産褥期女性における口腔衛生状態と精神健康状態との関連についての研究報告は少ない.本研究では,産褥4カ月女性118名を対象に,歯科医師指導のもと歯科衛生士による口腔衛生状態の評価,および精神健康調査票(GHQ12),周産期コンフォート質問票(MCQ),口腔関連QOL尺度(GOHAI)などの自己記入式質問紙調査を実施した.また,関連する対象者背景情報についても質問紙調査にて得た.解析結果より,A群(n=97):未処置歯数≤2本・歯石沈着本数≤2本,B群(n=21):A群以外(未処置歯数>2本または歯石沈着本数>2本)の2群を設定した.A,B両群間において,対象の属性に有意差はなかったが,B群はA群に比し有意なGHQ得点高値とともに,有意なMCQ得点低値,そして有意なGOHAI得点低値を示した.GOHAI得点とGHQ得点との間には有意な負の相関が認められた.また,B群はA群に比し産褥4カ月の歯磨き回数,妊娠中のフロス使用頻度,妊娠中の歯科健診受診割合,ならびにかかりつけ予防歯科クリニックを持つ割合が有意に低値を示した.これらの結果から,「未処置歯数」や「歯石沈着本数」が「3本以上」ある褥婦は,「健常な精神的機能が持続できていない」状態あるいは境界域にある可能性が推測できる.齲蝕や歯石沈着の治療,そしてそれに伴う歯科クリニックでの温かな対応(介入)によって,口腔衛生状態および精神健康状態を改善できる可能性があるとともに,産褥期の精神疾患の重症化や長期化を予防するための早期発見と支援につなげられる可能性が示唆された.また,「妊娠中の歯科健診未受診の理由」は「仕事」が最多であった.「口腔衛生状態と精神健康状態との関連性」について妊婦を含む社会全般に周知徹底することによって,妊産褥婦の口腔衛生および精神健康の増進に寄与できる可能性があると考える.
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