日本食品工学会誌
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21 巻, 1 号
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解説
  • 本田 真己
    2020 年 21 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/03/27
    ジャーナル フリー

    自然界に広く分布する天然色素であるカロテノイドは,強力な抗酸化作用を有し,癌や動脈硬化などの様々な疾病予防効果を示すことから,近年その摂取が注目を集めている.カロテノイドは一般に,天然において二重結合がすべてトランス体のオールトランス型として存在する.オールトランス型カロテノイドは種々の溶媒への溶解度が低く,結晶性が高いため,抽出や乳化,微粒子化などの加工効率が低いことがしばしば課題となる.著者らは,カロテノイドの二重結合をシス異性化すると,その物性が大きく変化することを明らかにした.すなわち,オールトランス型カロテノイドをシス異性化すると,溶媒への溶解度が著しく向上することに加え,結晶性が低下してアモルファス状になることを示した.これらカロテノイドのシス異性化による物性変化を利用して,カロテノイド加工の効率化を検討した研究成果を,本稿で概説した.加えて,著者らが開発した加熱,光照射,触媒添加によるカロテノイドの効率的なシス異性化方法についても説明した.

  • 山本 和貴
    2020 年 21 巻 1 号 p. 11-23
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/03/27
    ジャーナル フリー

    食品高圧加工について,その特徴を解説しつつ,基礎および応用に関する取り組みについて概説した.基礎的視点からは,系統的理解が進んでいなかった澱粉の圧力糊化について,糊化および老化の有無を明確に示す状態図を作成し,その理解を進めた.また,微生物の高圧不活性化,とくに細菌不活性化に及ぼす高圧処理の影響を調べ,高圧殺菌の効用と限界とについての知見を拡げた.さらに,不十分な圧力での高圧処理後に残存しうる損傷菌について,保存中の回復挙動を保存温度の視点から精査し,損傷菌の検出時には,培養温度,培地組成に注意すべきことを提示した.応用的視点からは,ものづくりに役立つ技術として,中高圧処理を活用したかぶら寿しの促成製造法ならびに脱気中温中高圧処理による高圧加工果実コンポート製造法を提示した.

  • 小川 剛伸
    2020 年 21 巻 1 号 p. 25-36
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/03/27
    ジャーナル フリー

    乾燥過程および吸水過程における食品中の水の移動挙動は,製造時および調理時の条件によって大きく異なり,その挙動により,食品の品質は大きな影響を受ける.経験と試行錯誤に多くを頼ってきた既存の製造法では,近年の健康志向や美味しさへの飽くなき追求といった多様な要求に対して,迅速かつ的確に応えることが困難である.そのため,合理的な食品製造を可能にする体系的な理論研究が強く求められてきた.しかし,水の移動現象と移動機構,それらが食感などの品質に及ぼす影響については,必ずしも十分に解明されていないように思われる.筆者らは,粗挽きの小麦粉であるデュラムセモリナのみからなり,組成が単純なパスタを研究対象として,乾燥および吸水過程で生起する水の移動現象とその機構,品質への影響を調べてきた.本論文では,これまでに得られた筆者らの知見について解説した.

原著論文
  • 下藤 悟, 松井 元子, 村元 由佳利, 森山 洋憲, 加藤 麗奈, 甫木 嘉朗, 上東 治彦
    2020 年 21 巻 1 号 p. 37-50
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/03/27
    ジャーナル フリー

    食品の品質の総合評価を解析するには,官能評価データと物理化学的なデータを用いるのが一般的である.

    従来の解析手法としては,線形解析である重回帰分析(MRA)や部分的最小二乗回帰(PLS)を行っているものが多い.しかしながら,食品の味の総合評価は,食品の成分などの特徴に対して非線形な関係があることは経験的にもよく知られている.一方,近年では非線形的な解析を行う手法として,データマイニングの分野において,機械学習が採用されており,柔軟性があり,予測精度が高い解析ができるといわれている.

    そこで本研究では,官能評価による日本酒の品質の総合評価に対する物理化学的特徴の寄与をより明確にすることを目的とし,その関係性の解析に機械学習を適用した.一般的な統計手法であるMRA,PLSと代表的な機械学習手法である人工ニューラルネットワーク(ANN),サポートベクターマシン(SVM)およびランダムフォレスト(RF)で比較を行うことで,より正確な予測モデルを得ることができると考えた.さらに,評価傾向の定量化のために機械学習から得られる変数の重要度とMRAから得られる回帰係数を組み合わせて考察を行った.

    試料には日本酒(純米吟醸)173品を用い,官能評価は35名の熟練されたパネリストによって行った.品質は5段階で評価した.

    物理化学的特徴を得るために,核酸関連物質成分や香気成分の分析に加えて,酸度,アミノ酸度,グルコース含量といった一般的な分析,Brix,導電率,pHといった簡易分析を行った.

    官能評価スコアへの物理化学的特徴の寄与は,回帰分析によって検討した.説明変数に物理化学的特徴の分析値を,目的変数に個々のパネリストの個々の評価スコアと平均スコアを用いた.解析にはRを用いたi).回帰分析は,MRAとPLS,機械学習(SVM,ANNおよびRF)により行った.各解析にはcaretパッケージを使用し,解析条件の最適化を行った.

    回帰分析の精度の検証は,過学習を避けるためにtrainデータとtestデータに分割して行った.まず,全体の90%に当たる158品をトレーニングデータ,残りの10%に当たる15品を精度検証用データにランダムに分割した.次に,トレーニングデータを用いて回帰分析を行い,予測モデルを得た.得られた予測モデルから,テストデータ(予測モデルの作成に使用していないデータ)の総合評価の予測値を計算し,実測値と比較し,各分析手法の精度を調べた.さらに,トレーニングデータについても同様に予測精度を比較することで,予測モデルのフィッティングについて調べた.予測精度は,許容範囲内の誤差に含まれる試料の割合,平均絶対誤差(MAE),二乗平均平方根誤差(RMSE)で評価した.これら4つの解析方法の結果から,MRAよりも機械学習(とくにRF)の方が回帰モデルのフィッティングがよく,日本酒の品質の総合評価を高い精度で解析できる可能性が示唆された.また,MRAで得られた回帰係数とRFで得られた重要度から,評価スコアに対する各物理化学的特徴の寄与についても検討した.MRAで得られた回帰係数は,符号により評価への影響の良し悪しが判別できる.また,絶対値が大きいほど評価への寄与も大きいと考えられる.

    一方,RFで得られた重要度は,0~100の値のため,評価へ影響の良し悪しは判別できないが,値の大きいものほど予測精度に大きく影響することを表す指標である.

    個々のパネリストのスコアの解析から,日本酒の品質評価にカプロン酸エチルと酢酸イソアミルといった香気成分大きく寄与していることが示された.さらに回帰係数と重要度の値を組み合わせて評価傾向を確認したところ,総合評価と成分濃度には非線形関係のものがあることが示唆された.

    以上の結果から,日本酒の品質の総合評価における傾向について,MRAとRFを組み合わせることでより明確に捉えることができた.

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