土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
特集号: 土木学会論文集
79 巻, 20 号
特集号(土木計画学)
選択された号の論文の76件中1~50を表示しています
特集号(土木計画学)論文
  • 星野 裕司
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20001
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本稿は,頻発する自然災害に対する土木施設整備の一事例として曽木の滝分水路を取り上げ,そのデザインの可能性に関して哲学的な試論を行うものである.土木の特質として非自己決定性を確認し,自然に着目したハイデガーの技術論を整理することで,開蔵,制作,労るという概念を抽出した.曽木の滝分水路のデザインを考察することで,それらの概念を実現する可能性が土木デザインにはあることを確認した.

  • 中川 敏正, 井坪 慎二, 関谷 浩孝, 石原 雅晃, 湯浅 克彦, 花守 輝明, 中田 諒, 藤村 亮太
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20002
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    合流車の本線合流を支援する合流支援情報提供システム(DAY2システム)について,試験走路での実証実験を通じて情報提供の有効性を検証した.試験走路に高速道路の合流部を模した区間を整備し,システムの構築後に自動運転を模擬した手動運転車を走行させ,情報提供の有無別に合流車の車両挙動を様々な指標を用いて評価した.また,加速車線長と本線車の速度を複数パターン設定し,合流部の道路構造や交通状況の違いによる情報提供の効果の差異を把握した.その結果,本実験の実験条件下では,情報提供により多くの指標の評価値が改善し,合流車が安全・円滑に本線合流可能となることを明らかにした.特に加速車線長が50mかつ本線車の速度が70km/hの場合に情報提供の効果が大きく,合流成功割合が1割以上改善することを明らかにした.

  • 柿本 竜治, 吉田 護
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20003
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究は,時間とともに変化する豪雨時の状況認識が,避難行動に及ぼす影響について分析し,時間的に変化する避難行動意思決定モデルの枠組みを検討する.2019年の台風19号は,10月12日19時前に大型で強い勢力で伊豆半島に上陸し,関東地方や甲信越地方,東北地方などに記録的な大雨をもたらした.これにより,極めて広範囲にわたり,河川の氾濫やがけ崩れ等が発生し,死者・行方不明者99名,住家の全半壊等4,008棟,住家浸水70,341棟の極めて甚大な被害が発生した.そこで,2020年の3月と6月に被害を受けた1都14県を対象に避難行動の調査を実施した.その中から,避難した人と被害に遭いながらも避難しなかった人に焦点を絞り,豪雨時の避難意識の変化の違いを分析し,そのような違いを避難行動意思決定モデルの中でどのように組み込むか検討する.

  • 石倉 智樹, 小松 奏太, 横山 楓
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20004
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    SCGE(空間的応用一般均衡)モデルに代表される多地域経済モデルの構築において,分析対象となる多地域経済と同じ地域分類数のデータが利用可能であることは稀であり,限られた利用可能データから,分析に必要な基準均衡データを推定する必要がある.しかし,正確な実データの入手が困難な財別地域別最終需要の推定は確立していない.そこで本研究は,複数の推定手法による基準均衡推定結果の特徴を比較分析した.さらに,それらを用いた仮想的交通整備政策シナリオ分析を行い,推定結果の特性差を比較した.分析結果は,得られる基準均衡データに差はもたらすものの,それらの差に対して政策効果分析結果は頑健な特性を示し,政策評価に及ぼす影響は微小であることが示唆された.

  • 猪井 博登
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20005
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    バス事業と他産業の就業環境の実態を比較した結果,バス事業従事者は他産業従事者より,拘束時間が長いが,年間有給休暇日数が多く,「給与」,次に「充実した勤務時間・休日確保」に不満が多いことが分かった.大型二種免許及び大型免許保有者の就業意向をアンケート調査し,コンジョイント分析を適用し,担い手の確保が期待できる雇用条件を明らかにした.現在の一般的な雇用条件とした際,平均的な回答者はバス事業の雇用条件を魅力的と回答しないことが分かった.さらに,介護・保育サービスを提供することだけでは,雇用の拡大や離職の防止を図ることは難しいが,就業意向を変化させる有意な因子とな っており,他の条件の向上と組み合わせることにより,就業条件の魅力化が達成でき,介護・保育サービスは補助的な役割を担えることを示した.

  • 谷口 賢太, 𠮷田 陽向, 森本 章倫
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20006
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    我が国において,在宅勤務はライフスタイルの一つとして定着してきており,特に東京都市圏は在宅勤務実施率が高い状況にある.本研究では,在宅勤務の習慣化に伴う意識に着目しつつ,在宅勤務日における人々の外出特性を明らかにすることを目的とする.東京都市圏を対象にアンケート調査を行った結果,在宅勤務日に外出の機会を創出することが,運動目的の外出行動として現れている実態が浮かび上がった.また,オンライン余暇活動が活発な人は自宅外余暇活動も活発であり,余暇活動が活発な人は外出しない日も意図的に設ける傾向にあるという示唆が得られた.ただし,いずれの結果も性別や年齢といった個人属性と無関係ではなく,今後とも注意深い分析が求められる.

  • 石渡 雄大, 松中 亮治, 宇野 伸宏, 大庭 哲治, 田中 皓介
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20007
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,公共交通利便性と年齢階級別社会増減との関連を明らかにすることを目的として,全国の地方圏の都市計画区域を対象に,2010年時点の駅・バス停の有無および鉄道・バスの運行本数と,2010-2015年の5年間における年齢階級別社会増減率の関連を500mメッシュ単位で分析した.その結果,0-4歳→5-9歳の階級は地方圏全体としては社会増の傾向にあるが,市街化区域の鉄道運行本数の多い駅勢圏で相対的に社会増が小さいこと,10-14歳→15-19歳と15-19歳→20-24歳の階級は,地方圏全体としては社会減の傾向にあり,鉄道やバスの運行本数が少ないほど社会減が大きいこと,20-24歳→ 25-29歳の階級は,地方圏全体としてはおおむね社会増の傾向にあるが,市街化区域のバス運行本数が多いバス停勢圏ほど社会増が小さいことを明らかにした.

  • 藤見 俊夫, 河野 達仁, 多々納 裕一, 柿本 竜治
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20008
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    防災・減災対策をはじめ多くの公共政策の費用便益の検討において,死亡リスク削減の経済価値を推定することは重要である.それには統計的生命価値(VSL)が用いられることが一般的であり,日本においてもVSL推定について数多くの研究蓄積がある.本研究では,これらの先行研究に対してメタ分析を実施し,VSL 推定値の俯瞰的な検証を行った.システマティック・レビューを行った結果,各研究の推定額には大きなばらつきがあることが明らかになった.メタ分析により各研究のVSL推定値を統合したところ, VSL の中央値は 2 億~ 6 億円,平均値は 6 億~ 12 億円の範囲にあることが示唆された.最後に,本研究の分析結果を踏まえてVSL を用いた便益計算手法の問題点を指摘し,その改善案について検討した.

  • 平井 寛, 市川 政雄, 近藤 克則
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20009
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    運転停止後の交通手段と高齢者の活動性低下の関連,交通手段利用に関連する環境要因の検討の 2 つの分析を行った.地域在住高齢者を対象として 2 回実施した自記式調査の回答者のうち,生活基本動作が自立し,1 時点目に自家用車を運転し 2 時点目に運転していなかった 2,579 名を主たる分析対象とした.1 つ目の分析の目的変数は外出頻度の減少,歩行時間の減少の 2 つとした.主たる説明変数は公共交通,同乗,自転車の利用状況とした.2 つ目の分析の説明変数は運転後の交通手段,主たる説明変数は徒歩圏内の駅・バス停,生鮮食料品店の数とした.公共交通や自転車の利用をしていることは外出頻度と歩行時間の維持に有意に関連していた.また公共交通利用には徒歩圏に駅・バス停があること,自転車利用には生鮮食料品店があることが関連していた.

  • 西 智樹, 吉田 広顕, 大社 綾乃, 原 祐輔
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20010
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    近年移動スーパーやフードトラックなど移動店舗の利用が広がってきている.移動店舗はモノやサービスを運ぶというメリットだけでなく,既存の固定型店舗とは異なり立地の影響を小さくできるというメリットもあるため,今後様々な業種で活用が拡大されていくと考えられる.そこで本研究では,スーパー・飲食業・フィットネスジムの 3 業種について Web アンケートを用いた SP (Stated Preference) 調査を行い,利用場面や目的といった活動文脈や属性が選好に与える影響について分析した.その結果,移動スーパーやネットスーパーでは時間指定や当日配達など利用者の都合に合わせられるといった文脈が重視されているのに対し,フードトラックでは利用人数が重視されるなど,各業態で利用者が重視している点が異なることが明らかとなった.

  • 川崎 洋輔, 桑原 雅夫, 梅田 祥吾, 熊倉 大起, 大畑 長, 田中 淳, 吉川 真央, 川松 祐太
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20011
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,センシングデータと交通流モデルを用いた事故発生時の交通状態推定手法を提案する.交通管制では,事故時の交通状態把握は重要である.一般的には,センシングデータと交通流モデルを用いて,未観測箇所の補完推定を行うことで対象時空間の交通状態を把握する.交通流モデルは,事前にパラメータをキャリブレーションする必要がある.しかし,事故発生時の交通影響はダイナミックに変化するため,事前に交通流モデルのパラメータをキャリブレーションすることは困難である.よって,本研究では,車両感知器,プローブデータおよび Variational theory を用いた状態空間モデルを構築し,パラメータと交通状態の同時推定を試みる.モデル検証の結果,提案手法は,事故時の交通状態を精度よく推定することが確認された.

  • 高瀬 達夫, 小久保 遼平, 森本 瑛士
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20012
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    国内で導入が進んでいるラウンドアバウトでは,安全性向上のために構造面や表示等の様々な安全対策が実施されているが,自動車利用者側の視点に重点を当てていることが多い.一方,自転車利用については自転車の通行量が多い場所でラウンドアバウトが設置されている事例が少ない事もあり,自動車との錯綜を防ぐための矢羽根の路面表示や看板の設置等による走行位置の誘導対策がなされているような事例が多く,またこれらの対策の有無による効果を分析することは施工上難しい.そこで本研究では,路面標示等の対策を行っていないラウンドアバウトでの自転車の通行実態を調査・分析することにより,自転車通行位置の違いによる自転車の利用特性を明らかにし,今後のラウンドアバウトにおける自転車の安全対策を検討する際に寄与することを目的としている.

  • 青山 恵里, 劉 毓鑫, 下川 澄雄, 吉岡 慶祐
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20013
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    大型車の乗用車換算係数(PCE)について,右左折車は直進車と比べて厳しい転向が強いられること,大型車の中でもとりわけセミレトーラ連結車が PCE に影響を及ぼす可能性があると考え,直進車線に加え,転向半径や転向角度などの幾何構造,大型車混入率やセミトレーラ割合などの交通特性の異なる右左折車線を有する複数の信号交差点を対象に車尾時間を観測し,PCE と幾何構造および交通特性との関係性について明らかにした.さらに,これらを説明変数とした重回帰分析などを行い,PCE は大型車混入率を説明変数として表現することが相応しく,直進車線および右左折車線それぞれの値の特性より,これらをまとめ て PCE を表現する算出モデルを提案した.

  • 研谷 朋花, 木村 優介, 大庭 哲治, 須﨑 純一
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20014
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    観光地の混雑は感染症の流行以前から問題であり,その実態を把握し緩和に向けて取り組む必要がある.また近年のソーシャルメディアの広がりによって,観光者が撮影した多くの写真が共有され,観光者が魅力に感じた場所を把握することができる.本研究では,京都市とその周辺地域を対象に,写真とそのメタデータを用いて,国別の観光行動を明らかにすることを目的として,観光者の居住地を推定する方法を明確化するとともに,居住地ごとの撮影地の傾向を分析した.写真データの分析の結果を京都観光総合調査の結果と比較することで,推定居住地ごとの撮影地の傾向の違いや,外国人観光者が好んで訪れ写真を撮 っている場所と,日本人・外国人観光者ともに好まれ外国人観光者がより多くの写真を撮っている場所があることを明らかにした.

  • 山本 隆, 上水 一路, 花田 大輝, 鶴 元史, 中林 悠, 下川 澄雄
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20015
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    中日本高速道路(株)では,高速道路リニューアルプロジェクトを各地で進めている.都市間高速道路を対象とした筆者らの先行研究では,対面通行規制時の渋滞先頭地点や交通容量を把握した.ただし,渋滞先頭地点が定まる条件や交通容量の変動要因は明らかになっていない.本研究では,渋滞先頭地点が定まる条件や交通容量の変動要因を考察することを目的として,対象規制区間のサンプル数を追加したうえで,ボトルネックが定着する箇所の特徴を分析するとともに,対面通行規制時の交通容量推定モデルを構築した.分析の結果,渋滞先頭地点になる条件として合流割合やサグ順位,車線シフト状況が影響している可能性があること,交通容量推定モデルより渋滞先頭地点や規制区間延長,大型車混入率,縦断勾配が交通容量に影響することを明らかにした.

  • 櫻井 淳, 川島 光樹, 石綿 昭裕, 松本 修一, 川合 康央
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20016
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    単路部等において,自転車が進行中に後ろから自動車に追突される死亡事故の割合は5.3%と突出して高く,その約7割は夜間に発生している.そうしたことから,自転車側による尾灯の設置,服装の工夫や道路照明や反射材の設置などの視認性向上の手法が推奨されるなど,夜間も含めた安全で快適な自転車通行空間の計画立案および整備が喫緊の課題といえる.しかし,これまで自転車の視認性に関する研究は多く実施されているが,夜間において自転車に対する自動車の追越し挙動の危険性に言及した研究はほとんどなされていない.そこで,本研究では昼間と夜間において自転車に対する自動車の追越し挙動の特性を分析した.その結果,自動車の走行速度と離隔距離のそれぞれで時間要因の主効果に有意な差が確認された.

  • 久米山 幹太, 室岡 太一, Golubchenko STANISLAVA, 谷口 守
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20017
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    コンパクト+ネットワーク型の都市構造の形成へ向け,鉄道等公共交通ネットワークを用いた機能分担が推進されるなど,広域での拠点計画の重要性が増している.また,拠点においては人を集めての施設の持続的な維持が求められることから,計画へ向けては広域的視点からの人の動きの実態把握が欠かせない.そこで本研究では東京都市圏において,拠点となりうる場である鉄道駅徒歩圏への人の動きに着目し,類型化を通じて 11 のクラスターに分類した.また,都心との距離から実際の都市圏における分布傾向を把握した.その結果,1)都心から 30km を境に自動車分担率が高い類型が増加すること,2)駅徒歩圏ごとに性別や年齢,世帯年収といった側面で偏った層が来訪していることが明らかとなった.

  • 佐藤 欽哉, 杉浦 聡志
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20018
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    人口減少時代を迎えるわが国では,低コストで高いサービス水準を保つ公共交通網の実現が急務である.本稿では,公共交通網デザインにおいて基本的な要素である,結節点を検討するための規範的手法論を提案する.交通結節点は,乗客を効率的に輸送するためのネットワーク設計問題によって特定する.具体的には公共交通路線をグラフスパナーと呼ばれる形状に集約することで,多くの需要が交差する地点を結節点として特定する.構築した問題の解空間が膨大であるため厳密解の導出は困難であると判断し,メタヒ ューリスティクスの一つであるクロスエントロピー法を用い,発見的に解を導出するアルゴリズムを構築した.テストネットワークにおいて提案手法の挙動を確認し,得られた解について種々の考察を行った.

  • 清水 智, 山崎 雅人, 井出 修, 劉 歓, 梶谷 義雄, 多々納 裕一
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20019
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本稿ではライフラインの復旧期間を考慮した企業の操業能力の復旧曲線を提案した.具体的には 2022 年福島県沖の地震における被害調査データを用い,操業能力の回復過程をセミ・マルコフ過程でモデル化するとともに,ライフラインの復旧日数を用いた操業能力水準の滞在時間分布を推計し,実際の回復データと整合的なリカバリーカーブを構築した.これにより福島県沖の地震における企業の操業能力のリカバリ ー実態を明らかとした.本提案手法はライフラインの復旧日数からリカバリーカーブを推定するため,ライフラインの復旧速度の向上が企業の操業能力の回復速度に与える影響を定量評価することが可能であり,ライフラインの地震対策の実施に対する費用対効果の検討等にも有用な手法と考えられる.

  • 原 祐輔, 川崎 洋輔, 佐津川 功季, 井料 隆雅
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20020
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    既存の予約プラットフォームは,日時や場所を絞り込んでサービスを検索する,1 回の探索・予約行動では1 つの予約しか成立できない等の制約により,利用者個人の選好を踏まえたサービスの探索・予約が困難である.この課題に対して,本研究では,利用者への質問を通じて,選好を抽出し,サービス集合を検索する選好誘出型サービス検索システムを提案する.選好誘出型サービス検索システムのモックアップとして,TRAM Hotel Finder というシステムを実装し,Web 上での実験室実験を通して,既存の予約プラットフォームでの探索行動と選好誘出型サービス検索システムでの探索行動を比較する.その結果,提案システムによって,利用者にとって質の高い施設を短時間かつ空間網羅性を有して探索可能となることを明らかにした.

  • 淺野 就, 瀬谷 創
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20021
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    2011 年に発生した東日本大震災は東北地方を中心に甚大な津波被害をもたらし,国民が津波へのリスク認知を改めるきっかけとなった.高リスク地域からの人々の移住により,沿岸域に低所得者が取り残される現象が発生しつつあるとの指摘があるが,日本では市区町村未満の小地域における所得や小地域間の移住データが公開されていないため,検証は困難である.本研究では,小地域における所得が一定の正確度で推定できることを示した上で,南海トラフ地震による大きな津波被害が想定されている静岡県と高知県を対象に,推計所得を用いてこのような現象の実態解明を行うことを試みた.分析の結果,東日本大震災後に両県とも海岸付近で年間世帯収入中央値が低下する傾向にあり,高知県では,標高 0~5m の地域で同変数の値が低下傾向にあったことが示された.

  • 橋本 成仁, 増田 有馬, 藤田 蓮土, 樋口 輝久, 海野 遥香
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20022
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    昨今,ドライバーの歩行者優先義務が必ずしも遵守されていないことから,無信号横断歩道での一時停止率向上が横断中の交通事故の抑制に対して重要であると考えられる.本研究では,歩行者が無意識に車道に近い位置に立つことができると同時に,車道に近い位置でも歩行者が安心・安全に横断できる無信号横断歩道の構造を明らかにするために,実験参加者にヘッドマウントディスプレイを着用し,無信号横断歩道における待機と横断を行ってもらうVRシミュレーション実験を行った.その結果,歩行者の立ち位置について,せり出しが最も影響を与えることと足跡マークの設置場所によって差が生じることを示した.一方,歩行者の不安感について,防護柵やボラードはせり出した構造でも歩行者の不安感を抑制する効果を示した.

  • 黒田 望, 梶谷 義雄, 多々納 裕一
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20023
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    水害による産業部門の経済被害は,浸水以外の要因も考えられる.長期のライフライン被害や運転資金の不足等の負の要因,振替生産や各種BCPの効果等の正の要因も考えられる.浸水以外の要因が経済被害に与える影響や,経済被害の内訳である復旧費用と営業利益減少額の関係については,定量的な議論が十分になされていない.本研究では,岡山県倉敷市真備地区及び広島県呉市において,平成30年7月豪雨の浸水以外の影響も踏まえ,産業部門の経済被害を推計する.既往の復旧費用率のフラジリティ曲線や売上回復曲線等の確率分布を用いて推計した結果,浸水範囲の大きい真備では営業利益減少額が復旧費用の約0.5倍,呉では約3倍になった.また,真備においてライフライン被害の影響が営業利益減少額の約3割の要因となっていること等が明らかとなった.

  • 竹内 龍介, 中村 文彦, 鶴指 眞志, 南 聡一郎
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20024
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    英国では,Transport Act 1985によりロンドン以外のバス市場が自由化され,最低基準を満たす民間事業者すべてが市場に参加でき,独自の運賃体系や路線,運行頻度等を設定できるようになり,地方自治体の支援・介入は原則非商業路線のみに限定された.一方で,Transport Act 2000,Local Transport Act 2008及び Bus Service Act 2017により,自治体と事業者間の協定や契約制度によるサービス改善が模索されている.また,運賃上昇,事業者間の競争や複雑な運賃体系といった規制緩和の弊害を踏まえ,2021年に National Bus Strategy for England が策定された.本稿では,規制緩和以降の英国におけるバス関連法制度の変遷について,地域公共交通サービスの改善及び地方自治体の権限の変化といった視点から分析をする.

  • 橋本 成仁, 西村 航太, 海野 遥香
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20025
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    近年,歩きやすい空間整備が全国で画一的に進められてきている.その中でも,歩行者が街路に対して感じる歩きやすさや印象といった質的観点を実際の整備施策として取り入れる試みがなされており,個人が持つ意識や考え方に着目して街路の歩きやすさを定量的に評価することは,様々なニーズを考慮した歩行空間創出に寄与できると考える.そこで本研究では,歩行嗜好性や生活道路に対する意識と歩きやすさに対する認識との関連性を明らかにした.さらに,歩きやすさに対する認識別に防護柵や歩行可能空間の幅員,舗装の区別などの街路要素が歩きやすさに与える影響を定量的に示した.

  • 竹内 龍介, 吉田 樹, 猪井 博登
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20026
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    高齢者数の増加や免許自主返納者等の増加等に伴い,従来の公共交通を補完する自家用有償旅客運送の活用及びボランティア団体や地域の助け合いによる,買物・通院等の外出支援が重要性を増すと考えられる.本研究では,自家用有償旅客運送及び許可登録を要しない運送を担う団体に対する実態調査に基づき,団体の運行実態及びその運送サービスの継続見通しを,運送サービスの実態,課題や対策という側面から分析した.その結果,団体の収支率,他事業による補填やドライバーの高齢化といった課題がある.また,運送サービスへの行政補助の有無や収入確保及び,団体を運営する人員や収入の確保が継続困難と見込む要因となること,相乗りによる運送効率化や,団体の他事業の人材・車両活用等他のリソースの活用等が継続可能と見込む要因と判明した.

  • 調子 健太, 奥嶋 政嗣
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20027
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    徳島都市圏では主要道路橋梁の大規模補修時において,迂回に起因する交通渋滞による多大の時間損失が発生すると想定される.本研究では,主要道路橋梁での大規模補修時において,出発時間分散と車線運用を組み合わせた交通マネジメント方策の効果を把握することを目的とする.そこで,規制区間の通過車両への情報提供により出発時刻変更を誘導することで,交通需要を時間的に分散するとともに,周辺橋梁の道路区間において車線運用により交通需要に応じた交通容量とすることの効果を推計する.このため,交通シミュレーションを用いて交通状況を推計し,交通マネジメントの効果を評価する.これにより,適切な時間分散と車線運用を組み合わせることで道路網および隣接橋梁における時間損失を低減できる可能性を示す.

  • 藤原 正智, 松中 亮治, 宇野 伸宏, 田中 皓介
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20028
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,路線における運行本数を考慮して,地方鉄道におけるバス転換と駅勢圏人口,および公共交通分担率との関連を分析した.具体的には,1977~1979 年の輸送密度が 4,000 人/日未満の 104 路線を対象とし,転換後の路線の運行本数,および転換前後の運行本数の変化と,駅勢圏人口および公共交通分担率との関連を分析した.その結果,地方鉄道をバスに転換することによって,鉄道を存続した場合と比較して駅勢圏人口や公共交通分担率が低下し,その差が統計的に有意であることを明らかにした.また,転換後の運行本数,および転換前後の運行本数の変化が鉄道と同程度の場合,バス転換路線では,鉄道存続路線と比較して,公共交通分担率が低下し,その差が統計的に有意であることを明らかにした.

  • 中島 湧希, 嶋本 寛
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20029
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,COVID-19感染拡大が公共交通利用者数に及ぼす影響の分析期間の長さによる差異を分析した.まず,COVID-19感染拡大前の期間のみのデータを用いて,予測期間とベイズ構造時系列モデルの頑強性の関係を検証した後に,先行研究より分析期間を延ばすことにより,感染拡大の短期的影響がより大きく推計されることを確認した.カード種別や利用頻度により規定された個人属性ごとの短期的影響の差異も分析した.次いで,ベイズ構造時系列分析の成分分解により抽出されたローカル線形トレンド成分により,感染拡大による長期的な影響を属性ごとに分析した.本研究では,新たにベイズ統計モデリングにより2つの属性のローカルトレンド成分の時系列的な差異を定量的に分析する手法を導入し,単純比較では判別しづらい時系列的な差異を比較した.

  • 笠島 隆史, 松中 亮治, 大庭 哲治, 田中 皓介, 宇野 伸宏
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20030
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    パルスタイムテーブルは公共交通の発着時刻を等間隔にし,主要駅における各方面の発着時刻を揃えることで,待ち時間の短縮を図るダイヤ設定である.本研究では,パルスタイムテーブルの構成要素として鉄道ダイヤのパターン性と対称性に着目し,地方都市における鉄道ダイヤのパターン率および対称率の推移や乗降客数との関連を分析した.その結果,パターン率が 75%未満から 75%以上に増加した駅の大半においては,本数維持か減便を伴ってダイヤをパターン化していることを明らかにした.また,10 時から16時の運行本数が 18 本未満の場合は,パターン率が 75%以上に増加した駅と 75%以上を維持した駅において,運行本数の増減にかかわらず乗降客数が経年的に増加していること,対称率が 25%未満に変化した駅において乗降客数が減少していることを示した.

  • 石井 和成, 下川 澄雄, 吉岡 慶祐
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20031
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    左折車線において歩行者との交錯が生じる場合の交通容量は,歩行者の間隙を利用して通行できる確率(左折車の通過確率)を用いて計算される.しかし,この通過確率は約40年前に設定され,その後現在まで変更されていない.この値は歩行者のみが対象とされ,自転車が混在する状況では,歩行者のみよりも低い値となることが予想される.そこで本研究では,左折車線を有する複数の信号交差点を対象とし歩行者・自転車と左折車の観測を行った.そして,通過確率を歩行者・自転車交通量,交差点構造や交通運用の別に算出を行った.その結果,通過確率は歩行者・自転車交通量との相関性が高く,交差点構造や交通運用にも影響を受けること,また自転車の存在は通過確率を大きく低下させ,従来よりも交通容量が低い値として見積もられることを明らかにした.

  • 小倉 永都, 塩見 康博
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20032
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    自動運転車両の実用化を進めるにはインフラ整備は必要不可欠だが,道路利用者との合意形成を行うためには,事業の妥当性の評価が必要といえる.本研究では,高速道路に焦点を当て,自動運転車両に対応した道路空間整備における費用便益分析を行った.具体的には,新東名及び東名高速道路に自動運転車両専用車線を設置することを想定した.自動運転車両利用者は乗車中のセカンドタスクが可能になることから,移動時の時間損失が小さくなるといった便益を踏まえて分析を行った.分析の結果,新東名高速道路では自動運転車両の普及シナリオに関わらず,全区間で費用便益比が 1 より大きくなった.東名高速道路では,普及シナリオ次第では渋滞による損失が発生するが,自動運転車両の混入率が 32%以上であれば,全区間で便益が発生することが明らかになった.

  • 長井 健太, 柳原 正実, 小根山 裕之
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20033
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    地方創生を担う「道の駅」の新たな役割の一つとして,異なる交通モードを相互に接続させる「交通結節点」としての機能が提言されている.交通結節点としての機能を持つ道の駅が増加傾向にある一方で,その機能を評価する指標は現時点では明確化されていない.本研究では,交通結節点としての道の駅に求められる設備やサービスに関して整理・体系化を行うとともに,利用者の意向に基づく道の駅施設の利便性,および道の駅の小型車駐車スペースの容量に関する分析を通じて,交通結節点として多様な交通モードが乗り入れることを想定した道の駅施設について,定量的に評価する手法を提案する.

  • 伴 和徳, 小林 栄介, 樹下 晶弘, 三輪 富生, 山本 俊行
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20034
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    将来歩車が混在するShared Spaceには歩車混合交通流シミュレーション環境が必要であるが,道の駅などの限定環境ではその入力値を観測することが困難である.そこで国土交通省が推進しているCCTV画像を活用した交通観測データを用いるが,歩行者,自転車の検出精度が低く常時観測を行うためには課題がある.本研究では名古屋大学内10地点に市販監視カメラを設置し,1か月間に渡り歩行者と自転車の観測を行い,観測画像からリアルタイムで検出するYOLOとStrong Sortを用いた人流計測システムを構築した.また,その計測結果の精度を向上させるため,計測地点毎の対策ではなく全体に適用可能なアルゴリズムを構築し,歩行者の計測精度を大きく向上させることができた.この分析と結果を踏まえ,街中への常時観測への適用時の可能性について考察する.

  • 渡邉 拓也, 深澤 紀子, 奥田 大樹, 鈴木 崇正
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20035
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    鉄道事業者は自社線沿線の居住者を維持・増加させるための一つの方策として,路線のイメージ向上に取り組んでいるが,路線の持つイメージと路線沿線への居住意向との関係に着目した研究は見当たらない.そこで本研究では,その関係を定量的に考察することを目的とし,首都圏と関西圏の都市鉄道を対象に,鉄道路線のイメージと沿線への居住意向等について問うアンケート調査を実施した.調査で収集したデータに対して因子分析・回帰分析を適用し,鉄道路線のイメージが,居住経験がない路線沿線への転居意向にも,現在居住している路線沿線への居住継続意向にも有意な影響を及ぼすことを明らかにした.さらに,影響を及ぼす鉄道路線のイメージを定量的かつ具体的に示し,沿線への転居・居住継続を推進するための鉄道事業者の施策に示唆を与えた.

  • 山口 由美子, 谷本 圭志, 長曽我部 まどか
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20036
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    中山間地域では住民の生活を支えるサービスの縮小や撤退が進んでいることから,地域の住民自らが共助活動を実行することで,これらのサービスを維持する必要が生じている.そのためには,共助活動に対する潜在的な協力意向を明らかにするとともに,共助活動の実施が必要となる以前からその意向を地域で育むことが,必要な時期に必要な活動を円滑に実施するために重要と考えられる.そこで本研究では,集落における住民の個人属性,職歴や意識が共助活動への協力意向に与える影響について一般化線形モデルを用いて定量的に分析する.さらに,住民の協力意向を高める要因として将来における集落の維持に関する集落での組織的な取り組みに着目し,これが共助活動への協力意向にどれほど寄与しうるのかについて明らかにする.

  • 西田 賢生, 佐々木 邦明
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20037
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    近年,ライフスタイルの変化・多様化が進む中で都市の賑わいを把握するためには,施設数や人口とい った都市の静的な特性だけでなく,来街者の多様性や流動性など,動的な特性を考慮して多面的に考慮する必要がある.そこで本研究では,連続観測が可能で,性年代等の属性も利用可能なデータであるモバイル空間統計を用い,メッシュごとの属性の多様性と集積を群集繁栄度指数に適用することで賑わい指標を算定した.この指標を都市の賑わいを表すものとして算出し,コロナ禍で大きく行動が変化した期間に提案指標を適用してその変動を確認し,メッシュによる違いを明らかにした.また,各メッシュの都市機能や経済性との関係性を分析し,提案する賑わい指標との相関から,都市の活性度を表す指標として利用することの意義を明らかにした.

  • 稲垣 亮, 松尾 幸二郎, 杉木 直
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20038
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    近年,自動車プローブデータを活用した地点別事故危険性評価の試みが盛んとなっているが,事故危険性評価の精度向上効果についての理論的考察は十分には行われていない.本研究では,複数の仮想的な生活道路無信号交差点を対象として,確率論的アプローチにより,事故頻度のみで事故危険度を順位付けした場合に対して,プローブデータによる通過量,急減速頻度といった情報を用いた場合に,順位付けの精度がどの程度向上するのかを分析した.さらに,「事故頻度と急減速頻度の相対性」に着目し,プローブデータから得られる急減速数についての検討を行った結果,プローブ普及率によっては急減速数活用による効果が表れず,急減速数のみを用いて事故危険性を評価する際に,安全な交差点での危険性を相対的に過大評価する可能性があることが示唆された.

  • 丹度 彪雅, 大井 啓史, 浅田 拓海, 有村 幹治
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20039
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    近年,日本を含む多くの国でシェアリングサイクルのサービスが拡大している.シェアサイクルの今後の発展や,利用状況の改善には利用者ニーズの把握は必要不可欠である.一方で,無人管理シェアサイクルが多い日本においては利用者ニーズの収集は困難である.そこで本研究では,利用実績データとアンケ ートデータ,ポート周辺の建物面積データを組み合わせ,機械学習モデルであるランダムフォレストモデル及びXGBoostモデルを適用することで,利用目的を推定するモデルを構築した.SHAP指標を用いて各モデルを解釈した結果,移動距離や移動開始時刻が利用目的を判別するうえで重要な説明変数であることが示された.また複数年度の利用実績データにモデルを適用し,利用者の行動変化を把握した.

  • 西井 和夫, 栗原 剛, Chunfu SHAO, Yilin SUN, Yinan DONG, 日比野 直彦, 岸野 啓一
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20040
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本論文では,post-pandemic を見据えた中国からの訪日旅行需要動向について,中国現地で実施の 2 断面 (2020 年/2022 年) WEB 調査データに基づき基礎的な考察を行うことを目的とする.そのために,国内外の COVID-19 に関する諸研究のレビューとともに,この WEB 調査データを用いて,中国国内の with-pandemic (行動制限下) における日常的生活行動 (通勤・買物行動など) の変容そしてコロナ終息仮定下での海外渡航/訪日旅行意向の変化に関する基礎集計分析の諸結果を紹介する.これらの結果を踏まえて, post-pandemic の訪日旅行需要への長期的影響分析研究において検証すべき課題等を明らかにする.

  • 武藤 智義, 金子 雄一郎
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20041
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究では東京圏を対象に,携帯電話の位置情報を基にした人口統計であるモバイル空間統計を用いて,コロナ下における流動人口の時空間変化を分析した.具体的には,市区町村単位での居住地-滞在地の人口データを基に,流出・流入人口の推移を把握するとともに,地域別の特性や産業構成との関係を分析した.その結果,緊急事態宣言発出下で流出・流入人口の減少が大きいこと,流出人口は東京都区部及び周辺部で減少が大きく,郊外部は小さいこと,流入人口は東京都区部や多摩部,神奈川県東部などの従業地で減少が大きいことが分かった.また,流出・流入人口の変化と産業別就業・従業人口との関係を市区町村単位で計量分析した結果,情報通信業など複数の産業が流出・流入人口の増減に対して,有意に影響を及ぼしていることが分かった.

  • 奥田 大樹, 渡邉 拓也, 中川 伸吾, 鈴木 崇正, 深澤 紀子
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20042
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    自然災害が激甚化・高頻度化する中,我が国の物流の一翼を担う鉄道貨物輸送の安定性や持続性の維持・向上を目的とした災害対策は,貨物鉄道事業にとってだけではなく社会的にも実施する意義が大きい.一方で,その実施には多くの費用や時間が必要となるため,関係者全体にとってメリットのある災害対策を実施するには,様々な視点からの評価が必要と言える.本研究では,既往研究においてあまり考慮されていなかった貨物鉄道事業者にとっての便益や負担を指標として,災害対策の実施効果を定量的に評価可能な手法を構築した.そして,構築した手法を用いたケーススタディとして,日本各地の主要貨物駅間でトラック代行輸送を強化する場合を対象にした実施効果を評価し,その結果から,貨物鉄道事業者の視点において妥当な評価ができることを示した.

  • 大塚 理恵子, 伊藤 昌毅, 太田 恒平, 瀬崎 薫
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20043
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    交通事業者のみならず,自治体や企業など複数関係者が協議しながら全体最適の視点で地域固有の交通課題の解決をめざす,エリアマネジメントの重要性が高まっている.本研究では朝ピーク時間帯の混雑平準化を目的とした地域全体での時差出勤施策の実現に向けて,自治体や個々の企業などに負担をかけずに複数職場エリアの出勤時刻実態を提供できる交通ビッグデータ活用方法の開発に取り組んだ.任意の場所に対してユーザ毎,日毎に到着時刻を抽出できるユーザ識別子付きのスマホ位置情報に着目し,大規模事業所エリアを対象とした出勤時刻分析手法を提案した.2024年に大規模工場の稼働開始を予定しており渋滞悪化が懸念される熊本県を対象に実験を行い,実際の出勤記録と照合して提案手法の有効性を確認し,研究成果を熊本県の協議会に提供した.

  • 長井 健太, 柳原 正実, 小根山 裕之
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20044
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    地方創生を担う「道の駅」の新たな役割の一つとして,異なる交通モードを相互に接続させる「交通結節点」としての機能が提言されている.筆者らはこれまでに,利用者の意向に基づき,道の駅の交通結節点としての施設利便性を定量的に評価する手法を構築した.その一方で,施設利便性の改善がトリップ全体の効用にどの程度影響するか,両者の因果関係は未だ明らかにされていない.本研究では,交通結節点の施設利便性で表現される施設サービスレベルと交通サービスレベル間の代替関係を仮定した上で,費用及び時間コストとの関係を利用者へのアンケート調査をもとに分析した.また,過去に構築したものも含めた一連の評価手法を,道の駅だけでなく競合施設を含む実際のネットワーク上に適用し,道の駅が交通結節点として利用される可能性を示した.

  • 安藤 宏恵, 田中 大智, 柿本 竜治
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20045
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    道路網の接続構造に関するNetwork Science手法に基づく研究の多くは,格子状や放射状などの規則性や次数分布・次数相関などが既知であることを仮定する場合が多く,実際の都市道路網を適切に表現できているとはいえない.そのため本研究では,実都市道路網の特徴を考慮した一般的道路網生成モデルを構築する.国内141都市の道路網データを用いて接続構造指標によるクラスタリングを行い,各クラスターに最適なノード数とリンク数を入力パラメータとする道路網生成モデルを構築した.さらに,生成された道路網を階層化する手法を提案し,拠点間の移動時間分布に基づいて道路網の性質を検証することで,上位ランク道路を環状とすることや,最下位ランク道路の道路延長割合を小さくすることが道路網の輸送機能向上につながることが確認できた.

  • 片山 慎太朗, 山崎 雅人, 仲 達哉, 小池 淳司
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20046
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    我が国における社会資本整備によるストック効果は,費用便益分析マニュアルで対象とする3便益に加え,算出された効果の空間的帰着状況を把握できることから,SCGEモデルによる帰着便益の計測も行われてきた.その多くが完全競争市場を想定した効果計測であるが,英国運輸省で取り組まれている広範な経済効果(Wider Economic Impacts:WEIs)は,不完全競争市場を想定した効果計測方法であり,既存の費用便益分析では計測できない効果として注目されている.本稿では,WEIの1つである集積の経済に着目し,輸送費用削減による便益を,独占的競争を考慮したSCGEモデルと完全競争を考慮したSCGEモデルそれぞれで算出し対比させることで,収穫逓増および多様性選好の仮定による影響を検証した結果,その程度は約20~30%であることが分かった.

  • 尾原 健太郎, 柳沼 秀樹, 寺部 慎太郎, 海野 遥香, 鈴木 雄
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20047
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    近年,自動車交通量計測では AI による画像解析手法を導入した自動観測体制が整いつつある.一方,二輪車および歩行者に関しては計測精度の低さが未だ課題となっている.くわえて,実務では交通量のみならず速度や移動軌跡などの多様なデータ取得に対応した交通計測 AI の開発が望まれている.本研究では,二輪車および歩行者を高精度に検知し,交通量および速度を推定可能な交通計測 AI の開発を目的とする.具体的には,新たな学習ラベルを用いて畳み込みニューラルネットワーク(CNN) を学習し,物体追跡により取得した情報を活用することで交通量計測と速度推定を可能とした.また,計測地点別での AI モデル自己学習手法を提案し,地点毎に生じる追加学習データのコスト低減と精度向上を試みた.

  • 多田 弘, 出村 嘉史, 倉内 文孝
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20048
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    車道外側線は,車道の外端を示すと同時に,歩行空間である路側帯をも表示している.本研究は,その設置がどのように判断されているのかを明らかにして,歩行者交通安全対策として実施する際の特性を把握することを目的とした.まず『道路構造令』及び『道路交通法』における関連規定を整理し,車道外側線が「車道への効用」と「歩行空間の創出」という異なる二つの側面を持つことを認識した.次に道路管理者に対してヒアリング調査及びアンケート調査を行い,対策実施における判断のプロセス,考慮する判断要素とその選択傾向や重み付け,対策の実施状況等のデータを得た.考察の結果,車道外側線は実施決定が得やすい対策手法であるが,歩行者安全対策としての整備には,その二面性ゆえに歩行者を保護する動機が必要とされることが分かった.

  • 鈴木 雄, 山崎 基浩
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20049
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,豊田市の高齢者に対するアンケート調査から,鉄道・バス・タクシーの乗り放題施策に対する購入意向と,施策利用による外出頻度の増加,外出範囲の大について検討を行った.その結果,公共交通が無料の乗り放題になったとしても,利用しない人や,外出頻度・会話の頻度が低下する人の存在が確認された.これは,現在自家用車を利用している人も多く,自家用車から公共交通への転換がうまくできない場合に活動が低下することを示唆している.公共交通乗り放題プランの購入意向のある属性は,比較的若い高齢者,一人暮らしの高齢者,高齢者のみの世帯,バス停までの距離が長い高齢者,鉄道駅までの距離が長い高齢者,歩行可能距離が短い高齢者,バス・電車・タクシーの利用者となっていた.施策の展開では対象を絞ることが必要となる.

  • 松本 虎衛門, 梶谷 義雄, 多々納 裕一, 畑山 満則
    2023 年 79 巻 20 号 論文ID: 23-20050
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究では電力消費量が住民や企業の活動度を強く反映することに着目し,スマ―トメーターデータを用いた水害による社会経済活動への影響分析を試みた.具体的には,災害がない場合の電力消費を予測するモデルを構築し,観測値との差分から水害による電力消費低下量を推計するアプローチを行った.2019年の水害によって影響を受けた地域に本分析アプローチを適用した結果,電力消費量の落ち込みは発災から時間が経るにつれて回復傾向を示し,浸水が発生していないと推定された周辺地域にも間接的影響が波及していることが確認された.本結果は,スマートメーターの利点である比較的小さな時空間スケールで取得された電力消費量データの利用によって,時空間的に精緻かつリアルタイムでの水害被害の把握につながる可能性を示唆している.

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