家族社会学研究
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28 巻, 1 号
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巻頭エッセイ
特集 人口減少社会における家族と地域のゆくえ
  • 松田 茂樹, 大和 礼子
    原稿種別: 特集 人口減少社会における家族と地域のゆくえ
    2016 年 28 巻 1 号 p. 7-10
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/08/26
    ジャーナル フリー
    人口減少社会を迎えて,家族社会学には家族や社会の現状と課題を解明し,その解決策を提示する役割が期待されている.このシンポジウムでは,次の3点について報告と議論を行った.第一は,出生力が長期間低下してきた理由とそこにみられる家族の再生産の変容についてである.第二は,出生率を回復させて人口減少傾向を反転させるために求められる対策の視点である.第三は,家族が安心して生活を営んでいくための行政機能や地域福祉の現状と課題についてである.シンポジウムでは3つの報告とこれに対する討論が行われ,人口減少社会に向けて,①「結婚しない・産まない自由」とともに「結婚する・産む自由」も社会が保障することの必要性,②子育てに関する価値観の醸成や中等教育修了者の地元での就業機会の拡大,③子育てや介護について行政,民間企業,地域社会,NPOなどの多様な担い手が連携することの必要性,などの提言がなされた.
  • 原 俊彦
    原稿種別: 特集 人口減少社会における家族と地域のゆくえ
    2016 年 28 巻 1 号 p. 11-25
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/08/26
    ジャーナル フリー
    地域社会が直面する急速な高齢化や人口減少は,多産多死から少産少死へと向かう,日本全体の人口転換の歴史的な流れに沿ったものであるが,危機の本質は1970年代後半以降,出生力が置換水準以下となり,さらに人口移動の効果が加わることにある.日本の人口転換では再生産期間の生残率の上昇により高まる多産・多子のリスクに対し,より少なく産むことで母子ともに健康で豊かな生活を求める「家族の再生産戦略」が取られたが,下限の2子に達した1970年代後半からは家族形成のタイミングがシフトし始め,高学歴・良い職場・良いパートナーを獲得する競争が始まり,あえて生涯未婚,無子・1子となるリスクも選択されるようになった.このため就業機会の有無や大学進学率の高低などが作用し大都市と地方の間には結婚・出生力に格差が生じたが,格差はすでに小さくなり,地方の再生産年齢人口の純移動をプラスに転じる以外に「地方創生」の道はないといえる.
  • 中村 真由美
    原稿種別: 特集 人口減少社会における家族と地域のゆくえ
    2016 年 28 巻 1 号 p. 26-42
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/08/26
    ジャーナル フリー
    出生率の地域差の原因とされる社会経済的要因は富山県と福井県で似ているが,出生率には違いがある.そのため,個票データ等を用いてその理由を探索的に検証した.福井県では祖父母からの子育て支援の多さ,地域の子育てのしやすさ,地域の経済展望の明るさが突出していた.祖父母の子育て支援の規定要因を検証すると,居住状況や妻の就労状況以外に,祖父母の価値観が影響していた.地域の子育てのしやすさの規定要因の分析では,居住状況,価値観に加えて,子どもの世話をする人の数や,地域の経済展望が影響していた.地域の経済展望は地方税収と強い相関があり,福井県の明るい経済展望は原発と関連産業による潤沢な地方税収に支えられていた.最後に,女性の初婚年齢の規定要因として,大学等進学率よりも高校卒業時の就職率が重要であることを示した.富山県では,高校卒業時の女子の就職率が低いことが,女性の初婚年齢の遅さにつながっている.
  • 沼尾 波子
    原稿種別: 特集 人口減少社会における家族と地域のゆくえ
    2016 年 28 巻 1 号 p. 43-55
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/08/26
    ジャーナル フリー
    人口減少・高齢化が進むと同時に,家族の機能と役割が変わりつつある日本では,子育てや介護などの対人社会サービスの確保が課題となっている.国や自治体は,保育所の整備や児童手当制度の拡充,在宅介護に向けた地域包括ケアシステムの構築を進めているが,自治体が限られた職員と財源の下で対応を図るには限界もある.子育てや介護などの機能と役割を公共部門に求めるのであれば,公的負担に対する国民の理解と協力が必要だが,負担増に対する理解を得ることが難しい.
    これに対し,地域の多様な担い手との連携や,民営化による対応を図る動きが進められている.だがその取組みには地域差があり,普遍性を持つものではない.政府による財源確保と,国から地方への安定的な財源保障に加えて,地域における行政と住民との信頼関係構築が課題である.
  • 廣嶋 清志
    原稿種別: 特集 人口減少社会における家族と地域のゆくえ
    2016 年 28 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/08/26
    ジャーナル フリー
特別寄稿
  • 染谷 俶子
    原稿種別: 特別寄稿
    2016 年 28 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/08/26
    ジャーナル フリー
    欧米より経済発展の遅れたアジア諸国では,現在も親孝行意識が強く存在している.その背景には,家族主義,宗教の影響が強いこと,また社会保障制度の発展が遅れたことがある.しかし近年のアジア諸国の少子化は著しく,子世代が老親扶養を担うことに困難が生じている.
    発展の続くアジア主要都市において,老親への生活支援,介護の役割を主に担ってきた女性に注目し,女子大学生の老親扶養意識,母親からの期待,また自分の老後に関し,2011~2012年度にアンケート調査を実施した.対象はソウル,クワラルンプール,香港,南京,シンガポール,東京の6都市の大学である.調査結果については,2014年9月に東京女子大学で開催された第24回日本家族社会学会大会の国際セッションで報告したが,本稿はこの調査結果と報告全体をまとめ,さらに考察を加えたものである.
    調査から,1.大多数の母親たちは,息子より娘に老後支援の期待が強い.2.東京以外の大多数の女子大学生は,就職後毎月親へ仕送りを予定している.3.東京とソウル以外の女子大学生は,「どんなことをしても親を養う」という意識が強い.4.日本以外は,外国人家事援助者が高齢者介護の重要な役割を担い,シンガポールでは政策の一環とされている.5.またアジア諸国にも,社会的価値観に基づく福祉国家の類型が見られた.
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