日本食品工学会誌
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18 巻, 3 号
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原著論文
  • 都 甲洙, 佐瀬 勘紀, 裵 英煥, 前田 竜郎, 上野 茂昭, 荒木 徹也
    2017 年 18 巻 3 号 p. 125-132
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    アイスクリームは,気泡,氷結晶,その他の乳製品などにより構成され,気泡の含有率をオーバーラン(Overrun: OR)という.気泡は,フリージングにより生成され,アイスクリームのテクスチャーに大きな影響与える.

    OR値は,同一体積におけるアイスクリームミックスとアイスクリームの重量の比で精度よく算出されるが,同じORの値であっても,気泡大きさとその分布は最終品質に影響を与える.気泡は光学顕微鏡,SEM,X線CT,MRIなどにより計測されるが,これらは,装置毎に計測範囲および空間分解能が異なり,試料のミクロからマクロ構造の計測が困難である.本研究の目的は,アイスクリームのテクスチャーを解明するために,極低温ミクロトームイメージングシステム(Cryogenic Microtome Imaging System, CMtSIS)により,アイスクリーム内のミクロからマクロ気泡を計測することにある.

    供試試料は,市販のソフトアイスクリームを用いた.CMtSISは,試料を切削するミクロトーム部,自動XYステージ,切断面画像の取り込み部で構成される.異なる計測範囲は,対物レンズ10倍,20倍,50倍における連続2次元断面画像をそれぞれ取得した.また,XYステージの自動位置決めは,計測範囲194×154μmに相当する50倍の対物レンズを用い,横軸移動量194μmで5回,縦軸移動量154μmで5回ずつ行い,同一断面から25枚の画像を取得・結合した.気泡形状は,面積,長軸,短軸を計測し,気泡の面積に相当する円直径を算出した.

    相当円直径の平均は,10倍,20倍,50倍それぞれ34.2μm,17.9μm,8.0μmで,50倍では10μm以下が75.2%,20倍では10~30μmが71.8%,10倍では30μm以上が54.9%であった.これらは同じ試料にも関わらず計測範囲の違いにより,その値が異なった.自動位置きめにより得られた25枚の結合画像から識別された気泡は322個で,長軸の最大が277.5μm,最小が0.8μm,平均が28.2μmであった.相当円直径の最大が231.2μm,最小が0.6μm,平均が21.1μmであった.統合した画像の大きさは970×770μmで,アイスクリーム内の最大気泡(長軸277.5μm)が3個ほど計測可能な範囲である.この計測範囲(広範囲)において,ミクロ(0.8μm)からマクロ(277.8μm)までの気泡計測が可能になった.

  • 石川 大太郎, 上野 源次郎, 藤井 智幸
    2017 年 18 巻 3 号 p. 135-143
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    熟成肉は,表面で発酵微生物が増殖することから,牛肉表面の水分活性制御が可能となれば品質管理の有効な手段となる.本研究では,乾燥過程での牛肉表面の水分活性の非破壊推定手法の提案をめざし,近赤外分光法によるモニタリングを実施した.まず,約2~4 mm厚のスライスサンプルの含水率,水分活性と近赤外スペクトルの測定を実施した.920-970 nm付近の近赤外スペクトルの二次微分を用いることで含水率がR2=0.81,RMSE=0.34 g/g-d.s.の精度で予測可能となった.また水分活性と含水率の関係はGAB式でよくフィットされ,水分活性が近赤外スペクトルを用いて間接的に推定可能となった.サンプル表面部分のデータ取得を行うため厚みが2~10 mm程度まで異なるサンプルの測定から,最適な測定距離:サンプルから10 mm,積算時間:100 msを実験的に決定した.最終的に室温4℃,湿度0.8の庫内で乾燥させた牛肉ブロックの乾燥過程における近赤外スペクトルを最適条件下で取得し,スライスサンプルから作成したモデルを適用することで,表面水分活性の予測値を算出した.その結果水分活性の予測値は直線的に減少し約22~25日の後に0.8に達すると推定された.本研究によって牛肉表面の非破壊的な水分活性モニタリング手法確立の可能性が示唆された.

  • 三谷 隆彦, 味村 妃紗, 堀西 朝子, 多中 良栄, 森 めぐみ, 稲葉 伸也, 山西 妃早子, 赤木 知裕, 大江 孝明, 小山 一, ...
    2017 年 18 巻 3 号 p. 147-152
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/09/27
    ジャーナル フリー

    ウメ(Prunus mume Sieb. et Zucc.)果実 は梅干し,ジュース,梅酒などに加工されている.和歌山県はウメ果実の生産量は約6万トンで,全国の生産量の6割に達し,その70%が県内で梅干し製造に用いられる.梅干し製造過程では推定1.6万トンの梅酢が副産物として生じるが,梅酢は20%の食塩と5%のクエン酸を含有していることから,その利用,もしくは廃棄法が大きな課題となっている.われわれは梅酢には果実由来のフェノール化合物が存在し,その調製法を実験室レベルで明らかにしてきた.その後,梅酢由来のフェノール化合物(UPと省略)を工業的に製造する開発に繋がった.その方法の1つの事例を示すと,化学吸着樹脂Diaion HP-20を充填したステンレスカラム(直径 30 cm×長さ 2 m)に梅酢3トンを 流速 300 L/hで通過させ,フェノール性化合物を吸着させる.その後脱イオン水500Lを通過させてカラム内に残存している食塩およびクエン酸を除去する.その後500Lの0.05%の酢酸を含む60%エタノールをカラムに流し,フェノール化合物を回収する.この液を凍結乾燥してUP原末を得る.

    UPの工業的製造が開始されたので,工業的に製造した6ロットの化学的特性を調べた.まずフェノール性化合物の平均含量をフォーリン・チオカルト法で調べた.この場合,通常没食子酸を検量用の標準物質として用いるが,没食子酸はフェノール環に水酸基が3個ついている.ところでウメのフェノール性物質はヒドロキシ桂皮酸の誘導体で,フェノール環に水酸基は1個もしくは2個であることがすでに明らかになっており,没食子酸を標準物質にすると,フェノール性物質の含量が低く見積もられることになる.そのため,フェノール環に水酸基が1個のp-クマル酸も,別途標準物質として用いた.その結果,UP のフェノール性化合物の平均含量は,没食子酸換算で13.1±0.79%,p-クマル酸換算で19.2±2.11%であることが判明した.全糖量はフェノール硫酸法で求め,その平均含量は57.7±4.7%であった.これらの6ロットのHPLCプロファイルおよびフェノール性化合物の組成はピークの高さは多少の違いはあるものの,全体として類似していた.UPのアルカリ加水分解によりカフェ酸,trans-p-クマル酸,cis-p-クマル酸,およびフェルラ酸が見いだされた.これらは実験室レベルで製造したUPと,同じ分子種であった.これまで,実験室レベルで製造したUPは,梅酢製造の年が違っても,またウメ果実の収穫場所が異なっても,品質に大きな差異は見いだされなかったことから,工業的なレベルでもこの事が確認できた.恐らく梅酢中では塩分濃度が高く,酸性条件であるためフェノール性化合物は長期間安定に保たれると考えられた.以上,これらの検査項目はUPの品質規格として利用される予定である.

    しかし工業的に製造したUPの幾つかのロットでは,p-クマル酸総量に占めるcis-p-クマル酸量の割合が高いものが見いだされた.梅干し製造後に生じた梅酢は,個々の梅干し製造業者や農家で保管されているが,その保管方法はバラバラで,屋外や屋内で,半透明もしくは光を通さない容器で保管されており,温度条件も当然異なってくる.cis-p-クマル酸量はtrans-p-クマル酸が紫外線の作用を受けることで異性化されるので,ウメ果実でも一定量が生成していると考えられるが,UPの中で極端にその割合が高いロットは,原料梅酢が太陽光に当たる場所で半透明の容器に保管されていたことが追跡調査で明らかになった.この事を再現するため,実験室レベルで梅酢を太陽光に2か月間照射した場合,p-クマル酸総量に占めるcis-p-クマル酸量の割合が著しく増加したことから,確認することができた.cis-p-クマル酸量はUPの機能性に影響を及ぼすことが判明してきており(未発表データ),今後工業的にUPを製造する場合,原料梅酢の保管方法などを十分考慮する必要がある.

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