日本食品工学会誌
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23 巻, 4 号
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解説
  • 吉井 英文
    2022 年 23 巻 4 号 p. 97-108
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー
    生理活性を有する機能性食品化合物は,光,熱,酸素などに対して不安定である.そのため機能性食品とフレーバーのシェルフライフを延ばすために,賦形剤と乳化剤を用いて粉末化されている.この粉末化技術は,物理的方法(噴霧乾燥,凍結乾燥,押し出し,結晶変換),化学的方法(分子封入,コアセルベーション),および菌体法(酵母およびその他の細胞)の 3つの方法に分類される.種々の粉末化技術の中でも,噴霧乾燥法は,粉末が一ステップの操作で連続して得られるために低コストで作製できる.噴霧乾燥技術のプロセスは,乳化操作と噴霧乾燥操作からなる.この乳化操作は,粉末の表面油率に大きな影響を与える.シクロデキストリン(CD)を用いた分子包接は,多価不飽和酸などの疎水性機能性食品化合物をCDの空孔に包接しカプセル化する方法である.本解説では,機能性脂質の粉末化における機能性脂質の安定性に及ぼす油滴径と粒子径の影響について説明した.また, 1-メチルシクロプロペンなどのフレーバーやガスのCDを用いた粉末化手法について概説した.
  • 中本 大介, 上地 利征, 田中 由美, 相羽 孝亮, 杉浦 華代, 石川 翔子, 仲沢 萌美, 菊地 美里
    2022 年 23 巻 4 号 p. 109-113
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー

    多くの惣菜は鮮度保持期間が短く,フードロスの要因となっている.これまで鮮度保持期間を延長するために一般的に用いられてきた加熱殺菌は,熱変性によるフレッシュ感の低下や,具材の褐変が課題となる.上記課題を解決するため,加熱によらない新たな静菌手法として高圧処理に着目し,研究を開始した.長い歴史をもつ加熱殺菌と比較し高圧処理の知見は少なく,商品設計,安全性の担保,品質管理の運用など,実用化までには多くの試行錯誤を要したが,各種試験を積み重ねることで,国内で初めて高圧処理技術を市販用惣菜の分野で実用化する「冷圧フレッシュ製法®」を確立することができた.当技術の活用を進めることでフードロス削減への貢献および環境面への貢献も期待できる.当技術は当社としては現在惣菜分野での活用だが,広く食品分野で技術展開が可能であるため,将来的に主流の食品処理方法の1つとなるよう確立を目指していきたい.

  • 橋本 篤
    2022 年 23 巻 4 号 p. 115-130
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/01/14
    [早期公開] 公開日: 2022/11/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,食品や農産物の総合的な品質情報へのマルチバンド光センシング技術の応用および食品加工操作への電磁波の利用を目的とし,マルチバンド光センシングの多面的な特性とその食品加工プロセスへの応用の可能性に着目した.その結果,マルチバンド光センシング手法は,遺伝子発現や代謝関連物質などのミクロの生物情報と代謝によって発言する外観などのマクロの生物情報を結びつけるための計測手法として有効であることが示された.また,そのセンシング手法は,科学的かつ客観的な情報に基づいた食品加工への展開に可能なものと考えられた.さらに,乾燥,殺菌操作における電磁波利用に関する装置設計や操作条件決定に対して重要な指針を提示するとともに,新規食品加工法への展開が示唆された.以上より,本研究の成果は,マルチバンド光センシング情報に基づく高度な食品システムの開発に寄与できるものと考えられた.

原著論文
  • Tadashi FUJII, Miyu KICHIJYO, Yuichi KASHIWAKURA
    2022 年 23 巻 4 号 p. 131-137
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー

    本研究では,還元水飴(HSH)溶液における水分活性(aw),アルブミン変性温度(ADT),および自由水の分子間水素結合密度(Doh(w-s))の相関を示した.まず,分子量(MW)が既知の糖類の浸透圧(c)を測定したところ,1/cとMWとの間に有意な線形関係があることが明らかとなった(r2=0.998, P<0.0001).次に,この関係から推定したMWとガラス転移温度を用いてDoh(w-s)を算出し,Doh(w-s)aw,およびDoh(w-s)とADTとの関係を評価した.線形回帰分析の結果,Doh(w-s)awの間には有意な正の線形関係があり(r2>0.900, P<0.0001),Doh(w-s)とADTの間には有意な負の線形関係が見られた(r2>0.900, P<0.0001).また,これらの式から,HSH溶液のADTは測定が容易なawを用いて推定できること,実測値と推定値のSpearman相関は有意であることが明らかとなった(r2=0.930, P=0.00280).これらの結果は,任意の糖組成からなる任意の濃度の各種HSH溶液のADTを,そのaw値を測定することにより推定できることを示唆している.

技術論文
  • 乾 良充, 堀場 文二, 丸山 裕慎, 野村 由司彦, 山﨑 栄次
    2022 年 23 巻 4 号 p. 141-148
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/01/14
    [早期公開] 公開日: 2022/10/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,酒造用米の精米で発生する白糠の有効利用を目的に,米粉混合パンへの応用を検討した.基本配合は小麦粉の20%を米粉で置換したものとし,白糠置換パンは米粉の半分および全部を白糠で置換して調製した.白糠の澱粉の損傷度は52.8%であった.パン生地の発酵に伴う体積増加及びパンの比容積は,白糠の置換割合の増加に対して減少する傾向がみられたが,パン生地に求められる性能は満たした.白糠置換パンのクラムには,小麦粉の内在性のβ-アミラーゼが損傷澱粉を分解して生成したと考えられるマルトースが蓄積した.白糠置換米粉パンのクラムは,72時間貯蔵した場合であっても水分保持力が高く,また,硬くなりにくかった.白糠置換米粉パンのクラムの官能試験は,各種機器測定試験に対応する結果になるとともに,白糠置換割合が増加するほどより甘く感じることがわかった.これらの結果から,白糠から生じたマルトースは,澱粉の老化を抑制するのに加え,クラムの水分の損失を防ぎ,パンの老化を遅らせたと考えられる.今後,より詳細な実験が必要と考えられるが,白糠は米粉混合パンの原料として有望かつ興味深い素材であると考えられる.

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