日本食品工学会誌
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10 巻, 3 号
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解説
  • 熊谷 仁, 熊谷 日登美
    2009 年 10 巻 3 号 p. 137-148
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2015/06/27
    ジャーナル フリー
    流動特性と粘弾性の概念を中心として,レオロジーの食品工学の役割について考察した.最初にレオロジーの基礎について述べた.第一に液体の粘度(流動粘度)と様々な流動特性について,第二に粘弾性の概念,第三に動的粘弾性測定法と,そのデータに基づくハイドロコロイドの分類法ついて解説した.ゾル-ゲル転移の解析に用いるWinterとChambonの理論についても概説した.また,流動粘度と動的粘弾性測定から得られる複素粘性率とを関係づけるCox-Merzの経験則について説明した.次いで,食品工学でみられるレオロジーの概念の活用例を紹介した.第一に非ニュートン流体の流動特性,とくに降伏応力の概念の適用例について述べた.第二に,嚥下障害者用介護食の物性設計の基礎として,物性とヒト咽頭部における食物の流速との関係について,筆者らの研究に基づいて概説した.
原著論文
  • 岡本 佳乃, 野村 明, 山中 晶子, 丸山 進
    2009 年 10 巻 3 号 p. 149-154
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2015/06/27
    ジャーナル フリー
    エンドセリン-1(ET-1)は強力な血管収縮因子や表皮メラニン細胞の分裂促進因子として知られており,紫外線刺激による色素沈着の原因物質の一つとして知られている.我々は,以前にハヤトウリ(Sechium edule)果実抽出物に紫外線で誘導される表皮角化細胞でのET-1産生を抑制する効果があることを報告した.今回,ハヤトウリ果実抽出物のメラニン生成への影響を検討し,さらに,含まれているポリフェノール量を測定したので報告する.本実験では表皮角化細胞と表皮メラニン細胞から構成されているヒト皮膚三次元モデルを使用し,色素沈着の観察とメラニン定量を行った.ハヤトウリ果実抽出物は黒色化を抑制し,メラニン生成量も抑える効果が観察された.また,ハヤトウリ果実抽出物にはチロシナーゼ酵素活性の阻害は見られなかった.ポリフェノールのHPLC-クーロアレイ法での分析結果から,乾燥物重量1gあたり,ルテオリン6.6μg,フェルラ酸5.6μg,p-クマル酸3.3μg,バニリン酸6.1μg,プロトカテク酸1.5μg,p-ヒドロキシ安息香酸0.8μgが含まれていることが明らかとなった.これらのポリフェノールなどの複合物がメラニン生成抑制作用を示しているのではないかと考えられる.
  • 飛塚 幸喜, 安食 雄介, 野内 義之
    2009 年 10 巻 3 号 p. 155-162
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2015/06/27
    ジャーナル フリー
    静的ヘッドスペースGC法(SHS-GC法)は食品や飲料の香気成分分析に多用され,多くの長所をもつ手法であるが,中高沸点物質に対する感度が低いことが弱点である.本研究は,塩析によるSHS-GC法および静的ヘッドスペース固相マイクロ抽出GC法(SPME-GC法)の測定感度の向上における基礎的データの採取を目的とした.ラ・フランス果汁およびアルコール-エステル混合水溶液に飽和量の塩化ナトリウムを添加してSHS-GC法およびSPME-GC法で分析し,香気成分の検出感度の変化を計測した.
    ラ・フランス果汁,アルコールーエステル混合水溶液とも,塩化ナトリウムを添加することにより,ほぼ全ての香気成分の検出感度が向上した.塩化ナトリウムの添加による検出感度の向上は,アルコールでは分子量が大きいものでより大きく,エステルでは逆に分子量が小さいものでより大きくなる傾向がみられた.
技術論文
  • 五月女 格, 小笠原 幸雄, 名達 義剛, 竹中 真紀子, 岡留 博司, 五十部 誠一郎
    2009 年 10 巻 3 号 p. 163-173
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2015/06/27
    ジャーナル フリー
    過熱水蒸気は凝縮潜熱による高い熱伝達効率や低酸素雰囲気による食品の酸化を防止した加熱が行えることなど様々な利点を有することから,これまで調理加工,殺菌,抽出および乾燥など,様々な食品加工へ応用が研究されてきた.過熱水蒸気は被加熱物を乾燥させる性質をもつが,この性質は過熱水蒸気を調理や青果物のブランチングに用いる際には食材の水分を最適に保つことを困難にする一因であった.著者らは過熱水蒸気による加熱中の食材の水分を制御するため,微細な熱水滴を食材に噴霧しつつ過熱水蒸気により食品加熱を行う装置を開発した.この装置をジャガイモのブランチングに用いたところ,一般的なブランチング方法である熱水加熱で問題になる吸水ならびに成分の流出が解決され,かつ乾燥による歩留り低下も抑制されることが明らかになった.この装置は様々な食品の調理加工,ブランチングなどに応用可能であると期待されるが,最適な水分は食品および加工目的によって異なると考えられることから,この装置のさらなる応用のためには過熱水蒸気および水滴の噴霧量を制御する技術,またその基礎となる過熱水蒸気および水滴の流量を測定する技術が必要といえる.通常は水蒸気の湿り度は絞り熱量計および蒸気表から求めることができるが,本装置においては水滴量が多いことなどの理由から絞り熱量計の適用は困難と考えられた.以上の理由から本研究においては開発された装置のノズルにおける水蒸気および水の流量を簡便に測定する手法を提案し,さらに装置の運転条件が水蒸気および水流量に及ぼす影響について検討することを目的とした.
    開発された装置においては,水蒸気発生器はアルミニウム製プレート(850×400×25 mm (WDH))に長さ10 m,内径4 mmの細管が電熱線とともに埋め込まれた構造を有しており,細管の一端から水を圧送し高圧下で沸騰させ,細管の他端に接続されたノズルから水蒸気と水を加熱室内に噴霧する.本装置のノズル内部における水蒸気/水比を知る方法として理論的に最も単純で確実なものは,水蒸気発生器の消費電力と表面から放出される熱量の差を供給された水の比エンタルピに加え,蒸気表から比を算出する方法であるといえる.しかしながらこの方法においては水蒸気発生器の放出熱量を正確に測定するための高価な熱流束センサが多数必要となり,さらに装置が大型化するにしたがい必要なセンサ数が増加するという問題がある.代替の測定方法として,本研究ではノズル内圧および温度から水蒸気流量を計算し,装置に供給される水量との差を水滴の流量として計算する方法を考案した.この方法では装置の規模に関わらずノズル内圧および温度のみを測定すればよいため非常に簡便であるといえるが,水蒸気と水が混在してノズルから流出する場合においては正確に水蒸気流量を計算することが可能であるか不明である.この方法にて水蒸気および水流量が正しく測定できることが示されれば,費用などの面において優れた測定方法といえることから,前述の熱収支を用いる方法と測定結果を比較することによりその精度について検討した.
    装置にはタンクから定量ポンプを用いて水を供給し,水の流量は0.3~1.3 g/sとした.試験に用いた装置においては,水蒸気発生装置は加熱室内に設置されており,消費されるエネルギの一部が水蒸気および熱水の生成に使用され,残りのエネルギ(前述の熱損失と同値)が加熱室内の水蒸気の保温に使用される.水蒸気発生装置の出力は加熱室内の温度を115℃に保つよう制御した.装置を運転しノズル内圧および温度,水蒸気発生装置の消費電力ならびに水蒸気発生装置の上下面各30箇所,側面各5箇所,計80箇所における熱流束を測定した.水蒸気発生装置表面からの熱損失は,上下面においては測定された熱流束値をAkimaの方法により2次元補間した後,面に対して数値積分することにより求め,各側面については長手方向に5等分した中央の熱流束値と表面積の積から算出した.ノズル口径は1.3,1.5および1.9 mmの3種について試験を行った.
    2つの方法により測定された水蒸気/水の流量比は良く一致し(Fig. 7),ノズル内圧および温度測定による方法は開発した加熱装置を様々な食品加工に応用する上で有効な水蒸気および水流量の測定方法であると判断された.本研究で得られた結果においてはノズルにおける水の流量の質量比は最も多い場合で供給水量の約25%であったが,これは体積比にすると水蒸気流量の1/5000以下となることから,水蒸気流量計算に水滴の存在が及ぼす影響は極めて小さかったと考えられる.実験に用いた装置においては,供給水量が少なくノズル内圧が0.188 MPa以下の場合においてはノズルからは水蒸気のみが亜音速で流出し,供給水量を増加させノズル内圧が0.188 MPaを越えるとノズルから流出する水蒸気の速度は音速となり水滴がともに噴霧された.実験に用いた装置においては加熱室内の水蒸気を大気圧で115℃と過熱状態に制御するため,供給された水は全て水蒸気として加熱室内に供給されるべきである.しかしながら,水蒸気流量は水蒸気流速およびノズルのど部における水蒸気密度の積で与えられるため,供給水量が増加しノズルにおける水蒸気流速が音速に達すると,ノズル内圧の増加による水蒸気流量の増加が小さくなり,供給された水の一部は水蒸気として流れる事ができず水滴としてノズルから噴霧されたと考えられる.
ノート
  • 峰本 康正, 竹田 明生, 齋當 寛人, 吉田 誠, 中島 栄次, 米谷 正
    2009 年 10 巻 3 号 p. 177-180
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2015/06/27
    ジャーナル フリー
    疎水性物質であるフェノール,2-ナフトール,1-ウンデカノール,ステアリルアルコール,コレスタノールとリノール酸を結合させ,リノール酸化合物を合成した.これらの合成物と市販のリノール酸,リノール酸メチル,リノール酸エチル,リノール酸イソプロピル,リノール酸コレステロールと併せて,80℃における化合物中のリノール酸残基の酸化過程を測定した.その酸化過程から酸化速度定数を算出し,速度定数とリノール酸に結合する疎水性物質の分子量の関係を検討した.測定したリノール酸残基の酸化過程は概ね自触媒型速度式を用いて表すことができた.その酸化速度定数は結合する疎水性物質の分子量が大きくなると小さくなる傾向となったが,分子量が150以上になるとほぼ同様の値となった.
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