日本助産学会誌
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24 巻, 1 号
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原著
  • 藤井 美穂子
    2010 年 24 巻 1 号 p. 4-16
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     出産後3か月までの双子の母親が授乳方法を形成するプロセスを明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     理論的基盤としてBlumerのシンボリック相互作用論をおき,Grounded Theory Approachに基づいて研究を行った。双子の出生時に先天性奇形や疾患を有さず,すぐに経口授乳が開始された双子の母親5名を対象に参加観察と半構成的面接法によりデータを収集した。面接は,産褥入院中,子どもの1か月健診時頃,3か月健診時頃の3時点で実施し,Strauss & Corbin(1990/1999)及び才木(2005)の手法を用いて分析を行った。
    結 果
     出産後3か月までの双子の母親の授乳方法を形成するプロセスは[比例授乳の獲得]であった。【比例授乳】とは,ジャン・サーモン・ピクテ(井上,1975)が明文化した「比例」の概念を応用し,本研究で見出した授乳態度であり,《個性を尊重》《平等を尊重》するために《2児の比較》を行っていることに対して《矛盾した思い》を抱きながら,《優先度を考慮》して双子の母親が判断して作り上げる双子特有の授乳態度である。入院中の母親は,助産師に伴走されるような形で授乳を進める【伴走型授乳】を行っていた。退院後は【泣きのプレッシャー】が高まり,さらに【一時的な出来事】に遭遇しながらも【迷いながらの人工乳の補充】や【頻回授乳への対応戦略】によって2児の泣きと戦っていた。母親は,出産後約1か月までは主に体重差を気づかい授乳方法を選択していた。その後,【児の成長】により,体重差への気づかいは減少し,2児を比較して個々の特徴を見ながら児の優先度に応じた授乳を行うようになっていた。そして,【泣きのプレッシャー】は低下し,2児の欲求に応じて主体的に授乳する【主体型授乳】へ変化し,【母乳育児の継続】を行っていた。
    結 論
     出産後3か月までの双子の母親が自分なりの授乳方法を形成するプロセスは,[比例授乳の獲得]であった。保健医療従事者は,このプロセスを理解した上で,双子の母親が,個々の児の特徴がわかるような支援が必要であることが示唆された。
  • 永森 久美子, 土江田 奈留美, 小林 紀子, 中川 有加, 堀内 成子, 片岡 弥恵子, 菱沼 由梨, 清水 彩
    2010 年 24 巻 1 号 p. 17-27
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     母乳育児中および母乳育児の経験がある母親の体験から,混乱や不安を招き,母親の自信を損なうなどといった効果的でなかった保健医療者のかかわりを探索する。
    対象と方法
     研究協力者は都内の看護系大学の母乳育児相談室を利用した母親35人と,第2子以降の出産をひかえた家族ための出産準備クラスに参加した母親5人の計40人であった。データ収集は研究倫理審査委員会の承認を得て,2007年8月~11月に行った。データ収集方法は半構成インタビュー法で,内容は,「授乳や子どもの栄養に関して困ったこと,不安だったことは何か」,「それらの困ったこと・不安だったことにどのように対処したか」などであった。録音されたインタビュー内容を逐語録にしたものをデータとし,母親が受けた支援で,「混乱を招いた」,「不安になった」などというような医療者のかかわりを抽出した。抽出された内容をコード化しサブカテゴリー,カテゴリーに分類した。
    結 果
     母乳育児をしている母親が混乱や不安を招くような保健医療者のかかわりとして,【意向を無視し押し付ける】,【自立するには中途半端なかかわり】,【気持ちに沿わない】,【期待はずれなアドバイス】,【一貫性に乏しい情報提供】の5つのカテゴリーが抽出された。母親は保健医療者から頻回授乳や人工乳の補足を強いられているように感じ,授乳の辛さや不安を受け止められていないと感じていた。その結果,母親は後悔の残る選択をし,授乳に対して劣等感や失敗感を抱いていることがあった。また,母親が自分で判断・対処できるようなかかわりでなかったために,自宅で授乳や搾乳の対応に困難を抱えたままでいることもあった。
    結 論
     母親は母乳育児への希望を持っていたが,保健医療者のかかわりにより混乱や不安を感じていることがあった。保健医療者には,母親の意向を考慮した母親主体の支援,母親が自立していくための支援,母親の気持ちを支える支援,適切な観察とアセスメント能力,一貫性のある根拠に基づいた情報提供が求められていると考えられた。
  • 小林 由希子
    2010 年 24 巻 1 号 p. 28-39
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究は,日本の文化的な習慣として現在も多くの女性が行っている出産前後の里帰りについて,子育て支援および母子関係と母性性の発達の視点から捉え,実際に,産前産後に里帰りを行った女性の主観的経験の「語り」と,里帰り時の実母による援助の分析を通して,里帰りが産後の子育て支援に果たしている役割や機能,および今後の課題について検討することを目的とする。
    対象と方法
     出産前後に里帰りを経験した初産婦10名,経産婦5名の15名について,半構成的面接法の手法を用い,里帰りについて語られた主観的経験の内容を,具体的な実家の援助や状況と併せてデータとして質的に検討した。
    結 果
     現代の里帰りは,従来の里帰り分娩に加えて,産後の実家里帰りや実母の出張援助の形態もあり,その形態は変化していた。15名中10名は「里帰りは当然のこと」と捉えていた。里帰りの最大の機能は,(1)産後の身体的休養,(2)育児不安の解消,そして(3)経験者である自分の母親を師匠とした見習いによる育児を学ぶ,であった。一方,問題点として,プライバシーが保てない,実母の過干渉,里帰り後に実母の援助が途切れることからくる不安があった。また,過去の親子関係の葛藤を想起した者が2名あった。しかし,その葛藤は時間と経験の語りを通して解決され,過去の傷を乗り越え新たな関係構築へと発展した。また,全員がこの里帰りの経験を通して,親子の更なる理解を得ることができた。但し,里帰りの実現は,ほどほどに良い親子関係や居住条件などが前提条件であり,何れの条件に欠陥や不十分さがある場合,適切な個別援助が必要と思われた。
    結 論
     里帰りは,産後の女性の産褥復古支援および育児不安の解消と子育ての態度の形成の場,そして,母子関係の発達の場であった。里帰りは,子育ての伝統と知恵を伝えてきた数千年にも及ぶ人間社会の子育ての場(子育てのニッチ)であった地域社会や拡大家族の崩壊した現代日本社会において,残された最も重要な子育て支援資源である。但し,それが機能するためには,事前の親子間の関係の調整や,里帰り後の心理的援助など,専門家による介入の検討は課題である。
  • 稲田 千晴, 北川 眞理子
    2010 年 24 巻 1 号 p. 40-52
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     産褥期の母乳育児をする母親の母子相互作用の体験を,母親役割の視点から明らかにする。
    研究方法
     母親が母乳育児を希望しており,24時間母子同室を行い,健康な産褥経過をたどっている母子を対象とした。研究への参加同意は自由意思とし,看護水準の維持と個人情報の保護を保障した。データは参加観察法と半構造化面接によって収集し,観察された母子相互作用と半構造化面接によって明らかになった母親の認知を1つのエピソードとし,質的帰納的に分析した。
    結 果
     初産婦5名,経産婦7名の計12組の健康な母子に研究協力が得られた。分娩直後から1ヶ月健診までの対象者への支援への参加観察によって得られた,母乳育児に関する85のエピソードを抽出し,母親の役割認識に基づいて質的に分析し,「子どものニーズの探求行動の抑制」,「効果的な吸啜の工夫」,「子どもへの積極的な接近」,「子どものニーズに応えることと自身の身体的ニーズとの葛藤」,「子どもの特徴を考慮したケアの試行錯誤」,「子どものニーズの確認」,「子どもとの絆の深まり」,「授乳の評価」,「母親役割の再構築」,「子どもへの制限的応答」の10のカテゴリと,25のサブカテゴリを導いた。
    結 論
     本研究における母乳育児に関する母子相互作用において,母親役割を評価するカテゴリが明らかになった。カテゴリの構造,カテゴリ間の関係や,発達の過程については今後,さらなる解明が必要である。
     母乳育児のスキルを獲得する中で母親は役割の獲得,能力の開発を行っている。能力や役割獲得の段階の評価については今後の研究で明らかにする必要性がでてきたが,母乳育児は母親の母親役割獲得のために重要な養育行動であることが明らかになった。
     また,観察される母子相互作用が同じでも,母親役割の異なる行動があることが明らかになり,母子相互作用の量で,母親役割を評価することはできないことが明らかになった。逆に行動の意味づけを導くことによって,容易に母親役割を評価することができることが明らかになった。
  • 渡邊 淳子, 恵美須 文枝
    2010 年 24 巻 1 号 p. 53-64
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,熟練助産師が分娩期において何を手がかりとして判断をしているのかを記述することで熟練助産師の判断の特徴を理解することである。
    対象と方法
     研究デザインは質的記述的研究デザインである。本研究における熟練助産師の定義は,助産師として20年以上の経験を持ち,さらに分娩介助の経験が1,000例以上ある助産師をいう。研究参加者は助産師経験が27年から53年,分娩介助例数が1,000例から3,000例以上をもった4名の助産師である。研究の目的・研究方法等の説明をしたのち,助産師と産婦に研究参加についての承諾を得て実施した。それぞれの助産師が関わった9例の分娩を参加観察し,観察した内容をフィールドノーツに記載しケア場面を抽出した。その抽出したケア場面の判断を中心に半構成的インタビューを実施し,質的に分析した。
    結 果
     分析の結果,熟練助産師が分娩期に行う判断の手がかりとして【手で観る】【からだことばを読む】【進行を見通す】【自然な流れに沿う】【助産観を基盤にする】という5つのカテゴリーとそれぞれに含まれる15のサブカテゴリーが抽出された。以上のカテゴリーから熟練助産師の判断の特徴として『経験知を活かす』『自己の信念に基づく』の2つのテーマが導き出された。
    結 論
     熟練助産師は,経験から導かれた自己の身体を活用した知を活用し,自然分娩に対する自己の信念を持ち判断を行っていた。
資料
  • 荒木 美幸, 中尾 優子, 大石 和代
    2010 年 24 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     継続受け持ち事例の女性にとって学生のどのような関わり(ケア,アドバイス,声かけ,姿勢,態度)が「支え」となったのかを知り,助産師教育の中の継続受け持ち実習の意義を再確認することである。
    対象と方法
     A大学学生の継続受け持ち事例13名,方法は半構成的面接調査方法を用いた。
    結 果
     学生よる「支え」となった関わりの内容は全部で87抽出され,内容別に(1)共感し受けとめる(2)常にいる(3)一生懸命対応する(4)不安や悲しい時のタッチングの4つのカテゴリーに分類された。また,(1)共感し受けとめるは,「共感し受けとめる」「一緒に考える」の2つのサブカテゴリー,(2)常にいるは,「一緒にいる」「気にかける」「声かけ,励まし」の3つのサブカテゴリー,(3)一生懸命対応するは,「誠実でやさしい対応」「努力してくれる」「迅速な対応」の3つサブカテゴリー,(4)不安や悲しい時のタッチングは「手を握る」,「肩をたたく,肩をにぎる」の2つのサブカテゴリーに分類された。
    結 論
     学生は継続受け持ち実習の中で助産師として必要な「そばにいて寄り添う」ケアを行っていた。また学生は事例のニーズにこたえようと「知識とスキル」を提供しようと努力する「姿勢,態度」を学んでいた。よって助産師教育の中で継続受け持ち実習を行う意義はとても大きいと考えられる。
  • 千葉 陽子, MILLAR Neil, BUDGELL Brian
    2010 年 24 巻 1 号 p. 74-83
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     助産学・周産期ケア分野で用いられる言語(英語を母語としない者にとっては「英語」)は今まで量的に分析されておらず,これに関する情報もない。この分野で特に母語が英語でない者にとっての言語学習負担を明らかにするため,本研究では助産学・周産期ケア分野の英語論文のコーパス(総語彙集)を作成し,語彙や文章構造の特徴を分析した。
    方 法
     2005年1月から12月に発行された助産学・周産期ケア分野の英語雑誌の中から主要5誌を選び,これらの中の論文で用いられた英語をもとにコーパスを作成した。そして,一般英語(General English)および保健分野(Public Health)の論文で用いられた英語との比較によりキーワードを抽出した。また頻出熟語を抽出し,読みやすさ尺度を計算した。
    結 果
     助産学・周産期ケア分野で特に重要な英語として,頻出語彙242語を含む3,590語のキーワードと頻出熟語を抽出した。抽出結果より,当該分野の英語論文には母親・子供・ケア提供者間の関わり合い,出産のプロセス,包括的ケアの重要性に関する語句がよく用いられていた。身体の名称や疾病に関する用語の使用はあまり認められなかった。読みやすさ尺度に関するFlesch Reading Ease指数(30.7)より,この分野の英語論文を読むには,平均的に,英語圏の大学卒業者程度の英語能力が必要であることが示唆された。
    結 論
     量的分析によって,助産学・周産期ケア分野の英語論文の中で核となる重要頻出語句を抽出することができた。当該分野の英語は,一般英語とは異なる点があり,保健分野の英語とはより密接に関係し合っていた。量的分析の結果をもとに語句の焦点を絞って学習することで,助産学・周産期ケア分野の英語は比較的習得しやすくなることが示され,一般英語の理解とはまた独立した形で,当該分野の英語をよりスムーズに理解することが可能であると示唆された。今後,本研究で得られた仮説を検証していく必要がある。
  • 青柳 優子
    2010 年 24 巻 1 号 p. 84-95
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     不妊治療後の産婦のケアを行う助産師の不妊に関する意識と不妊治療の許容度を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     全国の不妊治療から分娩までのケアを行う医療施設において,不妊治療後の産婦のケアを行う臨床経験1年以上の助産師を対象とし,自己記入式質問紙調査を実施した。測定用具は,作成した質問紙「不妊に関する意識」,「不妊治療の許容度」及び「背景」である。因子分析を行い「不妊に関する意識(18項目)」から2因子〔子を産まない人生の受容〕〔子をもつこと,治療を奨励〕を抽出した。クロンバックα係数は2因子共.665であった。「不妊治療の許容度(20項目)」からは4因子〔一般に第三者の関わる治療を承認〕〔自分は第三者の関わる治療を受容〕〔自分は配偶者間の治療を受容〕〔一般に配偶者間の治療を承認〕を抽出した。クロンバックα係数は.858~.947であった。有効回答449部を分析の対象とした。
    結 果
     助産師の「不妊に関する意識」では,2因子のうち〔子をもつこと,治療を奨励〕よりも〔子を産まない人生の受容〕の得点が有意に高かった(p<.01)。この意識は不妊看護の経験も自己の不妊経験もない助産師により強く見られた。また「不妊治療の許容度」は,すべての因子間の得点において有意差があった(p<.05)。助産師は第三者の関わる治療よりも配偶者間の治療を許容し,配偶者間においては自然な生殖により近い不妊治療を許容する傾向が見られた。また,〔子をもつこと,治療を奨励〕する助産師は配偶者間の治療を許容していた。
    結 論
     助産師は,第三者の関わる不妊治療に対して自分が利用するか否かだけでなく,一般論としても許容度が低い点で国民や不妊の当事者と異なっていた。また助産師の背景の内,不妊看護の経験及び自己の不妊経験の有無によって,子を産まない人生を受容する意識に差があった。
  • 濱 耕子
    2010 年 24 巻 1 号 p. 96-107
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究は,妊婦におけるQOLの変化とこれに関連する因子を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     妊婦一般健康診査を受診した正常な妊娠経過を辿る日本人女性159名を対象に,妊娠初期の12~15週,中期の28~29週,末期の38~39週のQOLの変化と,妊婦の就業や家庭環境,サポート面などの社会的な背景や,出産経験や計画的妊娠の有無,妊娠中の生活への影響要因との関連についてSF-36の8つの下位尺度を用い,反復測定分散分析を行った。
    結 果
     「身体機能」は妊娠初期,中期,末期において漸減し,「日常役割機能(身体)」,「体の痛み」,「活力」,「社会生活機能」のQOL得点は,妊娠末期において有意に低下していた(p<0.05)。
     妊娠各期のQOL得点の低下には妊婦の持つ背景との関連が認められており,就業者の妊娠初期の「活力」は低下し,妊娠中の家事手伝いや相談等のサポートを実母より受けていない者における妊娠末期の「身体機能」,「日常役割機能(身体)」,「社会生活機能」は低下していた。出産経験や妊娠の計画性のあった者には,妊娠初期または末期に「体の痛み」,「活力」,「社会生活機能」の低下が見られた。妊娠中の生活への影響要因との関連については,体調不良を経験した者,情緒不安を経験した者,容姿・体重などの身体の変化に関する心配を経験した者,生まれてくる子どもの健康に関して心配した者は,妊娠期のいずれかで「身体機能」,「日常役割機能(身体)」,「体の痛み」,「活力」,「日常役割機能(精神)」,「心の健康」の低下が見られた。
    結 論
     妊娠の経過に伴い,妊婦のQOLは主に身体健康側面で低下していたことが明らかとなった。また,QOLの低下には出産経験やサポート,妊娠中の生活への影響など,妊婦の持つ様々な背景の因子が関連していた。妊婦のQOLを高める方策として,妊婦のQOL低下とこれに関連した因子について配慮することが,妊娠各期を通じて重要になると示唆された。
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