日本評価研究
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20 巻, 2 号
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特集:「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)」の現状と課題
  • 佐々木 亮, 正木 朋也
    2020 年 20 巻 2 号 p. 1-2
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー
  • 正木 朋也, 津谷 喜一郎
    2020 年 20 巻 2 号 p. 3-18
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     日本では2010年代後半以降、公的セクターでの「エビデンスに基づく政策立案」(evidence-based policy making: EBPM)の方針が出された。医学領域では1996年にランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)論文の質向上のためのCONSORT声明が開発された。報告ガイドラインの嚆矢となる。その第3版の全25項目からなるCONSORT 2010は16カ国語に翻訳され世界で広く使われている。また、観察研究(断面研究、後向き研究、前向き研究)やシステマティック・レビューなど基本的な研究デザインについて、さらにその拡張版としてクラスターランダム化や非薬物系などの種々の報告ガイドラインが開発され、その総数は400件を超す。これから研究計画を作成しようとする者にとり利用価値の高い、種々の報告ガイドラインをカバーするEQUATOR Networkが2008年に設立され広く用いられている。EBPMに報告ガイドラインを使う事はそれなりの実現可能性をもつ。

  • -医療の経験からの示唆-
    田辺 智子
    2020 年 20 巻 2 号 p. 19-31
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     EBPMの起源は「エビデンスに基づく医療(EBM)」にあるとされる。医療では政策立案と異なる理想的な状況下でエビデンスの創出や利用が可能だと思われがちであるが、実は医療においてもエビデンスのみに基づいて意思決定ができるわけではなく、またエビデンスと現実の診療にギャップがあることが課題とされてきた。本稿では、医療におけるエビデンス活用の経験を概観し、EBPM推進に当たって参考となる知見を抽出した。その結果、①EBMではエビデンスとは医療行為の有効性評価だと理解されていること、②エビデンスは社会全体で蓄積し共有すべきであること、③エビデンスの伝達が重要であること、④エビデンスは意思決定に用いられる情報の一つに過ぎないこと、⑤エビデンスは必ずしも容易に普及するわけではないこと、⑥厳密な有効性評価と業績測定を適切に併用すべきこと、⑦政府にはEBPMのインフラ整備が求められること、の七点の示唆が得られた。

  • -Evidence-Basedが先行する分野から何を学び何を乗り越える必要があるのか-
    小林 庸平
    2020 年 20 巻 2 号 p. 33-48
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     日本においても、エビデンスに基づく政策形成(EBPM)が進められている。本稿では、Evidence-Basedに関する議論を概観したうえで、日本のEBPMの現状を整理するとともに、その評価を行う。日本のEBPMは事前分析やロジックモデルの作成に重点が置かれており、EBPMの本来的な意味からの逸脱がみられる。次に、Evidence-Basedが先行する医療等の分野との比較を行う。具体的には、問いの設定、エビデンスの創出、エビデンスの活用という3つの観点から、医療等の先行分野と政策の比較を行う。比較分析を踏まえて、EBPMをどのように捉えどのように進めていくことが望ましいかを検討する。具体的には、問いの設定の重要性や、エビデンスの範囲、つくる・つたえる・つかうのウエイト、エビデンスに対する需要創出の重要性等を指摘する。

  • -現状と課題-
    砂山 裕
    2020 年 20 巻 2 号 p. 49-64
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     日本国政府でEBPMの取組が進められる中、国の行政機関の実際の政策を対象としたEBPMの実例を創出し、発信・共有・蓄積していくことが一層重要となっている。そこで、EBPMのリーディングケースの提示を目指し、国の政策を対象として、総務省、関係府省及び学識経験者による政策効果の把握・分析手法の実証的共同研究が行われた結果、「EBPM的要素」として日本の行政運営上有用と考えられる項目がいくつか見出されつつある。また、総務省が行う行政評価局調査の中でも、エビデンスを捉えるため各種のデータ分析手法が取り入れられてきており、個別府省の取組と相まって、政府全体でEBPMの推進が図られている。今後は、EBPMの普及・定着に向け、安定した制度的基盤の整備が必要であり、政策評価制度がその有力な選択肢の一つと考えられる。

  • 西畑 宏治
    2020 年 20 巻 2 号 p. 65-76
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     近年、地方自治体においても「EBPM」を進める動きが見られるようになった。今後もこうした動きが地方自治体の中で広まるものと考えられるが、その内容が各地方自治体による散発的なエビデンスの創出に留まることなく、各地方自治体において仕組みとして組織に定着が図られることが必要であると考える。そこで、EBPMの組織への定着に向けて、EBPMが要請する行動様式を地方自治体の行政運営に適用しようとした場合、地方自治体のどこに課題が生じ、それを解決するためにどのようなことを検討する必要があるのか、また、どのような解決策が考えられるのかを明らかにしたい。その際、組織への定着に着目した動きを進めている広島県の取組も参考にする。

  • 森 俊郎, 岡崎 善弘
    2020 年 20 巻 2 号 p. 77-88
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     エビデンスの活用は教育分野にも広がっており、2000年頃から教育のエビデンスを仲介する機関が諸外国で設立され始めた。本稿は、諸外国のエビデンス仲介機関の特徴について調査した。3つのエビデンス仲介機関(WWC、EEF、CUREE)の各特徴を調査した結果、WWCとEEFは研究を評価する基準を厳密に定めており、WWCはランダム化比較試験を主に集約している一方で、EEFはシステマティックレビューおよびメタアナリシスを主に集約していた。また、エビデンスの頑健性や介入効果を示す枠組みも異なっていた。さらに、WWCとEEFは研究の要約を主に作成しており、CUREEはエビデンスの活用に関する支援に主に取り組んでいた。最後に、教育分野のEBPMの観点からエビデンス仲介機関の在り方について考察した。

  • 佐々木 亮
    2020 年 20 巻 2 号 p. 89-103
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     国際開発分野における「エビデンスに基づく政策立案」(EBPM: Evidence-Based Policy Making)の実践として、インパクト評価(Impact Evaluation)が広く普及している。そこで使われているデザインは最も厳格なデザインであるランダム化比較試験(RCT)である。本稿ではインパクト評価を推進して、評価結果のデータベースを構築して公開している新興の3つの非営利の研究機関について比較して議論する。それらは、貧困アクションラボ(J-PAL:The Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab)、IPA(Innovations for Poverty Action)、3ie(International Initiative for Impact Evaluation)である。さらに、伝統的な援助機関(世界銀行、アメリカ国際開発庁(USAID)、イギリス国際開発局(DFID)、日本の国際協力機構(JICA))におけるインパクト評価の現状について概観する。最後に今後の課題について記す。それらは次の通り。(1)50年の時を経て実現に向かう「実験する社会」と今後の課題、(2)「プロジェクト・アイランド」とインパクト評価の対象レベルに関する生来的な問題、(3)業績測定(パフォーマンス・メジャーメント)と評価の混同に起因する問題、(4)NGOsとの協働による介入実施とデータ収集の可能性、(5)IT業界のバックアップによるEBPMの普及と今後の課題である。

研究論文
  • 村上 裕一
    2020 年 20 巻 2 号 p. 105-119
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では、筆者らが2016年から2017年にかけて実施した地方創生アンケートの結果を、「平成の大合併」における合併・非合併自治体の異同に注目して分析した。これは、実地調査の成果を踏まえ、フランスとの比較も織り交ぜながら、「平成の大合併」と地方創生の政策手段・プロセスとしての市町村合併・連携を評価し、その条件や効果、自治体の思考様式の理論構築を試みるものである。その結果、非合併自治体は、地方創生によっても広域連携を促されることはあまりなかったのに対し、近隣自治体よりも域内外産業との連携を志向しがちであることが明らかになった。合併自治体は、合併により自治体職員の専門性を十分向上させたとは言い切れず、意思決定が役所内で完結しがちであることから住民参加にも消極的になっている可能性がある。とはいえ非合併自治体と比べると、合併により隣接自治体との調整なく独自で域外、さらには国に対し積極的な行動を起こせることが明らかになった。

実践・調査報告
  • -学習・改善目的中心の評価-
    田中 博
    2020 年 20 巻 2 号 p. 121-136
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

     MSC(Most Significant Change)は、欧米のNGOが活用する参加型・質的評価手法であり、学習・改善目的の評価に適しているが、日本国内での活用例は少ない。本稿では、震災復興、教育、福祉と国内社会セクターにおいて実施されたMSC評価3事例を比較検討し、国内でMSCを有効活用するための参考情報を提示する。事例研究の結果、トレーナー、コーチとしての評価専門家の存在、評価目的を手法の特色に合わせて設定する、現場視点のデータ収集、データ分析の妥当性を高める工夫の必要性など、活用上の重要項目が明らかになった。また比較的容易に内在化が可能であるという、他の参加型評価手法との違いが認められた。今後国内社会セクター事業でのMSC活用が期待されるが、指導する専門家の不足や、適切なフィードバックのあり方を模索するべきという課題がある。

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