りを引き受けた体験には,単なる育児支援ではなく,以下の意味があることが明らかになった。娘の母親である喜びとして,娘の母,妻,人としての成長への喜びと愛着,親密性を深める。娘夫婦の良好な関係性を見守り娘夫婦の幸福に力添えし,娘の夫との関係性を形成する。娘の子どもの祖母である幸福として,親密性と愛着を深め癒しを得,孫の成長に感動し活力を得る。自己成長する自分に気づき,娘との新たな関係性を構築し,家族を大切にしながら個としての自分の人生を大切にするという生き方の新たな方向性を見出し,発達し続ける自己に気づく意味がある。
  • 五十嵐 ゆかり, 小黒 道子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 250-259
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     日本に在住する難民女性への支援の向上を目指し,難民女性のリプロダクティブヘルスの現状や課題を明らかにすることである。
    対象と方法
     日本に在住する難民,難民認定申請者で,成人女性,出産可能年齢(15~49歳)7名とした。研究協力者の母語に堪能な通訳者を介し,半構成的インタビュー法で面接を行い,質的記述的研究方法により分析を行った。
    結 果
     難民女性は【困難な状況が複合化している存在】であり,【行き(生き)場がない,ここしかない】という社会的,心理的状況であった。そのため【孤独】を感じ,【信仰だけが与える安寧】に依存しながら生活していた。リプロダクティブヘルスの実状としては,難民女性は出身国の情勢や経済的な理由から,そもそも【もともと無いリプロダクティブヘルス・ライツ】といった状況にあった。来日後は【寂しさが誘起する安易な性行動】から知り合ったばかりの人との性行為に至り,結果【シングルマザー】となっている女性が多かった。生活が困窮していても【信仰を基盤とした妊娠継続の意思決定】をし,【心の拠りどころは子ども】となって,強い孤独感の中で喜びを感じていた。しかし,妊娠期を健康的に過ごすための経済基盤の脆弱性や,医療者とのコミュニケーションの難しさから,【母児の困難な健康維持】という状況にあった。難民女性のリプロダクティブヘルス・ライツを向上させるために,まずは【偏見なくひとりひとりと向き合う】,【それぞれの持つ背景を知る】ことが不可欠であり,健康状態が深刻化していても【帰国を勧めない】こと,また【確実な情報提供】をすることも重要であった。
    結 論
     難民女性は,ひとりという孤独感と難民への関心が薄い社会での疎外感から,壮絶な寂しさの中にいた。心理,経済,教育など複数の課題が混在し,自国においても日本においても難民女性のリプロダクティブヘルス・ライツは脆弱であった。ケアの方略は,まずは医療者が難民女性を理解する努力をすることであり,対象の背景を知ろうとする姿勢を持つ重要性が示唆された。
  • —妊娠末期から産後1ヶ月までの縦断的調査—
    深尾 千晴, 我部山 キヨ子
    2014 年 28 巻 2 号 p. 260-268
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/05/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,高度生殖補助医療(ART)および一般不妊治療後妊産褥婦における抑うつ傾向とストレス対処能力の経時的変化,関連,影響要因を明らかにし,援助の方向性を探ることである。
    対象と方法
     調査期間は2011年3~10月。京都府内の1病院において,研究参加に同意を得た妊婦95名(自然妊娠群36名,一般不妊治療群13名,ART群46名,有効回答率95%)を対象に,妊娠末期,産後早期(産後2~7日),産後1ヶ月の3時点で,病歴調査,抑うつ傾向(EPDS),ストレス対処能力(SOC)の縦断的調査を実施し,3群で比較した。
    結 果
     一般不妊治療群では,3時期のEPDSは高値,SOCは低値を示す傾向が見られたが,有意差は認められなかった。EPDSとSOCの関連は,ART群では3時期とも有意な負の相関(r=-.500~-.592, p<.01),一般不妊治療群では妊娠末期を除き有意な負の相関(r=-.563, -.640, p<.05),対象者全体においても妊娠末期(r=-.466, p<.01),産後早期(r=-.592, p<.01),産後1ヶ月(r=-.623, p<.01)に比較的強い負の相関を認め,EPDS合計点が高値である程SOC合計点が低値を示した。影響要因に関しては,産後1ヶ月のEPDSは高齢初産婦で高い傾向(p=.056),妊娠末期と産後1ヶ月のSOCは高齢妊産褥婦で低い傾向がみられた(p=.057, p=.052)。
    結 論
     ART後妊産褥婦の抑うつが注目される中,一般不妊治療後妊産褥婦の抑うつ傾向が最も高かったことから,不妊治療後の妊産褥婦全般に対する早期からの支援が必要である。また,周産期を通して抑うつ傾向やストレス対処能力は変化し,EPDSとSOCは密接な関連をしていた。従って,EPDSが高値を示す“一般不妊治療群”,“高齢初産婦”に対して,ストレス対処能力を高める支援が重要である。
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