土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
特集号: 土木学会論文集
80 巻, 24 号
特集号(安全問題)
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
特集号(安全問題)論文
  • 福田 勝仁, 郷右近 英臣, 池田 満
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24001
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
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     東北地方沿岸部は,東日本大震災の津波により大規模な被害を受け,居住地を高台移転する大規模な事業となった.しかし,この事業においては多くの人的資源を必要とする.また,同時期に他地域でも同規模の事業が計画されていた.そのため,人的資源不足,工事の長期化,それに伴う人口流出が懸念された.この状況下で,宮城県女川町の震災復興事業では他地域に比べて早期に復旧完了を実現している.この事業の工事担当者がどのような意思決定を行い早期完了を実現したのかを知ることは,今後の復旧・復興には重要な知見である.本研究では復旧工事に従事した工事担当者へのインタビュー調査を行い,帰納的アプローチに基づいて調査結果をカテゴリに分類し,ツリー構造とすることで意思決定プロセスを可視化し,新たな意思決定支援モデルを開発した.

  • 陳 俊宇, 広兼 道幸
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24002
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     建設工事事故において,様々な形で発生する事故の中で,墜落・転落が最も大きな割合を占めているのが現状である.そこで本研究では,バランスのとれた普通の歩行状態,および,アンバランスな歩行状態における足底圧力の変化を足底圧力センサを用いて計測して,計測した足底圧力データから歩行時のバランス状態を識別することを試みた.具体的には,3種類の歩行条件での直線歩行時の足底圧力データを,歩行周期における特徴ベクトルに変換する方法を提案した.さらに,変換した特徴ベクトルに対してKNNモデルを使用して,3種類の歩行条件を識別する方法を提案した.提案した方法による識別結果より,バランスの取れた通常の歩行とアンバランスな重りをつけた歩行においては高い精度(90~100%)で識別できることがわかった.

  • 原田 紹臣, 武井 千雅子
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24003
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     近年,気候変動等に伴う集中豪雨による被害や影響が報告されており,適切な気象情報の共有化は重要であると考えられる.その際,国土強靱化に向けた道路交通分野におけるこれらへの対応は重要な技術的課題である.一方,仮想空間などを活用したデジタル技術によるDX推進が期待されている.本研究では,デジタル技術を活用した安全で円滑な交通流確保に向けて,車両運転者等への気象情報の提供に関して,気象庁で定義された降雨強度の理解について被験者へのアンケートヒアリングを通じた検証により考察した.さらに,降雨等の環境条件の違いが車両運転者に対して与える影響に関して,道路設計時に構築されたBIM/CIMモデルを有効に活用した走行シミュレーションにより検証し,今後の降雨時における走行(運転可能速度)への影響について考察した.BIM/CIMを用いたVRでの検討結果によると,降雨やその他の運転環境条件の違いを考慮した更なる議論の重要性が示唆された.

  • 戸塚 夏萌, 後藤 浩, 前野 賀彦
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24004
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     わが国の「ものづくり」は都市部に散在する中小の町工場群によるところが大きい.しかしながら,近年,中小町工場は,経営者の高齢化などの影響により,休・廃業が散見される.休廃業した工場跡地は,単身者向けマンションを中心とした住宅地に供される場合があり,その結果,住工混在の問題も現出している.そして,奇しくも住工混在エリアは,低地帯に存在することが多く浸水の懸念もある.ものづくりの地域特性を維持しつつ,災害に強く持続発展可能なまちづくりの手法を検討することは工学的に意義がある.本研究では,中小の町工場の活性化,住工混在問題,激甚化する水害への対策を考慮し,都市計画手法である土地区画整理事業による問題解決の手法を提案した.そして,東京都大田区エリアを対象として,その手法を適用し妥当性を検討した.

  • 友時 照俊, 井面 仁志, 高橋 亨輔
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24005
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     20世紀の生産現場では,生産性・品質・安全・信頼性の順に管理が分断化されてきた.その結果,今日では,安全は安全管理だけでは守れなくなってきており,それらを統合した管理が必要であるとするHollnagelは,安全は分析ではなく創出するものとして“Synesis(統合)”を提唱した.筆者らはFRAMを用いた安全管理手法を提案してきたが,近年の建設業の災害は安全管理だけでは防止できない事象が発生している.品質・原価・工程・安全に対する信頼性が保たれ,それにより生産性を確保し安全を得るために,それらを統合した管理が必要となる.本研究ではFRAMにおける変動の影響の把握に,品質・原価・工程・安全面での評価を用いたリスクアセスメントを例示した.この方法により安全に影響を与えるリスクがより把握し易くなる.

  • 大西 晶, 湯浅 恭史, 上月 康則, 松重 摩耶, 山中 亮一
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24006
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     令和2年7月豪雨により熊本県人吉市では大規模な浸水被害が発生し,全世帯の約19.2%が何らかの住宅被害を受けた.また避難所における新型コロナウイルス感染症の拡大が懸念され,避難所の量的確保が必要となったことから被災者(要配慮者)を対象とした宿泊施設としての活用が求められた.しかし人吉市内の宿泊施設の多くが被災したことや被災しなかった宿泊施設も受け入れ可能な施設は2施設のみとなったことから熊本県及び人吉市は営業を停止していた計4つの宿泊施設に公費による応急補修を施し,避難所として被災者を受け入れることを試みた.本研究では,応急補修関連事業の全体像を把握し,行政機関,宿泊施設,被災者の視点から利点や課題を整理した結果,被災者による宿泊施設の利用数は見込みより低い結果となったが,避難者に対して良好な避難環境を提供できたことや宿泊施設が応急補修と被災者の受入れにより早期の事業再建と事業の継続に結び付くという副次的な効果を得ていたことが明らかとなった.宿泊施設が災害時において事業を再建・再建できることは,長期的な視点においてその地域の復興にもつながり,宿泊施設を避難所として活用することに関する理解や周知活動が重要であることが示唆された.

  • 西村 実穂, 中野 晋
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24007
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,令和5年梅雨前線による大雨及び台風2号により被災した茨城県取手市の認定こども園を事例として,認定こども園における保育継続計画策定時の留意点を整理することを目的として周辺地域の内外水氾濫解析および被災園,自治体保育担当課,受け入れ先となった幼稚園・保育所を対象とした保育継続に関するインタビュー調査を実施した.内外水氾濫解析の結果,I-1園の浸水過程の特徴が明らかになり,早期の避難の必要性と避難が長時間に及ぶ場合の備えの必要性があることが示された.被災園は,代替施設を確保して3ヶ所での分散保育を行っていたが,代替施設確保が課題となっており,子どもの受け入れを可能とする代替施設を用意できるよう地域内での連携体制づくりが求められる.

  • 西出 俊亮, 西川 隼人
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24008
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,福井平野を流れる九頭竜川,日野川を対象に,福井平野東縁断層帯に起因する大規模地震の想定結果をもとに,液状化による河川堤防被害を予測するとともに,堤防被害が外水氾濫に及ぼす影響を検討した.河川堤防周辺のボーリング地点を対象に,想定地震動に対する堤防沈下量を計算したところ,沈下量は最大で3.68mとなった.続いて,河川堤防の沈下前と沈下後に対して,氾濫計算ソフトを用いて外水氾濫解析を実施し,堤防の沈下の有無による浸水範囲や浸水深の時系列変化の違いを比較することで,河川堤防被害の外水氾濫への影響を調べた.

  • 橋本 操, 小池 則満, 佐藤 野々花
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24009
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,木曽川周辺地域である愛知県一宮市起地区および朝日地区を事例に,災害伝承が地域住民の災害意識や災害への備えに与える影響や課題について明らかにした.本研究により,伝承のみが残っている朝日地区に比べ,災害伝承に関わる自然災害伝承碑が残っている起地区の方が,災害伝承が認知されており,災害に対する意識が高くなるという有意な差がみられた.一方,自然災害伝承碑の有無に関わらず,地域住民の災害への備えは十分に実施されているとは言えなかった.災害伝承の継承方法は,学校での防災教育における地域住民の期待が高いことも示された.災害伝承は,地域の災害の歴史を知る動機付けとして有効であり,災害のメカニズムや対策と併用した活用が求められる.

  • 成 基昌, 野村 泰稔, 高田 守康, 花坂 弘之, 永井 利幸, 戸部 浩, 吉田 美由紀
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24010
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     凍結防止剤散布出動タイミングの適正化を目的として,道路管理者が重点的に監視している道路上のIoTセンサから得られるデータと,日々公表される防災気象情報データを組み合わせて,翌日26時間分の路面温度を予測する学習モデルの精度向上を目指す.全結合型・再帰型のニューラルネットワークを構築し,路面温度の予測精度を確認する.また,アンサンブル学習の効果を確認する.結果,気温と風速は路面温度の予測に影響を与えることが分かり,全結合型ニューラルネットワークでは,路面温度・気温・風速・防災気象情報の組み合わせの入力が,最も誤差の小さい予測となった.再帰型ニューラルネットワークでは,GRUを用いた時に最も誤差の小さい予測を行えた.両方のモデルの平均をとることで,予測精度向上に期待できることが分かった.

  • 高木 蓮, 佐藤 史弥, 秦 康範
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24011
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,山梨県西部を南流する釜無川を対象に,浸水の起こりやすさを考慮した水害リスク評価手法を提案することを目的とした.その為に、洪水浸水想定区域図の作成に用いられる破堤地点毎の氾濫シミュレーションデータからメッシュ単位で浸水区分毎の浸水回数を集計した.また洪水被害による建物被害額の期待値を指標としたリスク評価手法を構築し,対象地域の水害リスク評価を実施した.最後に構築した水害リスク評価手法を釜無川に適用し,釜無川の洪水浸水想定区域内における水害リスクの経年変化を分析した.分析の結果,対象地域での浸水頻度の違いを可視化し,期待値の考え方を用いることにより,浸水頻度の違いによるリスクの差を表現できることを確認した.また,対象地域では2000年から2005年の間に浸水頻度の高い土地で開発がおこなわれた可能性があることを明らかにした.

  • 竹之内 健介, 亀井 春希
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24012
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     気候変動による災害の激甚化が危惧される中,河川の氾濫時における広域避難の議論が進められている.本研究では,広域避難の必要性が指摘されている大阪府摂津市の住民を対象に実施した広域避難ワークショップを通して,広域避難に対する住民の意識変容に効果的な要素を分析した.(1)事前意識(情報確認前),(2)リスク情報(情報内容確認),(3)事後意識(情報確認後)の3ステップで検討する「広域避難カルテ」を作成し,このカルテを利用しながら,参加者にとって適当な広域避難を検討した.広域避難カルテおよびアンケート調査の結果から,広域避難カルテを通して,自身のこれまでの考えと正しい情報を確認し比較する作業が早期の広域避難に対する意識を醸成すること,また時間的要素は広域避難に対する住民の意識変容に効果的であることが確認された.

  • 櫻井 祥之
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24013
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     2014年に創設された立地適正化計画の下, 都市のコンパクト化が推進される中, 近年では防災との連携の必要性が唱えられ, 中でも大きな被害が懸念される津波災害との連携が重要視されている. そして最近では, 和歌山県内等の自治体において事前復興計画の策定が進み, 被災後の復旧・復興に向けた取り組みが進んでいる. しかし, 住民の生命と財産を守り, 迅速に復旧・復興を行うためには, 居住移転による安全な市街地の形成を, 事前に進めておく必要がある. そこで本研究は, 将来にわたり居住・都市機能の維持が可能で安全な市街地の形成に向け, 津波浸水被害リスクを考慮した市街地集約について検証し, 事前復興計画や立地適正化計画における津波対策に示唆を与えることを目的とする.

  • 中村 栄治, 小池 則満
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24014
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     大都市中心部での歩道を使った徒歩避難において,群集の流動形態や避難経路の環境条件の違う場合において,群集事故のリスクレベルをシミュレーションにより推定した.離散値であるリスクレベルを改良して連続値であるリスクレベルインデックスという新たな指標を提案することにより,異なる流動形態と環境条件における群集のリスクレベルを比較することができた.対向流と交差流そして交錯流は一方向流に比べて,リスクレベルインデックスが低い状況でも,突然の滞留により群集の通行が停止する危険な状態が発生することがわかった.

  • 王 天陽, 広兼 道幸, 谷 麗奈, 倉本 和正
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24015
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     国土交通省では,傾斜度が30度以上の崩壊するおそれのある急傾斜地で多くの居住者に被害のおそれのあるもの,また崩壊が助長・誘発されるおそれがないよう一定の行為制限の必要がある土地の区域を急傾斜地警戒区域と指定している. 指定のための基礎調査を行うには膨大な労力とコストがかかるため, 効率化や自動化が期待されている. 本研究ではコスト縮減と作業の効率化を目的に深層学習の手法を用いた急傾斜地警戒区域の抽出を試みた. 手法は, 深層学習による画像セグメンテーションの代表的なU-Netをベースにモデルを構築し, 急傾斜地警戒区域と数値標高データを学習させた. モデルには過学習を防ぐためにDropout層を追加した. 任意の画像サイズに分割したデータでは, 標準化の前処理を加え, 精度は80%まで向上した.

  • 宇野 宏司, 山本 亮介
    2024 年 80 巻 24 号 論文ID: 24-24016
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     水道事業は生活に欠かせないライフライン事業であり,安全な水の安定供給を維持していく持続性が確保されなければならない.そのためには災害時の早期復旧が必要であり,BCP(事業継続計画)等の事前対策の推進が不可欠である.本研究では,兵庫県における水道事業に着目し,特に安全な水を日々供給している浄水場に焦点を当て,アンケート調査やGISによる空間情報解析の結果から今後の自然災害が浄水場にもたらす影響と課題や水道事業のBCPの必要性,自然災害の被災リスクについて検討した.アンケート調査から,約半数の浄水場で対策が進められていない現状が明らかになり,そのが進まないボトルネックとなる主な事項は,職員不足とコスト面の予算確保であることがわかった.一方,空間情報解析の結果からは,各種自然災害で被災する危険性のある浄水場は兵庫県全域の約2割にとどまることが明らかとなった.

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