日本助産学会誌
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28 巻, 1 号
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総説
  • 遠藤 亜貴子, 堀内 成子
    2014 年 28 巻 1 号 p. 5-15
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,以下の2つである。
    1.予防接種に関する意思決定支援を実施した国内外の文献をレビューし,支援効果を検討する。
    2.Web上で入手可能な,予防接種のための意思決定支援ツール(デシジョンエイド)を,その質の基準も含め紹介する。
    方 法
     目的1については,予防接種の接種決定に際し意思決定支援を行った国内外の文献をキーワード検索し,支援によりアウトカム(接種率,決定の質)が向上したか否かを分析した。目的2に関しては,インターネットでアクセスできる予防接種に特化した意思決定支援ツールの種類と内容を紹介し,それらツールがどのような基準に基づいて開発・評価されているのか,国際的な基準作りの流れも含めて解説した。
    結 果
     文献レビュー:抽出された6文献は,すべて日本以外の先進国で行われた研究であった。そのうち4文献が意思決定支援の介入効果を測るRandomized Controlled Trial(RCT)であった。すべてのRCT研究に接種の有無を測る指標(接種率,接種行動,接種意図等)が含まれていた。ただし,接種に至ったか否かは副次的なアウトカムの位置づけで,むしろ心理的指標(葛藤,不安,満足度,自信等)を主要アウトカムとし,決定の質を測っていた。
     意思決定支援ツールの紹介:予防接種のための代表的な意思決定支援ツール6つは,すべて欧米で開発されたもので,質の国際基準(簡易版IPDAS)チェックリストに照らして評価がなされている。6ツールのうち,すべての評価項目を満たすツールは1つのみであった。
    結 論
     予防接種の決定支援を行った研究は少なく,支援効果も限定的である。支援のタイミングや支援方法の探求,および評価のためのアウトカム指標の検討が必要である。
     意思決定支援ツールの質の標準化を目指す国際基準設定の動きがあり,今後はこの評価基準を念頭に置いてツールの開発や活用を行っていく必要がある。
原著
  • 小野塚 夢乃
    2014 年 28 巻 1 号 p. 16-25
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
    目 的
     子宮収縮不全を主因とする分娩時異常出血(postpartum hemorrhage, 以下PPH)と,heavy for gestational age infant(以下HGA)との関連を疫学的に明らかにすることである。
    対象と方法
     首都圏の総合周産期母子医療センター1施設において後方視的観察研究を行った。対象は2007~2010年に経膣分娩(正期産)で単胎の生児を得た初産の日本人成人女性である。HGA(在胎期間別出生時体格標準値において出生体重が90パーセンタイル値以上の児)を説明変数,PPH(分娩時出血量≧500 ml)およびsevere PPH(SPPH, 分娩時出血量≧1,000 ml)を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,オッズ比(odds ratio: OR)と95%信頼区間(confidence interval: CI)を算出した。
    結 果
     分析対象となった2,340名中,PPHの発生数は593名(25.3%),SPPHの発生数は63名(2.7%)であった。多変量解析の結果,HGAはPPHおよびSPPHとの間に有意な関連を認めた。HGAである場合,PPH発生のadjusted ORは2.34(95% CI 1.71-3.19),SPPH発生のadjusted ORは2.43(95% CI 1.21-4.86)であった。
    結 論
     HGAは子宮収縮不全を主因とするPPHの発生に対する,単独のリスク要因であることが示唆された。これにより,妊娠中からハイリスクの対象を識別できる可能性が示された。
  • 高島 葉子, 塚本 康子, 中島 通子
    2014 年 28 巻 1 号 p. 26-38
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,助産事故により深刻な状況になりながらも助産師に対して信頼感を維持している女性の体験の語りから,どのような「分岐」や思いが存在したのか記述し,看護への示唆を得ることである。
    対象・方法
     助産事故後も助産師と信頼関係を維持できていると認識している女性2名を対象としたライフストーリー研究である。データ収集は,助産所出産を希望した経過とともにどのような助産事故があり,その時の思いや考えを過去から現在に進むかたちで自由に語ってもらった。
    結 果
     A氏は子どもに生命危機が生じた時,怖れと後遺症への不安につきまとわれ,混乱の中で周囲の言動から助産事故と認識し,助産師との向き合い方を探った。
     しかし,自分が助産院を選択した責任と後悔で助産師だけを責めることはできなかった。そして,事故でのかかわりを通して助産師との関係が再構築される過程で,被害者・加害者という関係の終結と助産院再開を切望し,けじめとしての補償を求めた。A氏は助産事故により生命や健康の大切さを再確認するとともに,新しい生き方を見出していた。
     B氏は助産師の態度から胎児が生きている可能性が少ないのではないかと察し,衝撃を受けつつ,同じ医療従事者として助産師を慮っていた。そして,決して逃げない姿勢の助産師を信頼しながら死産を委ねた。グリーフケアで子どもと十分なお別れができたことや,助産師との対話の積み重ねの中で,誰も責められないと心から思うことができた。喪失を乗り越え,新しい生命観と家族を得ていた。
    結 論
     助産事故後も助産師との関係性を維持している女性は,一時的に助産師への信頼感は揺らぐものの,事故発生までに培われた関係性を基盤に誠意を尽くされたと感じることを契機として関係性を維持していた。看護者は,有害事象が発生した場合,信頼関係が崩壊し紛争へと「分岐」するプロセスを認識し,長期的で継続的な視野に立ったケアの提供に努めることが肝要である。
  • 篠崎 克子
    2014 年 28 巻 1 号 p. 39-50
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
    目 的
     助産師を対象に多様な分娩体位の実践の促進或いは阻害影響要因を探索し分析する。
    対象と方法
     研究デザインは,横断的記述デザインである。過去1年間分娩直接介助を行った助産師を対象に質問紙調査を行った。多様な分娩体位の実践助産師の定義は,3種類以上の体位での分娩介助の実践,妊産婦への多様な分娩体位の情報提供,バースプランの活用,という条件全てを満たす者とした。測定用具は,Alternative Labor Position(ALP)尺度と職務満足感を測定するHuman Resource Management チェックリスト(日本労働研究機構,2003)を用いた。分析は共分散構造分析を用いた。
     倫理的配慮は,大学及び該当施設の倫理審査委員会の承認を得た。
    結 果
     回答が得られた387名を分析対象とした。多様な分娩体位の実践助産師は,124名(32.0%),未実践助産師は263名(68.0%)であった。81.1%の助産師が多様な分娩体位の利点と興味深さに肯定的であったが,60.4%が慣例的に砕石位で分娩を行っていた。ここに助産師の意識と実践に乖離があった。普及理論に基づく「革新性」では,イノベーターとアーリー・アダプターを革新派,アーリー・マジョリティ,レイト・マジョリティ,ラガードを保守派に分け,其々の特徴を分析した。その結果,革新派は,産科単科病棟に所属し,ほぼ正常の妊産婦をケアしている者,分娩体位の種類の数及び妊産婦への多様な体位の情報提供が有意に多かった。
     共分散構造分析の結果「多様な分娩体位の実践」の阻害要因は,パス係数が高い順に「変革を好まない考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」であった。促進要因は,「革新性」「専門性が発揮できる産科単科病棟」であった。
    結 論
     「多様な分娩体位の実践」の促進要因は「革新性」「専門性が発揮できる産科単科病棟」であった。阻害要因は「変革を好まない考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」であった。
資料
  • 田中 泉香, 北川 眞理子
    2014 年 28 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
    目 的
     酸化ストレスとは,「生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ,前者に傾き,生体にとって好ましくない状態」と定義されている。現在,酸化ストレスに関する研究は数多くなされており,周産期においても,妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病との関連などの報告がされている。しかし,妊娠期における酸化ストレス度・抗酸化力の程度がどのような推移を示しているのかが,未だに明らかにされていない。本研究では,妊娠期の2時点における酸化ストレス度・抗酸化力を縦断的に解明し,妊娠期における酸化ストレス度・抗酸化力を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     分析対象は,A県にある産婦人科施設に受診した妊婦に対して研究の説明・同意を得たのち,途中辞退をした1名を除く44名であった。試料の採取は,妊婦健康診査によって行われる採血により,妊娠16~18週(以下妊娠期第1回)と妊娠27~29週(以下妊娠期第2回)の計2回実施した。また,同時に妊娠経過の調査を実施した。採取した試料は,Diacron製F.R.E.E.(Free Radical Elective Evaluator)を用いて酸化ストレス度(Reactive Oxygen Metabolites, d-ROMs)と抗酸化力(Biological Antioxidant Potential, BAP)を測定した。
    結 果
     妊娠期における酸化ストレス度・抗酸化力は,妊娠期第1回(妊娠16週0日~18週4日):d-ROMs平均521.2±100.6U.CARR,BAP平均2004.0±342.0μM,妊娠期第2回(妊娠27週1日~29週6日):d-ROMs平均539.1±114.9U.CARR,BAP平均1775.6±310.7μMであった。妊娠期における酸化ストレス度は501U.CARRを超えており,かなり強度の酸化ストレス状態にあった。抗酸化力は,妊娠期第1回はボーダーラインであったが,妊娠期第2回に有意に抗酸化力が不足レベルに下がった(p=0.003)。
    結 論
     本研究結果から,妊娠期における酸化ストレス度はかなり強度の酸化ストレス度,抗酸化力は不足に推移することが明らかとなった。また,一般的に喫煙群,経口避妊薬使用群,肥満群は酸化ストレス度が高く,抗酸化力が低いと言われているが,それらの群と比較しても,妊娠期の酸化ストレス度は高く,抗酸化力は低いことが明らかになった。
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