日本助産学会誌
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37 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 藏本 直子, 板谷 裕美, 田中 泉香, 藪田 綾
    2023 年 37 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/23
    [早期公開] 公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,勤務助産師に対するキャリア発達支援を行うにあたり,個々の助産師が抱える就業継続困難感を評価するための尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討することである。

    方 法

    助産師を対象とした就業継続困難感に関する調査や文献検討に基づき,尺度の質問項目を選定し,勤務助産師の就業継続困難感尺度原案を作成した。次に専門家らによる適切性の評価を実施し,計47項目の尺度原案修正版を作成した。その後,病院や診療所に勤務している助産師694名に対して質問紙調査を実施し,尺度の信頼性と妥当性を検討した。

    結 果

    質問紙調査の有効回答数は509名(有効回答率87.8%)であった。項目分析の結果,9項目を除外した。次に探索的因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,基準に従って項目数を整理した。最終的に,【対人関係の構築に関すること】,【助産師としての職責に関すること】,【専門性の発揮に関すること】,【柔軟な働き方の調整に関すること】,【職務上の役割に関すること】の5因子構造,計23項目の尺度となった。また,確認的因子分析により一定の適合度が認められた。既知グループ法による比較の結果,「退職希望群」の合計得点は「就業継続希望群」,「有期継続希望群」よりも有意に高かった(p<0.001)。基準関連妥当性については,本尺度と職業性ストレス簡易調査票の下位尺度に高い相関(r=−0.55~−0.78)が認められた。尺度の信頼性はCronbach's α係数0.91であり,内的整合性および再テスト法(r=0.77)による安定性が確認された。

    結 論

    勤務助産師の就業継続困難感尺度は,5因子23項目から成り,信頼性と妥当性が確認された。本尺度は勤務助産師の就業継続困難感を評価するツールとして有用性があると考える。

  • 橋本 真貴子, 佐藤 珠美
    2023 年 37 巻 1 号 p. 13-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/23
    [早期公開] 公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    アジア圏出身の外国人女性が,日本での出産において感じた予想と現実体験のギャップの有り様を明らかにする。

    方 法

    2018年3月20日~7月22日に,過去5年以内に日本で出産したアジア圏出身の外国人女性に半構造化面接を行い,6名の出産体験の語りを質的帰納的方法で分析した。

    結 果

    アジア圏出身の外国人女性の体験では,予想と現実の3つのギャップが生じていた。出産前の【異文化環境下で出産する心細さ】は,【知ることを通して和らいだ日本の医療への不安】【医療者との意思疎通への自信】へ,さらに【母国と比べた周産期サービスへの満足】となって《日本の医療環境への不明瞭な期待から生じたプラスのギャップ》となった。【外国人に対する医療者の態度への憂慮】は,【醸成された医療者との信頼】へ変わり,《医療者への低い期待から生じたプラスのギャップ》となった。出産前の【自文化(産褥・育児慣習)が普通だとの思い込み】から,産後に【出産時慣習の相違への戸惑い】が生じ,《自文化(産褥・育児慣習)への暗黙の期待から生じたマイナスのギャップ》となった。

    結 論

    アジア圏出身の外国人女性の日本における出産体験では,日本の医療環境や医療者に対する予想と現実のプラスのギャップと,出産文化に対するマイナスのギャップが生じた。外国人女性の出産に際しては,否定的な予想や暗黙の期待があり,ギャップがもたらされることを前提としたケアの必要がある。医療者は,日本の医療情報の提供や外国人が持つ医療者のイメージを踏まえた働きかけ,出産文化の確認など,ギャップを埋めるための積極的介入を妊娠早期から行う必要がある。

  • 谷崎 望, 田淵 紀子
    2023 年 37 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/23
    [早期公開] 公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    死産や新生児死亡で子どもを亡くした母親の悲嘆から回復していく力に着目し,次子妊娠における体験を明らかにする。

    対象と方法

    死産や新生児死亡ののち,次子を妊娠し正期産で出産した母親に,非構成的面接を実施し,Giorgiの記述的現象学的アプローチを用いて分析した。

    結 果

    研究参加者は,妊娠16~37週で死産や新生児死亡を体験したのちの妊娠で初めて生児を得た母親6名であった。死産や新生児死亡で子どもを亡くした母親は,次子の妊娠において子どもの死が起こった自分自身に【母親としての身体への疑いと自己否定】を拭えず,【再妊娠により蘇る死産のトラウマ】からくる不安や恐怖を幾度となく体験した。また,母親のなかで前回の妊娠への後悔から【ありのままのいのちの受け入れ】への思いや【亡くなった子のいのちとの繋がり】を見出し,さらに,前回の週数を越え,身をもって【週数を重ねることで確かめられる安心】を感じていた。これらの体験が相互に影響しながら妊娠が経過するなかで,不安や恐怖を持ちながらも一層【ありのままのいのちの受け入れ】への意思を強めていた。そして,子どもを亡くした悲しみや苦悩を共有され難いことを痛感しながら,本当に寄り添ってくれる【亡くなった子の存在を共有することができる人の支え】に救われる体験をしていた。

    結 論

    死産や新生児死亡で子どもを亡くした母親の次子妊娠における体験として6つのテーマが導き出された。母親は,大切な子どもを亡くした体験から生命の奇跡や尊さを理解し,【ありのままのいのちの受け入れ】という母親としての生き方を見出して,次子妊娠を通して亡くなった子とともに歩み続けていたと考えられる。看護者には,母親がトラウマを抱えながらも,亡くなった子と次子の母親として成長していく過程に寄り添う姿勢が求められる。

資料
  • 山本 真実, 江藤 宏美, 渡邊 浩子, 松﨑 政代, 小黒 道子, 橋本 麻由美, 片岡 弥恵子
    2023 年 37 巻 1 号 p. 39-48
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/23
    [早期公開] 公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,助産師が行っている避妊教育や相談の実態を明らかにすることである。

    対象と方法

    医療機関,地域, 教育機関で活動している助産師を対象とし,無記名のWeb質問紙調査を行った。調査内容は,避妊に関する個別相談・集団教育の実施(3年以内),対象者,実施場所,実施内容,個別相談・集団教育の実施に際しての促進因子・阻害因子とした。量的データは記述統計量を算出し,質的データは内容分析を行った。

    結 果

    708名の助産師からの回答を得た。避妊に関する個別相談は278名(39.3%),集団教育は274名(38.7%)が3年以内に実施した経験があった。個別相談の対象は,複数回答にて順に出産後入院中の女性155名(55.8%),人工妊娠中絶前後の女性61名(21.9%)であった。実施場所は,病院・クリニック・助産所が206名(74.1%)と最も多かった。集団教育の対象は,出産後入院中の女性107名(39.1%),中学生104名(37.8%),高校生95名(34.7%)であった。実施場所は,学校・大学164名(59.9%)が多かった。実施内容は,個別相談,集団教育ともに,「避妊方法に関する一般的な情報提供」が最も多く,それぞれ246名(88.5%),263名(96.0%)であった。個別相談・集団教育の促進因子は,助産師の知識,スキルの向上が最も多かった。阻害因子としては,パートナーへのアクセス困難,学校での教育内容の制限などがあった。

    結 論

    助産師の避妊相談・教育とも実施率が40%程度であり,避妊教育・相談の実施促進に向けての課題が明らかになった。助産師は,避妊に関する一般的な知識だけでなく,専門職として避妊に関する深い知識と支援スキルを獲得し,女性を支援することが必要である。

  • 青山 さやか, 蟹江 絢子, 片岡 弥恵子
    2023 年 37 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/23
    [早期公開] 公開日: 2023/04/04
    ジャーナル フリー

    目 的

    周産期におけるメンタルヘルスの問題は日本だけでなく諸外国においても公衆衛生の問題と認識されており,支援方法の1つとして認知行動療法がある。本研究では,助産師を対象に認知行動療法(Cognitive behavior therapy:CBT)の基礎知識の習得を目的としたWeb研修を実施し,研修前後でのCBTの知識とCBT実践への自信の変化を明らかとすることを目的とした。

    対象と方法

    研修に参加した助産師に研修前後でWeb調査を実施した。研修内容はCBTの基礎知識とし,調査は参加者の特性,知識テスト,CBT実践への自信で構成した。知識テストは,CBTの基礎知識13項目,周産期メンタルヘルスの知識18項目の合計31項目で構成し,得点範囲は0点から31点であった。CBT実践への自信は,CBTのスキル8項目から成り,リッカートスケール4件法とし得点範囲は8点から32点である。分析には対応のあるt検定を用いた。

    結 果

    22名の助産師から回答があり(回答率55%),研修前後で回答の得られた19名を分析対象とした(有効回答率86.3%)。知識テストの平均得点は研修前25.8点(SD=0.7),研修後が27.1点(SD=0.4)であり,有意な差は認められなかった(p=0.08)。全体の正答率は研修前83.4%であり,研修後87.4%に上昇した。CBTの基礎知識の平均得点は研修前9.7点(SD=2.3),研修後12.0点(SD=0.8)であり,有意差が認められた(p=0.001)。周産期メンタルヘルスの設問18問の平均得点は研修前16.1点(SD=1.4),研修後15.1点(SD=1.7)で差はなかった(p=0.60)。CBT実践への自信の平均値は研修前19.3点(SD=5.2)が研修後23.8(SD=4.0)と上昇し,有意な差が認められた(p=0.01)。CBT実践への自信の項目では,最も上昇した項目はソクラテス式問答法であった。

    結 論

    研修後には,CBTの基礎知識およびCBT実践への自信は上昇していた。今後は,参加者の知識習得状況を踏まえ,CBTの臨床での活用促進を目指して,CBT実践に必要な知識の再検討,CBTのスキルの習得を含めた研修の内容及び方法を模索する必要がある。

  • 五味 麻美, 大田 えりか
    2023 年 37 巻 1 号 p. 59-71
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/23
    [早期公開] 公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    目 的

    ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験を明らかにし,助産ケア向上のための示唆を得ることである。

    対象と方法

    日本で妊娠・出産を経験したムスリム外国人女性3名を研究参加者として,質的記述的研究を実施した。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。

    結 果

    日本で出産することを決めたムスリム外国人女性たちは,日本人やムスリム仲間の評判を頼りに【安全で安心できる出産施設を選択】していた。そして,産育習俗や言語,医療従事者の対応など様々な場面で【母国との違いに戸惑う】経験を重ね,【試行錯誤しながら宗教上の規範を守(る)】っていた。女性たちは新たな生命を宿した重要な時期に,最善の形で自らの信仰を体現することができない現状に対する葛藤と受容を幾度となく繰り返しながら,自分なりの妥協点を見出して折り合いをつけ,【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】するプロセスを辿っていた。そうしたプロセスを経て,母子共に安全に産みたい,宗教上の規範を守りたいといった【ニーズを満たせたことに感謝】する経験をしていた。

    結 論

    本研究により,ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験として【安全で安心できる出産施設を選択】【母国との違いに戸惑う】【試行錯誤しながら宗教上の規範を守る】【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】【ニーズを満たせたことに感謝】の5つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム外国人女性に対する助産ケア向上のためには,専門性を発揮し,エビデンスに基づいた安全で安心できるケアを提供するとともに,ムスリム女性たちが外国人妊産婦に共通する不安や戸惑いに加え,宗教上の葛藤も抱えていることを理解したうえで宗教を含む文化や価値観を尊重し,個別性や多様性に配慮したケアを提供し,肯定的な出産経験に繋げることが必要であるとの示唆を得た。

  • 岸野 桜子, 笹川 恵美, 米澤 かおり, 臼井 由利子, 三砂 ちづる, 春名 めぐみ
    2023 年 37 巻 1 号 p. 72-84
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/23
    [早期公開] 公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は『WHO推奨:ポジティブな出産体験のための分娩期ケア』の推奨項目を基準に,エルサルバドルの産科ケアの実施状況を明らかにし,ケアの実施の有無が,女性のケア満足度に差をもたらすかどうかを検討することである。

    方 法

    2021年5–6月にエルサルバドル国立女性病院に経腟分娩目的で入院した女性に対して実施した,(1)分娩時の直接観察調査と(2)産科ケア満足度調査の結果を用いた二次解析である。双方の調査に参加した女性を分析対象とし,WHOが推奨レベルを示すケア56項目中,22項目のケアの実施状況を示し,Care in Obstetrics: Measure for Testing Satisfaction(COMFORTS)尺度の点数との関連性をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。

    結 果

    計44名の女性が対象となった。産科ケア満足度の合計点の中央値は200点満点中154点だった。産後多量出血のあった女性28名(63.6%)はCOMFORTS下位尺度の「分娩中に受けたケア」の満足度が有意に低く(p=0.046),また,産後に出血予防の子宮収縮薬が投与されなかった女性2名(4.5%)の産科ケア満足度は有意に低かった(p=0.042)。それ以外の項目と産科ケア満足度の間に有意差は見られなかった。なお,推奨するケアのうち,出血予防の子宮収縮薬投与,早期母子接触等のルーチン化されているケア実施率は高く,内診間隔や胎児心音聴取間隔は遵守されていなかった。クリステレル胎児圧出法や新生児の鼻腔口腔吸引等の推奨しないケアも観察された。

    結 論

    産後多量出血となった場合や分娩第3期に子宮収縮薬が投与されなかった場合に産科ケア満足度は低くなっており,女性は適切なケアを受けることができなかったと感じた可能性がある。WHOが推奨するケアが実施されない場合,女性のケア満足度は低くなることが示唆された。

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