日本食品工学会誌
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3 巻, 1 号
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  • 加藤 友治
    2002 年 3 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2002/03/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    ポリグリセリン脂肪酸エステルは非イオン性界面活性剤であり, 食品や化粧品および各種工業に広く使われている.しかし, 一般の商品は, グリセリンから高重合グリセリンまでの様々な重合度のグリセリンと, 様々な鎖長の脂肪酸からなるエステルであり, しかもそのエステル化度も変化するなど, 非常に複雑な構成を示す混合物である.そこで高純度のポリグリセリンモノラウレートを合成し, その水溶液の表面張力, 起泡性, 界面張力, 洗浄力, 浸透力, 可溶化力について調べたところ, ポリグリセリンおよびモノエステルの純度が高ければ, 低重合度のトリグリセリンモノラウレートエステルでも親水基と疎水基のバランスにより界面活性が最大となった.一方, 工業的に製造された60%以上のペンタグリセリンを原料とする高度精製ポリグリセリン脂肪酸エステルは, 各種の評価試験において優れた性能を示した.高度精製ポリグリセリン脂肪酸エステルを使ったミクロエマルション製剤「スーパーエマルジョン」と油脂の固化・増粘および粗乳化を可能にする油脂改質剤「TAISET」についてその特徴を解説した.
  • 吉井 英文, 古田 武, 前田 裕一, 中村 彰宏, Pekka LINKO
    2002 年 3 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2002/03/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    豆腐や大豆蛋白質を製造する際に副生するおからは, 現在食品廃棄物としてその処分方法が社会問題になっている.おからを加水分解して得られる水溶性多糖 (Soybean Soluble-Polysaccharides; SSPS) の主成分の構造は, ガラクツロン酸主鎖にガラクタンとアラビナンが結合した構造が推定されており, これは乳化特性に優れ, 乳化剤として有名なアラビアガムの代替品として有望視されている.このSSPSを食品・工業用乳化剤として利用するためには, SSPSの乳化剤としての特性, とくに乳化能を決める蛋白質の特質と酸性領域での分解特性を知る必要がある.よって本研究では, SSPSとアラビアガムの乳化特性, 乳化特性における蛋白質の役割, 酸性領域での加水分解特性について比較検討を行った.
    SSPS, d-limoneneに吸着した画分のSSPS (P) , およびSSPS (P) をプロナーゼEで処理したSSPS (E) の乳化安定性 (最大濁度の半減期) を測定 (soybean oil, 1%, 25℃, pH7.4) したところ, SSPSの乳化安定性は20分, SSPS (P) は51分, SSPS (E) は7分であった.これらのSSPS中の蛋白含有率を測定したところ, SSPS10%, SSPS (P) 44%, SSPS (E) 9.8%であった.これらの結果から, SSPS中の蛋白質の特質が乳化特性において重要であることが分かった.
    Fig.2にsspsとアラビアガムの乳化活性 (撹拌20分後の500nmでの濁度) のpH依存性を示す.SSPSの場合, d-limonene, soybean oilともにSSPS中の蛋白質の等電点に近いpH3~4で最大値を示した.これに対して, アラビアガムはpH3以上では高い乳化活性を示した.Ethyl n-butyrateを使用した場合は, アラビアガムの乳化活性がほとんど0であるのに対して, SSPSの乳化活性はpH2~5で約1.8と高い値を示した.使用するオイルによって乳化特性は非常に異なり, d-リモネン, 大豆油に対するSSPSは, 等電点付近のpH3~4で最大値を示した.また, 酪酸エチル, ヘキサノール, カブロン酸メチルに対するSSPSの乳化特性は非常に優れていた.
    SSPS, アラビアガムの酸性領域 (pH1~3) における加水分解速度は, 両乳化剤ともにほぼ同じであり, このpH域での加水分解活性化エネルギーは94kJ/molであった.
  • 田中 恵三, 今村 維克, 崎山 高明, 中西 一弘
    2002 年 3 巻 1 号 p. 15-23
    発行日: 2002/03/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    有機溶媒中における酵素反応に関してこれまで多くの研究が行われており, 有機溶媒中の水分濃度が酵素活性に大きく影響することが明らかになっている.さらに, 近年, 有機溶媒の含水率が同じでも, 予め一定量の水溶液を加えた含水有機溶媒に酵素を懸濁した場合と酵素を予め水溶液に溶解したうえで有機溶媒に懸濁した場合で酵素活性が著しく異なるという現象が報告されている [6, 7] .
    本研究ではまず, 酵素としてサーモライシン (EC3.4.24.4) を用いて, 有機溶媒への懸濁方法による酵素活性が変化することを検証した.種々の有機溶媒 (エチルアルコール, n-プロピルアルコール, n-ブチルアルコール, n-アミルアルコール, アセトニトリル, tert-アミルアルコール, 酢酸エチル) を用いて二つの異なる酵素の懸濁方法 (方法1, 2) に対する酵素反応速度を調べた.方法1では予め基質 (80mMZ-Asp, 80mMPheOMe) と50mMのMES緩衝液を添加した有機溶媒に酵素 (4.0mg/mL) を懸濁することで酵素反応を開始した.方法2では酵素を50mMのMES緩衝液に溶解したのち, 基質を含む有機溶媒に懸濁することで反応を開始した.このとき, 溶媒の含水率は方法1, 2とも3%に設定した.酵素反応速度はサーモライシンによるジペプチド (N- (benzyloxycarbonyl) -L-aspartyl-L-phenylala-nine methyl ester) の合成初速度より評価した.その結果, いずれの有機溶媒においても, 方法2の場合の方が方法1の場合よりも高い反応速度を示すことが分かった.また, 有機溶媒の種類によって反応速度が著しく変化することが分かった.
    有機溶媒の極性と酵素反応速度の関係について検討するため, 方法1, 2における酵素反応速度を溶媒の極性を表すET (30) に対してプロットした.その結果, 有機溶媒の極性が増すにつれて反応速度が低下することが分かった.これは有機溶媒の極性が高くなるほど, 酵素の触媒活性に不可欠な水和水が有機溶媒に抽出されやすくなるためと考えられる.また, 本知見は有機溶媒中の酵素反応における酵素表面の水和水の重要性を示唆している.この水和水の重要性を加味すると, 懸濁方法による酵素反応速度の変化は次のように説明することができる.まず, 懸濁前の酵素は乾燥操作により構造変化を生じている.しかし, 方法2では予め水溶液に溶解するため酵素は十分再水和することができ, 有機溶媒と接触する段階において酵素の構造は方法1の場合に比べてよりネイティブなものとなっているものと考えられる.一般的に未変性状態のタンパク質は変性状態のものより親水的な表面を有することが知られている.そのため, 方法2の場合には酵素が有機溶媒中でも水和水を高度に保持することができ, その結果, 方法1よりも高い酵素活性を示すものと考えられる.また, 方法1, 2の反応速度の比は中程度の極性 (ET (30) =46.0) で最大を示すことが分かった.
    つぎに, 酵素の有機溶媒への懸濁方法が酵素の構造に及ぼす影響を調べた.FT-IRにより各懸濁方法を用いた場合の酵素のIRスペクトルを測定し, 得られたスペクトルをフーリエセルフデコンボリューション, ガウシアンカーブフィッティング処理することによって各二次構造の含有率を算出した.その結果, 方法1ではunorderedに起因するピークが水溶液中の結果に比べ大きくなってるのに対し, 方法2のスペクトルは水溶液中のスペクトルと良好に一致することが分かった.この結果は, 有機溶媒への懸濁方法により酵素の構造が変化することを表しており, 上述の懸濁方法による酵素反応速度の差異に対する考察を強く支持するものである.
    本研究では懸濁後の保存時間が酵素活性に及ぼす影響についても検討を加えた.酵素を方法1あるいは2で有機溶媒に懸濁し, 40℃で0~12h保持したのち, 基質を添加することで反応を開始した.有機溶媒としてはアセトニトリルを用いた.その結果, 方法1の場合は保存時間によらずほぼ一定な反応速度が見られたのに対し, 方法2では時間とともに緩やかに反応速度が低下していく傾向が見られた.さらに有機溶媒 (アセトニトリル) 中の含水率が酵素活性に及ぼす影響を調べた結果, 方法1の場合は含水率の上昇とともに酵素反応速度は上昇した.一方, 方法2の場合は含水率が8wt%のときに反応速度が最大となり, さらに含水率が増すと反応速度が低下するという傾向が見られた.また, 酵素として透析処理したもの (透析酵素) , 酵素の結晶をグルタルアルデヒドで架橋したもの (CLEC) を用いて各種有機溶媒中における酵素反応速度を調べた.その結果, 透析および架橋処理により酵素反応速度の有機溶媒の極性に対する依存性が変化することが示唆された.
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