本稿では高電圧技術の食品分野への工学的応用として,筆者らが行った高電圧パルス電界(PEF)技術と大気圧非平衡プラズマ技術を用いた非加熱殺菌技術の開発において得られた知見を紹介する.PEFを用いた液状食品の殺菌においては,電極からの金属溶出を防止する炭素電極,処理液体の高電圧電極への接触を防止する隔膜構造,および処理液の冷却機能を導入した装置を開発し,特性を調査した.本装置を用いると日本酒中の清酒酵母と火落ち菌の低温殺菌が可能であった.また,PEFに対する微生物の感受性,PEFによって生じるストレス応答,損傷菌に影響する因子について調査を行った.大気圧非平衡プラズマを用いた固体食品の殺菌において,プラズマとの接触性,およびヒドロキシラジカル生成を促進する処理雰囲気の加湿が殺菌効率向上に重要であることを示した.そして,プラズマ殺菌コショウの分析結果より,プラズマ殺菌処理による乾燥固体食品の高品質化の可能性を示した.
アイスクリーム製造において,フリージングはアイスクリームの内部構造を決定づける上で,極めて重要な工程である.著者は,フリージング中の撹拌によって誘起される流動がフリージング中に起こる諸現象の支配パラメータであると考え,回分式フリーザを用いて撹拌速度がアイスクリームの内部構造に与える影響を検討してきた.本論文では,フリージング中の流動,および気泡・脂肪球サイズ変化,さらに作成したサンプルの融解特性について,これまでの取り組みを紹介する.撹拌速度を変えることで,気泡や脂肪球サイズ変化の速度論や作成されたサンプルの熱物性が異なることを示しており,フリージングプロセスを設計する上で,撹拌を基軸とすることは高度なプロセスの創出に寄与すると考えられる.