目 的 本研究の目的は,産褥期における母体の酸化ストレス度と抗酸化力および,母乳の総抗酸化能について基礎的データを得るとともに,母乳の総抗酸化能と母体の酸化ストレス度,抗酸化力との関係や,周産期データとの関連性を検討することである。
対象と方法 A県内の産院にて経腟分娩した褥婦50名を対象とした。調査期間は2011年1月から9月であった。血液は産褥0~2日と4~5日,産褥1か月の3時点で,母乳は産後4~5日と産褥1か月の2時点で縦断的に採取した。採取した検体は,72時間以内にF.R.E.E.(Free Radical Elective Evaluator,Diacron社製)を用いて,血漿の酸化ストレス度(d-ROMs)と抗酸化力(BAP)および,母乳の総抗酸化能(OXY Adsorbent)を測定した。
結 果 産褥1か月の酸化ストレス度は393.2±71.9 U.CARRであり,産褥0~2日と産褥4~5日と比較して有意に低下した(
p<.001)。抗酸化力は産褥日数が経過するにつれて有意に上昇し(
p<.001),産褥1か月は2288.8±252.1μmol/Lであった。酸化ストレス度と抗酸化力の変化率の間には,有意な正の相関が認められた(産褥4~5日—産褥0~2日:
r=.467,
p<.01,産褥1か月—産褥4~5日:
r=.337,
p<.05)。産褥1か月の母乳の総抗酸化能は,産褥4~5日と比較して有意に低値であった(
p<.001)。母乳の総抗酸化能と,酸化ストレス度および抗酸化力の間には相関は認められなかったが,産褥4~5日の母乳の総抗酸化能の高値群(
n=23)では母体の抗酸化力と正の相関があった(
p<.01)。
結 論 産褥期の酸化ストレス度は,産褥1か月には低下するものの依然として基準値より高値であった。抗酸化力は,産褥1か月には基準値まで上昇することが明らかとなった。また,母乳の総抗酸化能の高値群では母体の抗酸化力との関連性が示唆された。酸化ストレス状態の評価は,産褥期の健康管理の指標の一つとして有用性があると考えられた。
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